■『最後のテロリスト 3 〜鳴動〜 』
ISBN:4576071033 文庫 谷崎泉(挿絵:シバタフミアキ) 二見書房 2007/06 ¥650
蓮が姿を消して五年。セキは仕事を続けていたが、興津組の内部抗争に深く関わっている上、日本への勢力拡大を目論むチャイニーズマフィア・劉につけ狙われることに。自分はただの故買屋だ。大きくなんてなりたくない──そんなセキの思いとは裏腹にあらゆる人間が彼のもとに集まってくる。すべてが潮時と感じ、日本を出ようと思い始めたセキの前に、自分を翻弄した唯一の男、蓮が現れる。理屈も立場も飛び越え、言葉を失わせ、ただ互いの熱を求め合う邂逅。しかし──。シリーズ完結巻!

一部の熱狂的なファンの支持により絶賛評が多い中、2巻感想で「謎を背負いながら端折るとはどーゆーことだ」「セキがなあ…」とブッタ斬り評を書いた私も、考えてみりゃ「コソコソしていたい、目立ちたくない、目立とうなんてとんでもない」というタイプ――なーんだそりゃセキと一緒じゃん?と気付いてさらに呆然、そんな状態で手に取った、故買屋セキが主人公の「ラステロ」第3巻である。

!以下、ネタバレ注意報!

いくら「作家が書きたいもの≠私が期待していたもの」だったからといって、まずキャラありきだろうと思われる(だから私もそんな読み方をしている)ライトノベルやBLジャンルで、これだけ面白くて立ったキャラと、パンチラインの効いたセリフを連発されたら、「つまらん!」だなんて絶対に斬り捨てられないし、思ってもいない。でもやっぱり谷崎泉らしいとゆーか、嗜虐的な攻がどーしてあの受を選ぶのかイマイチわからず、1巻の「威士→凪」が分かりやす過ぎた分、今回はいつも以上に「なんで蓮はセキがいいわけ?」という疑問が残る。「綺麗になったな…」(え?そうなの?>蓮) 「…俺にはお前の趣味が一生、理解できんと思うわ。どこがええねん」(うん、アタシもそう思う>威士)…ダメだ、こりゃ!>私

蓮とセキが歪(いびつ)な関係しか持てないのは、よくわかる。ふたりは心より身体のほうが正直、恋だの愛だのという甘い感情からはほど遠い…恋愛らしきもの、しかできない似た者同志だということが、2〜3巻通してず〜っと語られているから。

結局、「ラステロ」はそれがメインストーリーだったようで、蓮だけでなく威士にとってもキーパーソンであるはずの氷川は簡単に殺されてしまって、ヒョイ出のチャイニーズマフィアによってうっちゃわれるし、あれだけ振られた蓮を巡る謎はスッキリと明らかにされないままだし、蓮の「いつ倒れるかわからない」爆弾は切なくさせるような効果もなく不発に終わったし、威士と蓮が興津のトップにのし上がって行くさまもイマイチわからず(ちょっと!凪は〜!?)、最後のテロリストを看取ったのち、蓮のいる日本へ戻ろうと考えたかどうかをちらつかせたセキだけに、綺麗なエンドマークがついたという印象だ。谷崎センセはセキが好きなんじゃないのかな。セキは、江木や弓削、劉、麻生にまでモテモテ。「受がモテモテ」は、谷崎作品の基本だと思うから。

セキはたしかに私の好みから外れているが、蓮と邂逅(←読めますか?「かいこう:思いがけなく出会うこと」)し、早朝にベッドで目を覚ましたのセキの心情描写はせつなく、これこそ谷崎節の醍醐味で、相変わらず素晴らしい。

