■『不道徳な闇』
ISBN:4813011403 新書 松田美優(挿絵:実相寺紫子) 大洋図書 2006/12/18 ¥903
ある放課後、高校生の椎名巡は駅のトイレで数学教師の笹川に身体を奪われた。普段は薄汚れた白衣と教師の仮面で世間を欺いている笹川だが、その実、欲しいものを手に入れるためならどんなことも厭わない男だ。愛情に飢え、プライドの高さゆえに弱みをさらけだせない椎名を、笹川は甘い言葉と快楽の技を駆使して追いつめていく。情欲に縛られる椎名。激しい独占欲を持つ笹川。深く、背徳的な恋の闇に落ちていくふたりだが…。

デビューの年に3冊リリースだなんて、マジ破格な扱いなのかもしれない松田美優の3作目。

米国だったらタイホ間違いナシだが、我がニッポンBL界では、兄弟モノ同様、JUNE・耽美時代から定番だと思われる、教師(20代後半)×生徒(高2)モノ。攻キャラはタイトル通り、たいへん不道徳なぶっとび教師、要注意人物である。ちなみに、これまたすべてが私のストライクゾーンから大きく外れており、「ちっ!せめて逆(生徒×教師)だったら、打ち返すことできるのになあ…」とでっかく舌打ちしたのはナイショである。

松田美優は「年上×年下な鬼畜×健気、いまどきのにーちゃんたち」しか書かない(「書けない」のではなく「書かない」)、良く云えばワンジャンルのスペシャリスト、悪しく云えばバリエなしの作家。ツボに入る人にはたまらないだろうけども、攻キャラの性格がみな同じ(オレ様ゴーイン鬼畜)、どーして攻が受を好きになったのか、なにゆえ受がそんなゴーイン鬼畜攻に惹かれていくのか、その過程がサッパリわからず、行間すら読み取れない私にはつらい。1作目は、それがわからなくても冷ややかな文章に乗っかった「禁忌と逆転」があって面白かったのに、2作目読んだら「ちょっとヤバイかも」、警告灯が点灯してしまった。

!以下、ネタバレ注意報!

よって、相当に警戒して本作を読み始めたのだが――これがどっこい、いままでまったく足りてなかった「主人公カップルを巡るキャラの相関」を掘り下げて描こう、長編を書こうという意識が感じられ、ずいぶんと読みやすい内容になっていた。

「キャラは攻と受だけを書きたいの?他はへのへのもへじ?」という印象だったんだけども、本作では、椎名(受)が「プライドの高さゆえに弱みをさらけだせない」背景である家庭事情が、母親と弟、そして笹川(攻)の同僚教師・仲原を絡ませたエピソードで語られている。笹川とは正反対な仲原、その奥さん・まみちゃんがいいね(わざとらしいキャラともいえるんだけど)。

ただその仲原が、椎名と母の間に存在する長年のわだかまりの解消に一役買い(笹川ではないところがポイント)、母親と話をするのはいいのだが、母親がベラベラと心情を喋り出すくだりは強引でご都合主義、もうちょっと丁寧に書いて欲しかったかな。でも椎名への救いを描いていることは間違いなく、いままでそれすらなかったことを思えば、脇キャラ使って心情を描けるようになったなあと、進歩が感じられた。

ところがその後、である。

2作目より読みやすくこなれてきた分、薄くなってしまった、このままフツーにハッピーエンドをむかえるのかと思ったら――仲原使って今度は椎名を残酷ダークに堕としてきた!なんてこと!ハッピーエンドでも最後の最後まで受を追い詰める――ひゃー!松田センセ、ホント鬼畜だわ!…その1本入った曲げられない/曲がらない筋金には感心させられたよ、まったく。

正直、2作目読んだ時点でやめようかと思ったのに、3作目で進歩が感じられたため、チェックは続行。今後の期待としては、攻キャラ背景とその心情描写の追加かな。絶対に必要だと思う。はたしてどんな作品を出してくるやら。文章は好き、でもキャラやストーリーはまったくクリーンヒットしない――それでもチェックするだなんて、私にとってそんな作家は松田美優だけだね。

評価:★★☆(もうちょっとかな…)
松田美優は禁忌や背徳の壁を軽〜く超えてくるとゆーか、禁忌だの背徳だのなんて言葉自体、その辞書にはなさそうだ。笹川みたいな教師がいたら確実にタイホだ!タイホ!タイホする!…それにしても、「アーミーパンツ」ではなく「軍パン」、ブーツはティンバーランド、潰れた拳、「っつーか」なセリフ回し――相変わらずいまどきにーちゃん描写が上手いね。ハード鬼畜系に属しているけど、肉体的に痛そうなことはしないし、陰湿でないところもこの人ならでは。ただその…タイトルの付け方がどーも上手くないとゆーか、垢抜けない。「自己破壊願望」「不道徳な闇」――ベタを狙って失敗しているような印象、なんとかならないかなあ…。

絵師の実相寺紫子は、奈良画伯ほどではないけど松田作品に合ってると思う。ハード鬼畜系に抜擢される絵師は、上手くて絵の麗しい人が多く、その三大絵師はたぶん「奈良千春・実相寺紫子・水名瀬雅良」。作家は「水原とほる・沙野風結子・松田美優」で、相性としては――「水原&水名瀬」「沙野&実相寺」「松田&奈良」がベストだと個人的に思うんだけど…どうかな?

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

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