…とゆーわけで、2008年に単行本デビューされたBL作家(コミックおよびノベル)の本を1〜2冊ほど取り上げ、該当月中に感想を書いていこうかと思っています(1月と2月はもう過ぎちゃったので、書くのはこの3月になります)。

私はね、ものすごーく期待しているんですよ、新人のみなさんに。新刊オビ惹句に「期待の新人!」だの「デビュー作!」だの書かれてあろうものならば、必ずその本を手に取り、凝視してしまうほど。ホントに惹句だわ。「今月は新人がいないの!?」と本屋で新刊を探す私は、オッシーいわく「トランス状態に陥っているアブナイ人」らしいです。…ほっとけ!

では、ボチボチと。
会社でのデキゴトロジー。

ここ数日(とゆーか数ヶ月)激務が続いたので、お昼休みは、読書する気にも、同僚との井戸端(トイレ)会議に参加する気にもなれず、ひとり机に突っ伏してウダウダと惰眠していることの多い私のもとに、某社営業オッシー(担当復活)がやってきました。

私:「あれ?押尾さん(仮名)、どーしたの?」
オッシー:「これ、秋林さんの本じゃないですか?」
私:「ああーっ?私の『ノスタルギガンテス』!なんでオッシーが!?」
オッシー:「上のサロンでコーヒーを飲んでいたら、テーブルにいかにも『忘れ物でーす』という感じで、放置されていたんですよ。とてもサロン常備本とは思えない、こんな残酷退廃的な児童文学、この会社で読むのは秋林さんくらいだろうな〜と思って、中をパラパラ見ていたら、コレが出て。それで『ああ、絶対秋林さんの持ち物だ」と確信できたんですけど、念のためサロンの女の子に訊いてみたら、たしかに秋林さん10分前までここにいたって。裏も取れたし、じゃあこれはもう間違いないと、ここまで持って来てあげたんですよ」
私:「………。」

↓オッシーが「私の持ち物」と確信するに至った「コレ」ってこれ
http://akirine.jugem.jp/?eid=71
(リオとデュードの写真はコレが一番)

オッシー:「こんな本にこんな写真をしおり代わりにして持ち歩くだなんて、宇宙広しと云えど、秋林さんくらいです」
私:「……(「宇宙広し」ってなんなのよ…)。」
オッシー:「よかったですねー、忘れたのがこの本で。もし、奈良さんがイラスト付けてるようなヤクザが出てくるファンタジー本だったら、大変だったじゃないですか(ニタリ笑)」
私:「………。」
オッシー:「そういうわけで、今日はまた一緒にブックオフへ行きましょう。行ってくれますよね?」
私:「……(さすが営業、駆け引きが上手い…)。」

そして数時間のち、オッシーは『王子隷属』をゲットしたのでした。

私:「ところでオッシー、『ノスタルギガンテス』を知ってたの?」
オッシー:「僕も好きで持ってます。僕のはボロボロですけど、秋林さんのは比較的新しくないですか?」
私:「私も初版持ってるよ。でも、ボロボロになったから新しいの欲しいな〜と思ってたところに、ヴィレッジ・ヴァンガードへ行ったら、どど〜んと置いてあるのを見つけて、購入したの」
オッシー:「秋林さんってヴィレヴァン系腐女子ですよね」
私:「…欲しい本は、たいがい置いてあるしねー」

↓ヴィレッジ・ヴァンガードオンライン
http://vgvd.jp/
(アフィリエイトはしてませんが、面白いものが転がってますのでご紹介)

それにしても…参ったなあ、まさかオッシーも『ノスタルギガンテス』を読んでいただなんて。むむむむ…。

ISBN:4894191067 単行本 寮 美千子 パロル舎 1993/07 ¥1,631
生成する廃墟、世界の裂け目、あらゆる名づけ得ぬ廃墟。ノスタルギガンテスと呼ばれはじめた公園の木、そのまわりに着々と集まりはじめる様々なものがまきおこす、不可思議な現象を少年の視点から描く。

『ノスタルギガンテス』の作者、寮美千子さんのお書きになる文章が永遠の憧れ。あんな文章が書けたらなあ。
というわけで、「2007年度マイベストBL」を、コミックと小説の2部門に分けて、3位まで選んでみました。星評価は基本的に「面白いか面白くないか」を主観で判断しており、2007年に読んだ作品のほとんどが★★☆と★★★でした。秋林のオススメは★★★☆以上、中でも「腐女子のすべてをカバーできる」と思われる作品には@RECOMMEND@印を付けました。「秋林の好みのBL」については、サイドバーにある「Rotten Sisters!」をクリックしていただければ、なんとなくおわかりいただけるかと。いろんなジャンルを読んでいるつもりではありますが、偏ってる可能性大です。なお、BL小説は「本編+挿絵」で評価する傾向にあるため、「内容と絵が好みで面白かった作品」となっております。

…というわけで、以下「2007年度マイベストBL」です。

■コミック部門
1.『絶頂』 イ・ヨンヒ/安東あき ニチブンKARENコミック 日本文芸社 
2.『ありえない二人』 山田ユギ バンブー・コミックス麗人セレクション 竹書房
3.『ばら色の頬のころ』 中村明日美子 F COMICS 太田出版

2007年の1本:
『くいもの処 明楽-AKIRA-』 ヤマシタトモコ MARBLE COMICS 東京漫画社

1位は、思いがけず面白く読めたことに驚いた『絶頂』。BLに慣れた日本人から見れば、絵や話に新しさはあまりないのだけども、書き手の丁寧な仕事ぶりに好感が持てたし、「韓国BL界」の実力をうかがい知れたことが大きい。2は、日本が誇るスーパースペシャル作家・山田ユギの『ありえない二人』。2006年の飛行機野郎マンガより胸キュン度は落ちるが、やはり読ませる。「ああ爆弾」が、単行本化になって嬉しかった。3位は、中村明日美子の『ばら色の頬のころ』。このもどかしさったら!…「美少年のギムナジウム」にはまったく興味がなかったのなあ。冷たい雰囲気のある絵に溶け込んでいく心。ヤラレたー。

2007年を象徴し、話題となったBLマンガという意味で、ヤマシタトモコの『くいもの処 明楽-AKIRA-』を。可愛らしい絵じゃないし、萌え萌えなストーリーでもないし、主人公だって30代の居酒屋店長・オッサン(そう書くにはちょっと抵抗ある)、ことごとくBL定義からハズれているはずなのに、これが新鮮で面白かった。また、これがヒットしたということは、脇キャラが魅力的に描けないとアカン時代へ、本格的に突入したのかもしれない。「番外編」じゃなく「群像劇」でも勝負できるような、ね。

■小説部門
1.『最後のテロリスト 1 胎動』 谷崎泉/シバタフミアキ 二見シャレード文庫 二見書房
2.『交渉人は黙らない』 榎田尤利/奈良千春 SHY NOVELS 大洋図書
3.『牛泥棒』 木原音瀬/依田沙江美 Holly NOVELS 蒼竜社

2007年の1本:
『海に眠る』 葛城ちか/えすとえむ KAREN文庫Mシリーズ 日本文芸社

1と2は、語りすぎたのでパス。3位の木原音瀬『牛泥棒』は、最後まで『吸血鬼と愉快な仲間たち』のどちらにしようかと悩んだが、続きモノではなく「1本で勝負」してきた(?)『牛』を最終的に選んだ。寓話に弱い私に大ヒット。なお「木原作品でオススメは?」と訊かれたら、やっと「コレ!」と答えられる作品となった『美しいこと』は、下巻が今年1月に出たので、2007年作品対象外とした。

昨年のBL小説は、なんとなくJUNE回帰を感じさせる作品がチラホラと見受けられたので、その代表として、葛城ちか『海に眠る』を「2007年の1本」に。2006年ニューカマーえすとえむを絵師に据えた、その温故知新(?)なコラボが実に心憎かった。

以上、「2007年度マイベストBL」でした♪
「2007年BLちょっとだけ感想&デキゴトロジー」です。これは私が昨年読んだBL作品の中で、ちょっとだけ感想を書いておきたい、感想は別に書いたけどそれに補足をしておきたい、本屋さんや舞踏会や友人とお出かけ先などにて、トンデモ事件に遭遇したので報告しておきたい…など、基本的に簡単な感想と、ヨタ話を記したものです。ただし、読んだ作品すべての感想を書くことは絶対ムリ!不可能!なので、一部だけとなっております。

…というわけで「7」でーす。
「6」が長くなっちゃったので、「7」にしました。これでオワリです。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

!以下、ネタバレ注意報!

■『絶頂』1〜4巻 イ・ヨンヒ
ISBN:4537107375 文庫 訳:安東あき 日本文芸社 2007/10 ¥580

評価:★★★★(新しさはないが、丁寧な「萌え」描写に感心。やるじゃん!)
オビ惹句とフレコミが「韓国で大ベストセラーBLコミック 日本初登場!!」だったので、もう気になって気になって仕方がなかったのに、表紙絵を目にしたときのファーストインプレッションが、「竹田やよい風の絵柄、カラーのタッチがかなり古め」だったこと、そして「語シスコ先生がブログで大絶賛!」だったので、どーしても手が出せなかった。竹田やよいで語シスコ――本屋で何度二の足を踏んだことか。根性ナシ!>私

そんな状態の日々を過ごしたところ、←でリンクしている奈央さんが感想をお書きになっていたので、おお!天の助け!とばかりに慌てて拝読、その結果「これは私でもいけるかも?」とあたりがついたため、ポチることに。

どれほどスゴくて濃ゆいものが出てくるかと怯えつつ、ページを捲ってみると(韓国のマンガは、日本とは違って左開きですのでご注意)、本編の前に4〜5ページほどカラー絵が続いていた。服がルナ・マティーノ系ではなくストリート系という違いはあったけど、やっぱり絵柄は「竹田やよい風」、同時購入した2巻のカラーページを見れば、黒っぽい軍服にアクセサリーがジャラジャラ――うわ〜!竹田やよいで尾崎南ときたよ!こりゃマジで20年落ちか?とだんだん不安になり、本編を読む前にまたもや戸惑いが。

それでもポチった以上は読了せねばならぬ!と、白黒ページの本編を読み出したら――あれ?あれれれれれれれ?

カラーとスミ絵では雰囲気が全然違う。竹田やよいをチマチマポップにして濃いものを取ったとゆーか…そこにものすごーい違和感はない。筋肉の線に沿ってスクリーントーン飛ばすのはあんまり好きじゃないし、たしかに最近はあまり見かけないけど、こんな絵柄の人は日本にもいそう。キャラはイキイキと動いてるし、「キメ顔はコレ」という1コマの情熱を感じるし、とにかく丁寧にマンガを描いてるなあ〜という印象。人によって絵柄の好き嫌いはあるだろうけど、こんなに丁寧に描いてるならば、及第点以上のものがある。ちゃんと本編を読まないと!

兄の婚約者にフラれ傷心の攻(セズ…イケメン)が、電車の中で財布をすられたことから受(モト…美少年)と知り合う。敷かれたレールに嫌気が差し、名門高校を中退するセズ。そんな彼が一人暮らしをするマンションに、プー太郎で自由奔放に生きるモトが転がり込んできて――と、最初はドタバタとストーリーが展開するのだけども、基本は「性格や価値観がまったく違うふたりが、一緒に生活することで絆を深めていき、やがて攻は受に恋する自分に気付く。がしかし、受にはなにやら過去があるようで――」という、焦らしBL(←ナニそれ?)の王道かなと思わせる内容。いや〜ホント、若いっていいねえ〜♪

受の子は元気いっぱい、攻の子とじゃれ合ってる姿はワンコのようにカワイイし、攻の子はかっこよく、モノローグがビシバシと次々にキマっていく。おおお!やるじゃないのっ!>韓国BL

それでも1〜2巻は「ふむふむ…」と流すように読むだけだったのに、3巻あたりから受の子の過去が見え始め、そして…出てきたーーっ!受の「過去の男」!!そうそうそう!そうこなくっちゃ!そういうキャラが出てこなきゃあ!…と、俄然面白くなってきた。うふ♪

オビ惹句もまたベタでいいんだ、これが。

3巻→「愛する男の危機に二人の男が立ち上がる!!」
4巻→「抑えきれない想い…『俺だけを見てくれ!』」

なかなか見所アリで話はオビ通りに進み、そして4巻目にして受のモトが実は21歳と判明――攻のセズは19歳だから、そのつまり、この『絶頂』は年下攻ってことで…うおおおおお!またもや秋林の萌えツボ直押し!なんだなんだ、韓国でも年下攻はイケてるってことじゃんよー!うっひょー♪

さらにヒートアップ(但し秋林限定)、「ラストどうなるかな〜」と4巻をウキウキしながら読み進めていったのに、なんと「5巻に続く」。ここで終わるか!?

韓国では、どこまでそーゆー描写がおっけーなのか知らないけれど、過激な描写が先行しがちな日本を思えば、こちらのほうがまだソフト、それでもけっこうキワドイ絵があってドキドキする。モトはどっちを選ぶの?…セズ?それとも過去の男(イタン)?…(わかっていても)焦らされるんじゃあ!

とゆーように、続きが気になって仕方がないので調べてみたら、なんと韓国では6巻まで出ていた。……。本気でお取り寄せしようかと思った…が、ハングルにまったく明るくないため、潔く諦めることにした。

はやく和訳して(まず)5巻出してくれーーーー!<日本文芸社

食べ物がもうちょっと美味しそうにみえるといいな〜とか、翻訳された擬音の字体がイマイチ弱いとか、学歴社会の韓国で「高校中退」でダイジョブなのか?とか、気になる点はいくつかある。ただ危惧するほどの大きな違和感はなく、逆に若さを持て余すキャラたちの心理はよく理解できた。そしてなにより韓国でも萌えは理解されている。これが一番大きい。

しっかし…昔、早見優だったか「ハワイにいるとき、日本のマンガを読んで『日本の男の子はみんなかっこいい』と思い込んでいた」と云ってたけど、私も『絶頂』読んだら、「韓国の男の子はみんなかっこいい」と思い込みそうだ…。むむむむ。

以上、「2007年BLちょっとだけ感想&デキゴトロジー」でした♪
「2007年BLちょっとだけ感想&デキゴトロジー」です。これは私が昨年読んだBL作品の中で、ちょっとだけ感想を書いておきたい、感想は別に書いたけどそれに補足をしておきたい、本屋さんや舞踏会や友人とお出かけ先などにて、トンデモ事件に遭遇したので報告しておきたい…など、基本的に簡単な感想と、ヨタ話を記したものです。ただし、読んだ作品すべての感想を書くことは絶対ムリ!不可能!なので、一部だけとなっております。←実は映画版「ちょっとだけ感想&デキゴトロジー」を、コピペ修正した前置きだったり…。

…というわけで「6」でーす。
オワリにするつもりができませんでした…。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

!以下、ネタバレ注意報!

