■…というわけで、約2ヶ月の間コツコツと書き続け、『最後のテロリスト』で以ってようやっと終了した「谷崎泉スペシャル!」ですが、そもそも「スペシャル!」と銘打ってまで、この飽きっぽい私が、根気良くひとりの作家の作品の感想を書き続けたのには、理由があります。

榎田尤利、木原音瀬、英田サキといった人気作家の作品感想はネット上でもよく見かけるというのに、知名度だけでなく人気だってけっこうあるだろう、シャレードの看板作家といっていいはずの谷崎泉作品となると、これが思ったほど見かけません。そーゆー私自身、オッシーに云われるまで谷崎泉はノーチェック、著作は『パンダ航空1〜3』くらいしか読んだことがなく、しかも「あんまり好みじゃないな〜」と思っていたわけですから(理由:凡庸だったから)、エラソーなことは云えないんですが、実際何作か読んでみると「あ、これは谷崎泉だ」とすぐわかってしまう、個性的で誰にも似てない作家であることが見えてきました。

良く云えば、ライトノベルやBLでは必須だろう立ったキャラが何人も描け、ト書きで読ませるリズミカルな文章スタイル(「谷崎泉スタイル」とゆーか)(注)、リリックの効いたストーリーテリングと心情描写力を天性で持っている作家、悪く云えば、型にハマっていて引き出しが少なく、ト書きで読ませるタイプなので一人称が凡庸になりがち、これ見よがしに伏線と謎を仕掛けておきながらそのすべてを回収しないまま、消化不良気味にストーリー終了となってしまう作品が多く、読み手に「惜しい」「もったいない」と思わせる作家という印象です。

たとえば『しあわせにできる』は、雑誌に長期連載され、さらに文庫収録時に番外編追加という形を取ったことにより、後者の欠点を補った人気シリーズであり、私も好きな作品です。12冊も出ているのに1冊ずつ感想を書いたのは、「どんどん面白くなっていくから。中途半端には終わらない、前者に秀でている作品だよ」と伝えたかったからです。また谷崎先生は、受に対し嗜虐的な攻を書くことが多いので、『しあわせにできる』の1〜3巻あたりまでの久遠寺に堪えられず、「理解できない」と挫折する人(そういう人は少なくないと思う)に「もうちょっと我慢して。じきに久遠寺の背景が見えてくるし、彼も変わっていくから。それでダメならごめんなさい、この感想はアテになりませんよー」という意図もありました。

逆に後者で辛かったのは――正直にいうと『しあわせ』以外の作品ほとんどで、中でも自分好みから完全に外れてしまった『ダブル』は、しんどくて仕方がなかったです。でもつまらないとは思いません。

前者と後者の狭間で大ショックを受けたのが、『最後のテロリスト』。感想をバカ長く書いてしまったのは、「こんなことを思ってるの、私だけなん!?」と訴えたかったからです。同じことを思い、悶々されていたというりんさんが熱く燃え滾る情熱的なコメントを書いて下さったように、このシリーズに対しては…私もいまだフクザツな思いで胸がいっぱいです。本についてくるアンケートハガキに、惜しくて悔しいどうにもやり過ごせないこの思いを書いて編集部に送ろう、谷崎センセにお手紙でこの思いを伝えよう…と、何度思ったことか。結局どちらもやめ、自分のブログでアップするにとどめました。

自分がこれほどBLに入れ込むのは久しぶりです。クリーンヒットしたときの谷崎作品が私に与える影響は大きい…と、思い知らされました。今後も谷崎チェックはしていきますが――りんさん、そして『しあわせ』感想にてコメントを書いて下さった由木さんが感じておられること、そして私が「スペシャル!」で書いたことがどんな形でもいいので――いい方向にそれとなく伝わるといいなあと思います。

大洋図書(SHYノベルズ)、谷崎センセを引き抜いてくれないかな…。指摘してくれそうな気がする。

■(注)ト書きで読ませるリズミカルな文章スタイル(「谷崎泉スタイル」とゆーか)
以前にも書いた「ダブル(神)視点三人称」のこと。視点が切り替わると混乱するのに、谷崎作品にはそれがない。

基本的に「谷崎劇場」で、「谷崎泉=神」視点、頭の中でストーリーが出来上がっていて、それを客観的に書いてるという感じ。別の言い方をすれば「谷崎監督の演出による群像劇」。キャラの後ろにカメラがついていて、あっちこっち変わる。「視点はひとつ」セオリーを覆しているけど、私は支持したいです。

