■『暁月のテロリスト』 波奈海月
ISBN:4592875524 挿絵:高階 祐 白泉社 2008/03/19 ¥560
小説を書き始めてから十数年(途中ブランクあり)、白泉社「花丸新人賞」に投稿し続け、三年前に賞を受賞されたという波奈海月さんの単行本デビュー作。
「花丸」は、公式サイトこそ見所がない…とゆーか、やる気なさそうなコンテンツばかりで、アクセスするたびに萎えてしまうのだが、「BL小説の書き方」なるHOW TO本を出し、「新人賞」を設け、「1.上位作品は必ず雑誌掲載あるいは刊行、2.全作品の批評コメントを雑誌に掲載、3.新鮮度優先の『特別賞』つき」としているので、投稿しても書評は送らないと明言しているところよりは、新人発掘・育成に(実を結んでいるかどうかは別として)力を入れている姿勢を対外的にうかがわせるので、レーベルに対する印象は悪くない。この賞で育った作家は、たたき上げで力をつけてきた人が多そう、でもやっぱり「花郎藤子の『黒羽と鵙目』」、残念ながらクロモズ以外は良く知らないレーベルである。ごめんちゃい。
!以下、ネタバレ注意報!
タイトルには「テロリスト」の文字、さらに絵師は、朝日ソノラマ系とゆーか、流麗だけどちょっとレトロ感のあるベタ画風なためか、ビックリ設定の作品によく振られる高階佑さん(『デッドなんちゃらシリーズ』『青鯉』『上海恋戯』『水底の月』)、よって想像はついていた(実際そういう期待もしていた)のだが、やはり力の入ったビックリ設定な作品だった。
事故に巻き込まれて記憶喪失となった伊月は、退院後、高校の同級生で現在は刑事の矢敷と一緒に暮らし始める。だが、平穏はひとときだけ、次第に伊月のまわりでゴタゴタが起こり出す。いったい自分は何者であり、どうして事故に巻き込まれたのか、そもそもなぜあの場所にいたのか――という記憶喪失モノにして、警察やらヤクザやら、そして秘密結社なテロ組織まで絡んだ、「そうだったのかー!…ってか、突然そんなこと云い出すなんてアナター!…ってか、そういうアナタがそーだったんですかー!?」、壮大さはシベリア超特急並み、二重三重どんでん返しフィーバーなストーリー。
山田たまきさんの『ゴールデン・アワーズ・ショウ』で、「文章が常にクレッシェンドで行間やゆとりを与えられず、ブレスなしでてつらい」と書いたが、波奈さんの場合、エピソードがクレッシェンドであれもこれもと詰め込み過ぎ、その結果、BLで重要であるラブシーンの部分が、付け足しのようになってしまっている。もともと最初から「できちゃっているふたり」なので、ラブの告白を最大の盛り上がりに持っていけないから、余計につらい。ラブシーンを削り、どんでん返しを減らし、エピソードを厳選してスッキリさせれば、ごく一般のライトノベルとして通用しそうな感じがする。
ペンやティッシュやガイジンなど、わかりやす〜い伏線を張っていて、それをちゃんと回収してるのはいい。ただ、サスペンス系だから盛り上げようと、さらに「実はこうでした」という事実をキャラに突然語らせるので、読んでいて面食らってしまう。まさに「ちょっと待ってよ、いつそんなことになってたの?」である。矢敷がそんな取引をしていただなんて、DOLLが組織としてもうひとつの顔を持っていた、今度は警察に協力だなんて、そんなバカな!ハッピーエンドに持って行きたいのはよくわかる、でもあまりにご都合主義でしょう?ただ、伊月が爆弾をダウンさせるシーンは緊迫感があり、とても良かった。褒めたい。それだけに、どんでん返しが続いてく後半がもったいなかったかな…。また、メイド喫茶など時代性のあるものが出てくるので、何年後かに読み直すと、かなり古く感じてしまうだろう。
謎だの過去だのテロだの警察だのラブだの…要素があまりに多すぎて、まとめること自体がむずかしい内容を、よく1冊にしたもんだと褒めたいのだが、やっぱりストーリーが破綻してしまっていて残念、3冊くらい分けて出せればよかったね、という印象である。それがダメなら、こういうラストシーンはどうだろう?…事件が決着し、記憶を取り戻した伊月は、住む世界が違う人間になってまった矢敷と別れるしかなく、彼のもとを去ってしまう。諦めきれない矢敷は、DOLL関連の捜査チームに入り、伊月を探す日々を送る。そしてある日、矢敷は伊月に似た男を街で見かける(再会)――で、ピリオド。好評ならば続きが書けるのだし、これならピリオドをカンマにすることができるんじゃ?…違う?
