新作邦画デクレシェンド感想
2004年10月17日私は邦画の感想をあまり書かない人なのですが、観に行ってその出来にショックを受けてしまった2本の映画について、感想をちょっとだけ書いてみようかなと。
■「デビルマン」
(地下日記に書いたことをそのまんまUP)
先日「デビルマン」を観に行き、ショックを受けて帰ってきました。どんなに悪評/酷評だろうと、私は観に行きたいものは観に行きます。もしかしたら自分には面白いと思える映画かもしれないから。
でも今回ばっかりは…う〜ん…。
豪先生――あれでいいの?
■「スウィングガールズ」
「矢口監督が舞台挨拶しに来られるから、観に行って欲しい」と云われ、タダ券をもらい、ほぼサクラ状態で観に行きました(でなきゃ観に行ってない)。そしてフクザツな思いをして帰ってきました。
矢口監督いわく――「僕は楽しい映画を作りたいんです」。
ニャるほど。
たしかに楽しかったです…ってか、楽しいだけの映画でした。
なんつーか…「ウォーターボーイズ」のときもしみじみ思ったのですが、ただ楽しいだけ青春映画にするなら、もっとバカやってくれてもいいんですよ。お得意のマンガ風な描写でね。でも本作には感動させたいという意識がある。ちょっとでも感動を、音楽の楽しさを伝えたいのなら、あの描写はあんまりです。ガッカリ。彼女たちから音楽に対する、音をひとつにする楽しさが伝わってこないし…ええ、苦労したのはよくわかります、吹き替えナシの演奏だって相当頑張ったと思いますよ。でもそれが問題じゃないんです。
――音楽風に云いましょうか?
感動とコメディのハーモニー、そして青春クレシェンド描写がなってないんです。
ジャズの楽しさを教えてくれる人が登場しなかったため(竹中直人も違うでしょう)仕方がないのですが、彼女たちの「ジャズっていいべ〜」な気持ちが上っ面。だんだんジャズ演奏にハマっていく過程が、そして演奏が上手くなっていく過程が見事端折られていて、ただマンガなコメディを観させられてるだけ。そこに感動なんてあったもんじゃない。
彼女たちが上手くなっていく過程――たとえば。
(以下、多少のネタバレあり。お気をつけ下さい)
1.トランペットって、ただ息を吹き込むだけではまったく音が出ません。唇を伸ばしてマウスピースにあて、そのまんま間を震わせるような感じで息を吹き込まないと出ないんです。唇は痛くなるし、マウスピースを見るだけでイヤになってくるし…コツを得るまでは、本当に「吹きたい」という思いでないとやってられません。
2.そして、指使いが一緒でも息の強さで音階が変わってきます。つまり――初心者が高音を出すのはなかなか難しく、ものが詰まっていれば出るわけがありません。
トランペットの子が、高音を出そうと一生懸命頑張ってるシーンがありました。彼女がなぜ高音が出せないのか――金管楽器を知らない人は、まったくわからないでしょう。もしそのシーンの前に、1と2の説明を受けてる彼女が映し出され、ちょっとした伏線が張られていたら?…私だけじゃない、音楽を知らない人だって、彼女の一生懸命練習する姿にもっともっともっとぐっときただろうし、またペットから***が出てきたときに「あ、そっか〜、だから出なかったのか」と思い、しかも***が出てきたことに笑ってしまうわけです。そしてクライマックスの大会シーンで、彼女が自分のペットに***をつける姿に再度笑い、大きな感動を感じるでしょう。つまり、笑いだけじゃない、感動までもが最後の最後で大きくなっていくのです。
3.サックス(木管楽器)はクラリネット同様、リードを使って音を出します。このリードというのは慣れるまでが難しく、また初心者には、「なに?これ?」と不思議なものに見えると思います。サックスは音の出し方が独特で、小学校からたて笛を習ってきた日本の学生には難しいものです。「タンギングをしないこと」がポイントなのですから。そしてこれもまた高音が出すのが大変で、慣れないと「びっ」とミストーンが出てしまいます。
4.本作のバンドで使われたサックスは大きく分けて3種類。アルト・テナー・バリトンです。持ったことがある人ならわかると思いますが、これがけっこう重い。特にバリトンなんて、女子高生が初めて持ったら、その重さにビックリするでしょう。
サックスの子(主人公ほか数人)が、マウスピースで音を出す練習らしきものをしていました。タンギングなしでリードを使う…コツを覚えるまで、本当に難しいと思います。もし彼女たちがこの独特な吹き方で苦労しているシーンと、「なんなのこのリードって?」「なんて重いのよ〜」と文句云ってたりするシーンがあったら?…その次に描かれるだろう、彼女たちが初めて音を出したときの喜びがもっともっと伝わってくるでしょう。初心者には初心者の喜びがあるんです。その喜びがまったく描かれてないのはどういうこと?