■『紅の誓約』 高岡ミズミ
ISBN:4813011543 挿絵:実相寺 紫子 大洋図書 2007/08/09 ¥903

評価:★★☆(年齢のわりにコドモっぽい攻だったなあ)
父親の葬儀で中国へ行ったら、なんと父親の実家は中国でも有数の名門、おかげでお家騒動に巻き込まれちまったよ、父親が中国人でも俺やっぱ日本人だし、仕事だって中国じゃなくアメリカするつもりだったし、だいたい跡目なんてどーでもいいんだって!あーあ、このままバックレてー!という、やり手(らしい)リーマンが主人公。そんな彼の前に、なんとも麗しいナゾの年下青年(受)が現れて…と、外国モノでありがちな話が進行するも。

高岡センセー!
攻がどんなにカッコよいモテ男でも、大マジメに素マ*やった時点でアウトかと。

■『花嫁は貴族の愛に奪われる』 遠野春日
ISBN:4813011640 挿絵:北畠 あけ乃 大洋図書 2007/10/26 ¥903

評価:★★(見事返り討ちで候。ただし自業自得で候)
北畠さんの絵に引き寄せられるまま購入。家に帰って読んでビックリ。うわ!これ花嫁モノだったの!?…って、タイトルに「花嫁」とあるじゃないですか、ちゃんと確認してから買いなさいよ…>秋林さん…いやその…「花嫁」じゃなく「貴族」のほうが目に入ったんです…。

需要があるから花嫁モノの供給があるとはいえ、受に女の格好させ、さらに裏手回ししてまで戸籍を女性に変え、そして攻と結婚…ってそんな、受に女性であることを強いらせるのもなんだかなあ、だったら女の子を捜したほうがいいんじゃ?>攻…と思った時点で、私に花嫁モノはムリと判明。それどころか「まだ若いからいいけど、年取ったらどうすんの?…いやホント、マジで」と、真剣に考えてしまった。…え?大きなお世話?今度は私がアウトですか?

■『吸血鬼と愉快な仲間たち』1〜2巻 木原音瀬
ISBN:488386328X 挿絵:下村富美 蒼竜社 2007/10/11 ¥900

評価:★★★★(ラブよりてんやわんやのエンバーミング・コメディ?…あれ?)
いつもの居酒屋にてオッシーとBL談義。

オッシー:「木原さんの『吸血鬼〜』読みました?」
私:「読んだよー♪」
オッシー:「どのキャラがお好きです?」
私:「コウモリー♪」
オッシー:「なるほど、アルですか」
私:「違う違う!コウモリー♪」
オッシー:「だーかーら!コウモリになったアル、でしょ?」
私:「だからコウモリー♪」
オッシー:「酔っ払ってますね?…アルでしょ!」
私:「う〜ん…(まだ「うん♪」と云えない)」
オッシー:「で、秋林さんはどっちがどっちだと思います?」
私:「コウモリは受なのか攻なのか、ってこと?」
オッシー:「……。まあそういうことです」
私:「コウモリが攻でしょ?どう考えたって」
オッシー:「僕は受なんじゃないかと思ってるんですが」
私:「いや、木原音瀬であーゆー性格のキャラだったら、絶対攻でしょ」
オッシー:「わかりませんよ?『樹生かなめと木原音瀬は最後まで油断できない』って、この前、話し合ったじゃないですか」
私:「たしかに。でも攻だと思う」
オッシー:「受かもしれません」
私:「攻!」
オッシー:「受!」
オッシー&私:「……。」

私:「とりあえず今度2巻出るから、それでどっちがどっちか、わかるんじゃ?」
オッシー:「そうですね」

そしてその数日後、2巻発売。読んでみるも――

決着つかず!待て3巻!

…みなさまはどう思われますか?

■『透過性恋愛装置』 かわい有美子
ISBN:4773003227 単行本 挿絵:花本安嗣 笠倉出版社 2007/05 ¥900

評価:★★★☆(意外と男に抵抗なかったね?>牧田)
才能・ルックスに絶対的な自信を持つ傲慢な若い建築士・北嶋が、コンペで知り合った年上のホテルマン・牧田に、その高い鼻をへし折られたことがきっかけで、恋をする。初めての片思い、本当の恋。頭の中は牧田でいっぱいの北嶋、経験したことのない「恋に支配された自分」に翻弄されていく――デキるけどちょっとヤな奴が、恋に溺れてあっぷあっぷ、人間臭くて情けない姿を晒していくという、なんとなーく木原音瀬が書きそうな展開のお話で、「あり?かわいさんってこういう話を書く人だったっけ?」と思いながらも、バタつく北嶋の姿がたいへん楽しかったので、「これ、面白い!」と読み進んでいた…んだけどね。

ちょっとちょっと!
牧田が36歳だなんてウソでしょーっ!?>かわいセンセ

どう考えても40〜50代、牧田の落ち着きっぷりと言動は、とても30代半ばの男には思えなーい!…でも、そこはBLドリーム。ええ、わかっております、わかっておりますとも!「牧田は36歳」でいきましょう!>かわいセンセ…と、頭の中を切り替え、続きを読み出した…んだけどね。

今度は、恋する北嶋があんまりにも幼いこと、彼を受け入れた牧田があんまりにも甘いことにビックリ、203ページから先を読むのに3ヵ月もかかってしまった…。2ページ読んで砂吐いて、本閉じて、の繰り返し。砂糖菓子のように甘いのには参った。歯を磨きに行ってしまう私めを、どうかお許し下さい。

「人は見かけによらない、ベッドに入るまでわからん!」ということを改めて教えてくれた1冊。

しっかし…付き合うかどうかもわからない頃から、やたらと身体の相性を気にしていた北嶋だが、自分が牧田と合わなかったらどうしようと思うばかりで、牧田が自分に合わなかった場合については、なにも考えなかったんだろーか?

■『ありえない二人』 山田ユギ @RECOMMEND@
ISBN:4812467705 コミック 竹書房 2007/11/07 ¥590

評価:★★★★(山田ユギ株は、BL界の高値安定株かと)
新装版ではない新作を揃えた短編集。竹書房ってことはコレ、「麗人」レーベルか!…でもユギさんだからダイジョブ(←なにが?)、ハズレることだってナイはず、と確信もって購入したら――なんと表題作と書き下ろし以外、すべて「シャレード」掲載作だった…。どういうこと!?なにやってんのっ!…ってか、ユギさんのようなBL界至宝作家の本も出せないなんて、マジ体力なくなっちゃったの??>シャレード編集部…シャレードって良質のマンガが多かったし、小説も良かったんだけどな…最近カラーが変わってきたよね…。こうなると、お蔵入りになったかもしれない作品を救ってくれた竹書房には、やはり感謝せねばなるまい。竹書房さーん!アリガトー♪

短編集とはいえ、基本は「『ああ爆弾』シリーズ(4本)に、他短編3本+企画モノ書き下ろし1本」というスタイル。短編の1本「檻」は、ご本人もおっしゃるように「監禁モノって向いてないなあ」と思わせるもので、なんだか国枝彩香が描きそうなJUNEっぽい内容だったけれど、最後に救いがあるあたりがやっぱユギさんだな、と。メインの「ああ爆弾」は、ちょっとおバカさん♪な年下大型ワンコ(水泳のインストラクター)攻のクールビューティ(バーテン)受。「Bar 鬼」ってスゴイ名前だー、わははははは♪…お得意の内容だったので、安心して読めた。ただ、どの話も面白いけど、登場人物の平均年齢がチョイお高めで、メインである「ああ爆弾」が、デキきちゃた♪あとのカップル騒動なお話だったせいか、「ああ、わかるわかる!」とは思えど、いつものような大きな胸キュン♪には至らない。そこが惜しいかな?…でもそういう点で「惜しい」と思わせるなんて、山田ユギの作品はやっぱりレベル高いよね。

なお、同好の腐女子の皆さまならば、ご購入後もしくは本をお手に取った時点で、条件反射的にしておられることかと思われるが――ご存じない方のために。本に掛けられてる表紙カバーは一度お外しになるよう、オススメ致します♪

■『最後のテロリスト』全3巻 谷崎泉
ISBN:4576070614 文庫 挿絵:シバタフミアキ 二見書房 2007/04 ¥580

1巻感想→http://diarynote.jp/d/25683/20071026.html
2巻感想→http://diarynote.jp/d/25683/20071111.html
3巻感想→http://diarynote.jp/d/25683/20071120.html
騒動編→http://diarynote.jp/d/25683/20071105.html
私家版『16』感想→http://diarynote.jp/d/25683/20071108.html
シバタさんon my mind→http://diarynote.jp/d/25683/20070729.html
評価:1巻★★★★★★★★★★、2〜3巻★★★、シリーズ全体★★★☆
(本当は2〜3巻★★☆だけど、プラス半星なのは絵師がシバタさんだから)

1巻を読んだとき、その予想外の面白さにビックリ、「これは谷崎泉のターニングポイント的作品だ!」と息巻いたのに、2巻以降の展開およびキャラが「いつもの谷崎泉作品(攻が嗜虐的、攻→受がサッパリわからない、伏線張り巡らせてながらすべてを回収せずストーリー終了、番外編のほうが面白い)」だったので、頂上から真っ逆さまに落される気分を味わってしまった。しかも、あんな駆け/突き抜けるような書き方をされたら、こっちとしてはどうしようもない。人にオススメしたくてもできない状態。「威士と蓮の物語」だったら、菅生Bros.を中心に据えていれば、一部だけでなく、多くの人に支持されたのになあ、と残念に思う。こんなこと考えているの、私だけなんやろか…と悶々してたら、同じように思われた方がコメントを下さり、本当に嬉しかった。みなさん、京都組(威士×凪+蓮)求めてイベントへ行かれたり(りんさん&のりっくさん、そしてアタシだー!)、1巻が面白かったため、積読状態の私家版を引っ張り出してお読みになったり(由木さん)と……あ〜う〜…。

ところで。「須賀邦彦と柴田文明だったら、断然柴田派」な10代を送った私が思わず大騒ぎした、絵師のシバタさん。もともと「同じフィールドに立っておられるが、遠いポジションに位置する人」だったとはいえ、どーゆーいきさつでBL界に?とギモンに思っていたら、「実は編集さんのコネ」といった話が聞こえてきた。でも柴田さんは、サッカーマンガやゲームキャラデザイン、麻雀漫画をお描きになっていたはずで――あ?あ…あああ…そっか!麻雀漫画といえば竹書房、もしかしたら「竹書房(麗人)→二見書房(シャレード)ルート」とか?…うわ〜!そうなると、竹書房にパイプを持っていたシャレードには感謝せねばなるまい。シャレードさ〜ん!アリガトー♪…あとできれば「ラステロ番外編」を出して下さーい♪

などと思っていたら、押入れから「つばさ五段活用」が出てきた。………。

以上、「6」でした♪
「2007年BLちょっとだけ感想&デキゴトロジー」です。これは私が昨年読んだBL作品の中で、ちょっとだけ感想を書いておきたい、感想は別に書いたけどそれに補足をしておきたい、本屋さんや舞踏会や友人とお出かけ先などにて、トンデモ事件に遭遇したので報告しておきたい…など、基本的に簡単な感想と、ヨタ話を記したものです。ただし、読んだ作品すべての感想を書くことは絶対ムリ!不可能!なので、一部だけとなっております。←実は映画版「ちょっとだけ感想&デキゴトロジー」を、コピペ修正した前置きだったり…。

…というわけで、「5」です。
フシギだったりキワモノだったり、読む人を選びそう、安易に@RECOMMEND@マークが付けられない作品を選んでみました。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

!以下、ネタバレ注意報!

■『牛泥棒』 木原音瀬
ISBN:4883863247 挿絵:依田沙江美 蒼竜社 2007/06/29 ¥900

評価:★★★★☆(昔話で寓話な妖怪モノ。ストーリーテリング能力の高さを感じる)
アナザープラネットご在住(←こんなこと書いてたらいつか怒られるって…ま、どーせネット場末な拙ブログ、見つからないだろうけど)の木原音瀬による時代モノ。エダさんに続き、木原さんまで時代モノ新刊ときたか〜と思ってたら、さすが異星人木原音瀬、時代モノにして妖怪モノという、あらすじだけでは予想不可能、相変わらずサプライズのベクトル、その大きさと向きが他とはちょいと違う既成作家である。

で、この『牛泥棒』、木原作品なのに(←ひとこと多い!>私)珍しく気に入ってしまった1本だったりするのだけども、その大きな理由は、たぶん…寓話的で摩訶不思議な味付け、つまり「おとぎ噺」の世界にいざなう力が、中途半端じゃない、最初から最後までダレず効果的に働いていたこと、それが私に作用した(≒上手く騙された)からなんだと思う。明治という「自分の国だけど知らない時代」に生きる、感情表現が素朴で純粋なキャラたち。亮一郎と徳馬の不器用ラブに、「牛を盗む」理由。ああ、なんていい雰囲気なんだー。いつもとはちょっと違う、語り手風で「!」(感嘆符。エクスクラメーションマーク)をほとんど使用しない文章、女性キャラもいい。絵師の依田沙江美さんは、ディアプラスかどこかでフシギな話を描いていたはずで、これまた雰囲気良く、ピッタリ。昨年よりBL界にいきなりやって来たマット紙カバーブーム、雰囲気のある『牛泥棒』のほうを、マット紙にして欲しかったよ。

しっかし、受(徳馬)から「褌をしない理由」を聞いた攻(亮一郎)が、すぐさまそんな受を「いじらしい」「かわいい」と思うあたり、たとえおとぎ噺でも木原作品の攻らしい心情で、変わんないね。私としては、「かわいい」と思う前に、その褌が越中なのか六尺なのかが気になるけど。もちろん六尺希望。しまった!「『褌の人』といえば、やまねあやの」だったのに、『牛』のせいで木原さん(と依田さん)にもそのイメージがついちゃったよー!「アナザープラネット在住の『褌の人』」か。うわ!…今度こそ怒られるかも。

よく絶賛されている木原作品だけど、私にはなかなかヒットしない。たぶん…その大きな理由は、痛いからというより、攻の受に対する愛が重すぎてしんどく、どーにも堪えられないから(だから『秘密』が超ニガテ)。そしてエロ描写も好みから外れている。ところが、この『牛』にはそれがなかった。エンタ色が感じたところも好みだった。そして亮一郎と徳馬、木原キャラでふたりとも好きだなんて、滅多にない…どころか初めてのこと、だから個人的に評価が高くなっちゃったんだろうなあ。

■『青鯉』 たけうちりうと
ISBN:4813011675 挿絵:高階佑 大洋図書 2007/12/07 ¥903

評価:★★☆(たしかに「いい話」。いっそ壮大なトンデモだったらまだなあ…)
突然、自分の体に悪臭が漂い始めた。自分はその臭いにはまったく気付かないのだが、周りが嫌がるのでなんとかしたい。でもなぜ臭うようになったのか。いったい自分の身になにが起こったのか――という、「それっていわゆるオヤジ臭じゃ?」な妻子持ちの男(攻)の悩みで始まりながら、惹句が「宇宙を巡る奇蹟のロマンス、誕生!」と(SHYノベルスにしては)壮大な作品だったので、これは狙ってトンデモ、もしくはマジメに素っ頓狂のどちらかだな、しかも絵師は、端正な描線なのにコスプレ系でトンデモ設定な作品に絵付けすることが多い高階佑、こうなれば映画もBLもセンシティブ系からキワモノまでまかせとけ!な私には外せん!と、鼻息荒くポチったらば。

