■『黒い竜は二度誓う』
ISBN-10: 4592850211 挿絵:中村明日美子 白泉社花丸文庫BLACK 2008/5/20
今年はチャレンジの年なのか、「新しいもの」に取り組んでいる印象の英田兄貴最新作。レーベルは、これといった個性のなかった白泉社「花丸」から枝分かれ、なんとなーくアダルトでダークな作品が集まりそうな予感の新レーベル「花丸BLACK」。文庫の身分なくせに、750円とはいい度胸である。
!以下、ネタバレ注意報!
ローマ帝国っぽい時代をベースとした、老皇帝の愛人・王子と謎のグラディエーターの物語。
仕方がないというか…ファンタジーうんぬんの前に、こういう貴族が出てくる西洋時代物はテンプレになりがち、この作品の前に『ローマ、残照の記』(立花一樹 日本文芸社「KAREN文庫」)を読んでしまったこともあって、正直「またか…」と個人的に乗れなかった。
英田兄貴の特徴/特長である「ストーリーテリングの小気味よさ」は健在、いつものようにスラスラと読めるのだが、先が読めてしまう展開がとにかくつらいし、物足りない。BLは先が読めても、予定調和を楽しむことができるジャンル。でもそこまでに至らなかった。ファンタジーの味付けがされていることによって、正統派の時代物とは別のポジションをキープしているが、『黒い竜は二度誓う』というタイトルだけで、もうどんな話か分かってしまう。「黒い竜って××××のことよね」。ファンタジー仕立ての「ラシュリとジェイド カリオストロの城」なストーリーである。
人気作家なのだが、「垢抜けない、下衆張ったセリフと必死なキャラ」(←ホメてます。マジでいい意味です)が身上とゆーか、ツッコミどころの多い英田兄貴、今回はかなり楽しんで書かれたようで、老皇帝や貴族の大げさな云い回しには笑った。上手い。ただしその特徴/特長ゆえに、ファンタジーの透明感とピュアさに欠け、ストーリーが流れていくだけ、絵師・中村明日美子の洗練された独特なタッチと相反してしまった印象があり、ふたりによる相乗効果も作用もなかったような気がする。
「透明感とピュアさに欠ける」と書いたが、ファンタジーは常にそうでなければいけないわけではない。いろいろ挑戦している英田兄貴、今度はもっとダークでクールなものはどうだろうか?…最近の兄貴はちょっと軽い。挑戦するなら、いい意味でファンの期待を裏切るものを書いて欲しい。この前、私は海外作家による「アーバンファンタジー」なる『夜に彷徨うもの』(ロブ・サーマン C・NovelsFantasia)を読んだのだが、ファンタジーなら、兄貴はどちらかといえばその路線のほうが合っているように思える。注文が多くて申し訳ない、でもこんなことを作家にリクエストするのは、英田兄貴くらいしかいない。私の中で兄貴はいまもスペシャルな作家だから。頑張って欲しい。
評価:★★★(う〜ん…)
しっかし、ラストは映画「キャットピープル」風に終わるのかと思ったら、さすが兄貴、なにがなんでも結ばれるふたりを書いてきた。美しくぼや〜んと終わるのではなく、キッチリとラブを「分からせて」終わりたかったとゆーか、まるで「だってBLだし、しっかり愛を確認したいじゃない?」という感じ。マジで感心した。ただ申し訳ないのだが、あの手この手と必死なラシュリには笑ってしまった。よほどジェイドとは相性がよかったと見える。あ、しまった!下衆なのは私か。ごめんちゃい!>英田兄貴
ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
ISBN-10: 4592850211 挿絵:中村明日美子 白泉社花丸文庫BLACK 2008/5/20
竜が伝説のものではなかった時代。小国アベリエの第三王子らシュリは、人質として隣の強国がズマール帝国で暮らしていたが、母妃譲りの美貌が災いし、老皇帝ザクトーレの慰み者にされていた。母国のために男娼同然の扱いに耐える日々をおくっていたラシュリは、ある夜、剣闘士のジェイドと出会う。自分の衣にいきなり口づけたジェイドを、ラシュリは従者として召し抱えるが、彼は過去の記憶を失っていた……!?忠誠は真実の愛へと変わるのか?そしてジェイドの真の姿は……?著者渾身のファンタジー、満を持して新レーベルに登場!
