■『エロとじv―b-BOYアンソロジー』
ISBN:4862631908 単行本 リブレ出版 2007/06 ¥1,100
エロの感想は夜に書くのがいいのかも。
だって夜になると、私の中で別アプリケーションが起動するから。……。
【お知らせ】
感想をつらつらと13本並べるのはツライので、1本文につき3本にします。
ただし、「これは面白いので感想をスペシャルに書きたい」作品の場合、1本だけのUPにします。
「BLにおける小説と挿絵と惹句は、一蓮托生な関係である」と思っているので、それらについても感想を述べます。
…というわけで、4本目の英田サキ作品はピンUPです。
!星評価後に完全ネタバレ注意報!
■「兄貴とヤス」 作:英田サキ 扉絵:鹿乃しうこ
扉惹句:「弟分に奪われる極道同士の危険な愛……!!」
「水を得た魚はこう泳ぐのよっ!」と云わんばかり、ヤクザを与えると素晴らしい泳ぎっぷりを披露してくれる英田兄貴である。その中でも英田兄貴にしては珍しいと思われる、年下攻な舎弟×兄貴モノ。
さて。英田兄貴と云えば、比較的硬派な文体にリズミカルな行間(「文章に文字では書かれていない筆者の真意や意向」という意。『大辞林 第二版』引用)を持ち、女性読者が多いBL業界でも容赦ナシ、警察機構やヤクザ内情など漢字多めでガンガン描き、読み手をグイグイっと引っ張っていく作家である。極道モノを好んで書くBL作家はたいへん多いが、英田兄貴のように、「硬派と甘ーいラブが同居しているドラマティックかつハーレクイン、でもやっぱり腐女子向けなストーリー」を提供してくれる作家となると、あまりいない…と思う。
というわけで、そんな英田サキによる短編「兄貴とヤス」なのだが……
英田兄貴、いやらしすぎます。。
掲載誌が間違ってる…とゆーより、「ペンネームを変えて、ウチでゼヒ書きませんか?」と、モノホンのゲイ雑誌(Badiとか)からお声がかかりそうなエロ(しかも短編だし)に、恥ずかしながらうろたえてしまった。掲載順では4本目にあたる本作だが、いったいこれまでの3本はなんだったんだ?…と思うくらい、一気に目が覚めるエロである。いやーもービックリしたってば!
受の兄貴・羽鳥は(冷めた性格のようだが)侠気に溢れた漢キャラで、たいへんな魔性の男殺しである。隠喩なんぞまったくナシ、あからさまな文句の連発(ちょっとここでは書けない。興味ある方は「エロとじv」を買いましょう)で、ヤスを誘うシーンは強烈、あんな姿であんなことを云われたら、ヤスの理性がぶっ飛ぶのも当然だ。英田兄貴お得意の受キャラが、「魔性の男殺し」であることはけっこう知られていると思うのだが、羽鳥はその中でもセクシャルバイオレットNo.1だろう。一方、攻のヤスは可愛らしく、「蒲田行進曲」銀ちゃんとヤス、「傷だらけの天使」修と亨…などが好きな人(アタシだアタシ!)にはツボである。
エロのグレードは高めとはいえ、短編小説として非常によくまとまっている。出だしは緊張感があり、英田兄貴の硬派な記述でヤクザ抗争の背景もわかりやすい。羽鳥がなにゆえセクシャルバイオレットNo.1なのか、不破というキャラを巧みに使い、その所以たる過去を描いているところも上手い。フツーの作家だったら無理矢理という展開をみせるだろうに、断らない/断れない羽鳥というのがいいね。英田兄貴、最近出た長編2作(『DEADSHOT』『いつわりの薔薇に抱かれ』)より、コッチの短編のほうが面白くないっスか?
