■『愛され過ぎて孤独』
ISBN:4813008909 新書 剛しいら(挿絵:新田祐克) 大洋図書 2002/05 ¥903
「おれだけのものだ。誰にも渡さない」歯科医を目指す大学生・深海は海辺の家にプロサーファーの次男・千尋、複雑な事情を持つ高校生の三男・涼と暮らしていた。家族の中心であった母親を亡くして以来、どこか危うい雰囲気のなか、三人は漠然とした不安と焦燥を抱えていた。そして、そんな三人を兄のように見守る大樹。危うい均衡を保っていたある日、千尋が涼をそそのかした。深海を抱きたいなら抱いちまえ、と。男たちの狂おしい恋を描いたグルーヴィング・ラブ、鮮烈に登場。

新田祐克による表紙絵が素晴らしい。絶対的な母親を亡くした3人兄弟(ひとりには血の繋がりがない)+親代わり1人という、複雑な家族形態を持つ4人の男。それぞれが持つベクトルはバラバラだが、次第に交錯していく――というのを、キャラの表情と構図だけで予感させる。次男・千尋の髪の流れ具合が、海から吹いてくる風を感じさせるあたりもまた絶妙。さすが一枚絵の巨匠、グッジョブだ!…というわけで、これまた挿絵にそそられ、続編『愛し過ぎた至福』とともに密林ポチリ購入。ただし、剛しいらにも興味があったと記しておく。

!以下、ネタバレ注意報!

いわゆる兄弟モノ。なおかつ、三男(血の繋がりナシ)×長男、親代わり(血の繋がりナシ)×次男…つまり一家総ホモ。正直、涙が出そうになったが、ぐっとこらえて読み進めることができたのは、書き手が剛しいらであり、彼女の作風らしく、主要キャラたちが四六時中、恋愛オンリーであっぷあっぷしてるのではなく、4人それぞれがそれぞれの形と模様で持っている「海」「家族」「サーフィン」「湘南」への思いが伝わってきて、ごく一般の青春小説のように感じられたからなんだと思う。この私にGO WESTのアルバム(サザンは持ってないのよ…ゴメン)を引っ張り出させたほど、(ラブシーン以外は)爽やかな気持ちでいられた――後半、クライマックスまでは。

!以下、ディープにネタバレ注意!

クライマックスで、死んだ母と行方不明の父の謎、三男を引き取った背景が明らかになるのだが、あんまりにも突飛すぎて、頭の中が真っ白。涼の継母が深海と千尋の実父(!)…って、そんなのアリ?どーしてそんな設定にする!?なんでなんでなんでなんで!?…ナゼの嵐に吹っ飛ばされ、ビッグウェーブにさらわれ、頭の中は真っ白だ。理解するまで頭が回らず、人物相関図を書こうかと思ったくらい。あー…ベタだけど感傷的な『愛され過ぎて孤独』なんてタイトルも、雰囲気が出てていい感じだと思ったのに…そんなオチさえなければなあ…トホホ。一気に冷めたよ。『愛され過ぎて孤独』というより『驚かされ過ぎて呆然』だ。「マーは人魚」に1票。

評価:★★★
それにしても問題は次男の千尋だ。いくら血が繋がらないからと云っても、弟に「深海(長男)を抱きたいなら抱いちまえ」と、フツーけしかけるか?…倫理と常識と節度がぶっ飛んでる。あ、だから挿絵が新田祐克なのか。そっかそっか。なんだか千尋が香藤(『春抱き』)に見えてきたよ。

■『愛し過ぎた至福』
ISBN:4813000975 新書 剛しいら(挿絵:新田祐克) 大洋図書 2003/02 ¥903
「愛してるよ、…だから自由にしてやる」海のそばの大空歯科医院の次男・千尋が子供の頃から片恋していた相手・大樹と恋人関係になって数ヶ月。だが、ふたりの関係は微妙なものになっていた。体の関係もこのところ途絶えている。大樹がおれの気持ちに応えてくれたのは、恋からじゃないのかも…大樹が大切だからこそ別れなくてはならない。そう心に決めた千尋だが…!?一方、大空家の長男・深海と血の繋がらない弟・涼の恋はさらに絆を強めていくのだが、思いがけない事が起きて…熱い男たちのディープラブ。

前作の「グルーヴィング・ラブ」が、本作では「ディープ・ラブ」になってる(あらすじより)。まあ、たしかにディープな関係だ。滅多にない。

!以下、ほんのりネタバレ注意報!

…というわけで、爽やかな気分はどこへやら、すっかり別の波にさらわれてしまった観のある続編。今度は「深海と千尋の母親が、どうやってあの父親と子をもうけたのかの謎」が明かされたらどうしよう…と心配になり、本気でページをめくる指に迷いが出た。私も小心者である。結局それは杞憂で終わって、なんとか読了できたけど。

うんうん、かわいいね、千尋が。バカで。剛さん、香藤が完全憑依した千尋を書いてるよ。キュートでラブリーだ。私は涼×深海より大樹×千尋派なので嬉しい。千尋に持っていかれたことによって、ラストが救われた1冊。

評価:★★★
あ〜参った、参った。こんな目に遭うなんて。だからBLは止められないってもんだ!

NO STAR … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。

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