←「ラステロ」ショックが大きいせいで、いまだ積読状態です。

「谷崎泉スペシャル!」は終了しましたが、「ラステロ」について悶々していたのは私ひとりだけでなかったようで、同じ気持ちの方、事情をご存知の方よりコメントを頂いております。由木さん、りんさん、ありがとうございます…嬉しい!
みなさん、長いコメントをお書き下さり…やっぱりいろいろ語りたくなる作品(と作家)だったんだなと、しみじみ感じております。

あ、レス、コメントはお気軽にどうぞ。当ブログは、「ブログ主のコメント返しより先にコメント書いてはいけない」というキマリは一切ありません(逆にそーゆーのニガテ)。
■…というわけで、約2ヶ月の間コツコツと書き続け、『最後のテロリスト』で以ってようやっと終了した「谷崎泉スペシャル!」ですが、そもそも「スペシャル!」と銘打ってまで、この飽きっぽい私が、根気良くひとりの作家の作品の感想を書き続けたのには、理由があります。

榎田尤利、木原音瀬、英田サキといった人気作家の作品感想はネット上でもよく見かけるというのに、知名度だけでなく人気だってけっこうあるだろう、シャレードの看板作家といっていいはずの谷崎泉作品となると、これが思ったほど見かけません。そーゆー私自身、オッシーに云われるまで谷崎泉はノーチェック、著作は『パンダ航空1〜3』くらいしか読んだことがなく、しかも「あんまり好みじゃないな〜」と思っていたわけですから(理由:凡庸だったから)、エラソーなことは云えないんですが、実際何作か読んでみると「あ、これは谷崎泉だ」とすぐわかってしまう、個性的で誰にも似てない作家であることが見えてきました。

良く云えば、ライトノベルやBLでは必須だろう立ったキャラが何人も描け、ト書きで読ませるリズミカルな文章スタイル(「谷崎泉スタイル」とゆーか)(注)、リリックの効いたストーリーテリングと心情描写力を天性で持っている作家、悪く云えば、型にハマっていて引き出しが少なく、ト書きで読ませるタイプなので一人称が凡庸になりがち、これ見よがしに伏線と謎を仕掛けておきながらそのすべてを回収しないまま、消化不良気味にストーリー終了となってしまう作品が多く、読み手に「惜しい」「もったいない」と思わせる作家という印象です。

たとえば『しあわせにできる』は、雑誌に長期連載され、さらに文庫収録時に番外編追加という形を取ったことにより、後者の欠点を補った人気シリーズであり、私も好きな作品です。12冊も出ているのに1冊ずつ感想を書いたのは、「どんどん面白くなっていくから。中途半端には終わらない、前者に秀でている作品だよ」と伝えたかったからです。また谷崎先生は、受に対し嗜虐的な攻を書くことが多いので、『しあわせにできる』の1〜3巻あたりまでの久遠寺に堪えられず、「理解できない」と挫折する人(そういう人は少なくないと思う)に「もうちょっと我慢して。じきに久遠寺の背景が見えてくるし、彼も変わっていくから。それでダメならごめんなさい、この感想はアテになりませんよー」という意図もありました。

逆に後者で辛かったのは――正直にいうと『しあわせ』以外の作品ほとんどで、中でも自分好みから完全に外れてしまった『ダブル』は、しんどくて仕方がなかったです。でもつまらないとは思いません。

前者と後者の狭間で大ショックを受けたのが、『最後のテロリスト』。感想をバカ長く書いてしまったのは、「こんなことを思ってるの、私だけなん!?」と訴えたかったからです。同じことを思い、悶々されていたというりんさんが熱く燃え滾る情熱的なコメントを書いて下さったように、このシリーズに対しては…私もいまだフクザツな思いで胸がいっぱいです。本についてくるアンケートハガキに、惜しくて悔しいどうにもやり過ごせないこの思いを書いて編集部に送ろう、谷崎センセにお手紙でこの思いを伝えよう…と、何度思ったことか。結局どちらもやめ、自分のブログでアップするにとどめました。

自分がこれほどBLに入れ込むのは久しぶりです。クリーンヒットしたときの谷崎作品が私に与える影響は大きい…と、思い知らされました。今後も谷崎チェックはしていきますが――りんさん、そして『しあわせ』感想にてコメントを書いて下さった由木さんが感じておられること、そして私が「スペシャル!」で書いたことがどんな形でもいいので――いい方向にそれとなく伝わるといいなあと思います。

大洋図書(SHYノベルズ)、谷崎センセを引き抜いてくれないかな…。指摘してくれそうな気がする。

■(注)ト書きで読ませるリズミカルな文章スタイル(「谷崎泉スタイル」とゆーか)
以前にも書いた「ダブル(神)視点三人称」のこと。視点が切り替わると混乱するのに、谷崎作品にはそれがない。

基本的に「谷崎劇場」で、「谷崎泉=神」視点、頭の中でストーリーが出来上がっていて、それを客観的に書いてるという感じ。別の言い方をすれば「谷崎監督の演出による群像劇」。キャラの後ろにカメラがついていて、あっちこっち変わる。「視点はひとつ」セオリーを覆しているけど、私は支持したいです。

以下、私が感覚的に思うこと。

「ト書きで読ませる=リズムがいいのでセンテンスが長くても気にならない」。

ライトノベルやBLでは、「なぜここで?リズムが崩れちゃうよ」と思うくらい、やたら改行する作家が多いけれど(それにどーしても慣れない私。ただし火浦功除く)、谷崎センセは1ページに文章が比較的埋まっており、無意味で無駄な改行がない。句読点の入れ方なども独特。それはたぶんリズムを重視しているからで、ト書きでキャラ心情を読ませることが上手い人ならではだと思うし、実際にサクサク読める。次のページでこの一文をトップに持ってこよう、という意識を感じる箇所が見受けられると、「うんうん、よくわかる、私もそうするなあ」と思う反面、急転のための一文を思い切りよく数行区切っておきながら、その後の展開が肩透かしだと、「やりすぎたね」と感じるときもある。字面はリズムほど気にしてないように感じる。

「秋林さん、なんでそんなこと書くの?」…って、そうだなあ、「スラムダンク」の湘北vs.山王工業で、河田が花道のマークについたとき、花道の滞空力、ブロックジャンプに跳んだあと猛ダッシュできる体力に「コイツはすごい。誰もそんなところ見てないだろうが」と思うシーンがあるでしょ?…あの河田と同じ。「サクサクと読めるのは、リズムを考えているから。誰もそんなこと気にとめないかもしれないけど」。

■秋林の「谷崎作品ベスト3」

1.『最後のテロリスト 1 〜胎動〜 』(+『16』)
2.『しあわせにできる』
3.(いまのところ)該当なし

未読で積読状態なタイトルがあるので、もしかしたらその中に3位があるかも。

■秋林の「谷崎キャラ ベスト3」

1.遠野凪(『最後のテロリスト』)
2.菅生威士(『最後のテロリスト』)
3.結城涼子(『しあわせにできる』

『しあわせ』キャラは、本田や久遠寺じゃなく結城さんが好きなの…。

■りょうさん、ボースンさん、由木さん、りんさん、私と同じように郵便局員さんを脅した(←え?違う?)夜霧さん、コメントありがとうございました!

以上、「谷崎泉スペシャル!」でした♪
■『最後のテロリスト 3 〜鳴動〜 』
ISBN:4576071033 文庫 谷崎泉(挿絵:シバタフミアキ) 二見書房 2007/06 ¥650
蓮が姿を消して五年。セキは仕事を続けていたが、興津組の内部抗争に深く関わっている上、日本への勢力拡大を目論むチャイニーズマフィア・劉につけ狙われることに。自分はただの故買屋だ。大きくなんてなりたくない──そんなセキの思いとは裏腹にあらゆる人間が彼のもとに集まってくる。すべてが潮時と感じ、日本を出ようと思い始めたセキの前に、自分を翻弄した唯一の男、蓮が現れる。理屈も立場も飛び越え、言葉を失わせ、ただ互いの熱を求め合う邂逅。しかし──。シリーズ完結巻!

一部の熱狂的なファンの支持により絶賛評が多い中、2巻感想で「謎を背負いながら端折るとはどーゆーことだ」「セキがなあ…」とブッタ斬り評を書いた私も、考えてみりゃ「コソコソしていたい、目立ちたくない、目立とうなんてとんでもない」というタイプ――なーんだそりゃセキと一緒じゃん?と気付いてさらに呆然、そんな状態で手に取った、故買屋セキが主人公の「ラステロ」第3巻である。

!以下、ネタバレ注意報!

いくら「作家が書きたいもの≠私が期待していたもの」だったからといって、まずキャラありきだろうと思われる(だから私もそんな読み方をしている)ライトノベルやBLジャンルで、これだけ面白くて立ったキャラと、パンチラインの効いたセリフを連発されたら、「つまらん!」だなんて絶対に斬り捨てられないし、思ってもいない。でもやっぱり谷崎泉らしいとゆーか、嗜虐的な攻がどーしてあの受を選ぶのかイマイチわからず、1巻の「威士→凪」が分かりやす過ぎた分、今回はいつも以上に「なんで蓮はセキがいいわけ?」という疑問が残る。「綺麗になったな…」(え?そうなの?>蓮) 「…俺にはお前の趣味が一生、理解できんと思うわ。どこがええねん」(うん、アタシもそう思う>威士)…ダメだ、こりゃ!>私

蓮とセキが歪(いびつ)な関係しか持てないのは、よくわかる。ふたりは心より身体のほうが正直、恋だの愛だのという甘い感情からはほど遠い…恋愛らしきもの、しかできない似た者同志だということが、2〜3巻通してず〜っと語られているから。

結局、「ラステロ」はそれがメインストーリーだったようで、蓮だけでなく威士にとってもキーパーソンであるはずの氷川は簡単に殺されてしまって、ヒョイ出のチャイニーズマフィアによってうっちゃわれるし、あれだけ振られた蓮を巡る謎はスッキリと明らかにされないままだし、蓮の「いつ倒れるかわからない」爆弾は切なくさせるような効果もなく不発に終わったし、威士と蓮が興津のトップにのし上がって行くさまもイマイチわからず(ちょっと!凪は〜!?)、最後のテロリストを看取ったのち、蓮のいる日本へ戻ろうと考えたかどうかをちらつかせたセキだけに、綺麗なエンドマークがついたという印象だ。谷崎センセはセキが好きなんじゃないのかな。セキは、江木や弓削、劉、麻生にまでモテモテ。「受がモテモテ」は、谷崎作品の基本だと思うから。

セキはたしかに私の好みから外れているが、蓮と邂逅(←読めますか?「かいこう:思いがけなく出会うこと」)し、早朝にベッドで目を覚ましたのセキの心情描写はせつなく、これこそ谷崎節の醍醐味で、相変わらず素晴らしい。

たとえば、「蓮より早く目が覚めてシャワーを浴びに行く」という一行で済ますことができる行動なんだけども、「蓮の寝顔が目に入った→情を感じた→身体を起こした→カーテンからの明かりを見て朝だと気付いた→狭いユニットバスに入った→曇った鏡に映る自分の赤い痣を見つけた→思わず目を背けてバスから出た」。セキの、自分自身そして蓮への複雑な思いが伝わってくる。数行かけて、受が攻を思う気持ち、そしてそのシグナルを読み手にじわりと伝える描写が、谷崎センセは本当に上手くて毎回唸ってしまう(「しあわせにできる」の感想でも書いたけど)。そんなちょっとした数行なんて別にいいじゃん、と思われるかもしれない。でもこういう描写をする書き手に対し、「なんて素晴らしい、感動した、わかってる、ちゃんと伝わってきてるから」と云いたい。そんなところまで感想を書いている人は少ないだろうから。がしかし。そういう心理描写は卓越しているのに、なんで肝心要を端折るのだーーーー!?