そして絵師の鹿乃しうこが、また素晴らしい(一瞬、徳川蘭子さんの昔の絵かと思ったというのはナイショだ)。本作を読んでいる間、頭の中では鹿乃しうこ画によるキャラが動いていた。こんなに相性がいいなんてなあ。ガテン系アクロバット絵師の鹿乃しうこなら、英田兄貴が描くあ〜んなことやこ〜んなことも対応可能だろう。短編小説で終わらすのはもったいない。羽鳥とヤスは魅力的だ。もっとふたりのエピソードをくれ!「エロとじv」一番人気は本作だろう、「原作:英田サキ 画:鹿乃しうこ」でマンガ化希望だ!>編集部
評価:★★★★(エクセレント、たいへん面白い…けどね…)
秋林好み度:★★★★★(たいへん好み…なんだけどね…)
あんな兄貴を満足させようと思ったら毎日タイヘンだろうな…ヤスが心配である。朝のご挨拶も、「おはようございます」ではなく「お疲れさまでした」になりそうだ。
扉惹句を考えたのは、たぶん編集部の担当さんなんだろうけど…ノリにノってるなあ。小説・扉絵がともにノってる以上、惹句もノらざるを得なかったのかもしれないが。ところで、本作がゲイ小説でなくBLに留まっている理由を挙げるとするなら、「絵師が鹿乃しうこ、不破がフツーのルックスだと思われる、ラストがたいへん甘い」からだと思う。これがもし、「絵師が田/亀/源/五郎、不破が出腹のハゲ、羽鳥が縛られ(あわわ…)ラストが壮絶、タイトルが『兄貴いじめ』」だったらと思うと、さすがの私もドン引きする…ってか、止めてくれ!編集部!…そんな想像する私も私か…。
次!
…のその前に。
実はここからが感想の本題になるかもしれない。
ずいぶんと「兄貴とヤス」をホメているのに、なぜ星評価が★★★★★(5つ)ではなく★★★★(4つ)、★1つマイナスなのか?
キャラ良ーし!エロ良ーし!ラブ良ーし!緊張感良ーし!と、たいへん魅力的にストーリーが展開していたというのに、最後の最後、話のシメにガッカリ、「英田兄貴…またそうするの?」と思ってしまったからである。
!以下、完全に結末を明かしていますので要注意!
鉄砲玉となりヤマを踏むことで、もしかしたらヤスとはもう二度と会えないかもしれない。そうなれば今夜は最後の夜になる。なんとなくヤスの気持ちには気付いていた、ならば餞別代りに自分をヤスに与えてもいい。でも欲しいと感じていたのは、ヤスだけじゃない…実は自分も同じじゃないのか?餞別というのは口実じゃないのか?――と、ここまではもうなんて素晴らしい!手放しで絶賛したい!いやホント、マジで!
ところがである。
そのせつなさと緊張感が、ラストでブッタ切れてしまう。
メロメロメロウで終わってしまう。
これだけ盛り上げといて、「襲撃当日の朝、ニュース見てたらガサ入れで森岡が逮捕され、ヤマを踏まなくてよくなりました。ヤスのためにヤクザ辞めようかと思います。めでたしめでたし」になるのか。羽鳥は(感情は冷めていても)肝っ玉の据わった、背中に極彩色の鳳凰を彫った男だぞ!?なんでだ!?…羽鳥は最後までヤクザとして格好が良く、またヤスも「兄貴ならなんでもいい」ではなくて、「ヤクザとしての兄貴」に惚れていて欲しかった。
そりゃー私だって甘いのは好きだ。BLではラブが最優先だろうし、最後に出てくるヤスの「ねがい」にいじらしさを感じ、ホロリとさせられ、繰り返して読んでるうちに「これでいいのかな、やっぱ」とも思ったさ。
…でも。
たとえば、である。
シャワーを浴びず、ヤスの匂いを身体に残したまま、羽鳥は翌朝ひとり現場へと向かう。標的を見つけ、ベレッタの引き金を引き、弾は森岡にヒットする。羽鳥の様子がおかしいと感じたヤスが目の前に現れた瞬間、羽鳥に弾丸が一弾、また一弾と撃ち込まれる。崩れ落ちる羽鳥、泣き叫ぶヤス。昨晩あんなに愛した鳳凰が、ヤスの腕の中でいま、息絶えようとしている。ヤスのために生きれたらどんなによかったかと思いながら、羽鳥は静かに目を閉じる――とか。
羽鳥をかばってヤスが撃たれる。逆上した羽鳥が修羅と化す、とか。
森岡を狙ってた第三の男が現場に現れ、羽鳥の目の前で森岡絶命。土壇場でヤマを踏まずに済む。自分はヤクザを辞めるつもりはないが、ヤクザ向きでないヤスはカタギに戻したい。だが、愛する男がヤマを踏むことになっていたと知ったヤスは、もう二度と羽鳥を危ない目に遭わせたくないと、鳳凰を守る虎(龍でもいい)になることを決意する。ヤスの本気を知り、ともに極道で生きると覚悟を決める羽鳥。あの優しい男がいつの間に…と思っていると、ヤスがある「ねがい」を口にした。その内容に「やっぱりヤスだ」と愛おしさがこみ上げ、目を細めながら「ねがい」を叶える羽鳥だった――とか。