異種婚譚かと思ったら実は同種婚譚、あるきっかけで自分は人外であると気付いた家庭崩壊リーマンが、同族の運命の相手(トーゼン男)を見つけて遠い目になる、「ちょっといい話」だった。←意味がよくわかりません>秋林さん

これもまた一種のおとぎ噺かな。マンガでいえば…皇なつきさんの作品路線に近く、「宇宙を巡る奇蹟」というより、「夢幻と透明感」を狙ってるように感じる(なので絵師が高階さんなのも頷ける)。がしかし。話が「悪臭」という生臭いものから始まること、主人公(攻)の奥さんがヒステリック過ぎてウンザリすること(奥さんのほうが男前だと思ったら、そうときたか)、キーマンである老人が説教的なこと(もっと仙人風に書けてたらなあ)で、あとから透明感を感じさせる天然水や麗しい受が出てきても、相殺しきれない嫌らしさが最後まで響き、私にはツラかった。ものすごい失礼なことを書くと――この手の話に不可欠なキーマンやキーワードは、しっかり織り込まれているのに、「おとぎ噺」の世界にいざなう力そのもの、筆力が足りなかった(本当にごめんなさい)。いっそ壮大なトンデモ、ウソよりホラであってくれたほうがなあ。ただこればっかりは、個人の感性や相性によるところが大きいので、「引き込まれた!」「上手い!」という方もおられるはず。あー、ホント客観的な評価に困っちゃう作品だ。

もう1本は吸血鬼の話。これまた狙いすぎてて…ツラかった。攻も受も、なに考えてるのかよくわからん。理屈っぽいくせに机上の空論、という印象。私はたけうちりうとさんとは相性が悪いんだろうなあ。読んでいると、なんとなく古くて(JUNEという意味ではない)、描写と表現が足りないように感じる。だからダメというわけではないんだけども――「相変わらずビビッドな女性だ」…ビビッド、ねえ…う〜ん…。

BLに出てくる女性キャラは、ヒステリックかへのへのもへじのどちらかが多く、そういうキャラが出てくるたび、ウンザリしてガッカリする。作品が面白く売れっ子な作家は、女性キャラを上手く書ける人が多いよね…。

■『もう二度と離さない』 樹生かなめ
ISBN:4062558947 挿絵:奈良千春 講談社 2006/08/02 ¥578

評価:★★★(三振かホームラン。水切り石な樹生作品評価の基準はひとそれぞれ)
つくづく思うんだけど、講談社ってスゴイよなあ。出版社としては最大手の1社なのに、「X文庫ホワイトハート」いう人気BLレーベル持ってるし、その上、樹生かなめの作品をコンスタントに出してくるんだから。…というわけで、木原音瀬さんご在住のアナザープラネットから、正反対の方角に30億光年ほど離れた「かなめ星」にお住まいの、樹生かなめさん2006年の作品。樹生さんって、「変わっている」がホメ言葉、そう云われることがお好きなような気がする。ま、いっか、そんなことは。

で、この『もう二度と離さない』。童顔で幼い印象の司(受)は、体が弱く、高校を中退してサナトリウムで暮らしていた。その庭で、絶世の美男大学生・渓舟(攻)と初めて出会う。そのときから惹かれ合い、やがて恋人同士になるふたり。退院した司は、大学を卒業して画家になった渓舟とひっそり暮らし始める――と、受視点による出会いエピソードから始まるので、私もナルホドふーんそっか…と、詳細がよくわからないながらも読み続け、これどーやってオチづけるの?そのままラブラブで終わるの?樹生かなめにしてはフツー?と、少し意外に思ってたら――うっひゃー!そうきたか!そうきたよ!

そう始まったらそうだと思うじゃない!だってこれBLだよ!?

ネタバレしたくないので、回りくどい云い方をすると――ポイントは、受視点が最大のトリックになっているということ。いや〜参っちゃったなあ、まさかBLで「トリック」なんて言葉使うとは、思わなかったよ。

そして、樹生かなめ作品がお好きな人にはご理解頂けると思うけども、樹生さんは、「果たしてこの表現が必要なの?」という一文や、固有名詞をしつこく入れてくることが多い。これがまた目くらましになっていて、読み手は余計に振り回される。たとえば、ラブシーンの最中だというのに――
「ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ、という猪の突進する音が鳴き声とともに窓の向こう側から聞こえてきた。何度聞いても慣れるものではない。
なんで突然イノシシ?(田舎だから)…「ドドドッ」じゃなくて、「ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ」?

樹生節は何度読んでも慣れるものではない(けど、なんか快感だったり?)。

また、冷たいことをサラっと云ってのけるキャラ(なので、絵師が奈良画伯なのも頷ける)と、残酷なストーリーをスルスルっと書いてくるのが樹生かなめの特徴で、それもまた個性なんだろうけど、読んでみるとやっぱ空恐ろしいものがある。ただし後半、残酷な内容がダイアローグによって淡々と片付けられていくのが、ちょっともったいないような。でも逆に、それによって救われているようでもあり――う〜ん。

あー!樹生かなめって(私の)手には負えなーい、わかんねーっ!!

私の書いている意味をお知りになりたい方は、この『もう二度と離さない』をご一読下さい。手放しでオススメは致しませんが、ハマる人はすっぽりハマれると思います。

■『番人』 国枝彩香
ISBN:4862632742 コミック リブレ出版 2007/10/10 ¥600

評価:★★★☆(ウホッ!地球連邦ドンタコス艦クラウス・フォン・コールタール艦長!)
樹生かなめ作品の感想書いたら、力が一気に抜けた…けど、頑張って続きを書くぞ!…というわけで、国枝彩香の短編集『番人』の感想を。

私はとにかく国枝彩香の絵が好きなので、それだけで★★★以上の星をつけちゃうことを抜きにしても、「不細工特集」(すっごいな、よくこんな特集を組んだよ>リブレ編集部)だからと、ここまで徹底して不細工ヅラを描いてくる国枝さんには、マジで敬意を表したい。最敬礼!…ってなんのことかと云うと、最後に収録されている「めぐり逢い…COSMO」、これがまたBL史上初ではないかと思うくらい、気合の入った不細工ヅラの主人公(攻)で、腐女子が持つBL常識を、強烈でゴーインなギャグとともに宇宙の彼方へぶっ飛ばしてくれる。でも顔は不細工かもしれないけど、性格はけっこうカワイイんだよね♪<攻

他の収録作は、国枝彩香らしい「暗さ」と「耽美/JUNE」に満ち、「夢か幻はたまた怪談か」と思わせる内容。耽美な作品だけでなく、希望が残っている作品もあるところが救いかな。こういうJUNEの遺伝子を感じさせる作品ってのは、BLの世になろうと残っていて欲しい。秋に読むとピッタリな短編集。

しっかし…「めぐり逢い…COSMO」には参ったよなあ(わははは!)。最初どう消化すればいいかわかんなかったのに、本を手に取るたび、まず「めぐり逢い…COSMO」のページをめくってしまう。私もそうとうヤバイところまで来てたり?…う〜む。

↓国枝彩香作品の感想
http://diarynote.jp/d/25683/20060908.html
(国枝さんはやっぱ上手いよ、うん)

■『海に眠る』 葛城ちか
ISBN:4537141050 挿絵:えすとえむ 日本文芸社 2007/10 ¥630

評価:★★★★(いろいろ思い出すことの多い世代の方に)
『テイク・ラブ』『銀の鎮魂歌』『奴隷船』『微笑う人魚姫』といった、往年のJUNEでもよく知られている作品を、昨年から復刊させ始めた濃ゆーいレーベル「KAREN文庫 Mシリーズ」より出た短編集。3編収録

ただし、表題作含めそれぞれ掲載されたのは、昭和でなく平成の世(8年〜12年)で、JUNE→BL移行終了期、掲載誌も「JUNE」ではなく「イマージュクラブ」(あったなあ、そんな雑誌)。著者の葛城ちかさんはこれが初めての本だそうで――たぶんKAREN文庫編集部は、雑誌掲載の時点で葛城さんの作品に目をつけ、時が流れてようやく出版にこぎ着けたんじゃ?…じゃなきゃ「イマージュクラブ」から、引っ張ってこないと思うもの。それだけ印象深い作品だったんだろうな〜。なお、この本は「あとがき」がない。今ならつけてもいいし、つけられるだろうに、つけない。う〜んJUNEっぽいー。

表題作は、虐待を受けて育った孤児が殺人を犯して逃亡、その逃亡中に出会った青年によって「人を愛すること」を知り、救済されるが、やがて破滅へと向かっていく――という、なんともJUNE的な作品。読んでて「なつかしー!」トランス状態に陥ってしまった。個人的に気に入ったのは、2本目の「思い出させてあげよう」かな。本来であれば、双子として一緒に生まれてくるはずだった兄が、実体のない幽霊のような存在で弟の成長を見守っていく――という、ちょっとエキセントリックな設定の作品。実体のない兄の一人称で話は進むので(国枝彩香の『番人』も死体の一人称で始まったっけ)、これもまたJUNEっぽいんだけども、ただただ悲劇なのではなく、兄の見守る姿と言動で笑わせてくれたり、キューっと胸をせつなくさせたり、なんとも不思議な余韻を残して終わっていくあたり、そしてその読みやすさが、JUNEというよりはJUNE→BL過渡期らしい作品だなあという印象。須和雪里さんの『サミア』、佐々木禎子さんの『野菜畑で会うならば』(どちらも「KAREN文庫 Mシリーズ」から復刊してもおかしくない)を思い出す、というか。

JUNEには戻れないし、戻りたいとも思わない。でもこういう作品が世に再び出てくると、つかず離れずで来た私でも、やっぱいろいろ振り返って思い出しちゃうんだよなあ…。

以上、「5」でした♪…変わった作品ばかりだったので、長くなっちゃった。読みづらいですね、すみません…。
「2007年BLちょっとだけ感想&デキゴトロジー」です。これは私が昨年読んだBL作品の中で、ちょっとだけ感想を書いておきたい、感想は別に書いたけどそれに補足をしておきたい、本屋さんや舞踏会や友人とお出かけ先などにて、トンデモ事件に遭遇したので報告しておきたい…など、基本的に簡単な感想と、ヨタ話を記したものです。ただし、読んだ作品すべての感想を書くことは絶対ムリ!不可能!なので、一部だけとなっております。←実は映画版「ちょっとだけ感想&デキゴトロジー」を、コピペ修正した前置きだったり…。

…というわけで、「4」でーす。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

!以下、ネタバレ注意報!

■『くいもの処 明楽-AKIRA-』 ヤマシタ トモコ
ISBN:4902671891 ソフトライン 東京漫画社 2007/03/15 ¥650

評価:★★★☆(私が勝手に決めた「2007年パンチライン大賞」作品)
2007年BL界で最も話題となり、「時代はオヤジ」を印象付けた記念碑的作品。たしかヤマシタさんはもともとBL系マンガ家じゃないはず、よく描かせたなあ、さすが東京漫画社!…と思ってたら、Dさんに「リブレが先だったよ」と教えてもらった。リブレにとっては「最初に目をつけたのはウチだもーん」?…まあ、それはいい。で、みなさんこれをひじょーに評価なさっているが、私にはそこまで面白いとは思えなかった…違うな、ヤマシタ作品をどう評価していいのかまだわかってないんだと思う。

内容としては、26歳の年下バイト島原に迫られている32歳の店長明楽が主人公、20代のように若さと勢いだけでは踏み切れない、踏み切ろうとしない…ってか、バカ野郎!そう簡単に踏み切れるわけねぇだろ!なオヤジ心と、その周辺の人々を描いたオフビート系なBL。とにかく明楽のウダウダぶりが、30代腐女子にはよくわかる。

「いいかクソガキ、戻れねぇ年なんだ」

よく云った!その通り!>明楽
最後に収録されている「店長記」(居酒屋店員マンガ)も面白い。ただ本編におけるラブとなると、島原がなんで明楽が好きなのか私にはイマイチわからず、どーもヒットしない。たぶん、私が読みきれてなくて、(オフビートなだけに)波長を合わせられてないんだと思う。

そして思わず「よく云った!」と明楽をホメたけども、「若くねーんだ」と云ったって、まだアナタ32歳でしょ、もう5歳くらい上じゃないと「戻れない」哀愁(?)が漂ってこないんだよなあ。「戻れない」っつーか「戻りにくい」って感じ。いやだってさ、最近のBLは40過ぎのオヤジもバンバン出てくるんだもん。う〜む。

■『最後のドアを閉めろ!』 山田ユギ @RECOMMEND@
ISBN:486263270X コミック リブレ出版 2007/11/01 ¥600

評価:★★★★★(何度読んでも面白い!大好きだー!)
山田ユギの大傑作リーマン・スパイラルラブコメディ『最後のドアを閉めろ!』新装版。旧版に収録されていた「誰にも愛されない」が単行本化しちゃったので、ポッカリ空いた分を番外編で埋め、さらに表紙を新しくした第2巻、書き下ろしなどが入ってることもあって、とても楽しみにしていた。でも読んでみたら、全体的にキャラも話もパワーダウン。そりゃそーだ、できちゃった♪カップルがいつまでもドタバタやってるわけない、抱える問題も一般カップルと同じで普遍的、賢三ちゃんだってフツーの男だよねー。そっかそっか。いいエンドマークがついたドアシリーズだが、気になるのは永井だ。酒飲み度アップしてないか?…そんなに飲んでばっかりいたら、お腹出ちゃうぞー。

■『僕のやさしいお兄さん 1』 今市子
ISBN:4832284789 コミック 芳文社 2007/08/29 ¥590

評価:★★★☆(相変わらず入り込んだキャラ相関。まだ1巻、様子見で面白い)
今市子センセのマンガは、うっかりダラダラ読んでるとキャラ相関が掴めなくなり、何度も読み直すことになる私。実はこの作品もそうで、だれがおじーちゃんでひいじーちゃん?継母で実母?兄で弟?…と、のっけからやらかしてしまった。そして気になるキャラが久松くんというあたりも、なんかやらかしてしまったような…。

■『帝都万華鏡 桜の頃を過ぎても』 鳩かなこ
ISBN:406286505X 挿絵:今市子 講談社 2007/12/03 ¥630

評価:★★★☆(すべてがウェルメイド。やってくるのは美しい予定調和)
X文庫新人賞受賞作。鳩かなこさんは栗本薫先生のお弟子さんで、それゆえかオビには「栗本薫氏、大絶賛!」の文字、巻末には栗本先生による解説文が。ついうっかりそれを先に読んでしまって大失敗、たいへん熱く濃い解説だったので、本編を(読んでもいないのに)すっかり読んだ気になり、なかなか本に手が伸びなかった。筆力あり過ぎで愛情たっぷりの解説には参った、後から読めば良かったよー。

で、その解説によると、昨今のBLやライトノベル作家とは違った濃厚な文章、極めて独特、妖艶――つまり「キミたち、鳩かなこと他の作家とは違うんだ、軽ーいBLとは一緒にするなよ!」な大正浪漫作品だそうで…JUNE→BL移行世代の私としては、そのBL差別的発言には抵抗を感じるけど、そこまで「独特!濃厚!」とおっしゃるなら、よっしゃ!(差別でなく)区別して読もうじゃないの!と、力入れて読み出したらば――あれ?あれれれれれれれれれ?

