「砂と霧の家」

2004年11月6日
←これは原作本。映画の主演はジェニファ・コネリー。かつてダイアン・レインがそうだったように、彼女も「アイドル→B級映画主演(脱ぎ系)→演技派として復活」路線を歩んできた女優さんでして、同世代の私としては、彼女に対して特別な思いがあります。艶やかでストレートな黒髪、吸い込まれそうなグリーンの瞳、どことなくせつない雰囲気――共演者のS・アグダシュルーが「『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』で初めて彼女を見たときからファンだったのよ!」と語っていましたが、同じように思ってる男性陣は多いでしょうねぇ。でもまさか典型的ガリガリギリギリシニカル英国男のポール・ベタニーと結婚するとは。なんでアイツなんだ!?…と思った男も多かろうて。

「砂と霧の家」House of Sand and Fog(2003・米)
IMDb→http://us.imdb.com/title/tt0315983/
日本公式サイト→http://www.sunatokiri.jp/
上映時間:126分
監督:ヴァディム・パールマン
脚本:ヴァディム・パールマン
出演:ジェニファ・コネリー、ベン・キングスレー、ショーレイ・アグダシュルー、ロン・エルダート、他

ストーリー:
夫が出て行き、仕事もない状態のキャシー(J・コネリー)は、父の遺産である海辺の家に、納税免除を受けながらひとりで住んでいた。だが行政の手違いで家を差し押さえられ、そのまま競売にかけられてしまう。数日後、元大佐で上流階級出身だったものの、イランから亡命してきて毎日の生活が苦しいべラーニ(B・キングスレー)が、わずかな財産をもって高値転売目的で購入、妻ナディ(S・アクダシュルー)息子の3人で暮らし始める。いつか人手に渡ると思いつつ、手に入れた家で居心地の良いひとときを過ごす一家。だがキャシーはそんな彼らから、思い出の家を必死に取り戻そうとするが――。

がーん。
や…やられた…。

「失って、初めて気付いた。求めていたのは、家(ハウス)ではなく家庭(ホーム)だったと…。」(惹句より)

ここまで丁寧に作られた正統派ヒューマンドラマを観たのは久しぶりでした。公式サイトで「最も美しい悲劇」と書かれている以上、ハッピーエンドにゃなるまいと思ってましたが、ここまでキッチリ悲劇にまとめてるとは。ハリウッドのメインストリームではまずお目にかかれない、インディペンデントだからこそできた作品なんでしょう。

同じヒューマンドラマ系とは云え、スタイルやストーリーはまったく違う「ミスティック・リバー」をつい思い出してしまったのは、本作も「米国の米国たる悩み」を抱え、横顔だけど素顔な(=普遍的な)米国を感じさせ、さらに「誰が悪いとは云えないごく普通の人たちが、ごく普通に生きていきたいと願ってるだけなのに、思いがけないことで歯車を狂わせてしまったそれぞれの姿」を描いているからでしょうか。どちらが好みかと云えば、私は断然「砂と霧の家」派で――念のため云っておきますが、優劣の問題ではなく、「砂と霧の家」のほうが私の心の琴線に触れたということです。

出てくるのは本当にごく普通の人たち――だからこそ、痛い。

ジェニファ・コネリー、ベン・キングスレー、ショーレイ・アグダシュルー……彼らしか考えられないオンリーワンなキャスト、大御所だろうと思ってた監督が、実はミュージックビデオ畑出身でこれが映画初監督作だというヴァディム・パールマンの、キャシーとべラーニ一家、それぞれの気持ちがよくわかる――どちらも応援したくなる心情描写のバランスの良さに、心底唸りましたよ。

本国イランでは上流階級だったのに、亡命先の米国では肉体労働者であるベラーニ。それでも民族の誇りだけは忘れない、ある意味プライドだけで生きてるような彼について来た、優しい妻(いい人なんだ、これが)と自慢の息子(本当にいい子なんだ、これが)。生活のために転売目的で購入した一軒家――住んでみると居心地がよく、異国の地でつかの間の「ホーム」を得た一家に対し、誰が「はやく立ち退け!」と思うだろう?

夫に去られ、仕事をすることもできないキャシー。不当な立ち退きを強いられ、誰にも相談できず、行き場所もない。「ホーム」を築こうとして失敗した彼女は、子供っぽくわがままで欠点もあるけど、それが逆にとても等身大で――こんな女性はゴロゴロいるだろうと思わせる。そんな彼女に協力する警察官レスター。彼は言動、態度、見た目も典型的な米国人。家庭に疲れを感じ、妻に愛情を持てなくなったごく普通の男でもあり――そんな状況下で、あんな傷ついた、しかも魅力的な女性(ジェニファ・コネリーの雰囲気がまたドンピシャなんだ、これが)に出会ったら、そりゃ行動は起こすでしょうね。なので、キャシーのために起こした行動はそれなりに理解はできる。ただ、それがとても逸脱してる上に米国人臭がするため、ベラーニ一家との対比が激しく、また彼が出てくるたび痛さを感じる人は多かったでしょう。でも彼は悪人じゃないんだよニャ…。

主要人物たちは基本的に善人、でもどこかしら欠点は持っている――そんな人間味を感じさせるキャラクター設定、オーバーアクトにならない、落ち着いた俳優たちのリアルな演技、悲劇へのトリガーとなった理由が「誰が悪い」とは云えない(あるいは「誰もがちょっとずつ悪い」)ものだけに、悲しくて痛くてたまらないラスト――たいへん素晴らしかったです。

でも…あんなに悲劇を押し出した宣伝だと、観に行く人は少ないだろうな…。

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