■『交渉人は黙らない』
ISBN:4813011470 新書 榎田尤利(挿絵:奈良千春) 大洋図書 2007/02/23 ¥903
挿絵が奈良千春画伯!出版元が大洋図書(SHYノベルズ)!
…とくれば、やはりまたヤクザなのか?…でもいいかげんヤクザは飽きてきたんだよな、かといって画伯でアラブなんてないだろうし…と、一瞬いろいろな思いが頭の中を駆け巡ったが、よくよく見れば、書き手は榎田尤利。意味なく無体なことはしない作家だし、絵師はたしかに画伯でも、表紙の肌色率は低く(重要ポイントだ!)、凛々しいスーツ男がキリリと立っている。なによりタイトルからしてダーク系ヤクザものとは思えない。リーマンか弁護士か?…否、受が交渉人(ネゴシエーター)で、攻がベンツではなくカローラに乗っている(!)ヤクザという、ちょっと毛色の変わったカップリングによるコメディタッチな仕事人ものだった…って、結局ヤクザは出てくるか。
私も芽吹と同じで、ネゴシエーターなら真下正義よりサミュエル・L・ジャクソン(映画「交渉人」)であるが、BLで主役を張ってるのは初めて見た。ネゴシエーター(以下、ネゴ屋)なんてIQ高の駆け引き上手な腹芸職人は、読み手を唸らすほど弁が立ち、説得力のあるキャラが書けないと、確実にボロが出る設定である。だが榎田尤利、見事やってのけた。しかも本編はそのネゴ屋・芽吹による一人称。じーさん視点の三人称から始まり、す〜っと芽吹の一人称へ。そして芽吹の一人称から、これまたす〜っとキヨ視点の三人称エピローグへ。三人称を加えて角度を変えることにより、芽吹の人となりが深く知れる。素晴らしい。榎田尤利の榎田尤利たる所以か。さすが、その実力・文章力においてはBL界(ほぼ)トップ、上から数えたほうが確実に早い人気作家である。
!以下、ほんのりネタバレ注意報!
主人公に据えられた芽吹は、愛や恋が体にすぐさま直結する10〜20代の若者でなく、メロウな愛染かつら時代を過ごした経験もない、ワケありで「ラブより仕事」な30代。交渉中は喋りまくるが、その喋りは頭の中でも同じなようで、ヤクザとして再会した兵頭との過去からラブシーンまで、読み手に実況中継するかのごとく、一人称で語りまくる(頭の中で)。その思考とスピードと分析力は、妄想癖を取り除いた村上くん(『東京大学物語』江川達也)レベル、まさに「交渉人は黙らない」だ。兵頭と絡んでいる最中でも、よくあれだけ教えてくれる…とゆーか考えられるな、感心する。
コメディなので、芽吹と兵頭の会話にテンポがあって楽しい。夫婦漫才のようだ。兵頭は、BLにありがちな、やたらと容姿端麗なだけの経済ヤクザではなく、頭はいいが実は高校時代の恋を引きずる不器用なヤクザ。恋に不器用な年下攻ヤクザに、仕事以外は不器用な受ネゴ屋――実にウキウキとヤキモキさせてくれるふたりである。年下攻と不器用ラブはツボだし、女々しくない受というのも好感度は高い。ただ、全体的にエピソードがギュウギュウ詰めであることは否めず、急ぎすぎてもったいない印象がある。続編を考えていないのか、考えられていないのかはわからないが、キヨやさゆりさんや兵頭の舎弟など脇キャラも立っていて、このままにしておくには惜しい。どちらにしろ、続編希望だ。兵頭とのラブな展開、芽吹の仕事っぷりはもっと読みたい。追記:続編は来年の秋だそーです。来年?2008年ってこと?…遠ひ…。
評価:★★★★☆
ヤクザが出てくる作品だが、他人に見られたら心底マズい「人目注意報」発令なカラー口絵はなく、本編中の挿絵数点においては、ほのぼのさすら感じられ、「奈良画伯でほのぼの?うわ〜ん、何年ぶりかしら♪」と、泣きそうになるくらい感動した。その喜びで胸いっぱいのまま読み進めていたところ、最後の最後で画伯入魂のクリップ止め必至カット登場。別の感情から泣きそうになった。奈良画伯の奈良画伯たる所以か(画伯がシャンピニョン系でないことを願う)。うおおおおおお!!油断してしまったあああああーーっ!!…これから本作をお読みになるご予定の方、電車の中などではご注意を。
NO STAR … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。
ISBN:4813011470 新書 榎田尤利(挿絵:奈良千春) 大洋図書 2007/02/23 ¥903
「あんたは…俺のオンナにふさわしい」
元検事で元弁護士、その上美貌と才能まで持ち合わせた男、芽吹章は暴力・脅迫・強制この三つが反吐が出るほど大嫌いだ。弱き立場の人を救うため、国際紛争と嫁姑問題以外はなんでもござれの交渉人として、「芽吹ネゴオフィス」を経営している。そんなある日、芽吹の前に一人の男が現れた。しかもヤクザになって!!