「文章や世界観が独特、素晴らしい」と思う前に、ストーリーや主人公カップルの設定など、区別したはずのBLで読んだことがあるようなないようなで――入れた力が一気に抜けてしまった。

大正時代。類稀なる詩の才能を持つ琢馬と高等学校で知り合い、卒業後は編集者になって琢馬を支えてきた京介は、一途に琢磨を思い続け、愛するがゆえ、その気持ちを明かすことはなかった。そして大正という激動の時代を生きるふたりの前に――という「自己犠牲気味な攻が、長い間悶々としながら、受をとにかく一途に思い続ける」ストーリーで、大正という時代設定含め、さほど珍しいものではない。

ただその…なんていうのかな、「鳩かなこさんの頭の中にある箱庭的大正浪漫」によって全編に霞がかかり、なかなかそこから出てこれない、その雰囲気がいい。鳩さんは頭の中に映像があって、それをひとつひとつ文章にしている感じがする。書き手の「キャラの動き(心情・行動)の流れひとつ、私は書き逃したくない」、譲れない思いが感じられるというか。それが栗本先生のいう「ムダな描写、くだくだしい文章」なのかもしれないけど、私はその頑固さ(=個性)を支持したいなあ。句読点の打ち方、漢字の振り(字面)、ひらき(ひらがな化)具合も素晴らしく、長い一文を読んでいても引っ掛かりがない。時代設定に合っているし、「なんちゃって大正浪漫」な作品じゃない、上手いウソのつき方をしているなあ、と思う。

困ったのは、京介と琢馬のストーリーを楽しむというよりは、出来上がってる箱庭を傍観してるような…そんな気にさせられること。ものすごーくウェルメイド、そしてやってくる美しい予定調和。う〜ん。鳩さんが今後発表される作品は、こういうタイプのものばかりになってしまうのかな…。

そして、琢馬に詩の才能がなければ、京介は琢馬に惚れるどころか気付きもしなかったのかと思うと、運命的といえば聞こえはいいが、なんだかとても残酷な話のように感じた。

以上、「4」でした♪…「5」に続きます♪
「2007年BLちょっとだけ感想&デキゴトロジー」です。これは私が昨年読んだBL作品の中で、ちょっとだけ感想を書いておきたい、感想は別に書いたけどそれに補足をしておきたい、本屋さんや舞踏会や友人とお出かけ先などにて、トンデモ事件に遭遇したので報告しておきたい…など、基本的に簡単な感想と、ヨタ話を記したものです。ただし、読んだ作品すべての感想を書くことは絶対ムリ!不可能!なので、一部だけとなっております。←実は映画版「ちょっとだけ感想&デキゴトロジー」を、コピペ修正した前置きだったり…。

「3」は、主に榎田尤利作品の感想を。
ちょっとした「エダさんスペシャル!」となります。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

!以下、ネタバレ注意報!

■『華の闇』
ISBN:4813011497 挿絵:蓮川 愛 大洋図書 2007/05/25 ¥903

評価:★★★(エダさんも遊郭モノを書くのねーそっかー)
仕事の付き合いで仕方なく訪ねた吉原、なんとそこには数年前に突如消えたあの少年がいた――男花魁として。……。BLのなかでもファンタジー色が強い、「陰間じゃなくて遊女だあ!?そんなわけないだろーっ!」とは云わないで、お約束なのハニー♪な、いわゆる遊郭モノ。これがショコラノベルスあたりから、知らない作家の本として出たものなら完全スルーするところが、なんと書き手は榎田尤利ッ!…思いがけないビッグネームな書き手に秋林もビックリだァ、おうおうおうおうおうおう!思わずポチっちまったよッ!アタシときたら、すっかり騙されちまったってもんだッ!

……。ムリはやめてリズムを戻そうね(>秋林さん)。

何本も読んだわけじゃないが、アラブ同様、遊郭モノもテンプレで回ってるような印象。基本のストーリーラインは「攻が受を見初める→受の水揚げ(相手は攻キャラとは限らず)→トラブル発生→身請け→めでたしめでたし♪」、あとはどれだけ時代にノったキャラや文章がリズムよく書けるかという、書き手の力量と技量で作品の出来がキマるような気がする。なので、さすがは榎田尤利、「これ読んだらもう他の作家の遊郭モノは読まなくていいかも」と思わせるくらい、スラスラと楽しく読め、なかなか濃いエロにクラクラできた。楽しんで書いてるな〜というのも伝わってきた。

がしかし。遊郭うんぬんの前にまず時代物という点で、エダさんにしては珍しい設定の作品なのに、ストーリーラインが遊郭テンプレだけでなく、エダ黄金パターンにも乗っかってるせいで、なんだか物足りない。

★エダ黄金パターン
攻も受も不器用→ラブらしき発展あり→攻の気持ちが受に伝わらない(あるいは攻の抱える真実を受は知らない)→クライマックス近く、第三者に攻の気持ちを知らされる受→そうだったのかー!と、青天の霹靂な受が攻のもとへ→攻が受に告白→めでたしめでたし♪→エピローグはラブラブで甘〜い後日談

特殊な設定の作品は、よくこのパターンになるんだよなあ(たとえば『犬より素敵な〜』なんかもそう)。安心して読めるには読める、でも「またか」と思ってしまうのも事実。あっと驚くクライマックスやラストはなく、フツーに手堅いラブラブ♪で終わっていく。1冊にまとめようとしたら、「第三キャラに心情語らせて受に攻を悟らせる黄金パターン」に乗っかったほうが堅実だよね。ところがこのせいで、他の作家だったら「よくできました」(★★★☆or★★★★)になる作品が、エダさんの場合「フツー」(★★★)になってしまう。「手堅い」がホメ言葉にならない。ただただエダさんが上手すぎるというゼータクな話なんだけども、それが一番の問題なのかと云えば…実はそうなのかも?

■『権力の花』
ISBN:4813011047 挿絵:新田 祐克 大洋図書 2005/07/04 ¥903

評価:★★★(珍作?…コッテリなはずがスッキリ、よってイマイチ乗り切れない)
榎田尤利にしては珍しい「権力」「プライド」「陰謀」「秘密」といった、たいへん濃ゆーいキーワードが並ぶ作品。異色作といっていい。なんでも書ける人なので、これまたスラスラスラと読ませるのに、どうもしっくりこない。いつものように挿絵とのグリップ感もない。なんでだ?とちょっと考えてみた。う〜ん…たぶん「新田マンガ風な小説を書いたものの、やっぱり素材が重すぎて、いつものように軽やかには飛べなかった」という、器用なはずのエダさんが初めて絵師に負けた作品だったからか。「負けた」と云っても、別に新田さんの挿絵が悪いわけでも、エダさんがヘタなわけでも、話が面白くないわけでもなく、この内容ならば新田さん担当になるのもわかる、でもやっぱりエダさんに対して新田さんは濃すぎるんだよ。「この内容と設定だったら、エダさんの小説じゃなく、新田さんがマンガを描いてくれたほうが面白いかも」と思っちゃうんだよなあ。エダ&新田にケミストリーは生まれなかった、というか。エダさんなら、軽いものから重いものだって自在に書けるだろう、でも洗練されているあまり、コッテリベタベタっとしたビックリ濃度の高いものが、1本のストーリーに出せないんだよなー。それが悪いのではなく、もともとエダさんのウリではないという話。

ちなみにこれ、レーベルはSHYノベルスで、2005年に出ているんだけども、受・攻のルックスが、同じ大洋図書から出ている新田さんの『公使閣下シリーズ』のキャラにソックリだったりする。

↓『公使閣下の秘密外交』の感想
http://diarynote.jp/d/25683/20070810.html
(ソックリでしょ?ちなみに連載開始は2003年)

惜しかったのは「思想検事」という設定か。面白いのになあ、ラブ重視のBLなゆえ、あまり活かされてない。仕方ないよね(でも新田さんならBLでも深く描いてくれそうだー)。父親との決着がウヤムヤに終わってしまったのも残念。ページ不足か。

ちょっと変わったエダ作品を読みたい人向け。糖尿病にも詳しくなれます。

■『Stepbrother』
ISBN:4862631479 挿絵:国枝彩香 リブレ出版 2007/04 ¥893

評価:★★☆(つまらなくはないが、退屈してしまった)
美形だけど嫌味な上司が転勤してきたと思ったら、なんとそいつは親の再婚相手の連れ子、義兄となってしまった…という、義兄弟モノにしてツンデレリーマンラブコメディ、1本で3度美味しいお得な作品。これがなあ、「嫌だと思ってた受にいつしかホレてしまう攻」というよくある話なのに、義兄の不倫相手が出てきたあたりからさらに凡庸になってしまった。あーうー。もともとエダさんは女性キャラが上手く書ける作家なだけども、この作品では主人公カップルより面白くてイキイキしちゃってるもんだから、ラブより女の子のほうが目がいく、つまりボーイズラブストーリーというより、女性キャラが頑張っちゃったOLブギ!な作品になったというか…いやそれが悪いとは思わないし、面白くないこともないんだけど、本音を云えば退屈してしまった。ちなみに書き下ろしは、社員旅行(番外)編。う〜ん…これだったら、私は谷崎泉の『しあわせにできる』を推す。ごめんちゃい。

■『きみがいなけりゃ息もできない』
ISBN:4862630677 挿絵:円陣 闇丸 リブレ出版 2006/11/15 ¥1,050

評価:★★★(世の評価は★★★★★。私はルコちゃんより女性キャラに共感)
なんなのよ!?この1,050円(税込)って価格はっ!?…野口さん1枚出して、お釣りがこないBL小説だなんて高いよー!もっと勉強してくれよー!…ページ数多くして高くするなら、いっそのこと「復活記念♪小冊子プレゼント」企画にして、本編そのままでよかったのに(小冊子は好きな人しか送らないし)>リブレ …まあ、人気のある「ルコちゃん」が、ビブロス倒産により絶版→大学生編を追加した新装版にて再登場、となればみんな野口さんを景気よく出すか。で、旧版を知らない私もイソイソと購入、ウワサのルコちゃんを読んでみた。ゴメン、アタシ向きじゃなかった。ルコちゃん、ニガテ。これ以上、書けない。私、ホント、リブレ系エダ作品と相性悪いの。

■『交渉人は黙らない』 @RECOMMEND@
ISBN:4813011470 挿絵:奈良 千春 大洋図書 2007/02/23 ¥903

感想はこちら→http://diarynote.jp/d/25683/20070502.html
評価:★★★★☆(キャラ・ストーリー面白い!奈良画伯も素晴らしい!)
いやだからね、BLの場合、エダさんはリブレより大洋図書(SHYノベルス)から出ている作品のほうが面白いってば!…たぶんポップなリブレより、SHYのほうがエンタテインメント性が高く、それが私にヒットするんだろうな。そして装丁の良さ、絵師と作家の相性の良さ、レイアウトデザインの良さ。BLレーベル界一でしょ。グッドルッキーン!

それにしても、芽吹と兵頭のやりとりは面白い。兵頭の舎弟や、芽吹ネゴオフィスのさゆりさんもサイコーだ。数ページに1回は笑わせてくれる。感動させるより笑わせるほうが絶対的に難しい中、バカやオフビートギャグで笑わせるんじゃなく、主人公が交渉人なだけあって、たいへん理にかなった笑いを提供してくれるところが素晴らしい。BLでは「頭が良くて東大卒」なキャラが大安売りのごとく出てくるけど、肩書きだけ、キャラの頭の良さが実感できず、読んでて「そりゃないだろう、たとえ恋愛モードが入っていても、そんな行動するかよ」とため息が出てしまうことが多い。エダ作品には、それが(凡作・傑作問わず)ないんだよね。エダさんはスゴイなあと思うのは、そういうところ。もっかい書くけど、感動させるより笑わせるほうが難しいんだってば!

続編は今秋。秋まで待たねばならないのか。そりゃいくらでも待つよ、でも秋までとなるとやっぱ長いね。なんか奈良画伯の絵も、その頃にはまたタッチが変わってそうだなあ。

以上、「エダさんスペシャル!」な3でした♪…4に続きます。
「2007年BLちょっとだけ感想&デキゴトロジー」です。これは私が昨年読んだBL作品の中で、ちょっとだけ感想を書いておきたい、感想は別に書いたけどそれに補足をしておきたい、本屋さんや舞踏会や友人とお出かけ先などにて、トンデモ事件に遭遇したので報告しておきたい…など、基本的に簡単な感想と、ヨタ話を記したものです。ただし、読んだ作品すべての感想を書くことは絶対ムリ!不可能!なので、一部だけとなっております。←実は映画版「ちょっとだけ感想&デキゴトロジー」を、コピペ修正した前置きだったり…。

…というわけで、「2」です。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

!以下、ネタバレ注意報!

■『WEED』(新装版) 木原音瀬
ISBN:4862631843 挿絵:金ひかる リブレ出版 2007/05/18 ¥945

評価:★★★☆(のっけから、モラルの踏み絵を踏まされる)
オッシーから「このメンツで飲んでるくらいなら、こっそり斜め向かいにある某店に行きたいです。でもひとりじゃいやなので、一緒にブッチして行きませんか?」と誘われ、ふたりで飲み会会場を抜け出し、斜め向かいにある某店へ…って、なーにが「某店」じゃい!ブックオフと云え!と思いつつ、「いいよ」と即答する私も私か。入店後、CDコーナーを眺めたのち、ふらりとBLコーナーへ。そしたらば――

オッシー:「ああああああああ!木原音瀬の『WEED』がある!しかも新装版じゃないですか!…ちょっとちょっと秋林さん!見て下さい!もう木原音瀬の新刊が並んでますよ!新しくて綺麗な古本だ!やったあ!ゲットー!…秋林さん、はい、これ持ってレジに行って下さい」

私:「………。」

これが「今日もスーツ姿がステキな営業リーマン:押尾学(仮名…似ているから)」ことオッシーの真の姿。オフィスの後輩が見たらドン引きするだろうなあ。まだひとりでBL本が買えないくせに、私をダシに使うなんて、ある意味、度胸持ち。

■『LOVE MODE 11』 志水ゆき
ISBN:4835214102 コミック ビブロス 2003/01/10 ¥590

評価:★★★☆(1本のシリーズで、志水ゆきほど成長した作家っていないと思う)
レジで精算後、BLコーナーに戻って本作を発見。

私:「あ、これ終わってたんだー。すっかり忘れてたよー」
オッシー:「連載終了して何年経ってると思ってるんですか!」
私:「だよねー。じゃなきゃ『是』がディアプラスで始まってないよねーわはははは♪ちょっと立ち読みしていくから」

以下、感想。

男相手のデートクラブを舞台にしたマンガだと云われたとき、「はぁあ!?」と頭の中でインパラの大群が走り抜けたけど、なんだかんだ云って、結局はデートクラブの関係者および一族を巡るマジラブ(でもエロは盛大)ストーリーだった。いったんくっつくと激甘なラブ展開、何度も砂吐かされたけれども、実はハナから甘ったるい話じゃなくて、さまざまな痛みを知っているために、体の関係が先になってしまったとか、どうしても素直になれないとか、相手を思いすぎて空回りだとか、なかなか恋のリスタートを切れない人たちの心模様が、丁寧(でもエロは盛大)に描かれていたような気がする。切り刻まれたら心からだって血が流れるし、痛い。たとえその傷と痛みがなくなっても、疼いてしまう時期や日や瞬間がある――癒されたい、でも癒されていいのか…ってね。

ところで、いろんなカップルが登場したこのシリーズ、個人的に大問題だったのは、主人公カップルおよびその一族カップルが、私の好みにま〜ったくクリーンヒットしなかった、ということ。ヒット率は2割を切るね。私、蒼江×直也・高宮×和泉・晴臣×葵一が、ぜーんぜん好みじゃなくて(そのせいで最終前後巻ほったらかし状態だったんだと思う)、唯一好みだったのはイアン×凛、なんと7巻まで出て来やしないっつーの!…単独で好きだったのは、エレベーター在住の陣さんか。打率は低くても、志水ゆきがどんどん上手くなっていく過程を見ることができたと思えば、感慨深くなってしまうシリーズだったかな、と。そして、デートクラブが遊郭だとすると、アラブの王子様まで出てきた本作は、遊郭モノからアラブまで読めるすんごいお得なシリーズだったとも云えるわけで――あ、しまった、また感慨深くなっちゃった♪てへ♪

■『仮面ティーチャー』 京山あつき
ISBN:4199602178 コミック 徳間書店 2003/05 ¥560

評価:★★★★(アブねー!でもそのギリギリの絶妙感がたまらなーい!)

