■『犬ほど素敵な商売はない』
ISBN:4813011322 新書 榎田尤利(挿絵:志水ゆき) 大洋図書 2006/06/26 ¥903
悪い子だ。発情してしまったのか?自覚のあるろくでなし・三浦倖生は、うだるように暑い夏のある日、会員制のデートクラブ『Pet Lovers』から『犬』として、寡黙で美しい男・轡田の屋敷に派遣される。そこで倖生を待っていたのは厳格な主人・轡田の厳しい躾の日々だった。人でありながら犬扱いされることへの屈辱と羞恥。そして、身体の奥底に感じる正体不明の熱…。次第に深みにはまっていくふたりだったが!?究極のコンプレックス・ラブ。

大洋図書(SHYノベルズ)より上梓の榎田尤利2006年度作品。「また大洋図書?そこばっかり読んでない?」と云われそうだが、そんなことはない。面白そうだなとポチったら、たまたまSHYノベルズだっただけの話である。48130が大洋図書発行物のISBN-10を示している(4が日本、8130が大洋図書)、とは覚えてしまったが。

鞭、首輪、調教、男娼、屈辱、羞恥、SM、コンプレックス…と書くと、「愛にはいろんなカタチがある」「共依存愛」といった使い古されたキャプションや惹句がつきそうな、たいへんアダルト路線のハード系BLに思える。が、読んでみると、榎田尤利+志水ゆき(挿絵)というコラボから期待できるように、また、表紙絵が黒紫系ではなく、白系であることからも予想がつくように、たいへん甘い内容だった。

!以下、ネタバレ注意報!

ストーリーを簡単に云ってしまうと、「愛に執着する攻(轡田)と愛を知らない受(倖生)による、カタワレ探し」。調教はあくまでも素材であり、描かれるのは不器用な純愛。映画「セクレタリー」のBL版かもしれない(違うのは、轡田が相手を思い過ぎてしまうところか)。「犬」になりながらも愛を求め、次第に「人間」となっていく倖生の姿は感動的だ。轡田の狂おしいまでにひたむきな愛も胸を衝く。そのあたりがBLらしい、腐女子の求めるせつなさである。とても甘い(手ぬるいというのではなく、純粋にスウィートという意)。特殊な素材でどう調理すればいいのか、さじ加減はどれくらいなのか――この絶妙な味は榎田尤利だからこそ出せるのだと思う。ぜひともレシピが知りたいものだ。

ただし後半…というか終わりごろ、倖生の前で暁彦が過去を語り出すくだりが唐突で、なおかつ露骨に説明的である。暁彦が語ったほうがたしかにわかりやすい、でも本作は台詞からト書き、行間に至るまでリズムが命な作品だと思うので、均衡を保つため、もう少し違う展開でもよかったかなと思う。個人的にはラストシーンの演出が甘くどく、ラブラブ過ぎるのだが――たぶん腐女子にはそれが一般的にウケるのだろう。榎田尤利は、そのあたりの味付けをよく知っている作家だ。

評価:★★★★
作家名は「榎田尤利」(えだ・ゆうり)。30人中1人くらいの割合で「榎田犬利」(えのきだ・いぬとし)と書かれてしまうんじゃないかと思ったので、念のため。

通挿絵の担当が、いつどのように決まるのかは知らないのだが、作品のイメージに合わせてイラストレーターが決まるというより、榎田作品の場合、榎田尤利がイラストレーターに合わせて書いているんじゃないかと思ってしまうのは、出来不出来や好みは別として、なんでも書けてしまう作家という印象からか。私も彼女が書くというならアラブでも手に取る。その際、挿絵担当は、(画伯が無理なら)さいとうちほでよろしく。

NO STAR … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。

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