今年はチャレンジの年なのか、「新しいもの」に取り組んでいる印象の英田兄貴最新作。レーベルは、これといった個性のなかった白泉社「花丸」から枝分かれ、なんとなーくアダルトでダークな作品が集まりそうな予感の新レーベル「花丸BLACK」。文庫の身分なくせに、750円とはいい度胸である。
!以下、ネタバレ注意報!
ローマ帝国っぽい時代をベースとした、老皇帝の愛人・王子と謎のグラディエーターの物語。
仕方がないというか…ファンタジーうんぬんの前に、こういう貴族が出てくる西洋時代物はテンプレになりがち、この作品の前に『ローマ、残照の記』(立花一樹 日本文芸社「KAREN文庫」)を読んでしまったこともあって、正直「またか…」と個人的に乗れなかった。
英田兄貴の特徴/特長である「ストーリーテリングの小気味よさ」は健在、いつものようにスラスラと読めるのだが、先が読めてしまう展開がとにかくつらいし、物足りない。BLは先が読めても、予定調和を楽しむことができるジャンル。でもそこまでに至らなかった。ファンタジーの味付けがされていることによって、正統派の時代物とは別のポジションをキープしているが、『黒い竜は二度誓う』というタイトルだけで、もうどんな話か分かってしまう。「黒い竜って××××のことよね」。ファンタジー仕立ての「ラシュリとジェイド カリオストロの城」なストーリーである。
人気作家なのだが、「垢抜けない、下衆張ったセリフと必死なキャラ」(←ホメてます。マジでいい意味です)が身上とゆーか、ツッコミどころの多い英田兄貴、今回はかなり楽しんで書かれたようで、老皇帝や貴族の大げさな云い回しには笑った。上手い。ただしその特徴/特長ゆえに、ファンタジーの透明感とピュアさに欠け、ストーリーが流れていくだけ、絵師・中村明日美子の洗練された独特なタッチと相反してしまった印象があり、ふたりによる相乗効果も作用もなかったような気がする。
「透明感とピュアさに欠ける」と書いたが、ファンタジーは常にそうでなければいけないわけではない。いろいろ挑戦している英田兄貴、今度はもっとダークでクールなものはどうだろうか?…最近の兄貴はちょっと軽い。挑戦するなら、いい意味でファンの期待を裏切るものを書いて欲しい。この前、私は海外作家による「アーバンファンタジー」なる『夜に彷徨うもの』(ロブ・サーマン C・NovelsFantasia)を読んだのだが、ファンタジーなら、兄貴はどちらかといえばその路線のほうが合っているように思える。注文が多くて申し訳ない、でもこんなことを作家にリクエストするのは、英田兄貴くらいしかいない。私の中で兄貴はいまもスペシャルな作家だから。頑張って欲しい。
評価:★★★(う〜ん…)
しっかし、ラストは映画「キャットピープル」風に終わるのかと思ったら、さすが兄貴、なにがなんでも結ばれるふたりを書いてきた。美しくぼや〜んと終わるのではなく、キッチリとラブを「分からせて」終わりたかったとゆーか、まるで「だってBLだし、しっかり愛を確認したいじゃない?」という感じ。マジで感心した。ただ申し訳ないのだが、あの手この手と必死なラシュリには笑ってしまった。よほどジェイドとは相性がよかったと見える。あ、しまった!下衆なのは私か。ごめんちゃい!>英田兄貴
ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
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