そんな風に、渋く美しくエンドマークつけてもよかったんじゃないだろうか。甘い話、ヤリっぱなしでオチてない話、まとまっていない話――は他の作家が書いている(失礼!)。ベタだけど正統派な作品が、1本くらいあっても良かったように思える。
受が辞める辞めないと云い出すあたりに、ヤクザや恋愛に対する腐女子…いや女子の願望がどうしても見え隠れする。
英田作品にありがちなんだけども、受キャラはとても魅力的、人より秀でた才能を持っているという設定なくせ、仕事に対するプライドや意地というものが感じられない。「ラブ>>>仕事に対するプライド」、つまり「恋は盲目」で、「仕事を辞めなければラブが成就しない」。
英田兄貴は「エス」シリーズで名をあげた人である。昨年「エス」が、なぜ熱狂的に支持されたかというと、椎葉と宗近の「相手より上に立ちたいというプライド」のぶつかり合いが、ラブに発展していく――その過程が面白かったからなんだと思う。刑事としての椎葉には魅力があったし、2巻の「咬痕」――永倉の一件で自家中毒を起こしフラフラになる椎葉、ふたりの間にあるものが徐々に変わってきていることに気付き、覚悟を決め始める宗近――は、素晴らしかった。3巻目あたりから少し展開が強引で、一件落着後に椎葉が「刑事を辞める」と云い出したとき、正直ガッカリした。だが、ヤクザでいたくない宗近で折り合いが付いたと思う。
私は英田兄貴に「エスの人」で終わって欲しくない。いろいろ云われ、雑音も聞こえていると思うが、いま兄貴には「書きたいものを書く」だけじゃなく、「甘く終わる以上のなにか」が必要なんじゃないだろうか。「魚住くんシリーズ」以降、榎田尤利はさらに名をあげた。木原音瀬は木原音瀬しか書けないものを書き、一目を置かれている。私は英田兄貴にもそんな風になって欲しいと切に願っている――迷惑かもしれないが。
読者というのは貪欲だ。もっと面白いものを読ませろと、次々と作家に要求する。しんどい話である。だが、英田作品なら反響は大きいだろうし、ダイレクトに届くはず。英田兄貴――頑張ってくれ!
ISBN:4862631908 単行本 リブレ出版 2007/06 ¥1,100
2007年6月19日『エロほんv』と同時発売!!キラキラ表紙が目印!業界騒然!! ボーイズノベルの最強作家陣ここに集まる!小説b-Boyで初登場以降、ありえないほどの人気エッチ企画が、新作書き下ろし6本を加えてアンソロジー化★ 空前絶後のエッチを見よ!
ラインナップ
英田サキ、あさぎり夕、あすま理彩、斑鳩サハラ、和泉 桂、榎田尤利、鬼塚ツヤコ、木原音瀬、南原 兼、水戸 泉、水上ルイ、山藍紫姫子、雪代鞠絵
エロの感想は夜に書くのがいいのかも。
だって夜になると、私の中で別アプリケーションが起動するから。……。
【お知らせ】
感想をつらつらと13本並べるのはツライので、1本文につき3本にします。
ただし、「これは面白いので感想をスペシャルに書きたい」作品の場合、1本だけのUPにします。
「BLにおける小説と挿絵と惹句は、一蓮托生な関係である」と思っているので、それらについても感想を述べます。
…というわけで、4本目の英田サキ作品はピンUPです。
!星評価後に完全ネタバレ注意報!
■「兄貴とヤス」 作:英田サキ 扉絵:鹿乃しうこ
扉惹句:「弟分に奪われる極道同士の危険な愛……!!」
「水を得た魚はこう泳ぐのよっ!」と云わんばかり、ヤクザを与えると素晴らしい泳ぎっぷりを披露してくれる英田兄貴である。その中でも英田兄貴にしては珍しいと思われる、年下攻な舎弟×兄貴モノ。
さて。英田兄貴と云えば、比較的硬派な文体にリズミカルな行間(「文章に文字では書かれていない筆者の真意や意向」という意。『大辞林 第二版』引用)を持ち、女性読者が多いBL業界でも容赦ナシ、警察機構やヤクザ内情など漢字多めでガンガン描き、読み手をグイグイっと引っ張っていく作家である。極道モノを好んで書くBL作家はたいへん多いが、英田兄貴のように、「硬派と甘ーいラブが同居しているドラマティックかつハーレクイン、でもやっぱり腐女子向けなストーリー」を提供してくれる作家となると、あまりいない…と思う。
というわけで、そんな英田サキによる短編「兄貴とヤス」なのだが……
英田兄貴、いやらしすぎます。。
掲載誌が間違ってる…とゆーより、「ペンネームを変えて、ウチでゼヒ書きませんか?」と、モノホンのゲイ雑誌(Badiとか)からお声がかかりそうなエロ(しかも短編だし)に、恥ずかしながらうろたえてしまった。掲載順では4本目にあたる本作だが、いったいこれまでの3本はなんだったんだ?…と思うくらい、一気に目が覚めるエロである。いやーもービックリしたってば!