たとえば、「蓮より早く目が覚めてシャワーを浴びに行く」という一行で済ますことができる行動なんだけども、「蓮の寝顔が目に入った→情を感じた→身体を起こした→カーテンからの明かりを見て朝だと気付いた→狭いユニットバスに入った→曇った鏡に映る自分の赤い痣を見つけた→思わず目を背けてバスから出た」。セキの、自分自身そして蓮への複雑な思いが伝わってくる。数行かけて、受が攻を思う気持ち、そしてそのシグナルを読み手にじわりと伝える描写が、谷崎センセは本当に上手くて毎回唸ってしまう(「しあわせにできる」の感想でも書いたけど)。そんなちょっとした数行なんて別にいいじゃん、と思われるかもしれない。でもこういう描写をする書き手に対し、「なんて素晴らしい、感動した、わかってる、ちゃんと伝わってきてるから」と云いたい。そんなところまで感想を書いている人は少ないだろうから。がしかし。そういう心理描写は卓越しているのに、なんで肝心要を端折るのだーーーー!?

谷崎泉がターニングポイントを向かえる作品になる!…と、1巻を読んだときに思ったんだけどな…。

評価:★★★(悶々悶々悶々…なんでこんな思いを…うううう…)
威士の顔に傷が残ったら――許さへんで!!覚えときや!>セキ
全3巻通して、蓮は威士と一緒にいるほうが素敵でカッコ良かった。「威士・蓮・凪」の三人の話がもっと読みたかったなあ。それにしても、興津の次代No.1と2はともにホモか。う〜む、興味深い。

「ラステロ」はシバタさんの表紙効果によりBLっぽくなく、一見するとフツーのライトノベル風。これだったらカバーをつけずに茶の間に置いておいても平気ね♪と、そのまま置きっぱなしにしたところ――次の日、裏表紙が表になって置かれていることに気付き、顔面蒼白。裏表紙にあらすじとパンチラインが書かれてあるシャレード文庫、ちなみに「ラステロ」3巻はデカデカと――

俺にはそんな価値などない。
男に抱かれて
嬌声をあげるような、屑だ。


…………。
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!

自分を屑だというそんなアナタが主人公の本を読む私は――滓?それとも塵、でしょうか?

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

コメント

nophoto
りん
2007年12月1日1:12

茶の間の件…心からお気の毒です…。合掌。
せめて一巻か二巻の裏表紙だったなら…(それもちょっと)

たてつづけに失礼いたします。
スペシャルとうとう完結ですね!(ですよね?)
おめでとうございますvv長い特集おつかれさまでした〜vv

心踊らされたと同時にはがゆいほどに切ない…本当にどうしてBL読書でこんな悶々とした思いを…ううう…(のっけからスミマセン)

セキに関しては確かにまとまりがついたラストだとは思うんですが、他のキャラクターついては布石が回収されずに敷かれっぱなしとでもいうか…。「威士・蓮・凪」の三人組を巡る物語と「セキ」の物語が、水と油のごとく上手く混ざりあっていなかったように感じる点もちょっと辛いところかなと…(T_T)

メインが完全にセキに移ったことによって、興津組の抗争の経緯などそれまで曲がりなりにも当事者の視点から語られてきた出来事がクライマックスを迎えつつある流れで、伝聞系の進行情報しか間接的に読者に与えられなくなってしまうところも、もどかしさの一つじゃないかと思います。
せめてセキを見送った後から麻生のメールまでの間の威士と蓮の番外編とか、私家版などで読める機会を期待してしまったりもするんですが…サービスシーンは威士と凪担当でぜひ!(オイ)
(でも私家版だとシバタ先生のイラストが見られないのが非常に残念…/涙)

個人的には空港からセキが引き返して蓮に再会するシーンなどにも、まさに谷崎節の醍醐味というか、セキの心情変化が鏡を使って象徴的にあらわされているところ(そこに映る自分の姿から目をそらさずにそれでもいいと受け入れる描写とか)いままで積み重ねられてきた表現があるからこそのドラマティックな転換が描かれていて、そういう沁みこむような心理演出の深さが読者としてはひきこまれてしまう魅力だと思うんですが…。叙情の卓越性が目立つ分、叙事の端折り方の思い切りの良さというより粗さ(汗)が余計気になってしまうのかも…。