なぜ初めて音を出し、初めてヨタヨタとジャズスタンダードを演奏し出す姿を丁寧に描かないのか。あれでは彼女たちがいきなり上手くなったように見えてしまうし、もし彼女たちの成長の経過が十二分に描かれていれば、ラストの大会で見せる演奏にもっともっともっともっと感動したことでしょう。
――お得意のマンガ風にたとえて云いましょうか?
「スラムダンク」の桜木花道。彼はまったくのバスケ初心者でした。
晴子ちゃんからコツを教わって、初めて庶民シュートを決めたとき。翔陽戦で初めてダンクを決めたとき。インターハイ前の合宿で地獄のシュート練習をし、初めて正しいフォームを身につけ、シュート成功率を徐々に上げていったとき――彼の喜びがダイレクトに伝わってきました。あんなに加速的な成長だったのに、思わず納得してしまったのは、花道が初心者にしかわからない感動を読者に伝えてきたからです。バスケを知らない読者でも、彼の成長に感動をし、結果、「バスケやってみたいな」と思う人が増えました。
矢口監督いわく――「この映画を観て、楽器をやってみたいと思う人が出てきてくれれば、嬉しいですね」。
そんな説得力なんて「スウィングガールズ」に(皆無とは云わないけど)ありません。
これが感動を必要としない/織り込まない、バカバカしいコメディだったならば、私だってな〜んにも云いません。矢口監督、そういうコメディお得意でしょ?…なまじっか感動させようとしてるのがわかるから、その作りと演出が鼻についちゃっただけ。私が音楽をかじってたから…というのは、それほど理由にはならず、たとえどんな題材だったとしても同じことを思ったでしょうね(私はシンクロや水泳にまったく興味ありませんが、同じことを「ウォーターボーイズ」で思いましたよ)。
主人公たちがバカやってたりするシーンは楽しいし、笑えたけど…感動パートができてない。聴こえてくるのは不協和音で、バランスが取れてない。だんだん感動が大きくなっていき、クライマックスの大会では思わず足を踏み鳴らしてしまうはずだったのに…なんでこんなことになるのよう!
DVDには、もしかして4ヶ月(だったっけ?)に及んだ出演者の演奏特訓が映像特典として付くんですか?…それで彼女たちの成長がわかると?…それこそ本編で描いて欲しかったのに…。それじゃ本編よりあとがきのほうが面白いライトノベル作家と同じじゃん(本編がとても面白い作家ももちろんいます…念のため)。
でも――これってヒットしてるんですよね?
あ〜あ。私はただのヒネくれ者ってことね…。
■「デビルマン」
(地下日記に書いたことをそのまんまUP)
先日「デビルマン」を観に行き、ショックを受けて帰ってきました。どんなに悪評/酷評だろうと、私は観に行きたいものは観に行きます。もしかしたら自分には面白いと思える映画かもしれないから。
でも今回ばっかりは…う〜ん…。
豪先生――あれでいいの?
■「スウィングガールズ」
「矢口監督が舞台挨拶しに来られるから、観に行って欲しい」と云われ、タダ券をもらい、ほぼサクラ状態で観に行きました(でなきゃ観に行ってない)。そしてフクザツな思いをして帰ってきました。
矢口監督いわく――「僕は楽しい映画を作りたいんです」。
ニャるほど。
たしかに楽しかったです…ってか、楽しいだけの映画でした。
なんつーか…「ウォーターボーイズ」のときもしみじみ思ったのですが、ただ楽しいだけ青春映画にするなら、もっとバカやってくれてもいいんですよ。お得意のマンガ風な描写でね。でも本作には感動させたいという意識がある。ちょっとでも感動を、音楽の楽しさを伝えたいのなら、あの描写はあんまりです。ガッカリ。彼女たちから音楽に対する、音をひとつにする楽しさが伝わってこないし…ええ、苦労したのはよくわかります、吹き替えナシの演奏だって相当頑張ったと思いますよ。でもそれが問題じゃないんです。
――音楽風に云いましょうか?