谷崎泉がターニングポイントを向かえる作品になる!…と、1巻を読んだときに思ったんだけどな…。

評価:★★★(悶々悶々悶々…なんでこんな思いを…うううう…)
威士の顔に傷が残ったら――許さへんで!!覚えときや!>セキ
全3巻通して、蓮は威士と一緒にいるほうが素敵でカッコ良かった。「威士・蓮・凪」の三人の話がもっと読みたかったなあ。それにしても、興津の次代No.1と2はともにホモか。う〜む、興味深い。

「ラステロ」はシバタさんの表紙効果によりBLっぽくなく、一見するとフツーのライトノベル風。これだったらカバーをつけずに茶の間に置いておいても平気ね♪と、そのまま置きっぱなしにしたところ――次の日、裏表紙が表になって置かれていることに気付き、顔面蒼白。裏表紙にあらすじとパンチラインが書かれてあるシャレード文庫、ちなみに「ラステロ」3巻はデカデカと――

俺にはそんな価値などない。
男に抱かれて
嬌声をあげるような、屑だ。


…………。
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!

自分を屑だというそんなアナタが主人公の本を読む私は――滓?それとも塵、でしょうか?

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
■『最後のテロリスト 2 〜鼓動〜』
ISBN:457607086X 文庫 谷崎泉(挿絵:シバタフミアキ) 二見書房 2007/05 ¥580
氷川の指示で警察庁幹部・唐沢の養子になり、東京の大学に進んだ蓮。良家の子息を演じながらも、内面は渇き、飢えていた。そんな時、耳に入ってきた故買屋・セキの存在。ヤクザとクスリを嫌い、決して人前に姿を現さない慎重な仕事の手腕に興味を覚えた蓮は、セキの正体を突き止めようと画策する。果たしてセキは蓮の欲望を満たすにふさわしい、極上の獲物だった。追いつめ、身体を征服し、心を奪う――。抑圧されてきた蓮の激しい本性が迸る、シリーズ第二弾、蓮とセキの出会い編!

現時点(2007年11月)において、秋林の2007年BL小説カバー絵ベスト1作品。

!以下、ネタバレ注意報!

興津組の若頭補佐・氷川に拾われた形で菅生家に入り、威士の義弟となった蓮が主人公の第2巻である。

カリスマ性を持ち、一見荒っぽいがまっすぐな気質を持つ威士と正反対の蓮。常に影を引き摺り、怜悧な頭脳を持っているが、ワイズというよりクレバー(賢明というより狡猾)、内面を周囲に覚らせない――そんな彼には、さらに複雑で興味深い背景がある。

まず、いつ倒れても(≒死んでも)おかしくない爆弾を脳内に抱えているという身体的な事情。その怪我の後遺症によって無痛症となり、ナイフで刺されても背中に爪を立てられも、本人はまったく痛みを感じない。蓮が血を流がす場面はよく出てくるのだが、事情を知らない人間の目には平然としている蓮が不気味に映るだろう。まるでサイコダイバー美空(夢枕獏)である。もともと長生きできそうにないタイプだと思っていたが、それらの設定によって蓮はさらにギリギリな時限の――生き急がねばならないエッジに立たされた感がある。読み手としては実に切ないのだが、本人は気にするどころか「残された時間」を受け入れており、その上で「威士と興津のトップに立ち」、「氷川とケリをつける」ことを第一の身上としている。氷川との確執については、どうやら蓮の実の父親が関係しているらしいのだが、氷川は多くを語ろうとせず、蓮自身も父親を知らないため、正面から「氷川vs蓮」が描かれないと真実はわからない。抱えるものは影や爆弾だけでない――という実に複雑で魅力的な設定(もちろんルックス上々の美形である)と背景を背負った蓮は、威士以上に腐女子心をそそってくれる面白い存在なのである。表紙カバー絵は、そういう蓮を見事に表現していると思う。

そんな蓮が、威士や氷川と離れて数年ぶりにひとりとなる2巻では――単独で悪さをしていた、威士と出会う前の蓮、つまり彼本来の姿を見ることができる。だが昔とは違い、威士や氷川に洋三といったしがらみ(≒身内)と情が増えたことによって、自分のシマではない東京においては、大学生で警視庁キャリア・唐沢の息子という仮面を被り、おのれのポジションを常に把握・確認しながら、悪さをせねばならない。ガキのままではいられないのは威士だけでなく蓮も同じ、自由はあるが縛りもある状況下で、蓮はある日、運命の相手・セキを見つけることになる。「この男をなんとしてでも手に入れたい、たとえ汚い手を使っても」――読んでいてこっぱずかしくなるほど純愛路線(←ホメてます)だった1巻とは対照的、淡々と描写される蓮の内面の黒さにクラクラさせられ、とくにカジノシーンで見せる蓮の駆け引き、狡猾さは見事であり、「なんて素晴らしいの!」とその描写を絶賛していた…のだが。

また、やられた。
肝心要、核心を端折られてしまった。

!以下、完全ネタバレしていますので要注意!

まず、興津5代目が死んだことによる跡目争いを避けるため、氷川が蓮とともに中国へ行くことに「?」である。なぜ中国なのか。海外へ留学だの引越しだのと、その唐突さは、まるで大昔のTVドラマ、もしくは韓国ドラマのよう。変化球で逃げたとしか思えない。ここは日本で「仁義なき戦い」(そして流れる「仁義なき戦い」のテーマ…若いにーちゃんたちが主人公なので、もちろん布袋寅泰バージョンだ!)、京都と東京の同時進行、威士は関西で自分の「アキレスの踵」である凪を守ることで精一杯、蓮は平然と(!)大学生をしながらも、影で興神会を証拠なく(←最大ポイント)次々と陥れていく――が、思いがけずセキが巻き込まれてしまい(あるいはセキが興神会関係者で蓮の敵として現れ、いつしか惹かれ合ってしまうとか。ああ…なんてハーレクインなの!)、身動きが取れなくなる。威士も蓮も互いを必要としているが、ひとりで行動せねばならない。だがふたりの前に次々と敵が現れて――といった展開を期待していたのに。

さらに大ショックだったのは、氷川の扱いだ。なぜ氷川が中国で殺されないといけないのか。いや違うな、正確にいうと――なぜ氷川の最期にして最後の「氷川vs.蓮」が描かれなかったのか。ここを端折ってどうする!?…氷川と蓮の確執がどうなったか、何度も出てきて長く感じる蓮とセキの情事を削ってでも、書くべきじゃないのか!?…ガッカリだ、私は密林の書評のように手放しで絶賛はできない!

「○○年後――」と容赦なく時が流れていくので、文庫から読んでる身としては取り返しのつかないストーリー展開に、ただただ呆然とするだけ。威士と蓮を中心に、凪やセキが関わってくるストーリーだと思っていたのに、「ラステロ」の実質的な主人公は――もしかしてセキで、谷崎センセはそのセキが一番のお気に入りなんじゃ?と気付いた時点で、大ショックである。セキの本名「真冬」だし、タイトルは『最後のテロリスト』だし。

2巻は、嗜虐的にセキを奪っていく蓮が描かれている。谷崎作品ではよく嗜虐的な攻が出てくるので(威士みたいなタイプが珍しい。だから威士が好きだという人は多いと思う)、「ああ、またか。理解できない」とニガテな人にはつらく感じるかもしれない。ただ今回は蓮が複雑で面白いキャラであり、ダークな彼を理解できなくてもいいと思っていたので、私はさほどイヤにならなかったのだが、セキが蓮のいう「極上な獲物」には到底思えなかった。逃げてばかり、あるいはよがってばかりだったし、簡単に蓮の手に落ちたように思える。セキはもっと手強い相手だと思ってたのに。なにか特別な…たとえばあの蓮をキリキリ舞いさせ、ぎゃふんと云わせるような(って蓮はそんなこと云わないだろうけどさ)スペシャルな出会い方をし、ふたりの間に食うか食われるかの熾烈な駆け引きと緊張感――セキを貶めようとして逆に陥れられる蓮、とかね――が、あったならば面白かったかも。

なぜ蓮はセキを手に入れたいのか。「自分とセキが似てるから」って――それってつまり蓮はナルシストだってこと?……。またしてもショックを受けてしまった。

とりあえず3巻へ。

評価:カジノシーンまで★★★★★、それ以降は★★★(呆然)
威士と蓮の物語だと思ってた。それを求めるほうが少数派なのかな…。さまざまな出版社からさまざまな内容のBLが出ている昨今、エロやラブを削ってでも「血よりも濃い絆」を読ませてくれるBLが出てきたっていいのに。そういう本を読みたいと心底願ったし、実際1巻はそういう内容だったし、絵師もBL系ではないシバタさんがスタイリッシュにキメてくれたので、私は飛び上がるほど嬉しかったんだと思う。なんで1巻が面白かったんだろう?とちょっと考えてみた。「ラステロ」は、もともと私家版で出たシリーズで、文庫化にあたり、威士と蓮(そして凪)の出会い編が書かれたのだそう。2〜3巻が本編で、1巻は番外編という位置づけになるの?…ってことは、「番外編のほうが面白い」と云われる作家の番外編から、私は読んでしまったのか。そっか……。文庫派はツライね…。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
■『16』 some novels Books no,16
IZUMI TANIZAKI 2006年

『最後のテロリスト』全3巻を読み終わって、「いやさ〜、キミにオススメしてもらった『しあわせにできる』、たしかに面白かったんだけども、どっちかとゆーとキャラ的には『ラステロ』のほうがヒットしたってか、好みだったんだよね。2〜3巻の内容はともかく」と、いつもの居酒屋でオッシーに語ったらば。

オッシー:「そうだと思いましたよ。だって読書中の秋林さんの顔、すごい真剣でしたから。近寄りがたいっていうか。仕事場でだってあんな顔してる秋林さん、見たことないですもん、僕。当ててあげましょうか?…威士・蓮・凪がお気に入りなんでしょ?」

………。
ほっとけや!(←まだエセ関西弁)

オッシー:「そういえば、『ラステロ』番外編が私家版で出てますよ。買ったらどうですか?…買ったら、回して下さいね。僕もキャラ的にヒットしたんです。好きなんですよね――嘉手納が」

嘉手納って……あの「おっさん嘉手納」かっ!?

………。
お前も物好きなやっちゃな――選り取り見取りのくせに!>オッシー

…というわけで、本編の消化不良を癒してくれるだろう私家版『16』(注)を、楽天にて購入。私と同じように「ちょっと!威士と凪はどうなったの!?もっと読みたいんだけど!」と思った方がおられるかもしれないので、あえて私家版の感想をば。

(注)『16』:まだ楽天で売ってますよー。

■「棘」
「ラステロ」番外編。エピソードとしては本編1巻と2巻の間くらい?舞台はもちろん京都。背景がすべてわかって読める短編自体が谷崎作品では稀、ストレスまったくなしで読めた。嬉しい。本編をフォローする番外編というよりは小ネタ、メンツを保つために芸妓と浮気した威士、隠したつもりが凪にバレちゃった!いつもなら間に入ってくれるはずの蓮はいないし…あ〜あ、知らへんでぇ〜、凪、めっちゃ怖いからな〜♪という痴話ゲンカ話である。

「夫婦喧嘩は犬も食わない」ので、「ラステロ」と威士と凪に興味のない人にはあまりヒットしない内容だと思うが、それを抜きにしても…正味30ページほどの短編で、各エピソードが実に効果的に並べられてるね、これ。上手いなあ。その中でも、犬も食わないシーン(…)を挟んで描かれるふたりの事情、凪によって語られる「棘」の意味とそれがまったく理解できない威士――が最大の「ラステロ」ポイントだと思う。

決して甘ったるくならない。なぜふたりの間に緊張感が存在しているのか。格差カップルなのになぜ惹かれ合っているのか。甘くならないのは、「ラステロ」の世界観、凪の性格による影響を受けてるせいもあるけど、BL短編にありがちな「ヤってお終い、ほら仲直り♪」では終わらない、理由付けとなる各エピソードの持つ説得力と時間軸の切り方に上手さがあるから。それでもめっちゃエロ(=犬も食わないシーン)を入れて来たあたり――グッジョブ!である。…座布団は3枚でいいかしら?>タニザキーノせんせー

で、そのエロなんだけれども。「普段からは想像できないほど乱れる凪」にクラクラさせられたのは…威士だけじゃない、アタシもだ〜〜っ!