祝!重版出来!

小学校教師・諸岡は少年たちに恋をしている。職場は天国だ。だが、鉄の自制心を以って「せんせい」を貫き通す以上、その恋が報われることはない。そして無情にも諸岡の目の前で少年たちは大人への階段を上っていく――。1歩間違えれば犯罪者な小学校教師が主人公、でも本人は必死に「いいせんせい」を続けようと努力の日々、という超ヤバい大爆笑コメディ。ポイントは3つ。

1.諸岡がホントに「いいせんせい」であり、なおかつ絶対に子供たちには手を出さないと分かっていること
2.自分の恋は決して報われず、しかも期間が限定される儚くせつないものだと本人が自覚していること
3.諸岡のアブなさと真面目さが絶妙、滑稽に映って大笑いするコメディであり、ヤバさとは紙一重――いや違うな、紙だ、まさにその紙的な作品だということ。

作者いわく「思いついたのは随分前、でもヤバすぎて封印してました」――その封印を解いたchara編集部、ギリギリに導くのは大変だっただろうね。ショタ系は大の苦手な私でも、これはOK。大爆笑のあと、何度せつなくなってしまったことか。諸岡は(アブナイけど)いい先生だと思う。私の小学校時代、先生は生徒とあんな風に遊んじゃくれなかったぞー!

ところで、時が流れハタチになったサイヤくんが、たとえば「実は先生のことが!」と(合意のもと)諸岡を押し倒したら、それはダイジョブだよね?…ってか、そんなこと云い出すあたり、私ってばホント、ショタ属性ゼロ、そっち系のカケラもナイよねー。

「3」に続きます。
「2007年BLちょっとだけ感想&デキゴトロジー」です。これは私が昨年読んだBL作品の中で、ちょっとだけ感想を書いておきたい、感想は別に書いたけどそれに補足をしておきたい、本屋さんや舞踏会や友人とお出かけ先などにて、トンデモ事件に遭遇したので報告しておきたい…など、基本的に簡単な感想と、ヨタ話を記したものです。ただし、読んだ作品すべての感想を書くことは絶対ムリ!不可能!なので、一部だけとなっております。←実は映画版「ちょっとだけ感想&デキゴトロジー」を、コピペ修正した前置きだったり…。

「1」は、主に英田サキ作品の感想を。
ちょっとした「英田兄貴スペシャル!」かな?…Dさんに捧げてみる?

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

!以下、ネタバレ注意報!

■『いつわりの薔薇に抱かれ』
ISBN:4862632262 単行本 挿絵:石原理 リブレ出版 2007/06 ¥893

評価:★★★☆(英田兄貴作「Tokyo Holiday」、ソープオペラだね)
休暇とある目的のため、はるばる日本までやって来た香港マフィア(攻)が、滞在先の高級ホテルで出会った部屋つき専属バトラーに化けた潜入捜査官(受)を、手ごめにする…しまった、まだ松田クセが抜けない…違うな、バトラー(でも本当は捜査官)に恋をし、身も心も展開もメロメロメロメロメロウ〜になってしまう甘〜い話。リブレでは「マフィア×刑事」と謳っていたけれど、実際は「香港セレブ×バトラー」…ってか、なんでこんなしちメンドクサイ設定にしたの?>英田兄貴 …まあ、あの結末なら最後まで「惹かれ合ってはいけないふたり」でなければいけないわけで、そう思えば、そんな設定にしたのもわからんことはないか。う〜む。

しっかし…作家が英田兄貴で、絵師がヤクザ系・東の正横綱イシハーラ先生なもんだから、てっきり「香港マフィア(攻)vs.日本ヤクザ(当て馬)、そしてふたりに翻弄される刑事(受)による硬派ロマン!」な話かと思ってたら、これが「香港マフィアがホテルのスイートルーム貸し切って、バトラーになりきった刑事の身体を作り変えちゃった♪ラブラブ♪」な話だった…。「攻が受に対して異常にメロメロ、手取り足取り腰取りで受にご教授」…あれ?それって花嫁モノに近くない?…「マフィア×刑事だけど実質セレブ×バトラー、そして花嫁モノ」……。もしかして、最初は硬派な話にするつもりだったのが(だからリブレもイシハーラ先生に頼んだんだと思う)、流れ流れて止まらなくなっちゃって、なんでかそんな話に行き着いてしまったんじゃ?…ラストは別にあれでいいと思うけど、全体的には煮え切らないどっちつかずの中途半端な印象になっちゃったなあ。英田作品だからヤクザは下衆なセリフを吐くと期待したんだけど(そう思いませんか?みなさーん!)、アレックスはセレブ系マフィアだったので、それもあまりなく…。でも、ゴムとローションを買いにドラッグストアへ行くセレブ系香港マフィアのボス…って、どうよ?

あと、高峰!キミはバトラーに転職したほうがいい。刑事より絶対向いてるって!

■『DEADSHOT―DEADLOCK 3』
ISBN:4199004408 文庫 挿絵:高階佑 徳間書店 2007/06/23 ¥560

感想はこちら→http://diarynote.jp/d/25683/20070807.html
評価:★★★☆(英田兄貴が頑張って書いてると伝わってきたので、好感が持てる)
ラブ最至上主義で派手。こーゆー作品が売れるんだろうなあ、と思いながら読んだ。「人種の坩堝の米国、登場キャラはすべて米国人、FBIにCIA、監獄」…う〜ん。私のように、洋画をガンガン観るのが趣味、読書家ではないけれど翻訳小説を読むのが好きなタイプは、どうしても外国が舞台で外国人が主人公なBLには、辛口になってしまう。ラブ以前の問題。設定と描写が甘くてツラい。みなコドモ過ぎるし。この手の作品で上手く騙されたい、それを心の底から待ち望んでいるのに、いまのところ作家の描く上手いウソ(≒リアル)に騙されて面白いと感じたのは、羅川真里茂『ニューヨーク・ニューヨーク』と、吉田秋生『BANANA FISH』だけ(ともにBLではない)。あと、かなり甘いのに、作品に「マンガ力」があることで面白かった真東砂波『FAKE』(これ米国人にもウケてるよ)かな。……。私が望む作品は間口が狭すぎて売れない、BLでは必要とされないだろうね。あーあ。英田兄貴の売れっぷりに思いっきり反比例する、自分の腐女子最末席っぷりを痛感させられちゃった。

あと気になったのはディックだな。なんかこう…キメ台詞(パンチライン)がモタつく。ダサい。もっとスマートになって欲しい。「綺麗なベッドの上で〜」とかなんとかも、ベッドじゃなくてシーツと云ってみるとか、コトを中断してピザ注文するならアメニティを探しにいけよ、とか…う〜む。

■「兄貴とヤス」(『エロとじv』収録)
ISBN:4862631908 コミック リブレ出版 2007/06 ¥1,100

感想はこちら→http://diarynote.jp/d/25683/20070701.html
評価:★★★★(ギュッとよくまとまった短編だけど、ラストがなあ…)
各系統の人気作家を勢ぞろいさせた、競作っぽい一発勝負アンソロジー『エロとじv』収録作。『エロとじv』で面白かった作品は、作家が無理をせず、自分の得意とする話を楽しく書こうとしたところに、力点が置かれたからなんだと思う。英田兄貴もそうで、イキイキとガチホモを書いてくるんだもんなあ(わははは♪)。しっかし、ヤスは大丈夫か?…あの羽鳥の相手を毎日するんだったら、並みの体力じゃダメだよねえ?

■『素直じゃねぇな』
ISBN:4862632637 単行本 挿絵:桜城やや リブレ出版 2007/10 ¥893

評価:評価不能(だって読んでいないから♪)
レーベルがSLASHな上、表紙にドン引きしてしまったため、購入には至らず。買ったのはオッシー。いつもの居酒屋で、オッシー(属性:オヤジ)が「面白かった♪」と云っていたところをみると、エロオヤジ好きな人向けかと。やはり時代は「受・攻ともにオヤジ」なのかと、これまた痛感。

■『すべてはこの夜に』
ISBN:4773003839 単行本 挿絵:海老原由里 笠倉出版社 2007/10 ¥900

評価:★★★☆(ベタな小作品という印象、でも好感が持てる)
いまは亡き「JUNE」に掲載された、英田兄貴のデビュー作(表題作)と、その周辺他2編を収録したヤクザ×一般人もの。借金背負ってどうにもならない男(受)が、金のために襲撃依頼を受け、ターゲットの家へ行ってみれば、その相手は関係を持ったことがある大学時代の友人で、現在はヤクザな男(攻)だった――って…あれ?あれれれれれれ?友だちの家に転がっていたスクラップで読んだことあるよ、これ!…うわ!英田兄貴の作品だったんだ!(不覚)…アタシってば、英田兄貴のデビュー作を雑誌で読んだことあったのね…当時はヤクザものが現在のように隆盛を極めておらず、しかもラストがあんな風だったから、印象が強く残っていたんだよなあ。ああ、思い出走馬灯。

というわけで、センシティブ系を得意とするクロスノベルス(笠倉出版社)から改めて出た本作を読んでみたんだけど、青臭い…言葉が悪いな、少ない手持ちのカードを精一杯切って書いたんだろう、そして「読んでもらいたい」という書き手の思いがとても感じられる、渋くて青い光を放つ作品だった。同収録の書き下ろし作品を読むと、文章も展開も小慣れていてさらに甘〜く仕上げてあるので、やっぱり「プロだなあ」と思うんだけど、基本的にデビュー作から兄貴は変わってないよね。

英田兄貴の良さって、ストーリーの面白さうんぬんよりまず、読み手を冒頭1ページ目からグイグイっと引っ張っていくストーリーテリングとリズムの軽快さ、けっして垢抜けた文章とはいえないし、セリフも下衆だったり芝居がかったりするのだけれど、それらと相反するかのように、センシティブなエピソードを挿入してくるその絶妙さ、紙面から浮き上がってくるほど立ったキャラたち、そして「読んで欲しい」という兄貴の思い――なんじゃないかと思う。兄貴に関しては、ある種の雑音がどうしても聞こえてくるし、ぬぐい切れないものがあるのも事実(これに関しては後述予定)。でも「私はこれが書きたい、読んで欲しい」という溢れる思いが行間から伝わってくるだけに、私はやっぱり悪い印象が持てないんだよなあ(あとは兄貴がどう自分のものにしていくか、だね)。

で、感想だ感想!(←忘れちゃいけません)

表題作は、「過去のあるふたりが偶然再会、でっかい誤解を抱えたまま、再び体を重ねるようになる。やがて時間と周囲により誤解が解かれ、真実が判明、実は互いに好き合ってたのでした」という、感情表現下手な攻と受による、不器用ラブの王道もの。一緒に日々を重ねていくうち、とうとうふたりに分かり合う時が来たか?と思わせといて、ジャケットのポケットに入っていた手紙がさらに誤解を生む、というエピソードがイイね。誤解がさらに深くなれば、そのあとに来るだろう「真実が明かされた瞬間のふたり」が、より印象的かつ感動的になるというのもあるけど、後ろめたい恋をしている女は、そんな手紙を書いて真実を告げたくなるだろう、懺悔にしているのかも、というズルさがリアルに感じられて良かった。ただ、学生時代の湊がどうして加持を選んで求めたのか、ちょっとわかりにくいかな?

下衆なセリフを連発する湊(攻)と可愛らしい舎弟に、英田兄貴らしさを感じながら、このままどうオチづけるのかと思っていたら――そうきたか。懐かしいね。う〜んJUNEっぽい。

本編スピンオフ「夏の花」「春に降る雪」(予約特典小冊子収録)は、若き日の武井の話。小作品という印象を持つ、田舎を舞台にした、これまたベタなストーリー。本編に充分な面白さがある英田作品は、サブキャラによるスピンオフは別になくてもいいと思うんだけれども、そんな兄貴の本でこういう話を入れてきたあたりに、業界の「番外編・スピンオフBL商法」を感じる。番外編のほうが面白く感じるのは…それも正直困るんだけどさ…ごにょごにょ…英田作品では珍しいと思う。ベタなストーリーは徹底的にベタであって欲しいし、ちょうど秋が深まる頃に出たということもあり、秋になるとちょっとJUNEっぽい、しっとりとしたストーリーが読みたくなるので、時期的にも良かったかなと。

「春宵一刻」は表題作の続編。あんなシーンから始まるもんだから、「え!?加持って死んだの?英田作品なのに!?」と驚いちゃったじゃない!…でもやっぱり英田作品、死んじゃいなかった…。そして甘〜い話だった…。ちょっとばかり砂を吐かせて下さい。
ザァァァァァ!!

絵師は、兄貴とは初コラボ(かな?)海老原由里。「社会の底辺に這いつくばって生きようとする受、ズタボロな貧乏っぷり、受にメロメロなコワモテ攻、せつなくセンシティブなストーリーにあんま〜いラブv」なので、私が絵師を選ぶなら「海老原由里より志水ゆきだな、こりゃ」と思ったけれど、よくよくよーく見てみれば、海老原さんの描線って志水ゆき系。う〜む。やはり感じた印象はみな同じ?

