About Her 2
2004年11月25日 エッセイ相変わらず内容のない手紙が、次から次へと届く。
それでも、彼女が3通書いたなら私は1通書くというペースを保っていた。私の目にはもはやただの記号としか映らない便箋上の文字――心のない文章を書くことがこれほどつらいものとは。彼女に対し、心の中では「文通やめようよ」と云えるのに、現実ではなかなか云えない。…困り果ててしまった。
そんなある日、いつものように届いた手紙を読み――そのまま硬直した。
「観光したいから家に5日ほど泊めて欲しい」
どう断ろうかと悩んだが、もしかしたら意外といい人でなにげに気が合うかもしれないと、断れない上にポジティブシンキングな私は、万に一つかもしれない可能性に賭け、OKの返事を送り、数日後には彼女を家に泊めていた。
その5日間は地獄となった。
つまらない、興味のない話がつらかったのではない。彼女の「気遣いのズレ」と「図々しさ」と「よくわからない無邪気さ」に辟易し、心底疲れてしまったからだ。図々しいだけの人ならイラつくぐらいで済むが、中途半端な配慮をする――つまり、ある程度気遣いというものを知ってる――人が、よくわからない無邪気さも以って振舞ってくるほど、相手をしていてつらいものはない。
地獄の一丁目を通過中の3日目、彼女がお風呂に入っている間、私はとうとう学校の友人に電話をかけた。誰かの声を聞きたくて、話を聞いてもらいたくて仕方がなかったからだ。この数分間がなかったら、私はキレていたかもしれない。
5日後、彼女が帰った。
玄関でドアを閉めたとき、涙が出て止まらなかった。
彼女はその後も「泊めてくれ、観光をしたい」と云ってきた。いろいろ言い訳をつけて数回断ったが1回だけ断れず、また同じような地獄を味わった。
それにしても数々のウソくさい言い訳に、なぜ彼女は気付かないんだろう?…いや、彼女はバカじゃない。気付いてるはずだし、私の態度はかなりつっけんどんだし、ろくに返事も書かないし、考え方も好みも生き方も違うとお互い感じてるはずだ。
彼女はなぜ――私に執着するのだろう?
もしかしたら、本人が云うほど友人が少ないんじゃないだろうか?
それから数年後。
とりあえず付き合いが続いていた彼女に誘われ、なぜか彼女の妹さんの家に泊まることになった。
妹さんが迎えに来るまでの時間、駅内の喫茶店で私たちはお茶を飲んでいた。自分たちの席は禁煙席だったが、すぐ隣のテーブルは喫煙席だったため、隣から遠慮のない煙がやってくる。彼女は「もう!やんなっちゃう!煙ってサイテーよね!」と、よく通る高くて大きな声で云いながら、手を団扇のようにして煙を避けた。以前一緒に道を歩いていたとき、「イヤね、歩き煙草って!」と、煙草を吸いながら歩いている人に向かって大きな声で云い、私をハラハラさせた彼女。この人は本当に煙草が嫌いなんだと思ったが、まさかこれほど嫌いだったとは。私は煙草を吸わないし、正直云うと好きではない。だが、喫煙席に座ってる人を非難する気はない。そこで煙草を吸う権利が、その人にはあるからだ。
さらに彼女は出てきた紅茶に文句を云った。つくづく文句の多い人だと思いながら店を出、待ち合わせの場所へ行き、妹さんを待った。数分後、車で迎えに来てくれた妹さんは彼女ソックリで、もしかして性格も同じなのかと私をゾっとさせた。だが話してみると、非常にサッパリとした人で、私と気が合うタイプだった。挨拶もそこそこに私たちを乗せ、車を発進させた妹さんは、しばらくして煙草を吸い始めた。すると彼女は「ちゃんと煙草を吸うって、秋林に云いなさいよ!」と怒り出した。私に配慮して窓を開けてたし、なにもそこまで怒らなくたっていいのに…と思いつつ、あらためて許可を求めた妹さんに対し「あ、いいですよ、構いません」と返事をした。
数分後、妹さんの家についた。
部屋に煙草と灰皿が置いてあり、それを見た彼女は「あ〜、私も1本吸おうっと!」と云い、煙草を吸い始めた。その言葉と行動がすぐには信じられず、「え?煙草吸うの?」と訊くと、返事は「うん♪」。他人の煙がイヤで、マナーに厳しい人だったのかもしれないが、私には彼女のそういった「気遣いのズレ」と「図々しさ」、さらに「よくわからない無邪気さ」が、どうしてもイヤでたまらなかった。
彼女がシャワーを浴びているとき、私は意を決して妹さんに「あのね、私…あなたのお姉さんといるのがつらいの。肉親として、いつもどうやってお姉さんと付き合ってるの?」と訊いてみた。すると妹さんは――「秋林さん、大変だと思う。もし妹じゃなかったら、お姉ちゃんの相手なんかしてないもん。お姉ちゃん、友達少ないし…ゴメンなさいね秋林さん、付きあわせちゃって。でも、お姉ちゃんって秋林さんのことを友達である同時にライバルだと思ってるみたい」。
――ライバル!?