だって!…私、この本の前にシバタフミアキの絵で本編読んじゃったんだもん!…シバタさんのあの絵であれを想像する、だなんて――動悸・息切れ・目眩を併発、強烈なギャップ食らってクラクラだっつーの!発行当時の2006年に読んだ人(および谷崎センセ)、ゴメン!…これ絶対、「本編(1巻)→16」の順で読んだほうがいいと思う。

「誰を抱いてもいいよ。威士にとって俺が一番だって分かっているから、平気だ。でも、相手の人に情を起こさせるような抱き方はしないで欲しい」

!!!!!!!!!!!!!!!
なんて強烈なパンチライン、こんなことアタシも云ってみたーーーいっ!

威士と一緒にギャップでクラクラしたい人、楽天内C書店に今すぐアクセスだ!

評価:私家版なので評価対象外
「ラブシーンでクラクラさせられた」と書いたけれど、あの凪をあんな風にした威士も罪な男だよ、まったく。それにしても――あの状態で凪を抱えて隣の部屋へ…って、それってつまり駅(品位を損ねるので自粛)。……やっぱ威士ってスゴい。つくづく感心した。

あと、ひとつ提案があるんだけどね――ヤクザはメンツの世界だとわかってるけどさ、そんな全面防弾硝子でスモーク仕様な黒のメルセデスAMG(アナタにピッタリ過ぎ!)でお迎えだなんて、そりゃー凪にも嫌がられるって、どうせお金持ってるんだから、もう1台「凪お迎え号」を買ったら?アウディあたり――そうだな、R8選びたい気持ちをぐっと抑えてここはQ7、カラーはブルーなんてどう?>威士

■『16』にはもう1編オリジナルの短編が載っていますが、私にはコンボなヒットとならなかったので、感想はナシ。印象としてはそうだな…クリスタル文庫っぽい感じ、かな。

■「おっさん嘉手納」の下の名前がこの本で判明。鉄平ちゃん、だって♪
「たそがれて ひとり淋しく イバラ道」(季語なし)

■本日の「腐女子的任務」
谷崎作品の中では(たぶん)1番人気であろう「しあわせにできる」シリーズの久遠寺×本田より、マニア向けなのかもしれない「最後のテロリスト」の威士×凪にすっかり心奪われ、3巻読了後「あれで終わりなん!?威士は!?凪は!?なんでやー!?」とゴロついた日々を過ごしていたところ、番外編が私家版『16』に載っていると知り、慌てて楽天にアクセス、『AND,』とともにポチっっとな!購入、数日後「9/29に発送しました」メールを受信、ゆうびん問い合わせシステムで到着予定日確認をしてみたら――「9/30(日)中央郵便局に到着しました。お届けは10/1(月)です」。

― 今日は9/30(日)―

ダメだって!
今日はいるけど、月曜日は誰もいないの、受け取れないの!
でも火曜日まで待っていられなーい!

こうなったら、中央郵便局に問い合わせTELだ!

局員さん:「はい、中央郵便局です」

私:「もしもし?休日窓口さんですか?…いまネットで確認したんですけど、今日、No.***********の荷物がそちらに届いているんです。いまから取りに行ってもいいですか?」

局員さん:「は?配達はなかったのですか?」

私:「いえ、未配達状態で…あのその…ネットで確認したら『本日:中央郵便局に到着 明日:配達予定』となっていて、明日は受け取れないので、今日先に受け取りたいだけなんですけど」

局員さん:「はあ…。でも今日は12時30分で業務を終了しております」

― 現在の時刻:12時40分 ―

私:「はあ!?だって日曜日は夕方までやってるってありましたよ?」

局員さん:「すみません、10/1民営化スタート準備のため、今日は通常より早く閉めさせて頂いたんです」

私:「えええええええええ!?そんなの困りますっ!今日受け取れなきゃヤダ!たった10分の差じゃないですかっ!なんとかしてもえらえませんか!?」

局員さん:「そう云われても…」

私;「そこをなんとか!」

局員さん:「わかりました。荷物はたしかに届いておりますのでお渡しします。ただし窓口は閉まっているので、そのまま駐車場の前の、仕分け業務場所のドアのところでお渡しすることになりますが、そこまで来て頂けますか?」

私:「ありがとうございますっ!すぐ行きますっ!」

局員さん:「どれくらいで着きます?」

私:「いまから30分後くらいかな」

局員さん:「……」

私:「…徒歩なんです」

局員さん:「何人かいると思いますので、誰でもいいので声をかけて下さい」

私:「わかりました」

雨がざーざー容赦なく降る中、秋林、40度の熱と足の痛みに耐え終わったばかりの身体にムチ打って、中央郵便局へ。

私:「あの〜すみませ〜ん…荷物を受け取りに来た秋林ですけど〜…」

局員さん:「あーちょっと待ってください。××さ〜ん!荷物受取の人が来ましたよー!」

電話対応して下さった局員さん:「あ、どうも。お電話の方ですね?いま荷物を取ってきます――はい、こちらです。身分証明お持ちですか?」

秋林、運転免許証(持ってるけど運転できない)を取り出し、荷物をゲット。

郵便局さん、どうもありがとうございました♪
年賀状、今年は買いますので!

■とりあえず『16』感想も明日あたりに書きます。
■『最後のテロリスト 1 〜胎動〜 』
ISBN:4576070614 文庫 谷崎泉(挿絵:シバタフミアキ) 二見書房 2007/04 ¥580
威士は関西に拠点を置く興津組の金庫番・菅生洋三の息子で、本人の意思と関わりなく次代の幹部候補と目されている。そんな威士が謎の生い立ちを持つ青年・蓮の看病を言いつけられる。頭部に予断を許さない傷を残す蓮だったが、威士は次第にその怜悧さと陰のある魅力に気づかされていく。そして、同時に堅気の世界に住む大学生・凪と出会う。凪は日々抗争にさらされる威士に安らぎをもたらし恋情をかき立てるが……。宿命によって安穏とした生き方を許されない男たちの、いびつで一途な愛を描く三部作第一弾、威士編!

現時点(2007年11月)において、秋林の2007年BL小説ベスト1作品。

書き手はシャレードの看板作家・谷崎泉。お得意ないつもの「受がモテモテ♪」コメディではなく、極道の世界に巻き込まれていく青年たち(威士・凪・蓮)を硬質な筆致で描いたシリアスな(ラブ)ストーリー、絵師は、80年代半ば某マンガの大ブームにうっかり呑み込まれて青春時代を過ごしてしまった30代以上女子なら知らないわけがない、あのシバタフミアキ(でかした!感動だ!よくぞ引っ張ってきた!うおおおおお!>シャレード編集部)、通常のシャレード文庫と一線を画するつや消しマット表紙カバーに、BL小説とは思えないスタイリッシュなデザイン――と、プロデュース側のスペシャルな気合いが感じられる1冊である。

!以下、ネタバレ注意報!

『最後のテロリスト』(以下「ラステロ」)の第1巻は、少年院を出所したばかりの18歳・威士が主人公。舞台は京都。

ヤクザの資金源となる金貸し業を営む父親を持ち、幼い頃より組幹部・氷川に目を掛けられていることから、いずれ自分は極道に身を置く運命だと気付いている威士。だが、なかなかそれを受け入れることができず、中途半端な自分を持て余す日々を過ごすうち、蓮と凪――ふたりと運命的な出会いをする。切れる頭脳と何事にも動じない冷静さを持つ蓮は、(氷川の策略で)義弟となり自分を補佐。住む世界がまったく違う凪は、ある問題を抱えており、彼に恋をしたことで威士は微妙な立場になってしまう。ふたりによって血よりも濃い絆を知る威士。葛藤に苦しみ、苦難を乗り越えながら、次第に大人へと成長していく…というストーリー。

密林の商品説明を引用しているのに、わざわざ自分でもあらすじを書いてしまったのは、谷崎泉のストーリーテリングが実にわかりやすく、そのことに思わず感動、嬉しくてたまらなかったからである。

1冊読みきりもしくは3巻ほどで終わるシリーズだと、謎や伏線を引っ張りすぎるあまり、読み手はキャラの心情把握ができず、置いてけぼりを食らったままストーリーが終了、消化不良に陥って「ああ、なんてもったいない!なんて惜しいんだ!」という印象が持たれているだろう谷崎作品(違います?>みなさま)において、この「ラステロ1」は、かつてないほど、主要キャラ…とくに威士(攻)と凪(受)が、丁寧に丁寧に描きこまれている。

――タニザキーノせんせっ!
書けるじゃないの!(←たいへん失礼)
私ゃ感動したっ!!

途中「○○年後――」と端折られたり、蓮を巡る謎(氷川との関係など)が明らかにされなかったのは、この際仕方ないとしよう、谷崎作品である以上、ちょっとはそういった個性は残されていいはず。それより――威士と凪だってばっ!

正式構成員ではないがヤクザな18歳、190cmを越える美丈夫の武闘派で、策略がなにより苦手、まっすぐな気質を持つ威士。病気入院中の母とふたりで暮らす20歳の国立大学生で、育ちがよく、凛とした美貌と強い精神力を持ち、決して逆境には負けない凪(マジ強いぞー!最強だー!)。BL版「泥だらけの純情」、育ちや環境・性格までまったく違う年下攻の格差カップル――威士が凪に惹かれていく様に胸キュンだ。出会って数日後、勢いのまま告ってみれば(「俺のもんにならへんか?」…ええわぁ♪)フラれて失恋。数年後に再会、嫌がらせから彼を守りたいと思うのに、大人たちの事情によって阻まれた上、凪本人にまで拒否される。どうにもならない気持ちで空回り。でもやっぱり俺は凪を守りたいねん――って、うわ〜〜ん!せつないよう!

!以下、激しくネタバレ注意報!

ある事情から頑なだった凪が、威士の存在が特別だと気付いて気持ちを告白、覚悟を決めて身を任すシーンは真摯だ。例のダブル三人称神視点、威士と凪の感情が交差する。威士を選ぶことは、凪にとって崖から飛び降りて落ちて行くようなもの。決めたのは凪自身、だけどひとりじゃない。威士と抱き合って落ちてゆく。威士も最後まで守り抜く覚悟を決め、凪を手に入れる――。秋林、ふたりの真摯な純愛シーンを読んでるうちに、思わず正座(居酒屋で待ち合わせ中にその姿をオッシーに見られ、「なに真剣に読んでるんですか?」…やかましいわ!今いいとこなんや!邪魔したらあかんで!!←すっかりエセ関西弁)。「俺のもん、いつも欲しいと思ってて」(威士)…パンチラインもキマったあっ!――未熟かもしれないけれど若さっていい。もう私は「初めてみたいに抱きしめ合いたいと 誰もがみな望み 夢見ている(byイナバ)」立場だから。

威士と凪には、この後に試練が待ち受けているが、ひどい目に遭って傷ついても強い凪は、自分の気ままでいられない世界に正面から向かっていかねばならない威士に、厳しいことを云ってのける。そして蓮。凪だけじゃない、あんたがいないと威士はダメなのよ!(菅生家の縁側で爪を切ってる蓮に威士が語りかけるシーンに萌え♪)…威士とふたりで興津のトップに立ってくれ!うわ〜ん!

ラストシーンも素晴らしい。別れと始まりの春――桜が目に浮かび、威士たちと一緒に眺めている気分になる。

全体を通してみれば、キーパーソンである氷川がイマイチ役割を果たしていない、ヤクザ描写が手ぬるいといった甘さがどうしても感じれるんだけども、威士と凪そして蓮の物語がたいへん魅力的だったのでノープロブレム――2巻の蓮編に期待だ!