■『愛してると言う気はない』
ISBN:4813011586 挿絵:北畠あけ乃 大洋図書 2007/12/26 ¥903

評価:★★★(雑音OFFしてるけど、やっぱウッチーと麻生さんが好きなのよ、私)
警察を辞めて探偵になったしがない中年の男(攻)、出会った12年前は内向的な少年だったのに、大物ヤクザの愛人を務めたのち組の幹部となってしまった、美形だけど口の悪い「魔性の男殺し」ヤクザ(受)、身内による愛憎劇、受の暗い過去、そんな受を放っておけない攻――なんつーかその…まったく同じとは云わない、でも申し訳ないんだけれども、オリジナル某作品の影響がどこかしらに感じられ、雑音が聞こえてきて仕方がなかった『さよならを言う気はない』の続編。

まあその…某作品とは圧倒的な筆力の差があるし、求められるものがまったく違うBLと区別されて然りだろうし、これはこれでよし、雑音OFFして感想を書くならば――前作にも増してガチホモ度がアアア〜ップ!倍率ドン!さらに倍!になったのには、万年青コーナーでなんだって読んでやるさ!な私でも、さすがに参ったぞー。キレイな顔で下衆なセリフを吐きまくる凶暴な受、でも棘付き殻によって見えない心はピュアなのよん、おっしゃ!オヤジになっちゃったけど、おれ(攻)が守ってやろうじゃないの…と、ガチホモ度とともに受・攻キャラ相関を深く掘り下げてきた続編は、やっぱりラストがメロメロメロ〜で英田作品らしい感じがする。個性が出てきたね。攻のために、現在の自分を譲歩しない(=ヤクザを辞めない)受もいい。たいへんな相手を選んじゃった陣内(攻)、ガンバレよ!…と、ネット場末からエールを送っておこう。

ただなあ…私、絵師の北畠さんは好きなの、でもタッチが前作と変わってしまって、ガチホモ度がアップした本作とはイマイチ合ってないような気がする。本編の挿絵は、当たり障りのないシーンを描いたものが多く、センシティブな内容なわりにエピソードがどれもけっこうハードだから、北畠さんだとちょっとツライ、なので避けられちゃったのかな。かと云って、たとえば鹿乃しうこにバトンを渡しても、ポップ過ぎて浮いちゃうような気がする。内容をもっとハードにして、BL的な甘さとセンシティブさを取ってしまったら、今度こそ田亀先生の出番?……。難しいね。表紙カバー絵は「2007年BL小説カバー絵ベスト2」(1位はシバタさんの「ラステロ」)で、素晴らしい出来なんだけど。

英田兄貴はコーヒーがお好きなんだろうなあ。コーヒーが出てこない作品ってないもの(たぶん)。それからキャラに愛を誓わせるのもお好きだよねえ?

以上、「英田兄貴スペシャル!」な1でした♪…2に続きます。

あ、しまった!『エス』が書けなかった…。
「松田美優スペシャル!」の途中ですが、とりあえず2007年のシメ日記を。

今年はそうだなあ――半年かけて自分の外見を磨いてみた、B’zの突発ライブに行った、ブログで書いたネタは映画よりBL系が多かった(舞踏会に行った、突撃質問までした)という1年だったでしょうか。

昨年は「2006年の私と映画(…とゆーかシネマライズ)」だったのですが、今年はネタも多かったことだし「2007年の私とBL」について書きたいと思います。

■参考:昨年の「2006年の私と映画(…とゆーかシネマライズ)」
http://diarynote.jp/d/25683/20061231.html

なんで2007年はBLについていろいろと書いたのか、ちょっと考えてみました。たぶん――「いろんなBLがあるし、真面目に読んでる人間もいるんだよ」と云いたかったからなのだと思います。

数年くらい前からでしょうか、メディアそして一般人が、BLとその周辺に生息する女子に注目し出しました。さまざまなBLがあってさまざまな女子がいるというのに、ひとくくり扱いをしたがり、男性にありがちなんですが、BLに書(描)かれてあるのはハアハアするようなエロだけだと思い込まれ、そのエロにしても男性と女性では求めるものが違うというのに(オビ惹句がなぜ強烈なフレーズなのか?それを読んでハアハアするわけナイでしょ!やめてよ!そんな云い方!)、男性向け視点でいろいろと茶々を入れやがる――ある意味、たいへんウザったい存在です。

そんな彼らに対し、「放っておいて」「土足で入るな、マナーを守れ」と云う同志の方々がいらっしゃいますが、そう云ったところで相手には伝わらない、ムリな話でしょう。興味本位でしかない人たちは、なんで自分たちに靴を脱ぐ必要があるのか、そもそも土足であることすら気付いていないからです。そして「BL」というでっかいマーケットができて久しくなり、毎月BL雑誌や単行本が必ず店頭にどかどかと並び、海外にも進出、海外のBLレビューサイトで「Close the last door:C+」と書かれるまでに至った以上、放っておかれるわけがありません。

どうやったら土足だと気付いてもらえるのだろう?
黙ってもらえるのだろう?

ある程度のステイタスを築き上げたよしながふみ、直木賞作家・三浦しをんが「BLってのはね」と語るように、私も実生活で語れるかと訊かれれば、それは絶対にムリ。

ならば――ブログでBLについて丁寧に語ってみようかな?

「とにかく真摯に書く」というスタンスで。

それなら私にもできる――というわけで、多少ふざけたことを(私のことだから)書いたりもするだろうけど、BLには関係のない検索で私のブログに辿りついた方や、←でリンクしている非BL系の方に読んで頂けるよう、わかりやすく――BLをひとつのファンタジーとしてフツーに楽しんでいる私のような人間もいる、個人個人求めるエロや好みは違うんだ、そういう世界なんだよということを書いていこう、もしかしたら分かって下さる人が増えるかもしれない、そう思ったのです。

門番を立たせて「理解のない人はドアを開けるな、近づくな、回れ右して帰ってちょうだい」と門前拒否するのではなく、とりあえずドアはちょっと開いているから覗いてみることができるよ。ダメだと思ったら帰っていいし、気になるようだったらそのまま見ていいし、入ってきてもいい。ただし、同志を傷つけたら容赦しないし、入ってくるなら、典型的なじゃぱにーずスタイルなお部屋だから、靴を脱いでもらわないといけないの――昔は今とかなり状況が違ったけれど、10代の頃の私も実はそんな入り方をしたような気がします。

目立たないようにしているし、実際にまったく知られていないブログなので確率的にものすごーく低い話なんですが、それでもコツコツと書いていきますよ、ええ。自己満足の世界にいると云われてもいい。

B’zが今年の夏、大アウェイであるサマソニのステージに立ったように(見事大成功)――私もアウェイを意識してACTION!でいこう。

BLに対し、そんなことを思った2007年でした。来年も頑張って続けていこうと思います。
■…というわけで、昨年12月から書いてきた(って、これ書いているのは1/6、でもブログの日付は12/27、書き終えたのは1/13)「松田美優スペシャル!」、これでようやく終了となります。

世に出た作品はたった4冊という新人、しかも私の好みからかなりズレてるはずの「年上×年下、鬼畜×健気」な作家を、なんで「スペシャル!」と銘打ってまで取り上げたのかというと――JUNEっぽい設定や内容が多いのに閉塞感や悲壮感はないし、キャラはリアルなヤンキー系のイマドキにーちゃんで、軽々と禁忌を超えてくるし、ヘンに理想のあるエロは書いてこないし、ハード系にありがちな道具だのスカだの媚薬だの(いまのところ)ないし、攻は受に痛そうなことはしないし(している話もありますが)、文章は強いクセがなくて、スッキリと読みやすく、リズムもいい、一人称なんか新人とは思えないほど上手いじゃないの!

なんだなんだなんだ!
アタシでも読めるじゃん!
鬼畜系になんだか面白い人が出てきたよ!

…ということを伝えてみたかったからです。

がしかし。お手並み拝見だったデビュー作『赤い呪縛』は良かったのですが、2作目以降となると「基本的に受視点とはいえ、攻の心情が読み手に最後までよく伝わらないまま、受にマジ好き告白してオワリ」、キャラ相関が甘い、メインキャラ以外はへのへのもへじで面白みがない。エピソードの繋がりが滑らかではなく、プツンと切れた感じ。感動的なエピソードを挿入しても、なんだか取ってつけたかのよう、ストーリーから浮いてしまって深みがない。

デビュー作はフロックだった?
それとも鬼畜属性がない私が単に読めてないだけ?

手に入る4冊すべての本編とあとがき、そして大洋図書公式HPの特集など読んで思ったのは――松田美優はもしや…ストーリーというより、「ヤンキー系で倫理観のうすーい攻が受を追い詰め、いつの間にかそんな攻にホレてしまう可愛い受」を書きたいだけ、つまり「自分の書きたいキャラとシーンだけ書いて楽しんでいる」のでは?

「自分の書きたいものを書く、そして楽しむ」というのは基本だろうし、松田センセに「そんなんじゃダメ、ウケ狙いになれ、鬼畜攻や高校生受ばかりでなく、たとえば大人同士など書いて欲しい」と叫びたいわけでもないのだけれど(それで個性がなくなるほうがもっとイヤで困るから…でも読んでみたい)、誤解を承知で書けば――読み手をあまり意識していないなあ、という印象が付いて回って離れない(たまに樹生かなめあたりにも感じる)。

「読者にへりくだるべし」と云いたいのではない、でもこのまま本当になにも変わらず、「ストーリー長編というよりシークエンスの連続」(『巧みな狙撃手』感想参照…新刊が短編集と聞いたとき、松田美優の特徴を考えると「やっぱりそうなるよね」と思ったけど)な作品ばかりが、ずっと続くようなら……なんともったいないことだろう、これだけ文章が上手くて個性だってあるのに、あとは伏線絡めたストーリーや魅力ある脇キャラが書けていれば、長編は面白いことになるはず、ああそれなのに!…と、ため息ついて終わってしまう。

『巧みな狙撃手』に収録されていた短編を酷評している人がなぜ多いのか。WEB上で短編発表していた時代は終わり、いまはもう4冊の作品が世に出たプロのBL作家だ。あとがきにも書かれていたように「ありんこ並みのペース」でいい、じっくりと作品に取り組んで、ドラマティックな長編に仕上げて欲しい。

少数派だろうけど、私はあの短編集は悪くないと思っている。松田美優にも、シニカルで素直という複雑な受、穏やかな外ヅラでクールなオヤジ攻が書けるんだと知った「堕ちていく」「掴み取れない」は、(母親がやっぱりへのへのもへじだったが)面白かったし、上手いと思った。正直云うと、オチのしっかりした長編で読みたかった。

デビュー作に、密林で19ものレビュー(しかもほぼすべてが好評)がつく?
注目して期待しているのは、私だけじゃないと思う。

面白い長編を待ってるからね!>松田センセ

■秋林の「松田作品ベスト3」

1.『赤い呪縛』
2.『巧みな狙撃手』収録の「堕ちていく」「掴み取れない」
3.該当作なし

■秋林の「松田キャラベスト3」

該当なし

…共感が難しいからかも。

以上、「松田美優スペシャル!」でした!
■『巧みな狙撃手』
ISBN:4813011608 新書 松田美優(挿絵:奈良千春) 大洋図書 2007/08/30 ¥903
「連はいずれ俺の存在が脅威になると思うんだよね。だから秘密は共有しようぜ?」 ある朝、飼い犬の散歩に出かけた湯本は、森の脇道で近所の高校生・連がひとり自慰に耽る姿を目にする。見られてはならない姿を見られて絶望する連に、湯本は言いようのない欲情を覚えて関係を迫るのだが……
表題作『巧みな狙撃手』、義父と義息の不道徳な関係を描いた『堕ちていく』『掴み取れない』ほか、暴力と不条理と劣情が混在する松田美優の珠玉の作品集登場!

長編慣れしてないなあ、ひとつひとつのエピソードはいいんだけど、どれもプツンと切れた感じで繋がりがキレイじゃないし、メインキャラ以外はへのへのもへじになりがちだし――もしかしていままで発表された作品は、短編にエピソードを付け加えて長編にしたものなんじゃ?…と思っていたら、なんと4作目は短編集ときた。以下、掲載順に1作品ずつ感想を(計8本)。

!以下、ネタバレ注意報!

★ … つまらない(ニガテ)    
★★ … なかなか面白い(それなりに好み) 
★★★ … 面白い(好み)

すべて年上×年下、「堕ちていく」「掴み取れない」は、かなり年の差あり。

■「巧みな狙撃手」リーマン×高校生 ★★(受は好みじゃないが)
表題作。早朝、いつものように犬を連れて森の中を歩いていた主人公(20代リーマン・職業SE)が、自家発電中の高校生(知り合い)をたまたま見つけ、その弱みを握って手ごめにするという、不道徳極まりない話。禁忌や背徳だけでなく不道徳の壁までヒョヒョイ!と飛び越えてくる、松田センセのフットワークの良さには感心する。無理やりというのではなく、攻が「秘密を共有しよう」と受をそそのかし、「別に悪いことしてないもんねー俺たち」と和姦に持ち込む。そこに倫理はない。でも暴力もない。そのあたりが痛くならない理由か。主人公(攻)は遅刻しながらも会社へ行き、同僚にあっけらかーんと情事を話す。ノリは軽いくせ、頭の中はダークな姦計でいっぱい。その乾いたギャップ――エリスだねえ。この作品で初めて松田センセの一人称(攻視点)を読んだが、上手くてビックリした。エダさんの域だと思う。ただ「巧みな狙撃手」というタイトルがもたつく。改題したほうが良かったような。

■「甘美な試乗」自動車整備工×リーマン(客) ★★★(これが一番とっつきやすい)
修理の終わった車を受取りに行った主人公・本田(受)が、担当整備工・東堂(攻)と試乗に出てみたら、いつの間にやら脱出不可能な場所に車を横付けされ、手ごめにされてしまう話。たしかにこれまた不道徳な話なんだけども、なぜか「ひどい!」と思わなかったその最大の理由は、松田作品なのに(!)、攻・東堂は、丁寧な言葉使いする意外とマトモな社会人(整備工)で、店に出入りしていたお客・本田(こちらも意外とマトモなリーマン)のことがずっと好きだった、本田も彼女はいるけど、東堂がいい男だったのでちょっと気になっていた――と、なにやら恋や愛の感じられる土台があったからである。そしてやっぱり暴力と痛みはない。しかもふたりは(松田作品なのに)大人同士、これは貴重、初めて好みに当たったぞー!ヒット打てたぞー!滅多にないぞー!

しっかし車中でコトが終わって最初のひとことが――

東堂:「すみませんでした」
本田:「……いえ」

それで済むわけないやろーーーーーーーーーーーーーーっ!!