感動とコメディのハーモニー、そして青春クレシェンド描写がなってないんです。
ジャズの楽しさを教えてくれる人が登場しなかったため(竹中直人も違うでしょう)仕方がないのですが、彼女たちの「ジャズっていいべ〜」な気持ちが上っ面。だんだんジャズ演奏にハマっていく過程が、そして演奏が上手くなっていく過程が見事端折られていて、ただマンガなコメディを観させられてるだけ。そこに感動なんてあったもんじゃない。
彼女たちが上手くなっていく過程――たとえば。
(以下、多少のネタバレあり。お気をつけ下さい)
1.トランペットって、ただ息を吹き込むだけではまったく音が出ません。唇を伸ばしてマウスピースにあて、そのまんま間を震わせるような感じで息を吹き込まないと出ないんです。唇は痛くなるし、マウスピースを見るだけでイヤになってくるし…コツを得るまでは、本当に「吹きたい」という思いでないとやってられません。
2.そして、指使いが一緒でも息の強さで音階が変わってきます。つまり――初心者が高音を出すのはなかなか難しく、ものが詰まっていれば出るわけがありません。
トランペットの子が、高音を出そうと一生懸命頑張ってるシーンがありました。彼女がなぜ高音が出せないのか――金管楽器を知らない人は、まったくわからないでしょう。もしそのシーンの前に、1と2の説明を受けてる彼女が映し出され、ちょっとした伏線が張られていたら?…私だけじゃない、音楽を知らない人だって、彼女の一生懸命練習する姿にもっともっともっとぐっときただろうし、またペットから***が出てきたときに「あ、そっか〜、だから出なかったのか」と思い、しかも***が出てきたことに笑ってしまうわけです。そしてクライマックスの大会シーンで、彼女が自分のペットに***をつける姿に再度笑い、大きな感動を感じるでしょう。つまり、笑いだけじゃない、感動までもが最後の最後で大きくなっていくのです。
3.サックス(木管楽器)はクラリネット同様、リードを使って音を出します。このリードというのは慣れるまでが難しく、また初心者には、「なに?これ?」と不思議なものに見えると思います。サックスは音の出し方が独特で、小学校からたて笛を習ってきた日本の学生には難しいものです。「タンギングをしないこと」がポイントなのですから。そしてこれもまた高音が出すのが大変で、慣れないと「びっ」とミストーンが出てしまいます。
4.本作のバンドで使われたサックスは大きく分けて3種類。アルト・テナー・バリトンです。持ったことがある人ならわかると思いますが、これがけっこう重い。特にバリトンなんて、女子高生が初めて持ったら、その重さにビックリするでしょう。
サックスの子(主人公ほか数人)が、マウスピースで音を出す練習らしきものをしていました。タンギングなしでリードを使う…コツを覚えるまで、本当に難しいと思います。もし彼女たちがこの独特な吹き方で苦労しているシーンと、「なんなのこのリードって?」「なんて重いのよ〜」と文句云ってたりするシーンがあったら?…その次に描かれるだろう、彼女たちが初めて音を出したときの喜びがもっともっと伝わってくるでしょう。初心者には初心者の喜びがあるんです。その喜びがまったく描かれてないのはどういうこと?
なぜ初めて音を出し、初めてヨタヨタとジャズスタンダードを演奏し出す姿を丁寧に描かないのか。あれでは彼女たちがいきなり上手くなったように見えてしまうし、もし彼女たちの成長の経過が十二分に描かれていれば、ラストの大会で見せる演奏にもっともっともっともっと感動したことでしょう。
――お得意のマンガ風にたとえて云いましょうか?
「スラムダンク」の桜木花道。彼はまったくのバスケ初心者でした。
晴子ちゃんからコツを教わって、初めて庶民シュートを決めたとき。翔陽戦で初めてダンクを決めたとき。インターハイ前の合宿で地獄のシュート練習をし、初めて正しいフォームを身につけ、シュート成功率を徐々に上げていったとき――彼の喜びがダイレクトに伝わってきました。あんなに加速的な成長だったのに、思わず納得してしまったのは、花道が初心者にしかわからない感動を読者に伝えてきたからです。バスケを知らない読者でも、彼の成長に感動をし、結果、「バスケやってみたいな」と思う人が増えました。
矢口監督いわく――「この映画を観て、楽器をやってみたいと思う人が出てきてくれれば、嬉しいですね」。
そんな説得力なんて「スウィングガールズ」に(皆無とは云わないけど)ありません。
これが感動を必要としない/織り込まない、バカバカしいコメディだったならば、私だってな〜んにも云いません。矢口監督、そういうコメディお得意でしょ?…なまじっか感動させようとしてるのがわかるから、その作りと演出が鼻についちゃっただけ。私が音楽をかじってたから…というのは、それほど理由にはならず、たとえどんな題材だったとしても同じことを思ったでしょうね(私はシンクロや水泳にまったく興味ありませんが、同じことを「ウォーターボーイズ」で思いましたよ)。
主人公たちがバカやってたりするシーンは楽しいし、笑えたけど…感動パートができてない。聴こえてくるのは不協和音で、バランスが取れてない。だんだん感動が大きくなっていき、クライマックスの大会では思わず足を踏み鳴らしてしまうはずだったのに…なんでこんなことになるのよう!
DVDには、もしかして4ヶ月(だったっけ?)に及んだ出演者の演奏特訓が映像特典として付くんですか?…それで彼女たちの成長がわかると?…それこそ本編で描いて欲しかったのに…。それじゃ本編よりあとがきのほうが面白いライトノベル作家と同じじゃん(本編がとても面白い作家ももちろんいます…念のため)。
でも――これってヒットしてるんですよね?
あ〜あ。私はただのヒネくれ者ってことね…。
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