以下、私が感覚的に思うこと。

「ト書きで読ませる=リズムがいいのでセンテンスが長くても気にならない」。

ライトノベルやBLでは、「なぜここで?リズムが崩れちゃうよ」と思うくらい、やたら改行する作家が多いけれど(それにどーしても慣れない私。ただし火浦功除く)、谷崎センセは1ページに文章が比較的埋まっており、無意味で無駄な改行がない。句読点の入れ方なども独特。それはたぶんリズムを重視しているからで、ト書きでキャラ心情を読ませることが上手い人ならではだと思うし、実際にサクサク読める。次のページでこの一文をトップに持ってこよう、という意識を感じる箇所が見受けられると、「うんうん、よくわかる、私もそうするなあ」と思う反面、急転のための一文を思い切りよく数行区切っておきながら、その後の展開が肩透かしだと、「やりすぎたね」と感じるときもある。字面はリズムほど気にしてないように感じる。

「秋林さん、なんでそんなこと書くの?」…って、そうだなあ、「スラムダンク」の湘北vs.山王工業で、河田が花道のマークについたとき、花道の滞空力、ブロックジャンプに跳んだあと猛ダッシュできる体力に「コイツはすごい。誰もそんなところ見てないだろうが」と思うシーンがあるでしょ?…あの河田と同じ。「サクサクと読めるのは、リズムを考えているから。誰もそんなこと気にとめないかもしれないけど」。

■秋林の「谷崎作品ベスト3」

1.『最後のテロリスト 1 〜胎動〜 』(+『16』)
2.『しあわせにできる』
3.(いまのところ)該当なし

未読で積読状態なタイトルがあるので、もしかしたらその中に3位があるかも。

■秋林の「谷崎キャラ ベスト3」

1.遠野凪(『最後のテロリスト』)
2.菅生威士(『最後のテロリスト』)
3.結城涼子(『しあわせにできる』

『しあわせ』キャラは、本田や久遠寺じゃなく結城さんが好きなの…。

■りょうさん、ボースンさん、由木さん、りんさん、私と同じように郵便局員さんを脅した(←え?違う?)夜霧さん、コメントありがとうございました!

以上、「谷崎泉スペシャル!」でした♪

コメント

nophoto
りん
2007年12月8日10:24

コンクルージョン…感慨深かったです。しみじみ頷きながら読みこんでしまいました。ボーダーライン上を揺れ動く独特のポテンシャルとでもいうか、あともう少しで何かが開花しそうなのに手が届きそうで届かないもどかしさというか…底力のある作家さんだと思うだけに、長く書きつづけることでいつか実を結ぶ日が来たらいいなあと切実に感じました。(ホントに一度SHYノベルスにリクエストしてみようかな…)

勢いのまま書き連ねてしまった拙いコメントに、過分な御言葉まで頂戴してしまい…恐縮でした。私もこれまでに何度かアンケートや感想を書いて送ってみようかと迷ったりしたのですが、結局書けずじまいで、もやもやした思いを抱え込んでいたままでした。こちらこそ貴重な場をお借りして、気持ちを形にする機会を与えていただけたことに感謝するばかりで…面映ゆいです。

秋林さんの感想を楽しみに拝読しながら、共感して心慰められていたばかりでなく、改めて考えさせてもらえたことも多かったです。面白くてためになると言ってしまいたくなるような、充実した味わい深いレビューを本当にありがとうございました。

実は私、ラステロが初谷崎作品で、前述した通り読後ボーゼン(+悶々)としつつ、「ほ、ほかの小説はどんな感じになってるんだろう?」といろいろ読み出したのも、谷崎泉という作家を知ることになったきっかけです。(『しあわせにできる』は最後の楽しみにと残しておいたので、恥ずかしながらまだ未読だったりするのですが(スミマセン…)、秋林さんのお勧めもあるし、安心して(笑)一気読みしようかと思っています♪)

とりあえず他を一通り読んでみると、本当に謎引っぱり系で伏線張り好きなんだなあと呆れ…いえ感心しつつ、ライトコメディ系とシリアス傾向の作品に別れるような印象も持ちました。ライト系の方が、心なしか描写に余裕があるというか…のびのび書かれているように思えなくもなく、直球ハードテイストなラステロに惹き込まれてしまった者としては、身勝手ながらもちょっぴりフクザツな気持ちがしなくもなかったり(笑)。でも、例えばシリアス系の作品によくある(気がする)創作の苦渋が滲んだような後書き(汗)などを読んでいると、先生もいろいろご苦労されながら一生懸命書いていらっしゃるんだろうなとも思われて、またフクザツな気分に…(トホホ)