評価:★★★★★★★★★★(1巻は殿堂入り決定!)
私の評価が異常に高いのは、文体、キャラクター、ストーリーが好みだっただけでなく、1巻の舞台が京都であるという設定にもツボを突かれたから。凪と同じ、西洋史専攻の学生として大学4年間を過ごした京都は、私にとっても特別、一生忘れられない。

谷崎センセは京都ご在住ではないと思うが、出てくる地名はいかにもとゆーか的確で、たとえば大阪→京都を車で移動なら「天王山トンネルの渋滞」を覚悟するし、凪が暮らしているマンションが北山(洒落た高級住宅街。京都で歴史を勉強している学生ならば、北山の資料館には必ず行く)、威士の実家が東山(お寺が多く伝統的で、中心街へも行きやすい)、蓮が住んでいて悪さをしていた場所が山科(東インターや大津に近く宇治へと続く住宅街で、ちょっと…な印象)というのも超納得だ。東山から山科なら、蹴上経由の四ノ宮ではなく五条回りで行くよね。うんうん。

そしてなんといっても絵師・シバタフミアキ!…ハードなヤクザ系を得意とする絵師なら、東の横綱・石原理や西の横綱・奈良千春の名前をまず思い浮べるが、この1巻は既存ヤクザBLとちょっと違う、なにかこう…真摯なドラマ性が感じられるので、たとえば奈良画伯だと禁忌や鬼畜(ごめんなさい…>画伯)、イシハーラ先生だと硬派でギャングなイメージが先行してしまうため、もともとBL系の人ではないシバタさんのほうがしっくりくると思う(1巻は)。とくに凪は美しくても女々しいわけではなく(ってか、蓮も逆らえないほどの最強っぷりだっつーの)凛とした人。カラー口絵にある凪のイラストは、ズバリそのイメージだと思うんだけどなあ…。

ちなみに、私が大萌えしたのは威士が凪と一緒にいるカット。威士の着ているジャージの胸元に「adidas」のロゴが!…やっぱシバタさんだ〜きゃっほう!!(←大バカ)…あと、爪を切ってる蓮もいいね♪

ところで。あのシバタさんが、そーゆーシーンの絵を実際にお描きになったか、一部の人(アタシだアタシ!)には大問題だったはず。結果的にあの場面は――「普通ではない威士」の色っぽさが出てて、私は良かったと思うんだけどなあ…。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
■『ダブル ―犬も歩けば棒に当たる―』『ダブル ―花より団子―』『ダブル ―論より証拠―』 (『ダブル1〜3』)
ISBN: 4344808371/434480998X/434480998X 単行本 谷崎泉(挿絵:小路龍流) 幻冬舎コミックス 2007/05 ¥898
清楚な面立ちの鴻上と精悍な容貌の村上は、高校の時に恋人同士として付き合っていたが、気まずい別れ方をしていた。あれから会わないまま、十年以上の月日が経った今、二人は刑事として再び巡り会う。未だに村上は鴻上を想っていたが彼にさけられ続け、一方の鴻上も過去への罪悪感からか、自分に素直になれないでいた。そんな折、ある爆破事件を解決する為、急遽村上と鴻上はチームを組むことになる。お互いに相手を意識しながら事件解決を目指すが…。

JUNEっぽいものを目指して撃沈した、もしくは、レーベルと挿絵イメージに助走から着地まで引き摺られ転んでしまったという印象の(申し訳ないが、そうとしかいえない)失敗作『エスケープ』から3年。多少似た設定を残しつつも、ストーリーやキャラを新たに、谷崎泉が満を持してリベンジ作に挑んだ(と私が勝手に思っている)、謎解きミステリーというより捜査に重点を置いてラブを絡めた、キャリア(年上)×刑事(年下)モノ。

まずキャラ設定に驚く。攻(村上)は大型ワンコ、受(鴻上)はそれに合わせて年上クールビューティのツンデレだ。谷崎泉でワンコ×ツンデレ――なんだかずいぶん売れ線なカップル設定にしたような感じだが、なにを書いても谷崎泉とゆーか、相変わらず受がワケあり状態で、やっぱり過去は多く語られない。そのため村上は一苦労に二苦労重ね、またもや苦戦を強いられる攻キャラである。

独特の神視点(ダブル視点三人称とでもゆーか)谷崎節が復活、主要キャラもそれぞれに動いてくれるため、『エスケープ』よりサクサクと読めるんだが――今度は登場人物が多すぎてMY脳内にて捌ききれず、「あれ?コイツ誰だったっけ?」となってしまうことしばしば。捜査モノなので、刑事だの容疑者だのとキャラが多くなるのは仕方がないとはいえ、ラブも絡んでいるし、当て馬らしき黒柳の存在はあるしで、ここはなんとかキャラを把握しておきたい…ギブミー相関図っ!と思っていたら、なんと2〜3巻に付いてきた<相関図(でも足りなかった…ガーン!)。本作に限らず、谷崎作品は通りすがりの人にすら名前があるものと覚悟したほうがいい。

!以下、ネタバレ注意報!

1巻は爆弾事件、2〜3巻は汚職絡みの麻薬捜査――捜査の進行とともに村上と鴻上のラブ再燃、鴻上の過去に千葉研修の謎などが明らかになっていく。BL系の刑事モノとして、充分読ませる作品に仕上がっている。がしかし、黒柳と鴻上の関係や、高校卒業時に爆発したという村上の思いなどが端折られ、またしても「だーかーら!みんな、そこを読みたいんだってば!>谷崎センセ」という消化不良を起こしてしまった。残念というより無念である。

残念だったのは、好みの作品ではなかったことか。おかしいなあ、年下大型ワンコはキライじゃないはず、キラキラ表紙のアレのときだって「好きだ」と云ってたのに――

↓キラキラ表紙のアレ「兄貴とヤス」(英田サキ)感想
http://diarynote.jp/d/25683/20070701.html
(「エロ不足を実感、修行する」って…英田兄貴!問題はエロじゃなくオチだってば!)

なんでだ?としばし考え、出した結論は――「受がクールビューティだったから」。勝気だったりどーしよーもないバカだったりする方が、私にはヒットする模様。また、谷崎作品にしては珍しい甲斐甲斐しい年下ワンコくん攻も、BLではよく見かけるタイプだったせいか、逆に凡庸な印象を(私に)与えてしまったらしく、村上の優しさにイラついてしまった。作品が問題というより、すべて私のツボを外してしまったということだろう。本編より、書き下ろしとして巻末についてきた番外編「磯の鮑の片想い編1〜3」(高校時代の村上と鴻上の話)のほうが面白く感じたあたり、私の差し出す「論より証拠」だな…ごめんちゃい!>谷崎センセ

評価:★★★(挿絵も好みじゃなかった…)
当て馬な活躍をすると思ってた黒柳には、まったく以って肩透かしを食らわされたよ!ったくっ!…っつーことはなんだ、当て馬まで好みから外れたということか!?(ガーン!)

今回初めてリンクスロマンス(幻冬舎)に手を出した。これはリンクスに限ったことではないのだけど、やはりSHYノベルス(大洋図書)好きには重く、ホールドがシンドイ(内容ではなく本自体に重さがあるという意)。みんなSHYのサイズや装丁を見習おうよ…。

絵師の小路龍流さんもなあ…ゴメンなさい、個人的にはニガテなタイプ。最初表紙を見たとき、村上がヤクザかと思ってしまった。BL評価は、好みやツボに思いっきり左右されてしまうもんなんだなと、しみじみ実感。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
■「エスケープ」
ISBN:4415088511 文庫 谷崎泉(挿絵:如月七生) 光風社出版 2003/04 ¥500
12年前兄が殺された事件に蟠りを残したまま関係し、一度は別れた榎本と兄の友人国枝。今また刑事として、いわくつき部署11係(通称バラ)で再会した二人の前で、過去を彷彿させる連続バラバラ事件が発生!再会しても自分を拒まない彼の本心を測りかね榎本の迷いは深まり…。すれ違う二人の想いは…。

光風社クリスタル文庫といえば、『魚住くん』シリーズ(榎田尤利)・『DESPERADO』シリーズ(柏枝真郷)・『間の楔』(吉原理恵子)といった、今はなきJUNEの名作かつ代表するシリーズに、『ドクター×ボクサー』シリーズ(剛しいら…しまった!これもJUNE掲載作品だった…)など、アクの強い作品ラインナップを抱えた、濃い目の個性がキラリと渋く光る(光ってるの!)レーベルである。でも本文フォントは妙に丸っこくてポップ。レーベルイメージに合ってないと思う。

なので、そんなレーベルに谷崎泉作品があるとは思わなかったよーっ!でも絶版で手に入らないよーっ!どうしよー!?…と困っていたら、N駅前にある某古本屋チェーン店の棚に陳列されているのを発見。即日捕獲。以下感想。

!以下、ネタバレ注意報!

――苦しい、重い、つらい。
ストーリーの内容やプロット(構想・筋立て)ではなく、展開が。サクサクと読ませるあの谷崎泉が、もがいて苦しんでいる。レーベルのイメージ(たぶんこの場合「DESPERADO」)と、絵師・如月七生さんの挿絵に、引きずられているかのよう。書き手の迷いが伝わってくるため、読み手も同調してつらくなる。

作品のカテゴリとしてはミステリー系BL(刑事モノ)になると思うのだが、ミステリーとBL、正直どっちつかずの印象。主要キャラによる捜査に面白みがないし、唐突に犯人像が浮かび上がり、よくわからないうちに事件が解決しているため、ミステリーとしてはどうにも消化不良。BLとしてみても、ラブよりも部署11係(通称バラ)の人間関係に描写が割かれた上に、ラブシーンは数行、ストイックを通り越したキャラは虚無僧のようで味気ない。榎本と国枝が「焼けぼっくいに火」となっかなかならない理由――どんな過去がふたりに影響を与えているのか――この作品でも後半にならないとわからないため、カメより遅いラブ進展に、焦らされるどころかまたもやイラつく。そして過去が語られても、国枝がなぜそこまでこだわっているのか、イマイチわからなかった。

それでも「つまらない」と切り捨てられないのは、これもまた雰囲気が悪くない作品だからで、たとえば榎本が国枝に対しもう少しドラマティックに動いてくれたり(20代で若いんだから)、過去や秘密を持ち越し過ぎないで、早めにふたりの事情がわかって、さらに国枝が素直になっていたら、BLとして共感を得たかもしれない。

ミステリー調な作品は初めてだったのか、素材はいいんだけども、まな板の上でどう切ったらいいのかわからない――素材だけで勝負し、失敗したという印象の1本。雰囲気は悪くないだけに…ああ!もう!本当に惜しいったら!

評価:★★☆(惜しい作品を「つまらない」と切り捨てられない)
センセにも失敗したという自覚はあると思う。この失敗が経験のひとつになり、また勉強となって次に繋がるはずで――リベンジだ、リベンジ!

カバーデザインについて少し。クリスタル文庫さん、あのね――如月七生さんによる濃厚なブラウン調の絵に、カジュアルな丸ゴシック風フォントでネイビーのタイトル文字って、なんじゃそりゃ!?…雰囲気ブチ壊しだってば!バカもんっ!…ここはやはりイタリックがかった明朝体を選択するのがベストじゃないのかっ!?

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
■『地上に堕ちる間に』
ISBN:4773002972 単行本 谷崎泉(挿絵:北畠あけ乃) 笠倉出版社 2005/06 ¥900
寄り添うように育ち、岳雪が何よりも大切にしてきた幼馴染み・諒。幼い頃のまま盲目的な信頼を寄せてくる諒への気持ちを持て余し、重荷に感じた後ろめたさから、諒と離れようとする岳雪。諒は全てだった岳雪を突然失う絶望に傷付きながら、笑って送りだそうとする。すれ違いながらも、お互いへの離れがたさが恋だったことに気付くふたりだったが…。たったひとつの恋が成就する、ピュア・ラブストーリー。

現在、購入可能な谷崎泉作品の中で、もっともリリカルな文体で以って、もっともセンシティブなストーリーが綴られている1本。

本当に冬が好きなんだろうな。キャラに冬がらみの名前をつけることが多い谷崎センセだけども、作品まるごと冬や雪をイメージさせているあたり、あとがきを読まなくたって本作が特別なポジションにある作品だとわかる。

★B’zのミニアルバム「FRIENDS II」を聴きながら読むことをオススメします。

!以下、ネタバレ注意報!

