■『それは食べてはいけません。』 小石川あお
ISBN:434481228X 幻冬舎コミックス 2008/02 ¥620
フツーの大学生・恒の同居人である直幸は、優しくて弱虫な吸血鬼。 棺桶は狭くて怖いと怯える、臆病な吸血鬼は恒を怖がらせないように「お食事」も我慢するけれど――!?直幸の兄・幸人と、狼男・静一郎の番外編描き下ろし!!表題シリーズの他、デビュー作を含む読み切り4本も収録

2006年、雑誌「ルチル」にてデビューした(たぶん)小石川あおさんの初コミックス。表題作である吸血鬼モノのほか、描き下ろし含め計8作品収録。

読み手の好みが細分化しすぎているBLゆえ、「ルチル」をまったくチェックしていなかった秋林、本屋さんでこの本を見たときは、表紙の白っぽいカラー絵に「もしかして麗人『ジョカトーレの人』?」と、心底ビビってしまい(だって!だって!だってー!<根性ナシ)、しばし手に取ることができなかった。30cmほど距離をおいて眺めながら、ペンネームが違う、「ジョカトーレの人」より繊細な絵柄だと気付き、別人と見極め、購入。

もともと私は吸血鬼モノが好きで、毎年大晦日に必ず映画「ロストボーイ」のDVDを観ては、ジョエル・シューマカー監督の「映画にはよくヴァンパイアが出てくるが、それはモンスターの中で、ヴァンパイアがもっともセクシーだからだ!」というコメンタリーに深く頷きながら新年を迎えるのだが、どうやらここ最近のBL界における吸血鬼は、木原音瀬『吸血鬼と愉快な仲間たち』など、セクシーというよりちょっとヘタレがブームらしい。

!以下、ネタバレ注意報!

空腹で倒れたところを助けてくれた命の恩人がなんと吸血鬼、うわ!ヤバイ!と最初は身構えた恒だったが、故あって一緒に暮らしてみると、吸血鬼であるはずの直幸は、棺桶は暗くてイヤだと云うわ、ゴキブリがニガテで逃げるわ、自分の牙で自分の唇を切ってしまうわ、オバケが怖いと震えるわ、ヘタレというよりスーパーヘナチョコ、でもたいへん心根が優しい青年だった。そして仲良く暮らすうち、いつしかお互いかけがえのない存在となっていく――という、ちょっと可愛くてホロリとさせるヴァンパイア・コメディ。エロは少なめ…どころかほとんどない。だから「ジョカトーレの人」じゃないと思う。

キャラはガイジンっぽいルックスだし、洋館に住んでいる吸血鬼という設定なので、漠然と洋モノかなと思っていたら、出てくるキャラは(吸血鬼や狼男を含め)みな純和風の名前を持ち、舞台も思いっきりニッポンだった。でもどこかしら洋風な雰囲気を漂わせている不思議さと、昨今の流行りのガサつきはありながらも、スタイリッシュ過ぎないその描線が、個人的に好感度大である。こんな私好みの新人さんを見つけてくれるなんて、やってくれたよ、本当にありがとう!>ルチル(幻冬舎)

キャラの背景と相関をハッキリさせないまま、やや強引なモノローグを絡めてストーリーを進行させていくというのは、たぶん高河ゆんあたりが「それもアリ」とBL…いやマンガ界に浸透させたと思うのだが、読み手をギモンでイライラさせずに、「どういう背景と関係を持っているのかしら?いや〜ん♪気になっちゃう〜♪」と思わせ、その雰囲気で酔わせてしまう作家は特別だと思う。「どこをナイショにしてどこまで描くか」という、さじ加減ひとつで決まってしまうセンスは、マンガ家だろう小説家だろうと、すべての作家が持ち合わせているわけではないから。

持っていないから「センスがない、面白くない」というのではなく、「1.持っていなくても(あるいは持っていても関係なく)、たいへん面白い作品を何作も描ける人、2.持ってるけど、あからさまだったり独りよがりだったりすることが多い(=さじ加減がイマイチ)人、3.絶妙な感覚で持っている人」がいるということで、私は3の人が好み、BL系ならば小石川さんは3に当たる。たとえば寿たらこもそうかな。

広い洋館に、直幸はなぜたったひとりで住んでいるのか。どうして早寝早起きなのか。その理由を知ったとき、せつなくなってしまった。実は淋しい吸血鬼、だけどいまはひとりじゃない――せつない背景だからこそ、直幸→恒がよくわかるというか。そして独特の間で繰り出される、ほのぼのとした「笑い」。その絶妙さときたら!なんて素晴らしい!