なぜライバル?私は毛頭思ってないのに。
考えてみれば、彼女の話は「私ってこんな人」「みんな私のマネしちゃってイヤになる」な話が多く――ただの自慢かと思っていたそれらは、「私ってこんなにスゴイのよ」という彼女なりの私への牽制球のつもりだったということか。「私って、ハイレベルな友人しか持ちたくないしぃ」と云われたときは心底呆れたが、私がそれを羨ましいと思うとでも?…なんだか急に彼女が気の毒になってしまった。
そしてその後、彼女との付き合いはようやく疎遠になった。
さらに続く。
それでも、彼女が3通書いたなら私は1通書くというペースを保っていた。私の目にはもはやただの記号としか映らない便箋上の文字――心のない文章を書くことがこれほどつらいものとは。彼女に対し、心の中では「文通やめようよ」と云えるのに、現実ではなかなか云えない。…困り果ててしまった。
そんなある日、いつものように届いた手紙を読み――そのまま硬直した。
「観光したいから家に5日ほど泊めて欲しい」
どう断ろうかと悩んだが、もしかしたら意外といい人でなにげに気が合うかもしれないと、断れない上にポジティブシンキングな私は、万に一つかもしれない可能性に賭け、OKの返事を送り、数日後には彼女を家に泊めていた。
その5日間は地獄となった。
つまらない、興味のない話がつらかったのではない。彼女の「気遣いのズレ」と「図々しさ」と「よくわからない無邪気さ」に辟易し、心底疲れてしまったからだ。図々しいだけの人ならイラつくぐらいで済むが、中途半端な配慮をする――つまり、ある程度気遣いというものを知ってる――人が、よくわからない無邪気さも以って振舞ってくるほど、相手をしていてつらいものはない。
地獄の一丁目を通過中の3日目、彼女がお風呂に入っている間、私はとうとう学校の友人に電話をかけた。誰かの声を聞きたくて、話を聞いてもらいたくて仕方がなかったからだ。この数分間がなかったら、私はキレていたかもしれない。
5日後、彼女が帰った。
玄関でドアを閉めたとき、涙が出て止まらなかった。
彼女はその後も「泊めてくれ、観光をしたい」と云ってきた。いろいろ言い訳をつけて数回断ったが1回だけ断れず、また同じような地獄を味わった。
それにしても数々のウソくさい言い訳に、なぜ彼女は気付かないんだろう?…いや、彼女はバカじゃない。気付いてるはずだし、私の態度はかなりつっけんどんだし、ろくに返事も書かないし、考え方も好みも生き方も違うとお互い感じてるはずだ。
彼女はなぜ――私に執着するのだろう?
もしかしたら、本人が云うほど友人が少ないんじゃないだろうか?
それから数年後。
とりあえず付き合いが続いていた彼女に誘われ、なぜか彼女の妹さんの家に泊まることになった。
妹さんが迎えに来るまでの時間、駅内の喫茶店で私たちはお茶を飲んでいた。自分たちの席は禁煙席だったが、すぐ隣のテーブルは喫煙席だったため、隣から遠慮のない煙がやってくる。彼女は「もう!やんなっちゃう!煙ってサイテーよね!」と、よく通る高くて大きな声で云いながら、手を団扇のようにして煙を避けた。以前一緒に道を歩いていたとき、「イヤね、歩き煙草って!」と、煙草を吸いながら歩いている人に向かって大きな声で云い、私をハラハラさせた彼女。この人は本当に煙草が嫌いなんだと思ったが、まさかこれほど嫌いだったとは。私は煙草を吸わないし、正直云うと好きではない。だが、喫煙席に座ってる人を非難する気はない。そこで煙草を吸う権利が、その人にはあるからだ。
さらに彼女は出てきた紅茶に文句を云った。つくづく文句の多い人だと思いながら店を出、待ち合わせの場所へ行き、妹さんを待った。数分後、車で迎えに来てくれた妹さんは彼女ソックリで、もしかして性格も同じなのかと私をゾっとさせた。だが話してみると、非常にサッパリとした人で、私と気が合うタイプだった。挨拶もそこそこに私たちを乗せ、車を発進させた妹さんは、しばらくして煙草を吸い始めた。すると彼女は「ちゃんと煙草を吸うって、秋林に云いなさいよ!」と怒り出した。私に配慮して窓を開けてたし、なにもそこまで怒らなくたっていいのに…と思いつつ、あらためて許可を求めた妹さんに対し「あ、いいですよ、構いません」と返事をした。
数分後、妹さんの家についた。
部屋に煙草と灰皿が置いてあり、それを見た彼女は「あ〜、私も1本吸おうっと!」と云い、煙草を吸い始めた。その言葉と行動がすぐには信じられず、「え?煙草吸うの?」と訊くと、返事は「うん♪」。他人の煙がイヤで、マナーに厳しい人だったのかもしれないが、私には彼女のそういった「気遣いのズレ」と「図々しさ」、さらに「よくわからない無邪気さ」が、どうしてもイヤでたまらなかった。
彼女がシャワーを浴びているとき、私は意を決して妹さんに「あのね、私…あなたのお姉さんといるのがつらいの。肉親として、いつもどうやってお姉さんと付き合ってるの?」と訊いてみた。すると妹さんは――「秋林さん、大変だと思う。もし妹じゃなかったら、お姉ちゃんの相手なんかしてないもん。お姉ちゃん、友達少ないし…ゴメンなさいね秋林さん、付きあわせちゃって。でも、お姉ちゃんって秋林さんのことを友達である同時にライバルだと思ってるみたい」。
――ライバル!?
なぜライバル?私は毛頭思ってないのに。
考えてみれば、彼女の話は「私ってこんな人」「みんな私のマネしちゃってイヤになる」な話が多く――ただの自慢かと思っていたそれらは、「私ってこんなにスゴイのよ」という彼女なりの私への牽制球のつもりだったということか。「私って、ハイレベルな友人しか持ちたくないしぃ」と云われたときは心底呆れたが、私がそれを羨ましいと思うとでも?…なんだか急に彼女が気の毒になってしまった。
そしてその後、彼女との付き合いはようやく疎遠になった。
さらに続く。
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