ある秘密と事情から、岳雪は小さい頃から諒の傍にいた。恋人ではないけれど特別な関係だ。諒にとって岳雪は「神様」、彼を愛しているのだが、その気持ちを抱えるだけで伝えてはいない。大人になって、ふたりはそれぞれ仕事を持ち、自立しているものの、諒は精神的に岳雪を頼っている(が、そんな素振りを本人は見せようとしない。でもバレバレ)。岳雪は昔のように諒を重荷にはしていないようだが、実際どう思っているのかわからない(重荷にしていた頃の話がもっと欲しかった)。そこにフランス人デザイナーのクリストフが諒に接近してきて、ふたりの関係に変化が…という設定。

小さい頃から思い続けたたったひとつの恋、後にも先にも諒には岳雪だけ――ピュアな初恋が大人になって成就するのは感動的、実際にはありえないだろう恋に、ピュアな心が磨耗している私なんかはやっぱり憧れてしまうんだけれども、ドラマティックに盛り上がらないまま時間が流れていき、次から次へとシーンが移り変わっていくのがとにかくつらい。諒の心情描写は丁寧だが、岳彦が諒をどう思っているのかよくわからない。クリストフでいいじゃんか、とまで思ってしまう。諒が抱える「ある秘密と事情」(とても悲しい)がなかなか語られないため、焦らされてヤキモキというのを通り越して、イライラする。

最後にふたりの思いが通じ合うシーンは感動的なはずなのに、モタついたぶんスッキリせず、なんだか「冬」「雪」というイメージとシチュエーションに、ストーリーが流されていったように思えた。残念。

雰囲気が素晴らしい。決してつまらなくはない。
とにかくもったいない…そんな作品。

評価:★★★(もっとドラマティックだったらなあ)
当て馬がガイジンでフランス男っつーのは、やっぱ腐女子ドリーム?…「いつまでも待つ」だなんて、当て馬の定番セリフとはいえ、云わせた諒も罪な男だなあ。クリストフもせっかくフランス男なんだから、そんなあみんなこと云わず…って、近くのあみんより遠くの神様、登場したときからクリストフの負けは決定的だったか。諒に会うたびに花を贈ってたなんて、女扱いしたあたりマズかったような気も…。

本作の表紙を見て「うおお!北畠あけ乃さんだ!センシティブ系の!」と、ちょっとだけ驚いた。谷崎センセとは(たぶん)初コラボ。大物/売れっ子絵師さんが、谷崎作品に絵をつけている印象があまりない(陸裕さん除く)ので、売れっ子絵師である北畠さんの抜擢が嬉しかったし、実際ピッタリだと思った。クロスノベルスはセンシティブ系作品が多いレーベルのように(私は)思えるので、谷崎センセもレーベルに合わせて作品をチョイスしたような感じがする。う〜む。

諒と岳雪の故郷・金沢は、たしかに雪が降るし、雪国といっていい都市のひとつだと思う。でも新潟や長野より降らないし積もらない。本格的に降り出して「うえ〜ん、雪かき…」となるのは、1月中旬以降。12月はさほど降らない(から、そんな時期にドカ雪降った2005年、みんな油断して慌てた)。やっぱ雪化粧の兼六園イメージが強いんだろうな。市民は雪が降る前に湿気との闘いだ!…加湿器なんてとんでもない、除湿機フル稼働!

こんな現実的なツッコミしているなんて、やっぱピュアな心が磨耗しきって崩壊してるね…>私

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
■『AND, (I can make your HAPPINESS)』
I can make your HAPPINESS SPECIAL BOOK 2007
IZUMI TANIZAKI

最終巻を読了したとき、余韻を残す終わり方について、「泣いたって笑ったってLife goes on(byイナバ)」「最後に打たれたのはピリオドではなくカンマ」という感じでとても良かったよと、いつもの居酒屋で目を細めながらオッシーに語ったらば。

オッシー:「あの〜…感慨深げなところ、申し訳ないですけど…私家版で出てますよ、続き。しかも最終巻発売後に出た本が何冊かあって、そのうち2タイトルが『Life goes on』『AND,』。偶然って怖いですね」

………。
谷崎センセと時差テレパシー?

それとも星座のエレメントが風とか?…違います。やぎ座だそうです。
血液型がAB型とか?…違います。B型だそうです。

というわけで、楽天に出店している某書店にて『AND,』(と『16』)を楽天ポイント使用して購入。この手の本を通販したのは、「誓ったはずだぜ!キャプテン2」」以来、遠い目になりながら、以下感想。

■「秘密の花園」
「本田、殿の実家へ行く」編。本編後半の展開がマジメだったせいで、私すっかり忘れてたよ!「しあわせにできる」=「本田モテモテ騒動記」だってことを。とゆーわけで、「殿のご母堂の誕生日お祝いパーティ参加のためにベルサイユで江戸城な実家へ赴いた本田、久遠寺家全員(昴不在)+徳永黄門様にモテて困っちゃう〜♪」の巻、である。あと特記すべきは…そうだな、各務の婚約か。本田がショックを受けるのもわかる、あの各務が本田差し置いて(ってヘンだけど)人生のひとつの節目、結婚をするっつーんだもの。めでたいけど心中フクザツだ。

そして、本編でも語られていたように、薔薇の栽培と交配が趣味という殿のご尊父・巌さん。文庫収録の番外編では徳永黄門様視点だったせいか、ずいぶんとキツめの性格をお持ちだと思ったのに、今回は意外と丸く感じた。年齢のせい?本田のせい?息子三人ホモ遺伝子をちらつかせてるせい?…ま、「果実を見れば木がわかる」というわけで、巌さんも本田ダイスキーと判明、ぜひとも「雪彦」という薔薇を(殿にナイショで)作って欲しい。ところで巌さん。さすがにご自身の名前「巌」という薔薇なんて作ってないでしょうね?

■「哀愁のハワイ航路」
「森田家出、ハワイ逃亡記」編。徳永家の秘書で、独身貴族「結婚できない男」森田さん。とうとう結婚包囲網に疲れてしまい、仕事を投げ出してハワイへ逃亡、というお話。うん、まあ、あんな 悪代官 社長の傍にいたら、どうやったって風車の矢七は結婚できないよね。結婚しても「仕事と私、どっちが大切なの!?」とかなんとか奥さんに云われそうだー。で、その森田さん。今回初めてお名前が祐一さんであると知りましたよー。そっかそっか。祐一さんだったのか。…個人的には徳永家の長女・深雪ちゃんといい仲になって欲しいと思うけど、20歳以上年離れてるからなあ。え?結城さん?結城さんなんですか??…殿だけでなく、映にまで振り回されるんですよ?いいんですか??

評価:私家版なので評価対象外
『しあわせにできる4』の感想(http://diarynote.jp/d/25683/20070919.html)で、「もしかして本田のいない隙に、殿のお世話係でハウスキーピング担当者が、こっそり本田の部屋に潤滑剤を持ち込んで補充してるんじゃないのか?」と書いたら、マジいたよ!殿のお世話係「赤塚くん」という担当者が!(「秘密の花園」で登場)…彼は白金の本田・久遠寺邸に出入りを許可され(本田了承済)、ふたりの不在中に掃除や洗濯などをしているらしいが、三田独身寮時代もこっそり出入りしていたとみた(だって、殿がタンスに自分の衣類を入れたりなんて想像できなーい!)。そっかそっか、キミだったのかー。いや〜、毎回すまないね、ホントお疲れ様。本田と殿に代わり、そしてファンを代表してキミに感謝だ!…殿に補充を頼まれなくたって、たぶんもう減り具合で「今日は1本にしておこう」といった判断をしていると思うが、殿はああ見えて意外とロマンチストだ。イベントやアニバーサリーのあとは必ず補充…いや、掃除をしにきてくれ!
■『しあわせにできる 12』
ISBN:4576070606 文庫 谷崎泉(挿絵:陸裕千景子) 二見書房 2007/04 ¥560
本田の仲介によってかつての共同経営者・藪内と和解した久遠寺は、余命いくばくもない彼から会社を引き継ぐべく日芳退社を決意する。一緒に新しい会社で働こうという久遠寺の言葉に、本田の心は揺れる。想いが徐々に身の内から溢れ、言葉や態度に表れてゆくことへのおそれ、職場が離れすれ違いが増えていくことへの不安…。一方、久遠寺の退社を知った3課の面々は情報収集に躍起。東郷の意外な行き先も決まり、プロジェクト2課と合同の送別会へと話題は流れていく。少しずつ、それぞれの道が分かれていく仲間たち。久遠寺と本田もまた、二人で歩む人生を誓い合う──。書き下ろしは本田の早とちりも微笑ましい送別会幹事奮闘記。シリーズ最終巻!

「それぞれの人生、わかれても道は続く編」(「しあわせ23」「しあわせ24」)と、文庫用書下ろし番外編「結城さんっ!がんばれ、各務に負けるな! 〜ビバ!送別会幹事対決〜 」(←そんなタイトルではありません!「しあわせ三角また来て四角」)収録。

!以下、ネタバレ注意報!

企業で働いている以上、いつまでも同じメンツで一緒に仕事できるわけもなく、殿は日芳退社→ロングランナー専務就任(予定)、新人・東郷は殿の後任として建材3課からプロジェクト2課へ異動、そして複雑な思いに駆られつつも日芳に残ることを決めた本田…と、それぞれがそれぞれの道へ歩み出す――最終巻である。

多忙で激務に追われる毎日に耐えられたのは、単に責任感からという理由だけでなく、たとえば一緒に働いている仲間と、なんだかんだ云いながらも楽しく仕事ができていたからとか、意思疎通が容易で「コイツとならレベルの高いことができる、こういうヤツはほかにいない」というパートナーがいて、互いに切磋琢磨できていたからだとか、問題のあった新人が成長、使えるようになっていくさまを見ているのがちょっと嬉しかったりとか、そういう充実した人間関係や恵まれた環境に、わが身が置かれていたからなんじゃないかと、ふと思うことがある。

たいがいあとになってからそう気付くもので、何年か経ち、当時一緒に働いていた仲間と近況報告のついでに、つらかったことですら「そうそう、そんなことあったよねー」と、笑い話に変えて思い出語りしてしまったりする。きっと本田を含めた3課の人間にとって、殿はそういう「思い出語り」で駆り出される人になるんだろうなあ、殿ってキョーレツだったもんなあ…と、落合さんの涙のシーンを読んでいて、(相変わらず)腐女子最末席組の私は(BLなのに!)ラブそっちのけで、しんみりそんなことを思ってしまった。別に悲しい話ではないのに。

11巻の最後で殿は本田に「一緒に働こう」と誘い、12巻はそのことで本田が揺れる。日芳でまだやりたい(やり遂げてないという意識があるんだと思う)という思い。殿と一緒に働くことの楽しさ・面白さを知っていて、なおかつ、環境が変わる彼を支える意味でも、ロングランナーへ行ったほうがいいのだろうかという思い――まさに狭間。人生の岐路だから、考えるよね…。

でもまあ、日芳で殿と一緒にあのまま働いていたら、たしかに殿と本田の関係がバレてたかも。「お互い独身で何年も一緒に住んでるんだって、あのふたり!…本田さんったら『いつもアイツがみなさんに迷惑かけてすみません』なんて、云ってたわよ〜、あっやしいったら!」。絶対いるぞ、そんな女子社員!(わははは!)