「日向ぼっこでほのぼの」な縁側カップル・直幸×恒はツボじゃないのね、吸血鬼モノなんだから、もっとスリリングで色気がないと!という方には、「勝気なご主人(受)に従順な執事(攻)」な、幸人の話がツボだろう(もしかしたら、ソッチのほうが人気あるかもしれない)。秋林、実は静一郎(狼男な執事)×幸人(吸血鬼・直幸の兄)も好み。思いっきり大萌えしてしまった。ヤラレター。あからさまなエロがなくても色っぽ〜い♪きゃっほう♪…とくに、幸人が履くローファーのサイドからつま先までのカーブ、そして静一郎の手袋がたまらん!…ヘンな萌え方をしないよーに!>秋林さん

個人的には直幸一族が気になって仕方がない。おじーちゃん、パパ、にーちゃんたち、みなキャラ立ちしており、いい味も出していてたいへん面白い。続きを熱望しているのだが、これでオワリなのだろうか?…だとしたら、なんてもったいない!もっと描いてくれ!…いや、描かせてくれ!>ルチル

他の収録作は、正直云うとさほど心惹かれるものはなかったが、タッチがどんどん良くなっていく様が感じられた。絵の上手い人にはありがちの「きっとまた変わるんだろうな」という予感アリ、しかもその可能性大、である。

ここ数年、BLマンガで追っかける新人が出てこないと思っていた私の前に、すうっと現れてくれた期待の新星。長く輝いて欲しい――その星に願いを。

@RECOMMEND@評価:★★★★☆(期待を込めてプラス半星)
どちらかといえば、BLは小説のほうが面白い動向を見せていて、マンガのほうは「新装版は出るが、好みの新人が出てこない」状態だった。なので、やっと好みの新人さんが出てきたという感じ。ここ2年ほど、大洋図書ばかり注目していたからなあ、まさか幻冬舎から暁星が現れるなんて、思ってもみなかったとゆーか、今年はいきなり幻冬舎が来たとゆーか、気がつけば幻冬舎の本をよく手に取っていたとゆーか。そーいえば、南風さんと「年明けから超モンダイ作!」と小騒ぎした、沙野さんのワンコなアレ(…)も幻冬舎。なにげに本棚にはリンクスロマンス増えてるし。……。結果的に目が離せないレーベルが増えてしまった…むむむむむ。

出るのは今年になるのか、そして誰が絵付けをなさるのか、わからないのだけども――柏枝先生がお話された、講談社ホワイトハートから出るという、『厄介な連中』スピンオフ(ハリーが主人公)の絵師は、ぜひとも小石川あおさんで、というリクエストはダメ?…とても合ってると思うんだけど…。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

コメント

りょう
りょう
2008年3月17日10:21

おお〜、新人さん作品に秋林さんのおすすめマークが!
かわいらしいお話のようですし、これならハード系が苦手な私も楽しめそうで、読みたくなってしまいました。
しかもハリーの話の絵師さんにプッシュですか、気になります〜。…その名前が出れば、激しく食いつきいいです(笑)
ハリーの持っている雰囲気に、たしかに小石川さんの繊細でやさしいタッチは合ってますね!

秋林 瑞佳
秋林 瑞佳
2008年3月17日21:01

「オススメ!」は、全腐女子をカバーできるような作品に付けたいと思ってるんですけど、ハード系ではナイですよー確実に!

>ハリーの持っている雰囲気に、たしかに小石川さんの繊細でやさしいタッチ
なんかですね、泣いてる顔が可愛くて素敵なんです♪

ところでりょうさん…16日付けの柏枝先生の日記、お読みになりました?私が拝読したのは、17日の午後8時くらいなんですけどね…なんと今年、幻冬舎から柏枝先生の新刊が出るそうです…。こ…言霊でしょうか…。タイムリー過ぎてコワイです。

りょう
りょう
2008年3月17日22:23

はい、柏枝先生の日記、拝読してます〜。
うっかり見落としてましたが、そういえば同じ幻冬舎なんですよね!!
うわ〜、なにかこう可能性があるところが凄いです。こうなったら見てみたいですね。
講談社さ〜ん、いい絵師さんがいますよ〜!

>こ…言霊でしょうか…。
でしょうね…。いえ、いろいろ前例があるだけに……。

秋林 瑞佳
秋林 瑞佳
2008年3月18日21:06

どうなるんでしょうね、絵師さん…むむむむ。

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

日記内を検索