■『ゴールデン・アワーズ・ショウ』 山田たまき
ISBN:4576072382 挿絵:榎本 二見書房 2008/01/15 ¥500
進学を機に東京で一人暮らしを始めた安斎は、格安物件「経世館」の一員に。家主の鳴瀬は同じ大学の学生で、大物議員の息子でありながら週末はドラァグクィーンのバイトで稼いでいるという変わり種。ショータイムを目の当たりにし度肝を抜かれた上、女装の鳴瀬から濃厚なキスを受けた安斎はそれ以来、気のいいあんちゃんで御曹司で同性しか愛せないという多面体な男に翻弄されることに…。

「シャレード新人賞期待賞」受賞作。書き手の山田さんは、この作品でシャレード・パール文庫からデビュー。デビュー作掲載号(「シャレード11月号」)が、そのまま廃刊号になってしまったという、いささか気の毒な門出だったけれども、ちゃんとパール文庫から単行本が出て良かったね、うんうん。

ただなあ…ドタバタ系ラブコメディのはずなのに、ラブもドタバタも、いったいどこが盛り上がりなのかわからないまま、ストーリーが終了してしまったような印象がある。

理由は簡単。山田さんの文章は、一文に連体詞と副詞が多いので、ちょっとしたシーンでも仰々しくなりがち、読んでいて疲れてしまう。そして話が単調になれば、文章で身構えた分、肩透かしの度合いも大きくなる。さらに、書き手による解説/実況中継かと思うような誇張/漸層法で綴られていくので、そんなブレスのない、常にクレッシェンドな文章が続けば、読み手はどこが盛り上がりなのか、どこで盛り上がっていいのか、わからなくなってしまう。押してばかりで引くことを知らない、強弱はどこに?…とでもいうか。行間やゆとりを与えられない読み手はツライよ?…こういう文章は、どうしても情感や色気が出にくいので、BLには不向きだと思う。実際、ラブシーンもいつの間にか始まっていて、それを冷めて読んでいる私がいた。でもだから悪いというのではなく、それも個性のひとつだし、たとえばシニカルなギャグを絶妙に挟み込んでくれば、逆に効果的で、コメディ向きといえる文章なんだけど……これがなあ、クスリとも笑えなかった。田舎の高校生の生態など、面白いことを書いているはずなのにね。残念。強弱の付け方が巧みで、なおかつ、読み手と書き手のリズムを考え、面白いコメディを書いてる人がシャレードにはいるじゃない。谷崎泉っていう作家が。う〜む。

いっそのこと、ボーイズラブストーリーではなく、ボーイズストーリーのほうが良かったか。家主がトンデモなら、店子もキョーレツ個性派揃い、そんな奴らに囲まれてあっぷあっぷの毎日な主人公、事件が次から次へと起こってさあ大変!というような。鳴瀬がドラァグクィーンである理由付けが弱く、私に云わせれば至極真っ当な男で、結局、親には逆らえない学生さんだった。ほかの学生もフツー。設定がちょっとハデなだけ、話は「鳴瀬がいなくなって帰ってきたら安斎がホレていた」という、お決まりの内容だったような。面白くなる要素は、いっぱい転がっていたと思うんだけど…。でもパール文庫はページ数が少ないので、いろいろ描き込むには難しいのかもしれない。

山田さんの文章/文体について、難癖つけたようなことを書いたけれど、否定はしない。個性がなくなるほうがイヤだし、いくらでも面白くすることはできるはず、色気や情感だって書き方次第だと思う。修飾を削ってシンプルに――クライマックスはどこで、なにをどう読んでもらいたいのか。そして読み手のブレスを考えてみて。新人さんだから、私は「好みじゃない」と1作で斬り捨てないよ。経験積んで、頑張って書いて下さい。待ってます!

評価:★★☆(とりあえず様子見)
私にとって初パール作品。シャレードHPに「パール文庫はオビもついてます☆」と(嬉しそうに)書かれてあって、「おお!とうとうシャレード系にもオビがついたのね!」と現物を見てみたら、たしかにオビ紙がついていて、パール色に輝いていた。う〜む。ゴールド文庫・シルバー文庫と続く…わけないか。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

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