熟考した本田、日芳を去る殿、送別会を開く建材3課(&プロジェクト2課)。ほかに劇的な大事件が起こることもなく(結城さん除く)、場面は流れ、物語はしっとりとフィナーレをむかえる。だが、ラストで打たれるのは「これで終わり」というピリオドではなく、「ここでちょっと区切らせてね」というカンマ。本田と殿のストーリーは、新たな章をむかえ、そして続いていく。山あり谷あり(映あり昴あり)、泣いたって笑ったってLife goes on(byイナバ)――「できちゃった♪ふたりの内面が、しみじみと描かれていいねえ…彼らの人生はこれからどうなるのかなあ…」なんてそこまで思ったBLは、依田沙江美の『真夜中を駆けぬける1・2』以来だ(…って、『真夜中〜』もシャレードやんか!)。

この私が12巻を一気読み。
面白かったです、ありがとう!>谷崎センセ&陸裕センセ

12巻のカラー口絵、最終巻らしくっていいなあ。
しみじみといいね、うん。

評価:★★★★☆(しみじみと感じ入ってしまった。半星は結城さんに)
シリーズ評価:★★★★★(後半の展開が特に好きです)
←でリンクしている夜霧のネオンサインさんが、「BLというのは100人の腐女子がいれば100通りのはまる理由があり1000通りの萌えツボがある」と書かれておられていて、ドキっとしちゃった。このシリーズでは私、人と思いっきり違う萌え方をしてしまったかもしれない。頭の中が思い出走馬灯状態だったもの。だからBLの感想になってない(すみません…)。

で、めでたく終了した「しあわせにできる」。本編読んでいる間、個人的にず〜っと気になってたのが殿のアシスタント結城さん(女性)。あんな仕事の鬼のアシスタントなんて、ものすご〜く大変だったはず。ちょこちょこっと名前が出てくる程度、「クールで事務的、イマイチ協調性がない」だなんて書かれてたけど、いったいどんな人かしら?一度ちゃんと本編中に出てきてくれないかな?と思ってたら、最後の番外編で大フィーチャー(陸裕さんの挿絵付き!)、お花男・各務くんと爆笑対決だ!わはは!…いや〜結城さん、アナタの気持ちわかる!…でも相手が悪かったね〜!わはははは!

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

■表紙キャラは、左「本田雪彦」(主人公)と右「久遠寺皇」(殿。本田の恋人でダンナ)
■『しあわせにできる 11』
ISBN:4576062093 文庫 谷崎泉(挿絵:陸裕千景子)二見書房 2006/12 ¥560
問題児だった新入社員・東郷の信頼を得て、ますます3課の尊敬の眼差しを集める本田だったが、プライベートでは久遠寺を訪ねてきた薮内の存在が気にかかっている。漏れ聞こえてくる過去の二人の確執、重病説…。その久遠寺には異動・転勤の正式な辞令が下るが、固辞したことで社内の立場が微妙なものに。人生の岐路に立った恋人に本田ができることはただひとつ「好きだ」と想いを伝えること…。一方、徳永から託された絵を静香に見せた本田は、彼女と訪れた「蘭月」でついに主人との浅からぬ関わりを知る。過去の苦い出来事があたたかな縁となり、すべてを優しく包んでいく―。シリーズ第11弾、書き下ろしは徳永家の令嬢・深雪の、かなり悩ましい父兄参加イベント。

「そして道は曲がり角へ編」(「しあわせ21」「しあわせ22」)と、文庫用書下ろし番外編「深雪の受難と試練〜勝つなら手段は選らばねえ!(by映)〜」(←そんなタイトルではありません!「令嬢のしあわせ」)収録。

ああ、なるほど、そういうことだったのかあ…と新キャラを巡るいくつかの謎が解かれ、またそれに合わせて今後のストーリーの行方が示唆された11巻。

サラリーマンをやってれば異動や転勤はつきもの。その…比較的大きな組織の会社にいた私も、いろんな人たちが、いろんなところからいろんなところへと、異動していくさまを見てきた。とくに一握りであるエリートは、もうあからさまな異動っぷり。あんなに憎憎しく思ってたヤツ(http://diarynote.jp/d/25683/20070917.html)と、どうにか一緒に仕事することに慣れ、コイツは意外と面白いかも、他の奴ではこうはいかないんじゃないかと気がついてみれば、あれから3年の月日が経っていて、心底憎いあの営業とは、いつの間にか、共通の友人であるFを連れて3人で大笑いしながらゴハンを食べられる仲になっていた…ら、なんとヤツは今度の4月に海外転勤、異動先は花の北米支社ときた。「ああ、やっぱり彼は同期の中でもエリートのトップなんだね…」と、夜9時を過ぎたオフィスのリフレッシュルームで、F(部署は違ったがコイツもエリートだった。「ゲイだから結婚できない。それはつまりここでは出世できない」と30代に入って独立)と語り合ったもんである…と、そんな思い出話は横に置いて。

!以下、ネタバレ注意報!

やっぱり殿は将来を約束されたエリート、なんと海外転勤を命じられる。

殿の様子がヘンだったのは、どうしても本田と離れたくない以上、辞令を固辞しなければならず、そうなると社内的に立場が悪くなってしまうわけであり――そのことで今後の自分、そして本田にどう影響するかに不安があったからなんだと思う。いくら久遠寺の坊ちゃんでも、会社組織のヒエラルキーに属するいちサラリーマンであり、スーパーマン(いやスパイディというべきか)並みの体力を誇り、鉄壁のポーカーフェイスを持っていても、やっぱりフツーの男なんだよなあ…と、ちょっと嬉しくなった。

そしてそんな殿を支える本田――9巻の感想で「もう本田はひとりじゃない、以前と違って理解し相談し合えるパートナーがいるんだなあ」と書いたけど、この11巻では殿がそうだ。いまの殿には本田がいる。強引で我関せず、天上天下唯我独尊で弱みを見せない殿だったけれど、本田に出会って確実に変わったね。

11巻に出てくる私の好きな一節が、それを物語っている。
(以下、本編を引用)
以前だったら本田を押し流して引き止めるのは自分の方だったのに、つい、いろんなことを考えてしまった。各務との約束、明日は仕事である本田の体調。いつの間にか、本田の生真面目さが伝染ってきているかもしれないなんて思って、まだ暖かいシーツに頬をつけて苦笑した。
11巻にはもっとドラマティックな文章が他にもあるというのに、こんなちょっとした心情吐露に(「なんて思って〜」という表現の選択、「ふいに思いが横切った」感がよく出ていて素晴らしいね。「シーツ」ではなく「まだ暖かいシーツ」としているのも、色っぽくて大人な表現だ)思わず感動、陸裕センセの描く――苦笑している殿の姿が容易く想像できる自分にビックリだ。

辞令を固辞、さらに薮内の秘密を知った殿が考えて下した決断とは。

そして道の曲がり角、人生の岐路に立たされたふたり――次はとうとう最終巻。人生は続いてもストーリーはフィナーレである。

評価:★★★★☆(谷崎センセは本田と殿が愛しいんだろうね。読んでてよく伝わってくる。半星はジャージ姿の映に)
書き下ろし「令嬢のしあわせ」で爆笑。ぎゃははははは!…映、相変わらず汚ったねー!(←ホメてます)…あんな父親を持つと反面教師になるのか、初登場の息子・蒼はとてもマジメな好青年という感じ。でもそうなると、徳永〜水戸黄門〜ジジイ→映と受け継がれた徳永家のキョーレツ個性が途絶えるの?なんだかちょっと淋しくもあり…そーいえば蒼はホモじゃないの?…いっそのこと、和哉とどうにかなるってのは?…って、そんな提案なんかしたら「腐ってます!」とオッシーに云われそうだー。

ホモと云えば。この11巻で昴が再登場しているんだけども、昴って独身なの?(40過ぎだよね?)…奥さんや子供がいるとは書かれてないような…あれ?あれれれれれれ?(誰か教えて下さーい!)…で、もし昴が独身で結婚できない男となってしまったのならば、その原因を作ったのはやっぱ殿?…うわ〜!そうだったら、そりゃー10年経ったって許せないかもしれないなあ。「私を差し置いてしあわせになるだと?しかも相手は男だ〜!?」…まだ10代の高校生だった弟に女寝取られ、10年経ってみりゃ、弟は男に夢中。そりゃプライドがミジンコになるね。お気の毒。

■判明しました!「昴は既婚」
由木さんから情報を頂きました(うわ〜ん!ありがとうございます〜!)。昴は「既婚で子供はいない」という設定だそうです。そっかそっか。昴、結婚してたのか。打算で結婚してなきゃいいけど。結婚してるくせに、まだ根に持ってるなんざ暗いヤツめ、松下由樹に石田純一を奪われても、立ち直った今井美樹を見習え!(出典:内館牧子『想い出にかわるまで』…って、なんかこれを出典すること自体、間違ってませんか?>秋林さん)…こうなりゃ本田&殿の援護射撃で密告だ!奥さ〜〜ん!旦那さん、男に睡眠薬飲ませて、裸に剥いて、「ナインハーフ」ごっこして、ちゅーまでしてましたよ〜!?ヘンタイですよーっ!?いいんですかあ〜!?

そして蒼くんはホモではないらしいです(やっぱり)。残念!…って、「このシリーズで好感を持てるのは、気が付けば主人公の周りはホモばかり、という図式になっていないところだな」とかなんとか3巻の感想で書いてたじゃんよう…>私


ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

■表紙キャラは、正面「久遠寺皇」(殿。本田の恋人にしてダンナ)と、後方「薮内直嗣」(久遠寺の元共同経営者。ロングランナー社長)
■『しあわせにできる 10』
ISBN:4576061399 文庫 谷崎泉(挿絵:陸裕千景子) 二見書房 2006/09/28 ¥560
久遠寺の心配をよそに、仕事をしない新人・東郷の面倒を見ると決心し、出先に連れ出した本田。そして、その日から東郷の態度が変わり始める。だがプライベートでは、白金宅を訪ねてきた薮内が久遠寺のかつての共同経営者で、彼を手ひどく裏切った男と知り動揺する。本田は薮内のことを知ろうと堂島にそれとなく水を向けたつもりが口を滑らせ、同席していたまゆりに久遠寺との関係を気づかれてしまう。精神的つながりの強い彼女の反応を不安に思っていた本田に、まゆりは薮内に関する「噂」をもたらすのだが…。しあわせラブライフ編第二弾!書き下ろし『秘書のしあわせ』は、本田さん以上の苦労人?映の秘書・森田の秘められた日常生活と、アクション映画さながらの逃避行。

表紙めくって出現したイラストに、秋林、瞳孔散瞳!
そしてダウン!カウント1・2・3……9・10!
カンカンカンカンカンカ〜〜〜〜〜〜〜ン!

カラー口絵に完全ノックアウトォオオオー!

シャレードの看板絵師・陸裕センセ、グッジョオオブ!
(カラー口絵に桃色吐息の秋林、電車の中で思わず凝視30秒)

!以下、ネタバレ注意報!

「本田、新人調教教育開始!編」(「しあわせ19」)に「殿とまゆりと東郷の事情編」(「しあわせ20」)と、文庫用書下ろし番外編「独身貴族はつらいよ〜打破せよ!森田結婚包囲網〜」(←そんなタイトルではありません!「秘書のしあわせ」)収録。

3課は新人・東郷を巡っててんやわんや、本田は敏いまゆりに殿との関係がバレて焦り、殿はなんだかいつもと違っておかしく、薮内は殿を手ひどく裏切った過去があるくせに、なぜいまになって突然目の前に現れたのか?…と、さまざまな人間関係が綴られる10巻。

年齢を重ねていき、会社だ家庭だ親戚だ友人だ…と、しがらみが多くなるにつれ、四六時中恋愛のことで頭がいっぱいだなんて、学生みたいなことを云ってるわけにはいかない、大人で社会人な本田と殿である。なにをいまさらそんな当たり前なことを、大人になればトーゼンじゃん!と云われそうだが、ラブまっしぐらキャラとストーリーが多いBLで、読み手にそんなことをしみじみ思わせる作品は、少ないような気がする。そんな中、できちゃった♪後の「しあわせ」シリーズがまさにそれ。渋い展開かもしれないが、私は支持したい。

10巻で印象的だったエピソードは、新人・東郷を巡る騒動か。東郷に対する本田の姿勢、次第に変化を見せ始める東郷、そして彼自身が本田に直接告白した「やる気がないのに辞めずにいる理由」――読んでいて、激しく共感・同意してしまった。

どんないまどきの新人だろうと、なにか理由があるからこそあんな態度を取るわけで、東郷からその理由が語られたとき、ああ、これはありえる話だなと思った。そして私も本田とまったく同じ意見だ。親身になるほど本人を知っているわけじゃないし、別にいい人になりたいわけでもないが、まだ数ヶ月なのにもったいない、ここでいろんな経験を積んだって悪くないのにと思ってしまう。でも自分がどうこう云ったところで、本人が自分で気付かない限りムダ、わからない話だろう。だったら、先輩として同じ部署に働く人間として、どういう態度を取るのがベストか。結局、お人よしなのかもしれないけど――やっぱり切捨てなんてできない。…わかるなあ、うん、わかるよ…>本田

…とまあ、本田(と3課)が新人に振り回されてる間に、殿の様子がちょっとおかしい雰囲気になってきた。妙に甘えただ。風呂だけで終わらないときたもんだ。なんだかおかしいんだけども、殿はやっぱり殿、相変わらずな察しの良さで本田の話を優先させる…が、本田も多忙な殿を気遣ってなかなか話を切り出せずにいる…と、おーい!マジで夫婦のようになってきたぞー!