評価:★★★(パワーがある。一生懸命書いてるなあという印象。頑張って欲しい)
しっかし…記憶喪失になった男が、「実は昔、俺とお前は付き合っていたんだ。いまでも愛している」と男に告白されたら、「えー!?俺ってホモだったのかー!?」と、大ショックを受けないかフツー?…いや、もともとがフツーの設定な話じゃないのだから、いいのか別に。そっかそっか。
絵師の高階さんは、「どうして変わった設定の話ばかり依頼がくるの?」と思っておられるかもしれないが、フツーの絵師だったら確実に失笑を買うだろう199ページの挿絵などは、まさに高階さんの真骨頂、「これはスゴイ!さすが高階さんだ!」と、笑うどころかまじまじと見てしまった。その高階さん、本作でタッチがちょっと変わった。黒ベタが艶やかに、そして描線は強くなったような気がする。もともと女性キャラを麗しく描く方なんだけども、今回はナシで残念。いや、ホント女性キャラが綺麗なの。なので、BLよりファンタジー系のライトノベルの挿絵のほうが、実は合ってるかもしれない。
タイトルが「暁月のテロリスト」、さらに主人公の名前が「伊月」ときて、作者の名前も波奈「海月」。月ばかり…というより、キャラに自分と似たような名前が付けられるなんて、スゴイなあ。その波奈さん、この話を書く前はリーマンものや学園ものばかりだったそうで、個人的にはそっちのほうが気になる(想像がつかないから)。どんな話だったんだろう?
ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
ISBN:4592875524 挿絵:高階 祐 白泉社 2008/03/19 ¥560
志嶋伊月は、アジアサミットを狙ったと思われる無差別爆弾テロで記憶を失ってしまう。公安警部の矢敷隆直は、伊月をテロリストから保護するため自宅へ引き取る。実は伊月と矢敷は、かつて恋人同士だった。矢敷に守られ、記憶がないとはいえ甘い日々を過ごす伊月だが「アイ」と名乗る謎の男が接近してきて…!?記憶は取り戻せるのか?テロリストの正体は!?衝撃のハードサスペンスロマン!
小説を書き始めてから十数年(途中ブランクあり)、白泉社「花丸新人賞」に投稿し続け、三年前に賞を受賞されたという波奈海月さんの単行本デビュー作。
「花丸」は、公式サイトこそ見所がない…とゆーか、やる気なさそうなコンテンツばかりで、アクセスするたびに萎えてしまうのだが、「BL小説の書き方」なるHOW TO本を出し、「新人賞」を設け、「1.上位作品は必ず雑誌掲載あるいは刊行、2.全作品の批評コメントを雑誌に掲載、3.新鮮度優先の『特別賞』つき」としているので、投稿しても書評は送らないと明言しているところよりは、新人発掘・育成に(実を結んでいるかどうかは別として)力を入れている姿勢を対外的にうかがわせるので、レーベルに対する印象は悪くない。この賞で育った作家は、たたき上げで力をつけてきた人が多そう、でもやっぱり「花郎藤子の『黒羽と鵙目』」、残念ながらクロモズ以外は良く知らないレーベルである。ごめんちゃい。
!以下、ネタバレ注意報!