いろいろ言ってしまいましたが、ハードで硬質でいてリリカル、奥深く魅力的なキャラクター達に出会わせてくれた忘れがたい作品でありますし、全体を通して先生の思い入れの深さは伝わってくるし、これからもきっと何度も読み返してしまうシリーズなんだろうなあと思います…。

秋林さんの感想を読ませていただきながら、まさに「そうそうそれが言いたかったの!よくぞ言ってくださいました!」な記述の数々に、感動の嵐でした。
なんとも言えず胸にわだかまっていたものを見事表現してもらえていて、もうすごく嬉しかったです。首が痛くなるくらい頷くことしきりでした…(笑)
長期間のスペシャル大変だったかと思いますが、試みてくださったことに心から感謝申し上げます。密度濃いレビューをありがとうございましたm(__)m

秋林 瑞佳
秋林 瑞佳
2007年12月2日12:53

>スペシャルとうとう完結ですね!(ですよね?)
>おめでとうございますvv長い特集おつかれさまでした〜vv
ありがとうございます♪…長かった…2ヶ月かかっちゃいました。「スペシャル!」で取り上げる作品はこれで終わり、あとは「イントロダクション」から始まったので、「コンクルージョン」書いて終わりにする予定です。

>心踊らされたと同時にはがゆいほどに切ない…本当にどうしてBL読書でこんな悶々とした思いを…ううう…
同感です。「アタシだけなん!?」と思っていたところ、同じ悶々状態の方がおられて、「ぎゃああああ!同志だーーー!」と感激しました。

>「威士・蓮・凪」の三人組を巡る物語と「セキ」の物語が、水と油のごとく上手く混ざりあっていなかったように感じる点もちょっと辛いところ
セキと凪の接点もまったくなかったですしね。私にとっては突然セキが出てきてストーリーがかっさらわれた、威士と蓮、もしくは蓮とセキというより、結局真冬ちゃんのお話だったのか…という印象です。

>興津組の抗争の経緯などそれまで曲がりなりにも当事者の視点から語られてきた出来事がクライマックスを迎えつつある流れで、伝聞系の進行情報しか間接的に読者に与えられなくなってしまうところも、もどかしさの一つ
おしゃる通り、まさしくその通りです。急にシフトチェンジされて面食らいました。

>せめてセキを見送った後から麻生のメールまでの間の威士と蓮の番外編とか、私家版などで読める機会を期待してしまったりもするんですが…サービスシーンは威士と凪担当でぜひ!(オイ)
蓮とセキは本編で「わかったわかった…わかったから、もういいってば!」というくらい、出てきましたからねえ(わははは♪)。凪がいいという人は多いと思うんですけど、「ラステロ」読んでる人がとても少ないのでわかりましぇん…悲しー!

>叙情の卓越性が目立つ分、叙事の端折り方の思い切りの良さというより粗さ(汗)が余計気になってしまうのかも…。
おっしゃる通りです。なんてもったいないっ!

>ハードで硬質でいてリリカル、奥深く魅力的なキャラクター達に出会わせてくれた忘れがたい作品でありますし、全体を通して先生の思い入れの深さは伝わってくるし、これからもきっと何度も読み返してしまうシリーズなんだろうなあと思います…。
本当、そうですよね。私なんか、通勤バッグに入れっぱなしですもん…1巻を!(わははは♪)

>なんとも言えず胸にわだかまっていたものを見事表現してもらえていて、もうすごく嬉しかったです。首が痛くなるくらい頷くことしきりでした…(笑)
とんでもない!…こちらこそ、思っていたことを的確にコメント下さいまして、頷くことしきりでした。一部で絶賛されているこのシリーズに対して、同じことを思っておられる方がいたというだけでも感動でしたのに!

BL系の感想は今後も書いていくと思います。なにかコメントがございましたら、どうぞお気軽に書き込んで下さいませ♪

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