評価:★★★☆(サクサク読める。そーなの、デキる営業は外見からして違うのよね>東郷くん)
カラー口絵は、本編の「殿の甘えたさんシーン」を描いていると思われる。9巻の感想で「ストーリーの続きを早く読みたいばっかりに、エロをすっ飛ばして読んでる」と書いたが、今回は目を見開いて読んだぞ!通勤電車の中で!(←自慢してどーする?…って、それ以前に自慢になるのか?>私)

女性キャラについて少し。たぶん、女性キャラの中でまゆりの人気は高いと思うんだが、私はさほど好きでもないかな(キライではない)。落合さんのほうが好き(そして結城さんだよ、結城さん!アナタに同情だ!)。なんつーかその…まゆりのような、自己完結しすぎてかっこよすぎな女性って、憧れる人は多そうだけど、私だったら深くは付き合えない。まゆりには女性の親友がいなさそうな気がする。いなくても本人はまったく気にしちゃいないんだろうな。「私は私だから」ってね。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

■表紙キャラは、正面「本田雪彦」(主人公)、後方「逢坂まゆり」(本田の友人。姉のような存在)
■『しあわせにできる 9』
ISBN:4576060503 文庫 谷崎泉(挿絵:陸裕千景子) 二見書房 2006/05/30 ¥560
久遠寺がかけがえのない存在だとやっと伝えることができた本田。しかし多忙を極める二人に、なかなかゆったりとした甘い時間は訪れない。しかも素直に「二人きりで過ごしたい」と言い出せない本田は、ゴールデンウィークでさえ3課のメンバーに振り回されるハメに。そのとき訪れた料理店『蘭月』の主人が、初対面の本田に対して奇妙な様子を見せたことで、またしても久遠寺の警戒心を呼び起こしてしまうのだが…。一方、3課には待望の新人現る!ところがその新人はコミュニケーションどころか、仕事も完全拒否のとんでもない問題児で…。しあわせラブライフ編・第一巻。書き下ろしは落合家with各務のメルヘンゴージャス旅行に巻き込まれた本田さんの不幸編。

!以下、ネタバレ注意報!

「なかなかふたりきりになれなくて…編」(「しあわせ17」)と「蘭月主人、薮内、トンデモ新人・東郷、新キャラ続々登場!編」(しあわせ18」)に、文庫用書下ろし番外編「GWは熱海でメルヘン地獄紀行」(←そんなタイトルではありません!「しあわせ黄金週間」)収録。

紆余紆余紆余紆余曲折を経て、ようやくできちゃった♪殿と本田、ふたりの結婚生活人生の第二章幕開けなった第9巻である。

BLだけに限らないと思うのだが、恋愛モノは往々にして「駆け引きやすったもんだの末に、ふたりの思いが通じ合った瞬間」が読み手にとって(書き手もそうだろうが)最大の盛り上がりであり、そのピークを過ぎるや一気にトーンダウン、読者の興味とストーリーの面白みが比例して冷めていくものだが、本シリーズはもともと「個性的なキャラが大勢いて楽しい、書き手が伏線張り好きである、最初からルーチンワーク的な日常を基本描写としている」なためか魅力ダウンすることなく、できちゃったその後でも本田&殿(と3課)の物語が丁寧に語られていく。まさに「泣いたって笑ったってLife goes on」(by イナバ)、どんな事態になろうと人生は続いていくものなのよね…と、なんだか悟りの境地にリーチをかけそうな勢いの「しあわせ」シリーズである。

そんなわけで、第二章スタートとともに新しいキャラ3名が追加。うち2名が(谷崎作品らしくやっぱり)謎を持ったまま描かれているので、殿と本田、それぞれのキーパーソンになるだろうと思われる。まず殿側キャラとして薮内。なにやら本田の知らない殿の過去を知る人物のようで、(なんとなーく)過去の仕事絡みかな?という印象。本田側キャラとしては、料亭「蘭月」の若き主人。本田を知っているようだが本田自身は過去に彼との面識はなく、私も「ハテ??どうなるの?」。わかることと云えば、ご主人登場によって殿がジェラスガ〜イ決定、「あ〜あ、夜がタイヘンだ、ガンバレよ!>本田」ということくらいか。

そして、猫の手も借りたい激務の3課に配属された東郷くん(イケメンだ!)。新人のくせになーんで仕事を堂々拒否するのか。ぜったいになにか本人に事情があるわけで――と、やっぱりちょっとした謎を抱えつつ「待て!次巻」である。仕事でいろんな新人見てきた私としても、彼を抱えた3課の今後に興味があるんだよなー。

新人のことで語り合う本田と殿――社会人としてよくある話で普遍的な悩みだと思うし、特別な場面というわけでもない。ただ、会社の人間関係について対等の立場で本田に意見や助言を云う人物は、(彼の生い立ちと性格を考えれば)いままでいなかったと思われるだけに、もう本田はひとりじゃない、以前と違って理解し相談し合えるパートナーがいるんだなあ…と妙に感じ入ってしまった。

評価:★★★☆(サクサク読める。東郷のことで悩む本田以下3課のメンバーに思わず共感、豊川課長に同情だ)
殿と本田が夫婦になって困ったことがひとつ。ラブシーンがマンネリになってきちゃった。ストーリーの続きを早く読みたいばっかりに、エロをすっ飛ばして読んでる自分に気付いたー!いいのかそれで!?BLだぞ!?>私

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

■表紙キャラは正面が「本田雪彦」(主人公)、後方が「各務保」(本田の後輩)。

■森田さんの名前が「祐一」と判明しました。でもシャレード文庫ではなく、IZUMI TANIZAKI『AND,』を読んでわかったつーがなんとも…。……。
■『しあわせにできる 8』
ISBN:4576051334 文庫 谷崎泉(挿絵:陸裕千景子) 二見書房 2005/08/26 ¥560
君を皇から奪おうと思っている―久遠寺の兄・昴にそう宣言され、キス写真を撮られた本田は、誘われるまま昴の待つホテルに一人で向かう。罠と知りながら、言葉巧みな昴にからめとられ薬を盛られたうえ、ベッドルームで服を脱がされ絶体絶命のピンチに陥るが―。兄弟の確執を知った本田は認められずにいた久遠寺への想いと素直に向き合い、ついに二人はお互いの気持ちを通じ合わせることができた。しかし昴の策略は終わらず、始まったばかりの白金での同居生活も風前の灯火。姑息な手口に、ついには怒り心頭に発した久遠寺が公衆の面前で昴を殴りつけるという事態に―!?波乱の第一部クライマックス!書き下ろしは本田の出生の秘密編。

!以下、ネタバレ注意報!

「本田自覚!吹き荒れる愛の嵐編」(「しあわせ15」)と「急転直下!威光おそるべし編」(「しあわせ16」)に、文庫用書下ろし番外編「それぞれの出生秘話 〜映は映、三つ子の魂百まで〜」(←そんなタイトルではありません!「しあわせの色彩」)収録。

一大クライマックス、怒涛のごとき8巻。
焦点はやはり自分の中の黙示録を読む本田である。

写真をネタに天敵・昴から呼び出しを食らい、殿には内緒で高級ホテルへ乗り込んで行く本田、緊張の面持ち――と、「しあわせ」シリーズにしちゃーベタなシチュエーションから始まる8巻、「部屋に行った→ビールを飲んだ→睡眠薬入りだった→気を失った→気が付いたら裸でベッドに転がされていた」と、このアタシですらそのネタで軽く数十冊は読んでるんじゃないかと思うくらい、さらにベッタベタなBLクライシスに晒されてしまう主人公・本田、人生最大のピンチである。

――今度こそ絶体絶命か!?

殿は海外出張でまたもや不在、そんなときに本田を助けてくれる人といえば――そう…風車の矢七こと、徳永家の秘書・森田!なんと今回は 悪代官 映とともに登場である。

だが、この8巻はその「危うし!本田」場面(P9〜P26上5)がクライマックス(≒読みどころ)ではない。助けられた本田が徳永家にいったん避難、映から久遠寺兄弟の軋轢を聞き、殿の過去を知って白金の自宅へ戻ろうと徳永家を出た――その後、P40下1〜P56上2こそが一大クライマックス!…運命の相手は殿ただひとりであると悟る本田、そして、昴との一件でダメージを受けた本田にそのわけも訊かず、優しく大切に扱う殿(ラブシーン込み)――なんて素晴らしい、私は大感動した!…ここを読まずして、「『しあわせ』シリーズを知ってるもんね♪」と云ったらアカンよ!!>お嬢さん方

とくに、徳永家を出て自宅に戻って居間で殿を見つけるまで(P40下1〜P44下5)の、本田の心情描写が素晴らしい。

もう大人だし、自分もいろいろあったわけだから、過去のことは割り切って冷静に考えられる。もっと正確に云えば、過去が問題なのではなく、自分に必要なのは今現在の久遠寺であり、そして彼との未来である。

出会ってまだ1年ちょっと、お互い育った環境はまったく違うし、さんざん振り回され、会話が成り立たないこともあったけれど、仕事で組み、なんだかんだで一緒に住んでみれば、次第に彼を理解していく自分がいた。それは認めたくなかった。今まで人に甘えたことがなく、どうして甘えていいのかもわからなかった自分だから、今回もひとりで解決しようとした。でも昴はこれで終わらない、これからも自分を通して久遠寺に圧力を加えてくるだろう。なんとしてでも阻止したい。でもいまは昴から受けたダメージでボロボロだ。そんな状態を久遠寺に知られたくない、でも家に帰って、久遠寺の存在を知らせるものを見ただけ、そして自分にしか見せない表情を向けてくれただけで――その存在に手を伸ばし、助けを求め、すがりたいと思ってしまう。それはどういうことか?

本田は、自分の中の黙示録を読み、自覚する。

…と、ハーレイクインに展開していくのだが、ここで突然ワイルドカード投入!…徳永祖父によって(完全にとは云えないが)一気に問題が解決。なんと昴は祖父に頭が上がらない!…ラスト近くで本田(と殿)を昴から救うあたり、祖父というより水戸黄門である。助っ人は矢七に水戸のご隠居だなんて、ちょっと羨ましい話だー>本田

番外編「しあわせの色彩」もいいね。徳永祖父視点で、殿と本田出生、映が養子に出されるいきさつ(小学生の頃から映は映、ガキんちょのくせに今と変わらない映っぷりに大笑いだ!)、静香お母さんの恋が描かれており、何人ものキャラクターにそれぞれのエピソードを上手く相関させた1本のストーリーになっている。不自然さがないことに驚き、そして上手さに悶えた。素晴らしい!

