■『地上に堕ちる間に』
ISBN:4773002972 単行本 谷崎泉(挿絵:北畠あけ乃) 笠倉出版社 2005/06 ¥900
寄り添うように育ち、岳雪が何よりも大切にしてきた幼馴染み・諒。幼い頃のまま盲目的な信頼を寄せてくる諒への気持ちを持て余し、重荷に感じた後ろめたさから、諒と離れようとする岳雪。諒は全てだった岳雪を突然失う絶望に傷付きながら、笑って送りだそうとする。すれ違いながらも、お互いへの離れがたさが恋だったことに気付くふたりだったが…。たったひとつの恋が成就する、ピュア・ラブストーリー。

現在、購入可能な谷崎泉作品の中で、もっともリリカルな文体で以って、もっともセンシティブなストーリーが綴られている1本。

本当に冬が好きなんだろうな。キャラに冬がらみの名前をつけることが多い谷崎センセだけども、作品まるごと冬や雪をイメージさせているあたり、あとがきを読まなくたって本作が特別なポジションにある作品だとわかる。

★B’zのミニアルバム「FRIENDS II」を聴きながら読むことをオススメします。

!以下、ネタバレ注意報!

ある秘密と事情から、岳雪は小さい頃から諒の傍にいた。恋人ではないけれど特別な関係だ。諒にとって岳雪は「神様」、彼を愛しているのだが、その気持ちを抱えるだけで伝えてはいない。大人になって、ふたりはそれぞれ仕事を持ち、自立しているものの、諒は精神的に岳雪を頼っている(が、そんな素振りを本人は見せようとしない。でもバレバレ)。岳雪は昔のように諒を重荷にはしていないようだが、実際どう思っているのかわからない(重荷にしていた頃の話がもっと欲しかった)。そこにフランス人デザイナーのクリストフが諒に接近してきて、ふたりの関係に変化が…という設定。

小さい頃から思い続けたたったひとつの恋、後にも先にも諒には岳雪だけ――ピュアな初恋が大人になって成就するのは感動的、実際にはありえないだろう恋に、ピュアな心が磨耗している私なんかはやっぱり憧れてしまうんだけれども、ドラマティックに盛り上がらないまま時間が流れていき、次から次へとシーンが移り変わっていくのがとにかくつらい。諒の心情描写は丁寧だが、岳彦が諒をどう思っているのかよくわからない。クリストフでいいじゃんか、とまで思ってしまう。諒が抱える「ある秘密と事情」(とても悲しい)がなかなか語られないため、焦らされてヤキモキというのを通り越して、イライラする。

最後にふたりの思いが通じ合うシーンは感動的なはずなのに、モタついたぶんスッキリせず、なんだか「冬」「雪」というイメージとシチュエーションに、ストーリーが流されていったように思えた。残念。

雰囲気が素晴らしい。決してつまらなくはない。
とにかくもったいない…そんな作品。

評価:★★★(もっとドラマティックだったらなあ)
当て馬がガイジンでフランス男っつーのは、やっぱ腐女子ドリーム?…「いつまでも待つ」だなんて、当て馬の定番セリフとはいえ、云わせた諒も罪な男だなあ。クリストフもせっかくフランス男なんだから、そんなあみんなこと云わず…って、近くのあみんより遠くの神様、登場したときからクリストフの負けは決定的だったか。諒に会うたびに花を贈ってたなんて、女扱いしたあたりマズかったような気も…。

本作の表紙を見て「うおお!北畠あけ乃さんだ!センシティブ系の!」と、ちょっとだけ驚いた。谷崎センセとは(たぶん)初コラボ。大物/売れっ子絵師さんが、谷崎作品に絵をつけている印象があまりない(陸裕さん除く)ので、売れっ子絵師である北畠さんの抜擢が嬉しかったし、実際ピッタリだと思った。クロスノベルスはセンシティブ系作品が多いレーベルのように(私は)思えるので、谷崎センセもレーベルに合わせて作品をチョイスしたような感じがする。う〜む。

諒と岳雪の故郷・金沢は、たしかに雪が降るし、雪国といっていい都市のひとつだと思う。でも新潟や長野より降らないし積もらない。本格的に降り出して「うえ〜ん、雪かき…」となるのは、1月中旬以降。12月はさほど降らない(から、そんな時期にドカ雪降った2005年、みんな油断して慌てた)。やっぱ雪化粧の兼六園イメージが強いんだろうな。市民は雪が降る前に湿気との闘いだ!…加湿器なんてとんでもない、除湿機フル稼働!

こんな現実的なツッコミしているなんて、やっぱピュアな心が磨耗しきって崩壊してるね…>私

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

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