受の兄貴・羽鳥は(冷めた性格のようだが)侠気に溢れた漢キャラで、たいへんな魔性の男殺しである。隠喩なんぞまったくナシ、あからさまな文句の連発(ちょっとここでは書けない。興味ある方は「エロとじv」を買いましょう)で、ヤスを誘うシーンは強烈、あんな姿であんなことを云われたら、ヤスの理性がぶっ飛ぶのも当然だ。英田兄貴お得意の受キャラが、「魔性の男殺し」であることはけっこう知られていると思うのだが、羽鳥はその中でもセクシャルバイオレットNo.1だろう。一方、攻のヤスは可愛らしく、「蒲田行進曲」銀ちゃんとヤス、「傷だらけの天使」修と亨…などが好きな人(アタシだアタシ!)にはツボである。
エロのグレードは高めとはいえ、短編小説として非常によくまとまっている。出だしは緊張感があり、英田兄貴の硬派な記述でヤクザ抗争の背景もわかりやすい。羽鳥がなにゆえセクシャルバイオレットNo.1なのか、不破というキャラを巧みに使い、その所以たる過去を描いているところも上手い。フツーの作家だったら無理矢理という展開をみせるだろうに、断らない/断れない羽鳥というのがいいね。英田兄貴、最近出た長編2作(『DEADSHOT』『いつわりの薔薇に抱かれ』)より、コッチの短編のほうが面白くないっスか?
そして絵師の鹿乃しうこが、また素晴らしい(一瞬、徳川蘭子さんの昔の絵かと思ったというのはナイショだ)。本作を読んでいる間、頭の中では鹿乃しうこ画によるキャラが動いていた。こんなに相性がいいなんてなあ。ガテン系アクロバット絵師の鹿乃しうこなら、英田兄貴が描くあ〜んなことやこ〜んなことも対応可能だろう。短編小説で終わらすのはもったいない。羽鳥とヤスは魅力的だ。もっとふたりのエピソードをくれ!「エロとじv」一番人気は本作だろう、「原作:英田サキ 画:鹿乃しうこ」でマンガ化希望だ!>編集部
評価:★★★★(エクセレント、たいへん面白い…けどね…)
秋林好み度:★★★★★(たいへん好み…なんだけどね…)
あんな兄貴を満足させようと思ったら毎日タイヘンだろうな…ヤスが心配である。朝のご挨拶も、「おはようございます」ではなく「お疲れさまでした」になりそうだ。
扉惹句を考えたのは、たぶん編集部の担当さんなんだろうけど…ノリにノってるなあ。小説・扉絵がともにノってる以上、惹句もノらざるを得なかったのかもしれないが。ところで、本作がゲイ小説でなくBLに留まっている理由を挙げるとするなら、「絵師が鹿乃しうこ、不破がフツーのルックスだと思われる、ラストがたいへん甘い」からだと思う。これがもし、「絵師が田/亀/源/五郎、不破が出腹のハゲ、羽鳥が縛られ(あわわ…)ラストが壮絶、タイトルが『兄貴いじめ』」だったらと思うと、さすがの私もドン引きする…ってか、止めてくれ!編集部!…そんな想像する私も私か…。
次!
…のその前に。
実はここからが感想の本題になるかもしれない。
ずいぶんと「兄貴とヤス」をホメているのに、なぜ星評価が★★★★★(5つ)ではなく★★★★(4つ)、★1つマイナスなのか?
キャラ良ーし!エロ良ーし!ラブ良ーし!緊張感良ーし!と、たいへん魅力的にストーリーが展開していたというのに、最後の最後、話のシメにガッカリ、「英田兄貴…またそうするの?」と思ってしまったからである。
!以下、完全に結末を明かしていますので要注意!
鉄砲玉となりヤマを踏むことで、もしかしたらヤスとはもう二度と会えないかもしれない。そうなれば今夜は最後の夜になる。なんとなくヤスの気持ちには気付いていた、ならば餞別代りに自分をヤスに与えてもいい。でも欲しいと感じていたのは、ヤスだけじゃない…実は自分も同じじゃないのか?餞別というのは口実じゃないのか?――と、ここまではもうなんて素晴らしい!手放しで絶賛したい!いやホント、マジで!
