■『窮鼠はチーズの夢を見る』
水城せとな 小学館クリエイティブ 2006年
優柔不断な性格が災いして不倫という「過ち」を繰り返してきた恭一。ある日彼の前に妻から依頼された浮気調査員として現れたのは、卒業以来会うことのなかった大学の後輩・今ヶ瀬だった。ところが、不倫の事実を妻に伝えないことの代償として今ヶ瀬が突きつけてきた要求は、「貴方のカラダと引き換えに」という信じられないもので…。

ここ数年は「プリンセス」「別冊少女コミック」などの少女誌で活躍、でももともとは「他の引き出し」BL系で頑張ってた水城せとなが、ひっさしぶりにコッチの世界に戻ってきた記念すべき1冊。お帰りなさ〜い!…ってか、こんなマンガを「JUDY」に掲載していいのか!?>小学館

いくらレディコミ誌とはいえ、「JUDY」は描写も(他誌に比べれば)激しくないし、発行だって大手・小学館である。この衝撃サプライズは――恋愛モノやOL奮闘記などが中心で、読者層は一般OLが多い「YOUNG YOU」(現在廃刊)に連載された、同性愛絡みの父子愛憎劇『花盛りの庭』(坂井久仁江)、もしくは、比較的マニアックでドリーマー向けマンガが多い「花とゆめ」に掲載され、夢見がちな女子/腐女子を一気にリアルゲイの世界に引き込んだ『ニューヨーク・ニューヨーク』(羅川真里茂)以来か?…そのどちらにせよ、BL誌以外でたまにそーゆーマンガが載っかると、ビックリするほど面白い…どころか傑作だったりするんだから、編集は、コッチの畑を耕せる鍬を持っていて確実に面白い種を蒔ける作家を選び、且つ、そーゆーマンガを「狙って」ピンポイント掲載しているということなんだろうな。

長い前置きになってしまったが、水城せとなは「ちょっとクセの強い高河ゆん」風な絵柄で、ドロドロ愛憎をダーク風味でドライに描ける人である。さらに女性キャラの描写が巧みで、たとえば本作だったら、女の好き嫌いがいかに生理的な理由で左右されるのか、表情だけで充分伝わってくる。おざなりを云うバカな女はひとりも出てこない、みな対等に主人公たちと駆け引きができる――女性キャラが弱いと云われるBLマンガにおいて、これは貴重だと思う。

絶対に成就しない、するわけがないと信じていた絶望的な片思い。自分の中で終わるはずだった恋なのに、思いがけずその人を手にいれるチャンスが転がり込んできた。相手の弱みを握る行為は汚いかもしれない、でもこれ以上手に入れたい人はない。なんとしてでもこの人を――。恋に必死な男を見るのは、女としてとても気分がいい。女が恋に必死であるマンガが多い中、BLマンガの場合、必死になるのは決まって男、しかもそんな男がふたり以上いるのだから、気分はさらに上々だ。「なんでBLマンガが楽しいの?」と訊かれれば、「だって恋に必死な男は見ていて楽しいんだもん!」と答えたい。

恋の成就のために、もがいてあがいて醜態をさらす。そんな人間的な感情にとらわれるのは、ファンタジーやフェアリーテイルと同じポジションに属するかもしれないBLワールドに棲むキャラでも同じこと、特別じゃないんだよ、と教えてくれる1本。

評価:★★★★★
文句ナシで2006年のベスト1作品。

NO STAR … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。

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