「白いカラス」

2004年7月10日
←原作はフィリップ・ロス「ヒューマン・ステイン」(HUMAN STAIN)。
StainStein
――v.しみをつける、汚す
――n.しみ、きず、汚点、着色

ちょっと前ですが、ロバート・ベントン監督作「白いカラス」を観に行ってきました。

「白いカラス」The Human Stain(2003・米)
IMDb→http://us.imdb.com/title/tt0308383/
監督:ロバート・ベントン
脚本:ニコラス・メイヤー
出演:アンソニー・ホプキンス、ニコール・キッドマン、エド・ハリス、ゲイリー・シニーズ、ウェントワース・ミラー他

公式サイトはでっかいネタバレがあるため、リンクは致しません。観に行かれる方はご注意下さい。

ストーリー:
1998年。ユダヤ人初の古典学権威で、アテナ大学学部長のコールマン・シルク(A・ホプキンス)は、人種に関する失言によって辞職に追い込まれてしまう。間もなく妻が他界し、失業中の彼の暮らしは失意と怒りに満ちたものとなっていった。そんなある日、彼はひとり暮らしで複雑な過去を持つ女性フォーニア(N・キッドマン)と出会う。親子ほど年の差があるにも関わらず、惹かれあうコールマンとフォーニア。だがつらい過去を話す彼女とは違い、コールマンは自分の秘密を話せないでいた。そして――

う〜ん…ヒューマンドラマとラブロマンスの両立って、むずかしい。

しかもこの作品の場合、主人公が実は**であるということ、そして恋に落ちるふたりをA・ホプキンスとN・キッドマンが演じてるということで、さらにそのむずかしさが増してるんだよニャ…。

どちらも演技派だし、その上手さは折り紙だけでなくアカデミー協会までもが付いてるというのに、やっぱりホプキンスは**に、ニコールは虐待受けて心身ともに傷ついてるホワイトトラッシュには、どうしても見えない…とゆーか、見えづらい。そして、ニコール演じるフォーニアが、なんでホプキンス演じるコールマンとフォーリンラブなのか、ものすご〜く説得力がない。…この2点が致命的なんだよニャ…。

「ホプキンスが**に見えなくてもいいじゃん!」という人もいると思うのですが、たとえばキアヌ・リーブスが**だと云われてピンとくる?…やっぱどこかしら「あれ?云われてみるとこの人って…」と思わせる雰囲気のある俳優じゃないと、キビシイんじゃないかニャ?…日本ではそれほどでなくても、米国ではなかなか受け入れられないような気がする。それどころかキング・オブ・ポップを想像しちゃうんじゃない?

ところが、若き日のコールマンを演じるW・ミラーが、まさしく「あれ?云われてみるとこの人って…」と思わせる雰囲気バツグンな俳優だったので、コールマンの回想が始まるや説得力が増し、ストーリーも俄然面白くなってくる。自分が**であるために、真面目で聡明な父親は大した仕事にもつけず、愛する恋人は失い、進学もままならないコールマン。そしてついに、彼は**であることを隠す決心をする――なんてせつない(でも**にとっては否定されたも同然なので、実はとてもヒドイ)話なんだろう…。

フォーニアは――その大胆な誘い方もニャるほど、さすが大人の女ねと思いつつ…う〜ん…ニコールではなんだかとっても強か(したたか)に見えてしまう。虐待された女が常に弱いとは限らない。だけどニコールが演じると、なにか別の思惑がある、とても強かな女に見えてしまうってこと。それに誘いを受けてやって来る相手がホプキンスとなると、どうしてもニコールほどの美人がなんで?と思っちゃうし。ふたりの演技はとても素晴らしい。ただ違う女優さんだったら、もっと説得力があったかもしれない。

がしかし。「じゃあ、いったい誰が適役よ?」と訊かれると…これがなかなか出てこない。とくにコールマンがそうで、「知的で地位があり一見立派な…でも常に嘘をつき、そして怒りに満ちている年老いた男」――そう云われると、A・ホプキンスがピタリとハマっちゃう。だから観てて困っちゃったわさ。名優エド・ハリスも、ムダにエド・ハリスというか…なんだかもったいない使われ方だなと思いつつ、じゃあ他に誰がいるよ?と云われれば、これまた困ってしまう…。う〜む。

最初はラブロマンスだと思ってた作品が、「実は主人公は**である」という事実が判明してのち、ヒューマンドラマとしての要素が強くなっていったことも、人によっては混乱要素になったかもしれない。主人公の回想におけるエピソードがどれも面白く、またズシリと重く感じさせるだけに、ラブロマンス部分の弱さが最後まで足を引っ張っちゃた感がある。もったいない。

あと宣伝ですが。日本では「メロドラマかと思ってたら、ヒューマンドラマだった」と云われてるらしいこの「白いカラス」――米国ではサスペンス要素の強いトレイラーが流れていたそうで、そのため「サスペンスだと思ってたのに違うじゃん!」という人が続出だったとか。で、実際に私もそのトレイラーを観てみたのですが――たしかにあれじゃサスペンスですわ。主演がホプキンス、その上エド・ハリスとゲイリー・シニーズがキャスティングされてたら――「そのどっちか、あるいはホプキンスが犯人だろうな〜」とか思っちゃうでしょうね。逆に日本版トレイラーはラブロマンス路線。なので、「あれ?もっとニコールが出てくると思ったのに」と思った人は多かったでしょう。どっちにしろ、宣伝打つのもむずかしい作品だったってことかニャ…。

…とここまで書けば、私はこの作品を気に入ってないかのように思えるのですが、実はけっこう好きだったりします。

本作と同じように、ヒューマンドラマにロマンスを折込み、オスカーノミニーあるいはウィナーを3人を配し、同時期に日本で公開となった「21グラム」より好きです(優劣ではなく好みの問題)。だって…監督のロバート・ベントンは、まったくの正攻法で見せてくれたし、ごちゃごちゃと時間軸をぶった斬ることのない、美しく、観る側に想像を与えてくれる映像だったし、ルックスや印象に文句つけても俳優陣の演技は素晴らしかったし……でもやっぱり、私が昔から監督のファンだってことが大きいかも。

もしかしたら原作のほうが登場人物の心情がより見えてきて、ふたりのロマンスにも共感しちゃうんじゃないか、そしてそのロマンス部分を重視するならば、結果的に映画化には不向きだったんじゃないかと思ってしまった作品。ただし、コールマンのセンシティブな青年時代の描写は素晴らしかったです。文句まったくナシ

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