■「ラストデイズ」Last Days (2005)
IMDb→ http://us.imdb.com/title/tt0403217/
ニルヴァーナのカート・コバーンをあくまでもモデルとして、若きミュージシャン・ブレイクが自ら命を絶つまでを淡々と描いた、ガス・ヴァン・サント監督2005年作品(日本公開2006年)。

90年代初めのグランジ/オルタナムーブメントを巻き起こしたニルヴァーナのカート・コバーンは、薬物中毒者で、うつ病を患い、彼を救う者/物ないまま、勝手に自分でこの世を去っていってしまったわけだけれども、このブログで取り上げた、日本語でJ-POPをカバーするスコット・マーフィが、「両親の離婚でつらかった頃、ニルヴァーナが救ってくれた」(うろ覚え)と云っていたように、「暗い、理解できない」と一部で酷評された彼の音楽に、救われた人は確実にいる。

私も当時、彼の音楽をボリューム大にして聴いていた。脳天気な80年代ポップミュージックの反動のような、どうしょうもない暗さと薄汚なさを帯びた中低音曲が多かったけれど、あの90年代初め~中頃という時代は、社会に出るには青すぎた私の中にも、カートが持って…というより、持て余していただろう暗く重く冷えた石が、いくつかポツポツあったように思える。ただ私は、彼の音楽に救われたというより、「こういう人が表舞台にとうとう出てきたか。本人は居心地悪そうだけど」と思いながら聴いていただけで、いまとなっては、冷たい石がどこらへんにどうあたって転がっていたのか、あまり覚えていない。

そして同じ頃、リバー・フェニックスという人気若手トップスターがいた。動物愛護者でヴィーガン、クリーンなイメージを持たれていたはずのリバーなのに、ドラッグで死んでしまった。その二面性が信じられず、人間はなんて複雑なんだろう…と、淋しく思った事件だった。

90年代にぐちゃぐちゃした黒い青春を送った私にとって、そんなカートとリバーは時代を象徴する人物であり、彼らの名前が出てくるだけでいまだにどよ~んとなってしまうのだが、ガス・ヴァン・サントの「ラストデイズ」を観ると、あの時代のこと、冷たい石があったことが、どうしても思い出されてしまう。

カートはモデルなだけであって、彼の伝記映画ではない。それでもマイケル・ピットは、ルックスから音楽に好みまでカートそっくり(左利きにしている)に演じていて、「カートじゃありません」と云われても、「ウソでしょ」と云い返したくなるほど、印象はカートそのままだ。

映画の中のブレイクは、ただ家の周りを歩き、食事をし、歌を歌い、勝手気ままに現れる友人や、関係者の相手をしているだけ。ドラッグに溺れる場面はなくても、彼が普通の状態でないことは明らかなのに、誰も彼を救おうとはしない。現れる人々は、ブレイクを心配することなく、みな勝手に自分の話をして去っていく。成功したミュージシャンでリッチな彼を、ただ取り巻いているだけ。「成功してすべてを手にいれているくせに、なにか問題があるというのか。それよりもっと俺の話を聞いてくれよ」とでも云うかのように。

カートだけじゃない、リバーのまわりもそうだったの?
それをガス・ヴァン・サントが美しい映像で描くという、その残酷さ。

リバーをまったく意識していないことはないとインタビューでもガスは語っていたけれど、「マイ・プライベート・アイダホ」撮影時の俳優陣はドラッグ三昧だったと云われる話に、お前なあ、感知してなかったなんてウソだろ、なんで本気で止めなかったんだよ!そんなアンタが「ラストデイズ」でコレを描くわけ?と、ガスに詰め寄りたい気分になる(ただし、リバーは事故であって、死にたくなかったはず)。

すべてを拒絶し、死んでいくブレイク。
もし友人たちに気遣われていたら、ブレイクは自ら死を選らぶことはなかった?

彼がなぜ死ぬことにしたのか、その失望の理由はわからない、わかるのは彼がすべてを拒絶したことだけ。そんな彼にとって気遣いは煩わしいもの、友人たちはそのブレイクの拒絶に気付いていたから、気ままに振舞っていたのかもしれないし、そうでないと取り巻きにいられなかったのかもしれない。

ニルヴァーナの元メンバーが、カートの伝記じゃなくても、つらくなるからこの映画を観ることができないと語っていたように、拒絶した者を間近で見ていた人間にはやりきれない作品であるのは確実だろうし、冷たい石をポツポツ持ちながらも、いつのまにかその石の冷たさをやり過ごすことを覚えてしまった私のような人間には、傍観者でいることしかできないような作品だろう。


常にハッピーだなんて、いられない。
敏感すぎて、自分と向き合うことにさえ不器用な人だっている。

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