ラステロに関しては…自分でもまだ整理がつかず、もういつでも「ここが惜しいよ!ラステロ悶々座談会」とか開けそうな勢いなんですが(うわ〜)、出会えて良かった作品だと心から思います。
通勤バッグには入れていませんが(笑)ヘビーローテーションで読み返すあまり二冊目もついに買ってしまいました…一巻を♪♪
あ、でも由木さんのコメントもあわせて読ませていただいていると、私家版も思いきって入手してみようかと何だか迷いが出てきました(笑)。ホントによくもわるくも魅力的な作家と作品とでもいうか…一読者として喜ぶべきなのかどうか判断がつきにくいですが(^_^;)

毎回長文コメントになってしまって重ね重ねすみません。また機会がありましたらお邪魔させてもらえたら嬉しいです♪改めて「谷崎泉スペシャル!」おつかれさまでした〜!

秋林 瑞佳
秋林 瑞佳
2007年12月9日9:23

>底力のある作家さんだと思うだけに、長く書きつづけることでいつか実を結ぶ日が来たらいいなあと切実に感じました。
そうなんですよねえ…でもデビューしてそろそろ10年になるわけで、しかも「君好き」「しあわせ」の固定ファンが多い方だし、もうあとはセンセがどう思われているかでしょうね。このままでいいのか、それとも?…う〜ん…。

>(ホントに一度SHYノベルスにリクエストしてみようかな…)
個人的に実力派が多くてレベルが高いと思っているのが、クリスタル文庫とSHYノベルズです。光風社がもう存在しないため実質的に前者からは新刊が出ないとなると、あとはSHYだけ。エンタ色が強く人気作家・絵師ともに多くデザインも秀逸なレーベルなので、私はリブレより上だと感じてます。谷崎さんの作風ならば、クロスノベルズやリンクスのほうが合ってると思うのですが、エンタ色の強いSHYで人気のある絵師がついて、人気作家の波にもまれて、編集さんがホメて引っ張ってくれれば…いいのになあ!うおお!…今度、リクエストを書いたアンケートハガキの画像アップします。「こんなの書いたよー!」って。

>例えばシリアス系の作品によくある(気がする)創作の苦渋が滲んだような後書き(汗)などを読んでいると、先生もいろいろご苦労されながら一生懸命書いていらっしゃるんだろうなとも思われて
あとがきも本編も「しんどそうだー」と、すごくよくわかりますよね。真面目な方なんだろうなあ。

>ラステロに関しては…自分でもまだ整理がつかず、もういつでも「ここが惜しいよ!ラステロ悶々座談会」とか開けそうな勢いなんですが(うわ〜)、出会えて良かった作品だと心から思います。
同じです。私のように「あのシバタさんがBLの挿絵だあ〜!?」と、一部腐女子を驚愕させたほどのスペシャル絵師を引っ張ってきた上、シャレード文庫なのにつや消しマット表紙カバーですよ!?めっちゃ特別扱い…なのに…あああああ!…もし2〜3巻が違ってたら、昨年の「エス」くらい騒がれていたと思うし、私だって「絶対面白い!」って薦めまくってましたよ。いやその…いまでもオススメしてはいますが、「1巻+『16』で。2巻以降読むかはその人次第」だなんてイレギュラーな薦め方、できない…。センセに対しても失礼だし(って、こんなこと書いてる時点でアウトか)。それでも忘れられないわー!うわああん!(そしてエンドレス)

>ホントによくもわるくも魅力的な作家と作品とでもいうか…一読者として喜ぶべきなのかどうか判断がつきにくいですが
そうなんですよ、由木さんのお気持ちもよくわかる、フクザツで判断がつきにくい作家さんです…それも魅力なのか…。

>毎回長文コメントになってしまって重ね重ねすみません。また機会がありましたらお邪魔させてもらえたら嬉しいです♪改めて「谷崎泉スペシャル!」おつかれさまでした〜!
とんでもなーい!こちらこそ、嬉しかったです(ひとりじゃなあ〜い)。BL感想が続くと思いますので、ひとつシクヨロでお願い致します。

その…BLというジャンルは萌えどころが人それぞれだし、イバラ系だと同じ思いをする人が少ないので、由木さんやりんさんのコメントをいただけて本当に嬉しかったです。ありがとうございました!

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