…いやそれで済むんだな、だって松田作品だから(もはや免罪符)。
文体は表題作に続いて一人称、視点が受になってもあいかわらず上手い。脱出不可能な横付けシチュエーションもナルホド、こりゃ悪いヤツならしそうだなと思った。ただベタなタイトルがヘンに固く、しっくりこない。それが残念。

■「制裁」問題体育教師×高校生 ★(乾いたダークはキライじゃないけど)
倫理観薄めなイマドキ高校生(受)が、先生(攻)をからかっていたら、鬼畜な本性を出した先生に体育倉庫へ連れ込まれ、手ごめにされてしまう、タイトル通りな話。不道徳極まりない、見つかったら即タイホ!な高校教師(攻)は『不道徳な闇』の笹川に、受は『赤い呪縛』の日向に似ている。もしかしたらそれらのベースがこの作品だったのかも。基本的に私は大人攻の高校生受が好みではなく、さらに相手が教師となるとニガテ、どうにもパスしたくなる。ぼや〜っとしたエンディングはJUNEっぽい、でも陰湿にならないところはあいかわらずだね。

■「トモダチカンケイ」友人同志 ★★(ちょっと精神的に痛い)
身体を繋ぎたがる攻と友だちに戻りたい受による、ただただヤリっぱなしな話。攻が受に飽きるときがくるのか。仮にそのときが来たとして、ふたりは友だちに戻れるのか。私はこのほとんどストーリーのない話に行間を感じる。せつない。

■「犬と餌」風俗店支配人ヤクザ×バイト ★(ある描写にビックリした)
仕事で失敗した受に制裁を加えるヤクザの話(『自己破壊願望』のベース?)。松田美優が書くヤクザは「本職さん」という感じで、萌える人は少ないだろうなあ。それ以前に、松田作品に「萌え」という感情は、(書いてるご本人は別として)なかなか湧き上がってこないし、作品によってはあまりにダークすぎてついていけないかもしれない。間口は確実に狭い。

で、そんな本作で驚愕したことがひとつ。

大麻が出てきた。キッチリ「大麻」と書かれてある。媚薬じゃないよ。抱かれる報酬として毎回、受が攻から受け取り、自らの意思でハッパ吹かすんだよ?…そしてそれが、「逃げられない相手に恋愛感情を持ってしまって壊れていく自分への唯一の救い」だと受は思い、語るんだよ?……凄い。BLではタブーかもしれないこの描写をよく許した、それだけ松田美優の書きたいようにさせてるということ?>SHYノベルス編集部

■「死ぬほどキスしてくれ、ベイビー」フリーター×小悪魔 ★★(奈良画伯、さすが!)
友人が好きならしい男の子(受・年下…高校生?)に、ちょっとした好奇心から手を出してみたら、思いがけず本気になってしまった攻(フリーター)視点の話。ほとんどヤリっぱなし。あいかわらず松田美優の描く攻は、倫理観のうすーい、テク持ちイマドキにーちゃんで、「……ヤラせてくれ」というストレートな物言いが似合うヤツである。逆にそんなセリフがないと、松田作品を読んだ気がしない。で、本作は、すべてにおいて松田美優の十八番だと思われる内容なんだけれども、ここにきてようやく気付いた。攻と受の間には一種、体育会系的な関係とノリがあるんだよ!…あーそっかー、だからかー、にーちゃん×高校生だと受がとくに従順なのは!…はねっかえりで手に負えない受って出てこないし、なんだかんだ云って、にーちゃん攻もカワイコちゃん受に(無理は強いるけど)結局は優しいもんなー。そのせいで痛くないんだ。わかったどー!…あとタイトルがいいね。松田作品によく似合うと思う。

■「堕ちていく」義父(40代)×息子(高校生) ★★★(ダーク好きにはたまりません)
男にしか興味のない高校生が、自らの仕掛けで母親の再婚相手(つまり義父)と関係を持ち、快楽を得ながら深みに嵌っていくという、いままでの作品とは明らかに一線が引かれた、JUNEっぽい閉塞感のある背徳的な不条理作品。「なーんだ体育会系じゃーん!」と気付いたあとに、いきなりこれである。

朝、妻と寝ていたベッドで義理の息子を抱く義父――なんとも強烈な背徳ぶりだが、注目すべきは、攻の義父は穏やかな物腰の落ち着いた大人、受は大人びたシニカルな高校生だということ。ともに松田作品では異色のキャラであり、「なーんだそういうのも書けるんじゃないの、松田センセ!」とちょっと嬉しくなった。ちなみに文章スタイルは主人公(高校生)の受一人称、これがまたものすごーく上手い。表題作の感想で、エダさんを引き合いに出したけど、そういえば昔エダさんも、こういうヤリっぱなしの話(たしか一人称)をWEBで公開していたっけ、あの話も背徳的だったなと思い出した。

閉塞感と背徳に満ちたふたりが、タイトル通り「堕ちていく」1本。松田美優なので痛くない(ただし独特の冷たさがある)。JUNE世代の方、いかがですか?

■「掴み取れない」義父(40代)×息子(高校生) ★★★(不条理ダークだね)
「堕ちていく」の続き。身体の快楽のみ、そこに愛はない――そう割り切って始まった関係。温厚に見えて実は冷ややかな義父と、大人びていてシニカルに物事を見がちな息子の駆け引きは、母親への嫉妬という人間らしい感情から、新たなカードが切られ次の局面を迎える。誘ったのは息子、勝利したのは義父?…はたして本当にそういえるのか――う〜む…オチはなく、余韻を残してぼや〜んと終わっていくので、よくわからない。ただこれはこれでいいように思える。ダークで不条理な話に、わかりやすいオチでめでたしめでたし♪というのは似合わないし、松田美優は短編でも起承転結のある話を書いていない、短編というより一区切り、つまりシークエンスを書いているという印象なので、今の時点ではこれが精一杯なのかな。

総合評価:★★★☆(松田美優がわかってきた!)
ご本人直筆で「ひたすらヤってます」(大洋図書HPのPOPより)とあっけらかーんと書かれてしまっては、もう下向いて「そうですかー…」としか云えない、マジで「ひとりエロとじv」状態の短編集だった。

読んでみて思ったのは、エロうんぬんより、松田美優は、起承転結のあるキッチリしたストーリーラインを持つ短編ではなく、一区切り、シークエンスを書いてくるタイプなんだな、だからエピソード追加で長編化しただろういままでの作品は、エピソードの繋がりが雑でプツンと切れた印象があったんだ、受と攻くらいしか出てこないシークエンスの連続だから、長編では脇キャラがへのへのもへじになりがちだったんだ、ということ。

ただ…どうしてもBLは、短編でも起承転結のあるハッピーエンドな作品を求められるし、ラブ最至上主義なため、松田センセのようなシークエンスで不条理を書いてくる作家や、そういう作品にはどうしても辛口評価がついてしまう(海外やほかのジャンルでは、そんなタイプで高評価な作家はゴロゴロいるのにね)。その証拠に、密林では2つ星評価で「どの話も魅力なし」「全体にボヤ〜ッとしている」と書かれてしまっていて、たぶん本も売れてない。私なんかは、「ヤってるだけ」だとしても、短編のほうがいいと思うんだけどなあ。アンハッピーエンドな作品だって実は1本もないのに。ここまできたらもう好みの問題だね。私はホメたけど、たぶん…←でリンクしている方の中で好みに合う方はひとりもいらっしゃらないと思う。

それでも、リブレの「エロとじv」でつまらなかった作家より、松田美優のほうが数百倍上手い(断言する)。今回初めて読んだ一人称は、そのあまりの上手さに絶句した(とくに「堕ちていく」「掴み取れない」)。なんだなんだなんだ、松田センセ!めちゃ上手いじゃないっスか!…ってか、なんで長編で一人称作品を書かせないのだ!?>大洋図書(SHYノベルス編集部)

本作の絵師は奈良千春画伯。前回「作品を見事につかんでる」と書いたけど、今回もそうで、素晴らしい絵師ぶりだった。なんでこんなにも「松田&奈良」の相性がいいなんだろう?…ちょっと考えてみた。たぶん…禁忌や背徳、不条理を軽々飛び越え、エロをばばーんと書(描)いてくる、そして、どこかしら冷たいものが感じられる――そんなところが共通しているんじゃないかな?

さて。デビュー作は高評価を受け、最新作は思いっきり貶された松田センセ――次回作はどう出る?

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
■『不道徳な闇』
ISBN:4813011403 新書 松田美優(挿絵:実相寺紫子) 大洋図書 2006/12/18 ¥903
ある放課後、高校生の椎名巡は駅のトイレで数学教師の笹川に身体を奪われた。普段は薄汚れた白衣と教師の仮面で世間を欺いている笹川だが、その実、欲しいものを手に入れるためならどんなことも厭わない男だ。愛情に飢え、プライドの高さゆえに弱みをさらけだせない椎名を、笹川は甘い言葉と快楽の技を駆使して追いつめていく。情欲に縛られる椎名。激しい独占欲を持つ笹川。深く、背徳的な恋の闇に落ちていくふたりだが…。

デビューの年に3冊リリースだなんて、マジ破格な扱いなのかもしれない松田美優の3作目。

米国だったらタイホ間違いナシだが、我がニッポンBL界では、兄弟モノ同様、JUNE・耽美時代から定番だと思われる、教師(20代後半)×生徒(高2)モノ。攻キャラはタイトル通り、たいへん不道徳なぶっとび教師、要注意人物である。ちなみに、これまたすべてが私のストライクゾーンから大きく外れており、「ちっ!せめて逆(生徒×教師)だったら、打ち返すことできるのになあ…」とでっかく舌打ちしたのはナイショである。

松田美優は「年上×年下な鬼畜×健気、いまどきのにーちゃんたち」しか書かない(「書けない」のではなく「書かない」)、良く云えばワンジャンルのスペシャリスト、悪しく云えばバリエなしの作家。ツボに入る人にはたまらないだろうけども、攻キャラの性格がみな同じ(オレ様ゴーイン鬼畜)、どーして攻が受を好きになったのか、なにゆえ受がそんなゴーイン鬼畜攻に惹かれていくのか、その過程がサッパリわからず、行間すら読み取れない私にはつらい。1作目は、それがわからなくても冷ややかな文章に乗っかった「禁忌と逆転」があって面白かったのに、2作目読んだら「ちょっとヤバイかも」、警告灯が点灯してしまった。

!以下、ネタバレ注意報!

よって、相当に警戒して本作を読み始めたのだが――これがどっこい、いままでまったく足りてなかった「主人公カップルを巡るキャラの相関」を掘り下げて描こう、長編を書こうという意識が感じられ、ずいぶんと読みやすい内容になっていた。

「キャラは攻と受だけを書きたいの?他はへのへのもへじ?」という印象だったんだけども、本作では、椎名(受)が「プライドの高さゆえに弱みをさらけだせない」背景である家庭事情が、母親と弟、そして笹川(攻)の同僚教師・仲原を絡ませたエピソードで語られている。笹川とは正反対な仲原、その奥さん・まみちゃんがいいね(わざとらしいキャラともいえるんだけど)。

ただその仲原が、椎名と母の間に存在する長年のわだかまりの解消に一役買い(笹川ではないところがポイント)、母親と話をするのはいいのだが、母親がベラベラと心情を喋り出すくだりは強引でご都合主義、もうちょっと丁寧に書いて欲しかったかな。でも椎名への救いを描いていることは間違いなく、いままでそれすらなかったことを思えば、脇キャラ使って心情を描けるようになったなあと、進歩が感じられた。

ところがその後、である。

2作目より読みやすくこなれてきた分、薄くなってしまった、このままフツーにハッピーエンドをむかえるのかと思ったら――仲原使って今度は椎名を残酷ダークに堕としてきた!なんてこと!ハッピーエンドでも最後の最後まで受を追い詰める――ひゃー!松田センセ、ホント鬼畜だわ!…その1本入った曲げられない/曲がらない筋金には感心させられたよ、まったく。

正直、2作目読んだ時点でやめようかと思ったのに、3作目で進歩が感じられたため、チェックは続行。今後の期待としては、攻キャラ背景とその心情描写の追加かな。絶対に必要だと思う。はたしてどんな作品を出してくるやら。文章は好き、でもキャラやストーリーはまったくクリーンヒットしない――それでもチェックするだなんて、私にとってそんな作家は松田美優だけだね。

評価:★★☆(もうちょっとかな…)
松田美優は禁忌や背徳の壁を軽〜く超えてくるとゆーか、禁忌だの背徳だのなんて言葉自体、その辞書にはなさそうだ。笹川みたいな教師がいたら確実にタイホだ!タイホ!タイホする!…それにしても、「アーミーパンツ」ではなく「軍パン」、ブーツはティンバーランド、潰れた拳、「っつーか」なセリフ回し――相変わらずいまどきにーちゃん描写が上手いね。ハード鬼畜系に属しているけど、肉体的に痛そうなことはしないし、陰湿でないところもこの人ならでは。ただその…タイトルの付け方がどーも上手くないとゆーか、垢抜けない。「自己破壊願望」「不道徳な闇」――ベタを狙って失敗しているような印象、なんとかならないかなあ…。

絵師の実相寺紫子は、奈良画伯ほどではないけど松田作品に合ってると思う。ハード鬼畜系に抜擢される絵師は、上手くて絵の麗しい人が多く、その三大絵師はたぶん「奈良千春・実相寺紫子・水名瀬雅良」。作家は「水原とほる・沙野風結子・松田美優」で、相性としては――「水原&水名瀬」「沙野&実相寺」「松田&奈良」がベストだと個人的に思うんだけど…どうかな?

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
■『自己破壊願望』
ISBN:4813011357 新書 松田美優(挿絵:あじみね朔生) 大洋図書 2006/07/31 ¥903
「この際だ。見極めようぜ?俺とお前、本当にやべえのはどっちなのか…」
父親の借金を返すため、ピンサロで呼び込みの仕事をすることになった夏目亮太は、店の支配人でありヤクザでもある千葉に、力づくで身体を奪われる。男が男に抱かれる惨めさ、思い出したくもない自分の嬌態。たった一度のセックスで心を囚われることなどあり得ない。まして男相手に… 苛立つ一方で、千葉の圧倒的な強さに反発しつつも惹かれずにいられない自分に気づいていた。身体を繋ぐことはあっても、視線は冷たい。優しい言葉をかけられたことなど一度もない。どんなに虐げられても、裏切られても、千葉から離れることができない夏目だったが… 快楽と自尊心。暴力と誘惑。ハードコア・ラブ登場!!

デビュー作『赤い呪縛』で注目された松田美優の2作目。風俗支配人(30代?ヤクザ)×呼び込みアルバイター(19歳)、企業舎弟ヤクザでも、金融系経済ヤクザではなくピンサロ支配人というあたりに、松田節が感じられる設定である。

あらすじを読んだら、なんだか水原とほるが書いたほうがしっくりきそうな内容だったので、正直ちょっとビビってしまったのだが、「好みから激しく外れているけど、『赤い呪縛』路線ならダイジョブ♪」と勢いつけて本編を読んでみたらば、前作で感じた不安が痛恨の一撃ヒットしてしまった。

!以下、ネタバレ注意報!

前作とは異なり、ハッキリ鬼畜系に分類されるストーリーラインだと思われるんだけども(たぶん)――

「千葉(攻)が言葉と行為で亮太(受)を貶めまくる」→「そんな千葉にホレてしまい、されるがまま、肉奴隷と化す亮太」→「事件発生」→「事件(なんでか)解決」→「亮太を貶め続ける千葉に女の影、身を引こうとする亮太」→「第三者が事件解決に千葉が動いたと亮太に告げる」→「千葉の真意を知る亮太」→「両思い、めでたしめでたし♪」

……どうしよう。
何度読んでも、サッパリわからねー!
なんでやー!?