兵頭寿悦…できることなら、二度と会いたくない男だった…!
挿絵が奈良千春画伯!出版元が大洋図書(SHYノベルズ)!
…とくれば、やはりまたヤクザなのか?…でもいいかげんヤクザは飽きてきたんだよな、かといって画伯でアラブなんてないだろうし…と、一瞬いろいろな思いが頭の中を駆け巡ったが、よくよく見れば、書き手は榎田尤利。意味なく無体なことはしない作家だし、絵師はたしかに画伯でも、表紙の肌色率は低く(重要ポイントだ!)、凛々しいスーツ男がキリリと立っている。なによりタイトルからしてダーク系ヤクザものとは思えない。リーマンか弁護士か?…否、受が交渉人(ネゴシエーター)で、攻がベンツではなくカローラに乗っている(!)ヤクザという、ちょっと毛色の変わったカップリングによるコメディタッチな仕事人ものだった…って、結局ヤクザは出てくるか。
私も芽吹と同じで、ネゴシエーターなら真下正義よりサミュエル・L・ジャクソン(映画「交渉人」)であるが、BLで主役を張ってるのは初めて見た。ネゴシエーター(以下、ネゴ屋)なんてIQ高の駆け引き上手な腹芸職人は、読み手を唸らすほど弁が立ち、説得力のあるキャラが書けないと、確実にボロが出る設定である。だが榎田尤利、見事やってのけた。しかも本編はそのネゴ屋・芽吹による一人称。じーさん視点の三人称から始まり、す〜っと芽吹の一人称へ。そして芽吹の一人称から、これまたす〜っとキヨ視点の三人称エピローグへ。三人称を加えて角度を変えることにより、芽吹の人となりが深く知れる。素晴らしい。榎田尤利の榎田尤利たる所以か。さすが、その実力・文章力においてはBL界(ほぼ)トップ、上から数えたほうが確実に早い人気作家である。
!以下、ほんのりネタバレ注意報!
主人公に据えられた芽吹は、愛や恋が体にすぐさま直結する10〜20代の若者でなく、メロウな愛染かつら時代を過ごした経験もない、ワケありで「ラブより仕事」な30代。交渉中は喋りまくるが、その喋りは頭の中でも同じなようで、ヤクザとして再会した兵頭との過去からラブシーンまで、読み手に実況中継するかのごとく、一人称で語りまくる(頭の中で)。その思考とスピードと分析力は、妄想癖を取り除いた村上くん(『東京大学物語』江川達也)レベル、まさに「交渉人は黙らない」だ。兵頭と絡んでいる最中でも、よくあれだけ教えてくれる…とゆーか考えられるな、感心する。
コメディなので、芽吹と兵頭の会話にテンポがあって楽しい。夫婦漫才のようだ。兵頭は、BLにありがちな、やたらと容姿端麗なだけの経済ヤクザではなく、頭はいいが実は高校時代の恋を引きずる不器用なヤクザ。恋に不器用な年下攻ヤクザに、仕事以外は不器用な受ネゴ屋――実にウキウキとヤキモキさせてくれるふたりである。年下攻と不器用ラブはツボだし、女々しくない受というのも好感度は高い。ただ、全体的にエピソードがギュウギュウ詰めであることは否めず、急ぎすぎてもったいない印象がある。続編を考えていないのか、考えられていないのかはわからないが、キヨやさゆりさんや兵頭の舎弟など脇キャラも立っていて、このままにしておくには惜しい。どちらにしろ、続編希望だ。兵頭とのラブな展開、芽吹の仕事っぷりはもっと読みたい。追記:続編は来年の秋だそーです。来年?2008年ってこと?…遠ひ…。
評価:★★★★☆
ヤクザが出てくる作品だが、他人に見られたら心底マズい「人目注意報」発令なカラー口絵はなく、本編中の挿絵数点においては、ほのぼのさすら感じられ、「奈良画伯でほのぼの?うわ〜ん、何年ぶりかしら♪」と、泣きそうになるくらい感動した。その喜びで胸いっぱいのまま読み進めていたところ、最後の最後で画伯入魂のクリップ止め必至カット登場。別の感情から泣きそうになった。奈良画伯の奈良画伯たる所以か(画伯がシャンピニョン系でないことを願う)。うおおおおおお!!油断してしまったあああああーーっ!!…これから本作をお読みになるご予定の方、電車の中などではご注意を。
NO STAR … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。
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