元検事で弁護士そのうえ美貌と才能まで持ち合わせた男、芽吹章は、弱き立場の人を救うため、国際紛争と嫁姑問題以外はなんでもござれの交渉人として『芽吹ネゴオフィス』を経営している。ところが、ひょんなことから高校時代の後輩で現在は立派な(!?)ヤクザとなった兵頭寿悦となぜか深い関係になっている。嫌いではない。どちらかといえば、好き…かもしれない…だが、焦れったいふたりの前に、ある日、兵頭の過去を知る男が現れて!?「交渉人は黙らない」待望の続編。
前作『交渉人は黙らない』から、待って待って待って…待ち続けて1年半。
交渉人・芽吹「東京下町ネゴ屋細腕(?)奮闘記」&後輩ヤクザ・兵頭「悶々執着漫才ラブ記」、待望の続編。
↓『交渉人は黙らない』の感想
http://akirine.blog59.fc2.com/blog-entry-7.html
! 以下、ネタバレ注意報 !
前作の感想で「芽吹の仕事っぷりはもっと読みたい」と書いたら、言霊が飛んだのか、仮初ホストになるわ、エコでアロハ着るわ、手錠を掛けられるわ(あ、自分で掛けたのか)、ヤクザ事務所に乗り込むわ(あ、兵頭くっついてきたか)、ママチャリで激走するわと、依頼人だけでなく読んでいるこっちまで頭を下げたくなるほど、
相変わらずテンポのよい芽吹(ややオヤジが入っている32歳。前々職・検事、前職・弁護士、現職・ネゴ屋)一人称で、ストーリーは展開していく。
今回は、芽吹の知らない兵頭の過去と、自分は底辺男と自覚する人物からの依頼を通し、「どんな過去を持っていても、本人が変わろうとしているなら信じたい、大切なのは今だから」という芽吹のゆるぎない信念に、兵頭とのラブの行方を絡めたストーリーである。信念については、前作で芽吹自身からそれを持つに至った経緯(両親を失ったことなど)がすでに語られていて、なおかつ、芽吹の優しくて人から愛される性格が十二分に伝わってきているので(だから一人称+第三者による三人称プロローグ&エピローグが超効果的)、「弱いけど強い、本当、前向きでいいヤツだよね…ちょっとオヤジ入ってるけど」と、感動エピソードには首を縦にぶんぶん振りつつ、爆笑エピソードにはお腹を抱えて笑いつつ読み進めたため、個人的には芽吹の体を張った交渉人っぷり、兵頭の過去と漫才ラブの行方に焦点(あ、芽吹にとっては昇天か)がいった。
得意の舌鋒で交渉は見事でも、恋の操舵でフラつく芽吹。仕事では妥協しないくせに、ラブでは「ま、いっか」。メロメロメロウに流されない紆余曲折30代、でも結果的になんだか流されているような気がしないでもなく――正直云えば、もうちょっと兵頭をお待たせしちゃってもいいかな~、寸止めでジタバタドタバタやってくれてもいいかな~と思ったが…ま、いっか。紆余曲折30代だし。
前作の感想で「エピソードがギュウギュウ詰めでもったいない」と書いたが、2作目でも笑いと感動の釣り合いが絶妙だと感じたので、このギュウギュウ詰めこそが交渉人シリーズのスタイルなんだろう。楽しんで書いておられるだろうし、楽しませようという気持ちも伝わってくる。作品によっては、これ見よがしな挿入と感じるときもあるエダさんお得意のセンシティブな心情描写も、今回は、たとえば兵頭が心の傷を負うことになった過去のある事件とオーバーラップさせた芽吹のクライシスシーン――芽吹が兵頭の過去を知って、「おまえの顔はせつなかった。あんな顔させて悪かった。心の傷を抉るようなことをしちまって悪かった」と、サラっとせつなく描かれているあたり、これまた絶妙である。
前作と同様の理にかなった笑い、芽吹と兵頭の屁理屈合戦、兵頭の舎弟でガードの伯田さんやさゆりさんにキヨ、頭は弱いけど情が深そうで面白い舎弟たちといった立ちまくりのキャラに、芽吹の友人でお約束当て馬キャラ・七五三野(弁護士)も加わって、今後の展開が楽しみな交渉人シリーズである。2008年のベスト1作品。確定。
@RECOMMEND@
評価:★★★★★(「今から自分を掘削する相手」に爆笑。行為を「掘削」と表現する受キャラだなんて前代未聞)
絵師は前作に続いて奈良千春画伯。今回の兵頭はやや般若系でコワイのだが、他のキャラは表情が豊かでキュート、動きのある絵からほのぼのとした絵まであり、「おお!これは!」と感動していたところ、またもや最後の最後で画伯入魂のクリップ止め必至カット登場。「挿絵は最後の最後ですんごいの♪」も、どうやら「交渉人シリーズ」のスタイルらしい。油断禁物。
で、その「すんごいの♪」を眺めていたら、なんだか過去に同じような構図の同じような絵を見たような気がしたので、脳内検索の旅に出たらば――英田兄貴・作『エス』(挿絵:奈良画伯)第1巻にあった挿絵で、宗近&椎葉の「すんごいの♪」と同じなんだと気がついた。画伯のように絵が上手い方は、意識的に絵を変えていく方が多いので、『エス』と『疑わない』の絵柄はかなり違うのだが、同じ構図で見ると、「ああ、やっぱり奈良画伯だわー♪」と感じる。でもきっと「交渉人3」では、また絵が変わってるんだろうな~…。
ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
「オススメ作品」は基本的に★★★☆以上。
「絶対オススメしておきたい作品」には @RECOMMEND@マークがつきます。
性格上の理由から、★評価は厳しくなりがちなので、★5つ作品はあまり出ないと思います。
コメント