千葉がなにを考えてるかサッパリわからない。松田美優の「ちょっと乾いて冷めた他人事描写」は、王道鬼畜系なストーリーになるとこうも攻キャラが見えなくなるのか。「嗜虐的なのは単に愛情の表現がヘタだからで、本当は千葉は亮太が好きなのよ」と読み手に知らしめる…そうだな、たとえば亮太を思う千葉の思いやりの行動にしぐさ、あるいは行間など(たぶん腐女子がもっとも読みたい、BLで期待するものだと思う)描写があれば、まだ理解できるんだけれども――これがほとんどない(『赤い呪縛』もほとんどなかったけど、「禁忌と逆転」という支点があったから絶妙なバランスを保っていたんだと思う)。そして両思いになっても、延々と続いていく言葉攻めにも参った。ダメだ、まったく魅力が感じられない。白旗揚げる。降参。

「なんでこんなヤツが好きなのよ、かわいそう、せつないわ〜」と、逆転劇ナシ、ただただヤラれっぱなしな健気受に同情できて、鬼畜な攻に愛を感じられる(=好物)人向け。

もしかして鬼畜×健気の場合、攻が見えないのが当たり前の世界で、最大ポイントは「そんな状態でどれだけ受の心情に入れ込めるか」になるの?

評価:★(すべてニガテ、好みの真逆。お好きな方はどうぞ)
世の鬼畜×健気の傾向を見て、返り討ちに遭ってしまったとゆーか。鬼畜属性などまったくない私が面白いと感じた前作『赤い呪縛』は、フロックだったかなあ…。

千葉と亮太をめぐるキャラたちがへのへのもへじ、書き割り背景のよう。出てくるけど印象に残らないし、絡んでこない。説明のために出てきて、役目を終えたら消えていく。いくらでも当て馬になれただろう長谷川は、自然消滅したかのよう。もったいない。

とは云っても、ハードな設定とストーリーなわりに陰湿的でなく、あいかわらずJUNEっぽくもない。痛そうな道具に媚薬、スカだのなんだのを出してこないあたりも実に松田美優らしいし、彼女のいいところだと思う。逆に云えば、それらを出してきたら「あ〜あ、とうとう出しちゃったか。フツーになっちゃったなあ」と、ガッカリしてしまいそう。あと、亮太がネクタイが結べない、いままで女性に結んでもらってたというエピソードがいいね。そんな男の子いそうだもの。

絵師のあじみねさんは悪くない…けど、松田作品…というより、ハード鬼畜系に向いてない気がする。刺青の描き方が雑で、もう少し丁寧に描いて欲しかったかな。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
■『赤い呪縛』
ISBN:4813011276 新書 松田美優(挿絵:奈良千春) 大洋図書 2006/04/24 ¥903
自分の魅力を知りつくしている高校生・加藤日向は、ふたりの兄に甘やかされて育った。だが、日向の平穏で勝手気儘な生活は、次兄・龍昇によって壊される。「俺はもうお前を、弟して見んのはやめたから」兄の龍昇が、そう宣言した日から、恋愛において、これまでずっと勝者だった日向の立場は逆転する。いけないことだと思いながら、龍昇のことが気になって仕方がない。安寧を得るはずの空間は危険極まりない空間になってゆき!?

オンライン小説サイトで活動していたという松田美優のデビュー作。
そのデビュー作で絵師が奈良千春、とは破格の扱いである。

どちらかといえばニガテで避けていた兄弟:兄×弟モノ(せめて逆だったら)、大映ドラマのようなベタなタイトル(しかも痛そうな書体)、さらに絵師が奈良千春画伯(しかも般若タッチ時代)――なんとハード系ドロドロ三拍子が揃った作品なことよ、もしかして以前返り討ちに遭った水原とほる路線(http://diarynote.jp/d/25683/20070427.html)か?…と、途中ギブをマジ覚悟して読み始めたのだが。

重い内容に相反するちょっと冷めて乾いた「他人事」描写。
オタク要素が存在しない日常。
罪悪感や禁忌を軽ーく飛び越える「いまどきのにーちゃん」キャラ。
モラルの葛藤は別次元、さじ加減の上手いバイオレンス。

面白い作家が出てきたなあ――待ってたよ、こんな人。

BL界におけるニュー・ロスト・ジェネレーション(←例えが古い…)、まるでブレット・イーストン・エリスのよう。腐女子の最末席組な私としては大歓迎だ。

JUNE要素を感じさせる設定やストーリーなのに古くない、ドロドロしてない、耽美じゃない。どこか狂っていて、悲しい、せつない、痛いはずなのに――苦悩するキャラに一線を引いてしまう。いまどきのにーちゃんたちによる「日常の中の非日常」「非日常の中の日常」を、鏡の向こう側から覗き見している気分になる、とでもいうか。たぶん「弟寄りで見守っているが、禁忌に染まっていく兄弟に救いの手を差し伸べるわけではない」視点と、寓話的でスッキリした文章のせいと思われるのだが、かといってすべてが冷ややかだということもない。

!以下、ネタバレ注意報!

自分の魅力を自覚し、食い散らかすように相手を落としてきた弟が、一番身近な存在である兄(父親違い)の思いに気付いていなかった、ちょっと可愛くしてれば兄は自分を悪く扱わないはず――それがあるきっかけから立場が逆転。つまりある種の逆転劇(下克上ではない)である。

バイオレンス描写は兄弟ゲンカ風のどつきあい程度、弟・日向がかわいそう…と感じるより、女教師にまで手を出す日向の貞操観念の低さ、そのいまどきぶりに「お前な〜そりゃ怒られる、因果応報だね」とまず呆れてしまうので、さほど痛々しく感じない。がしかし、兄・龍昇の心情が控えめにされた第三者的文章が淡々と続いていくためか、読み手も追い詰められていく日向に同情し始め、龍昇の彼女・さくらちゃん登場のあたりから、「うわ…ちょっとかわいそうかも」になっていく。いつの間にか読み手の心情まで逆転する。

寓話的でスッキリした文章と書いたが、それをよく表した一文が以下である。
実のところ、日向と長兄は十、次兄とは六つ年が離れている。
BLはキャラ設定が細かいので、普通なら「日向は十七歳、一番上の兄・龍慶は二十七歳、二番目の兄・龍昇は二十三歳」となるだろう。ところが松田美優は、具体的に兄の年齢を書かず、しかも日向の年齢もこの文章の後にならなければ「十七歳」とはわからない――すべてがハッキリしない、なんとなく寓話的な印象の表現を選択している。本作が兄弟モノで禁忌である以上、たったそれだけでも私は救いを感じる。ただし、それは個人的かつ感覚的な印象であり、そう感じない人も確実にいるだろう。本作の評価がパッカリ分かれてしまったのは、そのあたりをどう受け止めたかにあるような気もする。

ふたりの禁断的な関係を知っているのは、誰も彼らを止めることができない――たとえばそれは、陽を遮る縁側の葦簾、庭に咲く紫陽花、ヒグラシ、床に散らばるビデオテープだったり…と、JUNE的要素を感じさせるものを多く取り入れてくるのに、なぜか描写は耽美にならない。本編を通して読んでみると「これは禁忌ではないのですよ」と云われているような気分になる。不思議だ。ドロドロの設定で、こんな雰囲気を出してくる作家はあまりいない(と思う)。JUNEには戻れない…けど、軽く明るいポップなBLにときどき抵抗を感じてしまう、という人には向いているのではないだろうか。

松田美優が描くキャラは、どこにでもいる「いまどきのにーちゃん」たちで、いままでBL作家が書こうとして実は書けてなかった、身体を繋げたがる世代の人たちである。キャラの喋り方やその思考だけではない。日向が友だちと公園で遊ぶのは、スケートボード(フツーの作家ならスケボーと書いてしまうかも)やBMX、龍昇の職業はドカタ、乗ってる車は黒のサバーバン――そういったキャラに説得力を持たせながら、いまどきを感じさせるものをサラリと出してくるのが新鮮だった。金持ちハンサムセレブは出てこない。だからこそ、日常の中の非日常が浮き上がってくる。素晴らしい!

自覚しながらも日向を選んだ龍昇。堕ちて行くふたりを見送るだけの読み手。最後に勝ち残った真の勝者は日向。ラストで再逆転。ぼやーんとしたエンディングに感じられるかもしれないが、業火に焼かれてもおかしくない兄弟に未来はないはず、逆にハッキリさせられたほうが興ざめだと思う。

昨年読んでいたら、BL小説2006年度ベスト1に選んだ作品。

評価:★★★★★(ウェルカム!待ってたよ!>松田センセ)
デビュー作なのに、密林ではなんと19件(!)のレビューがついている。それだけ注目されたってことだろうなあ。ホメたけど、まったく問題がなかったわけではなく、たとえば各エピソードはポツンポツンと切れていて繋がりが滑らかではなく、長編慣れしていない印象が強く感じられる。ハッキリ云うとヘタ。第三者キャラがときどきへのへのもへじになる(=いいかげんになる)ところも、ちょっと気になる。2作目以降、どうなるかな…。

絵師の奈良千春画伯について少し。奈良画伯といえば、英田兄貴の「エス」でその名をさらに揚げた、俗に「奈良買い」という言葉が存在するほど人気のある絵師さん。すんごいエロな絵をばばーん!と描く、ヤクザやハード系を得意とする絵師というイメージを持たれていると思うけど、私が「画伯」と呼んで最大評価しているのは、そんなすんごい絵が描けるからではなく、本編をつかむ上手さに感動しているから。

奈良画伯のベストコラボレート作品は、(いまのところ)この『赤い呪縛』、ベストパートナーは松田美優だと思う。松田センセのちょっとヒヤリとした雰囲気を出せるのは画伯だけ、毎月「画伯チェック」を怠らない私に云わせると、表紙やカラー口絵で過剰エロを描いていない(=肌色率が低い)、あるいはやたらと華美な配色を施していないほうが、本編は面白いという傾向がある。

この本持ってる人、裏表紙カバー見て下さい――私が云う「『日常の中の非日常』『非日常の中の日常』を、鏡の向こう側から覗き見している気分」にならないっスか?

庭の紫陽花から見える加藤家。久しぶりに龍慶に会ってはしゃぐ日向、弟が可愛くて仕方がない龍慶、そんなふたりに煙草吸いながらそっぽを向く龍昇。さらにその向こう側には、テーブルとイス・水切り棚・掛けられたふきん・白い冷蔵庫(メモつき!)が描かれたものすごーく生活臭のする台所。一見すると加藤家の日常だけど、すでに日向と龍昇の関係は始まっているので、「日常の中の非日常」というより実は「非日常の中の日常」。それを庭の紫陽花が見ている(=庭からこっそり覗く)。カラー口絵もいい。散らばるビデオテープ、見上げて泣く日向、そんな日向を見下ろしている龍昇(バックポケットに財布の入ったデニムを穿いて、手はポケットの中に突っ込まれ、背を向けているために表情がわからないという構図がポイント)。私が松田センセだったら泣く。「私が表現したいことが描かれている!」って。

エロ描写は激しいのに、露出が意図的に抑えられている挿絵とカラー口絵。描けるくせに描かない(失礼!)奈良画伯、すごい。作品を見事につかんでる証拠。読めばわかるけど、松田作品に過激な露出、派手で華美な挿画はいらない。求められるのは、ディテールと一歩引いた冷ややかさだと思う。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
←昨年の春頃だったか、この本の感想を南風さんとはゆたさんがお書きになっていて、おふたりの感想が見事パッカリ分かれていたことが興味深く、また「絵師が奈良画伯、レーベルがSHYノベルス」(もういいや…「秋林さんってSHY好きなのね♪」と思われても)だったこともあって、「ならば私も♪」とお取り寄せ購入して読んでみたことが、松田美優さんを知るそもそものきっかけでした。

日記リンクしていただいている方の中でも、夜霧さん・はゆたさん・奈央さんが取り上げられている本は、だいたい私めもチェックしていて、お書きになっている記事を読むと、多少の好みは違えど、なんとなく似たような感想をお持ちになっている――で、その中のはゆたさんが「好みじゃありませんでしたー」となれば、もしかしたらヒットしないかもしれない…けど、ま、いっか、クリーンじゃなくてもバットに当たればラッキー♪な気分でボックスに立った(=ポチった)んですよ。

そしたらば。

なんつー新人を見つけてきたんだー!?>大洋図書

つばの曲がった帽子を被って、いまどきのワカゾーよろしくズルズルした服着てるくせに、意外や正々堂々ストレート直球勝負でくるのかと思ったらやっぱり急に落ちる球を投げつけてくる、というナックルボーラー・ルーキーだったので、俄然面白くなってきたとゆーか、この私を久しぶりに瞠目させた星くん、いや松田美優――新人とはいえ、タダ者ではない!と、その動向が気になり、いつの間にかマイチェックリストに仲間入りを果たす作家となっていたのでした。

昨年デビューしたばかりの新人さんなので、著作は4冊。その作品すべてが面白かったかどうかは、このあと1冊ずつ感想を書いていきますが――その存在と立ち位置がユニークな作家であるということだけは、まずこのイントロダクションで。

とゆーわけで、「松田美優スペシャル!」始めまーす!…たぶんまた時間かかると思います。

ISBN:4813011276 新書 奈良 千春 大洋図書 2006/04/24 ¥903
←気になってます。

たけうちりうとの新刊。
レーベルは、秋林イチオシSHYノベルス。

傑作かトンデモか。

↓だってこんなあらすじですよ?
もしかして、私は。臭っているのではないだろうか。平凡な会社員として暮らしてきた七瀬亮は、ある日突然、自分の体臭が変わったことに気がつく。いったい、どうして? そんなとき、川辺に住む老人からプールへ行くように助言される。そこで七瀬は運命的な出逢いは果たす。愛とか恋とか、そんな言葉では語りきれない出逢いだった──宇宙を巡る奇蹟のロマンス、誕生! 表題作ほか吸血鬼の焦がれる想いを描いた『デリート』も同時収録。

「宇宙を巡る奇蹟のロマンス、誕生!」

……。
宇宙ときたか。そっかそっか。
あらすじだけでは先が読めない、まるで木原音瀬作品のよう。

とゆーわけで、『帝都万華鏡』『絶頂』『青鯉』の三冊を、ポチリ購入することにしました。

果たしてどれがヒットするやら。
本人ですら予測不能です。予想して当てた方、秋林から粗品を進呈。
←気になってます。

韓流BLだそうですが、表紙見た限り、絵の印象は「竹田やよい+禾田みちる」、内容は往年の少女マンガっぽい感じ。う〜む。

でも一番気になっているのが、「語シスコ先生、大絶賛!」。
どう出るのか…よ…読めない。
←気になってます。

オビの「X文庫新人賞受賞作!」より「栗本薫氏、大絶賛!」というのが、別の意味で気になります。

まあ「山藍紫姫子氏、大絶賛!」(羽化登仙!の人)とか「南原兼氏、大絶賛!」(エクリカリバーの人)とかだったら、気になるどころか、完全防備で身構えますけど。

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