タイトルには「テロリスト」の文字、さらに絵師は、朝日ソノラマ系とゆーか、流麗だけどちょっとレトロ感のあるベタ画風なためか、ビックリ設定の作品によく振られる高階佑さん(『デッドなんちゃらシリーズ』『青鯉』『上海恋戯』『水底の月』)、よって想像はついていた(実際そういう期待もしていた)のだが、やはり力の入ったビックリ設定な作品だった。
事故に巻き込まれて記憶喪失となった伊月は、退院後、高校の同級生で現在は刑事の矢敷と一緒に暮らし始める。だが、平穏はひとときだけ、次第に伊月のまわりでゴタゴタが起こり出す。いったい自分は何者であり、どうして事故に巻き込まれたのか、そもそもなぜあの場所にいたのか――という記憶喪失モノにして、警察やらヤクザやら、そして秘密結社なテロ組織まで絡んだ、「そうだったのかー!…ってか、突然そんなこと云い出すなんてアナター!…ってか、そういうアナタがそーだったんですかー!?」、壮大さはシベリア超特急並み、二重三重どんでん返しフィーバーなストーリー。
山田たまきさんの『ゴールデン・アワーズ・ショウ』で、「文章が常にクレッシェンドで行間やゆとりを与えられず、ブレスなしでてつらい」と書いたが、波奈さんの場合、エピソードがクレッシェンドであれもこれもと詰め込み過ぎ、その結果、BLで重要であるラブシーンの部分が、付け足しのようになってしまっている。もともと最初から「できちゃっているふたり」なので、ラブの告白を最大の盛り上がりに持っていけないから、余計につらい。ラブシーンを削り、どんでん返しを減らし、エピソードを厳選してスッキリさせれば、ごく一般のライトノベルとして通用しそうな感じがする。
ペンやティッシュやガイジンなど、わかりやす〜い伏線を張っていて、それをちゃんと回収してるのはいい。ただ、サスペンス系だから盛り上げようと、さらに「実はこうでした」という事実をキャラに突然語らせるので、読んでいて面食らってしまう。まさに「ちょっと待ってよ、いつそんなことになってたの?」である。矢敷がそんな取引をしていただなんて、DOLLが組織としてもうひとつの顔を持っていた、今度は警察に協力だなんて、そんなバカな!ハッピーエンドに持って行きたいのはよくわかる、でもあまりにご都合主義でしょう?ただ、伊月が爆弾をダウンさせるシーンは緊迫感があり、とても良かった。褒めたい。それだけに、どんでん返しが続いてく後半がもったいなかったかな…。また、メイド喫茶など時代性のあるものが出てくるので、何年後かに読み直すと、かなり古く感じてしまうだろう。
謎だの過去だのテロだの警察だのラブだの…要素があまりに多すぎて、まとめること自体がむずかしい内容を、よく1冊にしたもんだと褒めたいのだが、やっぱりストーリーが破綻してしまっていて残念、3冊くらい分けて出せればよかったね、という印象である。それがダメなら、こういうラストシーンはどうだろう?…事件が決着し、記憶を取り戻した伊月は、住む世界が違う人間になってまった矢敷と別れるしかなく、彼のもとを去ってしまう。諦めきれない矢敷は、DOLL関連の捜査チームに入り、伊月を探す日々を送る。そしてある日、矢敷は伊月に似た男を街で見かける(再会)――で、ピリオド。好評ならば続きが書けるのだし、これならピリオドをカンマにすることができるんじゃ?…違う?
評価:★★★(パワーがある。一生懸命書いてるなあという印象。頑張って欲しい)
しっかし…記憶喪失になった男が、「実は昔、俺とお前は付き合っていたんだ。いまでも愛している」と男に告白されたら、「えー!?俺ってホモだったのかー!?」と、大ショックを受けないかフツー?…いや、もともとがフツーの設定な話じゃないのだから、いいのか別に。そっかそっか。
絵師の高階さんは、「どうして変わった設定の話ばかり依頼がくるの?」と思っておられるかもしれないが、フツーの絵師だったら確実に失笑を買うだろう199ページの挿絵などは、まさに高階さんの真骨頂、「これはスゴイ!さすが高階さんだ!」と、笑うどころかまじまじと見てしまった。その高階さん、本作でタッチがちょっと変わった。黒ベタが艶やかに、そして描線は強くなったような気がする。もともと女性キャラを麗しく描く方なんだけども、今回はナシで残念。いや、ホント女性キャラが綺麗なの。なので、BLよりファンタジー系のライトノベルの挿絵のほうが、実は合ってるかもしれない。
タイトルが「暁月のテロリスト」、さらに主人公の名前が「伊月」ときて、作者の名前も波奈「海月」。月ばかり…というより、キャラに自分と似たような名前が付けられるなんて、スゴイなあ。その波奈さん、この話を書く前はリーマンものや学園ものばかりだったそうで、個人的にはそっちのほうが気になる(想像がつかないから)。どんな話だったんだろう?
ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
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