ところがである。
そのせつなさと緊張感が、ラストでブッタ切れてしまう。
メロメロメロウで終わってしまう。
これだけ盛り上げといて、「襲撃当日の朝、ニュース見てたらガサ入れで森岡が逮捕され、ヤマを踏まなくてよくなりました。ヤスのためにヤクザ辞めようかと思います。めでたしめでたし」になるのか。羽鳥は(感情は冷めていても)肝っ玉の据わった、背中に極彩色の鳳凰を彫った男だぞ!?なんでだ!?…羽鳥は最後までヤクザとして格好が良く、またヤスも「兄貴ならなんでもいい」ではなくて、「ヤクザとしての兄貴」に惚れていて欲しかった。
そりゃー私だって甘いのは好きだ。BLではラブが最優先だろうし、最後に出てくるヤスの「ねがい」にいじらしさを感じ、ホロリとさせられ、繰り返して読んでるうちに「これでいいのかな、やっぱ」とも思ったさ。
…でも。
たとえば、である。
シャワーを浴びず、ヤスの匂いを身体に残したまま、羽鳥は翌朝ひとり現場へと向かう。標的を見つけ、ベレッタの引き金を引き、弾は森岡にヒットする。羽鳥の様子がおかしいと感じたヤスが目の前に現れた瞬間、羽鳥に弾丸が一弾、また一弾と撃ち込まれる。崩れ落ちる羽鳥、泣き叫ぶヤス。昨晩あんなに愛した鳳凰が、ヤスの腕の中でいま、息絶えようとしている。ヤスのために生きれたらどんなによかったかと思いながら、羽鳥は静かに目を閉じる――とか。
羽鳥をかばってヤスが撃たれる。逆上した羽鳥が修羅と化す、とか。
森岡を狙ってた第三の男が現場に現れ、羽鳥の目の前で森岡絶命。土壇場でヤマを踏まずに済む。自分はヤクザを辞めるつもりはないが、ヤクザ向きでないヤスはカタギに戻したい。だが、愛する男がヤマを踏むことになっていたと知ったヤスは、もう二度と羽鳥を危ない目に遭わせたくないと、鳳凰を守る虎(龍でもいい)になることを決意する。ヤスの本気を知り、ともに極道で生きると覚悟を決める羽鳥。あの優しい男がいつの間に…と思っていると、ヤスがある「ねがい」を口にした。その内容に「やっぱりヤスだ」と愛おしさがこみ上げ、目を細めながら「ねがい」を叶える羽鳥だった――とか。
そんな風に、渋く美しくエンドマークつけてもよかったんじゃないだろうか。甘い話、ヤリっぱなしでオチてない話、まとまっていない話――は他の作家が書いている(失礼!)。ベタだけど正統派な作品が、1本くらいあっても良かったように思える。
受が辞める辞めないと云い出すあたりに、ヤクザや恋愛に対する腐女子…いや女子の願望がどうしても見え隠れする。
英田作品にありがちなんだけども、受キャラはとても魅力的、人より秀でた才能を持っているという設定なくせ、仕事に対するプライドや意地というものが感じられない。「ラブ>>>仕事に対するプライド」、つまり「恋は盲目」で、「仕事を辞めなければラブが成就しない」。
英田兄貴は「エス」シリーズで名をあげた人である。昨年「エス」が、なぜ熱狂的に支持されたかというと、椎葉と宗近の「相手より上に立ちたいというプライド」のぶつかり合いが、ラブに発展していく――その過程が面白かったからなんだと思う。刑事としての椎葉には魅力があったし、2巻の「咬痕」――永倉の一件で自家中毒を起こしフラフラになる椎葉、ふたりの間にあるものが徐々に変わってきていることに気付き、覚悟を決め始める宗近――は、素晴らしかった。3巻目あたりから少し展開が強引で、一件落着後に椎葉が「刑事を辞める」と云い出したとき、正直ガッカリした。だが、ヤクザでいたくない宗近で折り合いが付いたと思う。
私は英田兄貴に「エスの人」で終わって欲しくない。いろいろ云われ、雑音も聞こえていると思うが、いま兄貴には「書きたいものを書く」だけじゃなく、「甘く終わる以上のなにか」が必要なんじゃないだろうか。「魚住くんシリーズ」以降、榎田尤利はさらに名をあげた。木原音瀬は木原音瀬しか書けないものを書き、一目を置かれている。私は英田兄貴にもそんな風になって欲しいと切に願っている――迷惑かもしれないが。
読者というのは貪欲だ。もっと面白いものを読ませろと、次々と作家に要求する。しんどい話である。だが、英田作品なら反響は大きいだろうし、ダイレクトに届くはず。英田兄貴――頑張ってくれ!
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