■『明日も愛してる』
ISBN-10: 4883863549 蒼竜社 2008/8/4
! 以下、ネタバレ注意報 !
事故によって、前向性健忘症を患った櫂。
彼を愛し、そばにい続けるツダ。
そんなふたりを、記憶とデジャヴをキーワードに描いた、「無限かつ夢幻な愛の世界」。
実際は35歳だが、数年前の事故の後遺症によって、櫂の頭の中身は17年前にスリップ、新しい記憶は13分で忘れてしまう。11分でアラームが鳴り、さらに2分経過すると、ツダにとっても読み手にとっても新しい櫂が現れ、その新しい櫂による視点でストーリーは展開していく。
18歳に戻る…といっても常にそうとは限らず、1度、知性と理性を持つ大人の櫂が出てくる。この櫂が事故に遭う前の櫂だったのか、その櫂をツダは愛したのか…と思うと切なくなった。ただ、その知性のある櫂の思考がやや哲学/愛知学的に展開されたあとに、18歳の櫂が出てくるので、気を抜いているとついて行けず、読み直すことになる。が、ツダの根気(と云っても、本人は苦にもしてしないだろう)に比べれば、そんなアナタ、ラクなことですよ…と思ってしまうあたり、私もヤラれてしまったか。
新しい記憶は蓄積されない、でも過去の記憶だけとはいえない、ないはずの新しい記憶からやってくる櫂のデジャヴ。ツダの愛の力?海馬の神秘?…愛の力と信じたいが、そのどちらにせよ、櫂がデジャヴを感じたこと、それがツダに伝われば、彼はどれだけしあわせな気持ちになれるだろう?…「報われた」のではないし(だって無償の愛でしょ?)、今後「報われる」こともない、ほんの瞬間の喜び、そして悲しみ。
病状が進み、どんどん記憶があいまいになり、いつか人間としての生活が営めないときが来ても。
ふたりは永遠に「ふたりだけの世界」で生きていく、生けていけるような――ツダは「未来は暗くない、十分しあわせだ」と思っているような…そんな気がした。
エロは盛大だが、それ以前に大人向け。綺麗ごとだと片付けたくない、愛の無限性を信じたい、信じたっていいでしょう?――と、切なくもアダルトなロマンを求める方にオススメの1本。
評価:★★★★(読んだことのないBLを読ませてくれたので)
カラダを繋げないと、なんだか禅問答のような展開になりそうだったので、ある意味、BLでよかったような。ツダの精力が続くことを願う。
サンドラー映画「50回目のファースト・キス」(2004年)を観たとき、「ああ、前向性健忘症ネタでBLを書く人が、いつか現れそうだなあ」と思ったら、4年後の今年、この本が出た(安芸さんが先だと思うけど)。手書き文字やあまりない設定というだけでなく、高評価を受けている話題のシリアス作品なので、もうこのネタでは他の作家は書けないだろう。追随は許さない、1作限り、安芸さん限り…という感じ。ただ、こういうネタで、シリアスではなくコメディ(もしくはブラックコメディ)が書ける、そんな作家が日本にも現れるといいんだけどなあと、思う。
しっかし、いきなり般若心経を唱える18歳がどこにいる?と思ったのだが、あれはまた違う年齢の櫂だったということかなあ…う〜ん、エラそうな感想を書いておきながら、どうやら私もイマイチわかっていない模様。
ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
ISBN-10: 4883863549 蒼竜社 2008/8/4
朝、櫂は、知らない部屋のベッドで目が覚めた。眠りにつくまで櫂は18歳だったが、枕元に置かれたファイルには「現在のおまえの年齢は35歳」と書かれていた。戸惑う櫂の前に現れたのは、ツダと名乗る男で…。
! 以下、ネタバレ注意報 !
事故によって、前向性健忘症を患った櫂。
彼を愛し、そばにい続けるツダ。
そんなふたりを、記憶とデジャヴをキーワードに描いた、「無限かつ夢幻な愛の世界」。
実際は35歳だが、数年前の事故の後遺症によって、櫂の頭の中身は17年前にスリップ、新しい記憶は13分で忘れてしまう。11分でアラームが鳴り、さらに2分経過すると、ツダにとっても読み手にとっても新しい櫂が現れ、その新しい櫂による視点でストーリーは展開していく。
18歳に戻る…といっても常にそうとは限らず、1度、知性と理性を持つ大人の櫂が出てくる。この櫂が事故に遭う前の櫂だったのか、その櫂をツダは愛したのか…と思うと切なくなった。ただ、その知性のある櫂の思考がやや哲学/愛知学的に展開されたあとに、18歳の櫂が出てくるので、気を抜いているとついて行けず、読み直すことになる。が、ツダの根気(と云っても、本人は苦にもしてしないだろう)に比べれば、そんなアナタ、ラクなことですよ…と思ってしまうあたり、私もヤラれてしまったか。
新しい記憶は蓄積されない、でも過去の記憶だけとはいえない、ないはずの新しい記憶からやってくる櫂のデジャヴ。ツダの愛の力?海馬の神秘?…愛の力と信じたいが、そのどちらにせよ、櫂がデジャヴを感じたこと、それがツダに伝われば、彼はどれだけしあわせな気持ちになれるだろう?…「報われた」のではないし(だって無償の愛でしょ?)、今後「報われる」こともない、ほんの瞬間の喜び、そして悲しみ。
病状が進み、どんどん記憶があいまいになり、いつか人間としての生活が営めないときが来ても。
ふたりは永遠に「ふたりだけの世界」で生きていく、生けていけるような――ツダは「未来は暗くない、十分しあわせだ」と思っているような…そんな気がした。
エロは盛大だが、それ以前に大人向け。綺麗ごとだと片付けたくない、愛の無限性を信じたい、信じたっていいでしょう?――と、切なくもアダルトなロマンを求める方にオススメの1本。
評価:★★★★(読んだことのないBLを読ませてくれたので)
カラダを繋げないと、なんだか禅問答のような展開になりそうだったので、ある意味、BLでよかったような。ツダの精力が続くことを願う。
サンドラー映画「50回目のファースト・キス」(2004年)を観たとき、「ああ、前向性健忘症ネタでBLを書く人が、いつか現れそうだなあ」と思ったら、4年後の今年、この本が出た(安芸さんが先だと思うけど)。手書き文字やあまりない設定というだけでなく、高評価を受けている話題のシリアス作品なので、もうこのネタでは他の作家は書けないだろう。追随は許さない、1作限り、安芸さん限り…という感じ。ただ、こういうネタで、シリアスではなくコメディ(もしくはブラックコメディ)が書ける、そんな作家が日本にも現れるといいんだけどなあと、思う。
しっかし、いきなり般若心経を唱える18歳がどこにいる?と思ったのだが、あれはまた違う年齢の櫂だったということかなあ…う〜ん、エラそうな感想を書いておきながら、どうやら私もイマイチわかっていない模様。
ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
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