■『ショーが跳ねたら逢いましょう』
えすとえむ 東京漫画社 2006年
白と黒のコントラストを基調としたスタイリッシュで「わが道をゆく」画風、ガザついた描線―――画的に云うなら、オノ・ナツメや茶屋町勝呂と同じ土俵に乗っかりそうな、BL界2006年のニューカマー、えすとえむのデビュー短編集。表題作の他、6編収録。
ウリはまずその絵(/画)か。ただし、この手の画風を持つマンガ家――たとえば茶屋町勝呂なら、文句ナシに達者だと云えるんだけども、この人の場合、そのスタイリッシュでガサついた描線に、少々騙されているような気がする。
ケチをつけているのではなく、まだ拙さが感じられて到達していない、この人はこれからもっと上手くなるはずだ、できればその個性を失わないまま、ヒネくれずトンがらずに上手くなっていって欲しい――そう強く願っているだけ。絵がスタイリッシュなマンガ家は、やたら小難しく、ポピュラーさに欠け、共感しづらい作品を描きがちである。おもに愛や萌えを語るBLにおいて、そんな風に描き手に置いてけぼりを喰らわされることほど、つらいものはない。放置プレイと云いたいのではない。だからこそ、ニューカマーに期待を込め「2006年の1冊」として選出しておきたい。
6編中で私好みだったのは、表題作であるハリウッドスターの話(「カーテンコール」「ショーが跳ねたら逢いましょう」)、時と老ゆらくのせつなさを感じる祇園祭の話(「ひぐらし、油照りの路地」)の2本。他は、置いてかれてついていけず。作風から当たりはずれが大きいマンガ家だと思われるので、2本が良ければヨシとする…というか、したい。
「カーテンコール」「ショーが跳ねたら逢いましょう」
ダレンとテオの対等な駆け引きに、私はいち女性として純粋に憧れる。いつも一緒なのではなく、たまに逢ったりすることで愛より恋を楽しむ関係。たぶん、ふたりはそういう恋愛しかできないとわかっているんだろう。そしてダレンは、テオとの会話が楽しくてたまらないんだと思う。サバサバした関係に見えながら、「逢いに行く」と純なことを大人っぽく(でもちょっと情けなく)云い出すダレン――そのギャップが魅力的。そこだけ高口里純みたいだ。この路線のマンガをぜひ描き続けて欲しい、別に連載にしなくていい、短編もしくは前後編で短く、と熱いリクエストをしておく。
「ひぐらし、油照りの路地」
ふとした瞬間に昔の恋を思い出すことがある。時の流れをとめることは不可能なのに、あのときと変わらない笛の音色――そして、その中で見かけた「変わらない」あのひと。せつないね…。蝉の鳴き声が聞こえてきそうな1本。
スタイリッシュ過ぎてもシンドイし、ベタな恋愛を描かれても困る。かと云って、わたせせいぞうのようになって欲しくもない――注文が多くて申し訳ない、でもこういう、1本完結で潔い美を感じさせる人は、長編より短編でその特性が活かせる作家になると思われるので、短編をメインに頑張って欲しい。もちろん、長編が面白くてビックリしたと(いい意味で)裏切ってくれるほど化けてくれたならば最高、だが。
評価:★★★★
好みがわかれるタイプ。ニガテな人には★★以下だろうと思う。私は★★★に期待の★を込めて★★★★評価。スタイリッシュさがウリの作家は、活動期間が比較的短いけど(中条義高など)、この人はどうなるかな?
NO STAR … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。
えすとえむ 東京漫画社 2006年
華やかなハリウッドスターの恋と人生の物語から、京都祇園を舞台にした和の世界まで、あらゆるシチュエーションを芸術的タッチで描く著者待望の書き下ろし初コミックス!
白と黒のコントラストを基調としたスタイリッシュで「わが道をゆく」画風、ガザついた描線―――画的に云うなら、オノ・ナツメや茶屋町勝呂と同じ土俵に乗っかりそうな、BL界2006年のニューカマー、えすとえむのデビュー短編集。表題作の他、6編収録。
ウリはまずその絵(/画)か。ただし、この手の画風を持つマンガ家――たとえば茶屋町勝呂なら、文句ナシに達者だと云えるんだけども、この人の場合、そのスタイリッシュでガサついた描線に、少々騙されているような気がする。
ケチをつけているのではなく、まだ拙さが感じられて到達していない、この人はこれからもっと上手くなるはずだ、できればその個性を失わないまま、ヒネくれずトンがらずに上手くなっていって欲しい――そう強く願っているだけ。絵がスタイリッシュなマンガ家は、やたら小難しく、ポピュラーさに欠け、共感しづらい作品を描きがちである。おもに愛や萌えを語るBLにおいて、そんな風に描き手に置いてけぼりを喰らわされることほど、つらいものはない。放置プレイと云いたいのではない。だからこそ、ニューカマーに期待を込め「2006年の1冊」として選出しておきたい。
6編中で私好みだったのは、表題作であるハリウッドスターの話(「カーテンコール」「ショーが跳ねたら逢いましょう」)、時と老ゆらくのせつなさを感じる祇園祭の話(「ひぐらし、油照りの路地」)の2本。他は、置いてかれてついていけず。作風から当たりはずれが大きいマンガ家だと思われるので、2本が良ければヨシとする…というか、したい。
「カーテンコール」「ショーが跳ねたら逢いましょう」
ダレンとテオの対等な駆け引きに、私はいち女性として純粋に憧れる。いつも一緒なのではなく、たまに逢ったりすることで愛より恋を楽しむ関係。たぶん、ふたりはそういう恋愛しかできないとわかっているんだろう。そしてダレンは、テオとの会話が楽しくてたまらないんだと思う。サバサバした関係に見えながら、「逢いに行く」と純なことを大人っぽく(でもちょっと情けなく)云い出すダレン――そのギャップが魅力的。そこだけ高口里純みたいだ。この路線のマンガをぜひ描き続けて欲しい、別に連載にしなくていい、短編もしくは前後編で短く、と熱いリクエストをしておく。
「ひぐらし、油照りの路地」
ふとした瞬間に昔の恋を思い出すことがある。時の流れをとめることは不可能なのに、あのときと変わらない笛の音色――そして、その中で見かけた「変わらない」あのひと。せつないね…。蝉の鳴き声が聞こえてきそうな1本。
スタイリッシュ過ぎてもシンドイし、ベタな恋愛を描かれても困る。かと云って、わたせせいぞうのようになって欲しくもない――注文が多くて申し訳ない、でもこういう、1本完結で潔い美を感じさせる人は、長編より短編でその特性が活かせる作家になると思われるので、短編をメインに頑張って欲しい。もちろん、長編が面白くてビックリしたと(いい意味で)裏切ってくれるほど化けてくれたならば最高、だが。
評価:★★★★
好みがわかれるタイプ。ニガテな人には★★以下だろうと思う。私は★★★に期待の★を込めて★★★★評価。スタイリッシュさがウリの作家は、活動期間が比較的短いけど(中条義高など)、この人はどうなるかな?
NO STAR … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。
コメント