評価:★★★★★(素晴らしい!ブリリアーント!)
しっかし…根暗な理由から「皇から奪ってやる」とばかり、「ナインハーフ」ごっこまでして本田にちゅーをする昴…って、BL的には実に正しい展開とはいえ、お〜い!ノンケの男がいきなりそこまでできるか?…私だったら、そっちの人を呼んで本田を襲わして、高みの見物だな(オッシーいわく「秋林さん、昴より鬼畜です」…違うってば、BLの読みすぎだってば!←そっちもどうかと)。結局なんだかんだ云ってアナタも弟と一緒、そっちの気があるんじゃ?>昴 

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。

■表紙キャラは正面が本田(主人公)、後方右が久遠寺(殿)、中央が各務(本田の後輩)、左が今井(各務の同期)。
■『しあわせにできる 7』
ISBN:4576050648 文庫 谷崎泉(挿絵:陸裕千景子) 二見書房 2005/04/29 ¥560
白金の家への引っ越しも無事完了し、不本意ながらも久遠寺との公認同居生活を始めた本田。3課連中の花見場所まで提供し嵐は過ぎ去ったかに思えたが、美和の頼み事の件で望まぬ出会いをした昴が再び本田の前に現れる。時期を同じくして、日芳上層部では本田を1課へ異動させようという動きが見え始め、久遠寺には北京転勤の噂が…偶然とは思えない展開、さらに追い討ちをかけるようにパーティの招待状と久遠寺とのキスシーン写真を手渡してきた昴の目的は?兄弟の確執の板挟みになりながらも、久遠寺にそれを告げられない本田の選択は―。書き下ろしには久遠寺の高校時代、渡米直前のエピソードを収録。緊張のシリーズ第7巻。

シャレード文庫は基本的に惹句付きオビを付けておらず、その代わり、表紙見返し部分に作品のパンチライン(決め台詞/オチ)と思われる文章を抜き出してある。必ずしもラブシーンのそれとは限らないのだが、7巻の選択は、6巻の流れを汲んでいてとてもいい。ここをどの文章にするかは…作家が決めるの?それとも編集部?

!以下、ネタバレ注意報!

「同居スタート&昴再登場」編(「しあわせ13」)と「マリーナデート」編(「しあわせ14」)に、文庫用書下ろし番外編「まゆりひとすじに生きる!(by堂島)」(←そんなタイトルではありません!「等分のしあわせ」)収録。

一軒家で晴れて同居生活スタート、新婚さんの雰囲気の醸すふたりに天敵再登場、ついうっかりあんなところでちゅーしたばっかりに、昴が出てきちゃったよ〜、あ〜あ、せっかくいい雰囲気だったのに。簡単にはいかない、若さと自惚れってのは怖いねえ?>殿

もともとこのシリーズは、「本田or殿が深夜に帰宅→風呂(先に帰ったほうが湯を張っている)→どっちか入る→話す(でもすれ違いが多く、なかなかその機会に恵まれない)→寝る(文字通りの場合→殿が先に寝る…いや違うな、やっぱ本田だ、そっちの場合→本田、殿にクタクタにさせられ、気を失うように寝る)→本田5つの目覚まし&殿によって起床→出勤」と、騒動はいろいろ起きても、基本的にごくごくフツーの日常が繰り返されているのだが、なんつーか…住まいが一軒家になって、さらに本田が殿を意識し出すと、そのルーチンワークが一気に新婚さん風になるなあ。

でもそうは問屋…じゃなく昴がおろさず、なにやら会社絡みの工作が始まってる模様。なぜ昴はあからさまな邪魔をしてでも、殿を陥れたいのか。いったい過去になにがあったのか。書き下ろし番外編で、久遠寺家の長兄(昴)と三男(殿)の確執が生まれたわけがちらりと描かれている。なるほど、そっかそっか、そーゆーことか。10年経ってもまだ根に持ってるなんざ、昴は相当暗いヤツだな。血が繋がってるだけに、余計忘れられない…とか?「思い出に変わるまで」と、簡単にはいかないようだ。

嵐の前の本田・久遠寺邸という印象の7巻。

評価:★★★(サクサク読める。しあわせはまだちょっと遠いね)
昴もなあ…「弟が本気で驚いた」って、そんな本気うんぬんよりまず、弟の相手が男だという事実に驚かないか、フツー?…あ、久遠寺家だから長兄もフツーの感覚を持っていないってことか。そっかそっか。それにしても谷崎センセは攻キャラの不法侵入ネタをよくお書きになる。殿も本田邸(寮)に不法侵入した過去を持つが、今度は昴まで本田邸に侵入だ。さすが兄弟である…って、ちゃんと靴脱いだんでしょうね?>昴…だってフツーじゃないし。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。

■表紙キャラは「久遠寺昴」(久遠寺皇の兄。久遠寺家の長兄)
■『しあわせにできる 6』
ISBN:4576042378 文庫 谷崎泉(挿絵:陸裕千景子) 二見書房 2004/12/22 ¥580
突然退寮を申し渡された本田にあちこちから物件提供の申し出が。久遠寺セレクトのベルサイユ風(?)マンションを振り切り、誰にも借りは作りたくないからと激務の合間を縫って部屋探しをする本田だが、なかなか条件に合う場所が見つからない。そんな時、静香個人のものだという立派な日本家屋を勧められる。遠い記憶にある理想の家そのままの建物。訳ありな雰囲気を察しつつも追及はせず、母の意向に従うことにした本田。ついに久遠寺との同居生活におさらばか!?ところが念願かなうはずの本田の目にはなぜか涙が…。書き下ろしは引っ越し騒動裏話、各務が落合家の入り婿に。

!以下、ネタバレ注意報!

「本田退寮決定!こちらのお部屋はいかがか?」編(「しあわせ11」「しあわせ12」)、文庫用書き下ろし番外編「落合桜子ちゃん:本田さんのお部屋は私の手で♪」(←そんなタイトルではありません!「しあわせ引越し大作戦」)収録。

いつまでも独身寮にいれるわけがなく、入寮経過年数が6年を過ぎたため、退寮宣告を突然受けた本田。それでもさすが建材3課の愛され男とゆーか、殿はもちろん、実は資産家の娘である落合さん(これにはビックリ!)に、あの映を尻に敷く妻の早紀…と、次から次へと物件を紹介され、お金持ちから愛されていいわね〜、渋谷・松濤のマンションっていくらなの?あそこは高級住宅街で、ストーンハウスがあるくらいだし…と、ちょっと本田が羨ましくなってしまう第6巻である。

同じ寮に住んでいるとはいえ、入寮期間の短い殿は別に出て行く必要はないのだが、やはり「本田強制退寮」=「久遠寺自主退寮」。どこまでも本田について行く殿である。誕生日プレゼントを兼ねて本田のために…と、部屋(とーぜん家族向けタイプ)を探す姿はなんとも甲斐甲斐しく、普段クールなだけに余計ホロリとさせられた…が、趣味は相変わらずベルサイユ、サイアクである。結局は、母・静香の持ち家であるという白金(高級住宅街)の和風一軒家に落ち着くのだが、これもまたなんだかいわくつきの家であり、谷崎センセによる伝家の宝刀「真実はまたあとで♪」、またしても1本伏線が張られたという印象だ。う〜む。

引越し騒動ですったもんだの中、6巻で注目すべきは――殿が本田に対して起こした「押してダメなら引いてみな」駆け引きである。

正確に云うと、駆け引きというより、ただ先手を打って先に寮を出ただけ、それ以上の話ではなかったのだが、いったん「引いて」みたことが、本田にとって殿がどのあたりの位置にどう存在しているのかを本田自身に知らしめ、殿に自惚れさせるほどの(あの殿が!である)自信を持たせる結果となった(あ、ゴメン!これ7巻の展開だー)。そしてなんと云っても、本田の自覚が決定的になった瞬間が見られたのである。その描写が実に丁寧で私は感動した。素晴らしい!

本田が否定しないよう、素直になるまで……あと一押しだ!>殿

評価:★★★☆(サクサク読める。さらに面白くなってきた!)
しっかし…静香お母さんは、「いつか雪彦が結婚して子供ができて、家族そろってこの大切な家に住んでもらえたら」と息子の(フツーの)しあわせを願って、本田に白金の家を托したんだろうなあ。まさか男と住むことになるなんて、思ってもないだろうなあ。それが知られるだろうXデーには――和哉よ!フォローを忘れるなっ!バックアップもな!

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。

■表紙キャラは「各務保」(本田の後輩で3課のお花男。ホクリーク出身だぞ!)
ISBN:4576041460 文庫 谷崎泉(挿絵:陸裕千景子) 二見書房 2004/08/30 ¥560
会社に乗り込んできた映に高級料亭・喜久田楼の奥座敷で押し倒された本田は、なす術もなく抱かれそうになっていたところを映の秘書・森田に助けられる。そのショックも癒えぬうち、久遠寺家の長兄・昴の件で美和と落ち合ったところへ突如、当の本人が現れて―。久遠寺不在中に次々起こる、なかったことにはできない厄介事の数々。兄二人を相手に久遠寺の独占欲もヒートアップ!?さらには本田さんLOVEの落合を食事に連れて行く約束までしてしまい…。年明け早々からバレンタインデーまで、お釣りが来るほどの暑苦しい愛が飛び交う本田ラプソディー。気苦労が絶えない森田の毎日を描いた書き下ろしも収録したシリーズ第五弾。

!以下、ネタバレ注意報!

「本田危うし!喜久田楼事件編」(「しあわせ9」)と「バレンタインデー騒動編」(「しあわせ10」)に、文庫用書き下ろし番外編「落としてやるぜ!〜我田引水社長と気苦労秘書の裏工作攻防記〜」(←そんなタイトルではありません!「社長のしあわせ」)収録。

殿の海外出張中にどうしても映からの誘いを断れなかった本田、とうとう高級料亭に連れ込まれ…あわや!な騒動から始まり、本田と殿の甘いバレンタイデー…となんだかBLらしくなってきた第5巻。

汚い裏工作を仕掛けて連れ込んだとゆーのに、映が本田を落とせなかった理由は簡単だ。日本酒じゃなく洋酒を出すように仕掛けりゃ良かったんだよ〜、そしたら話もそこそこ、本田はクラクラフラフラ、時間かけず一気に雪崩れ込めたのに。これは明らかに戦略ミスだ、策に溺れたな?>映 

がしかし、マジで本田と映がどーにかなってしまっても困るので、森田の活躍にはやはり感謝せねばなるまい。危機一髪のところで本田を救ってくれるあたり、秘書というよりは風車の矢七の域である。う〜ん、いぶし銀だ。

そしてようやく久遠寺家の長男・昴が本格的に登場。なにやら三男坊である殿との間には軋轢が生じているらしいが、これもまた過去が明らかになるのはとーぶん先のようで…なんだかもうどれだけ伏線が張られてるんだか、わかんなくなってきた…あーうー。

で、この5巻で特記すべき展開がもうひとつ。「バレンタインデー騒動」編で、本田がとうとう殿におねだりだ。本田は自己嫌悪に陥ってるけど、大丈夫、殿はアナタが素直になれないとわかってるし、そーいうときだけしかそーゆーこと訊いてこないでしょ?…殿による「寄り切って押し倒し」な決まり手は毎回同じ、正直云うとマンネリ化してきたけど、巻を追うごとに本田に対する気遣いが感じられるようになったので、1巻のアレを思えば、殿は相当変わったと思う。「本田→久遠寺」も形になって見えてきたしね。

書き下ろし「社長のしあわせ」の映に爆笑。汚ないんだ、これが!(わはは!)…あんな頭が回り過ぎる映を察して先手を打たねばならない森田さんは、大変だね。同情するよ、うん。

評価:★★★☆(サクサク読める。半星は、気の毒な落合さんと気苦労の絶えない森田さんに)
「あいつの後ってのが、気にいらねぇが…。あいつじゃ、物足りなくなるようにしてやるよ」(P32)って、アナタまだ順番にこだわってるんですか!?…と思いつつ、海千山千な映なだけに、マジで殿より上手そうな気がしないでもなく…。それにしても、襖を開けたら布団が一組敷かれていて…なんてゆー高級料亭旅館、いまだ存在するの?…秋林、庶民だからわかんな〜い!

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。

■表紙キャラは「森田祐一」(徳永映の秘書)
■『しあわせにできる 4』
ISBN:4576040677 文庫 谷崎泉(挿絵:陸裕千景子) 二見書房 2004/04/28 ¥560
ありえない忙しさに振り回された年内の業務がやっと終了。年末年始は掃除に洗濯、そして心ゆくまで眠りたい…そんな本田のささやかな予定を180度ひっくり返す男、久遠寺。強引な手段で飛行機に乗せられ、行き着いた先は、なんとスイス。久遠寺家所有の超ゴージャス別荘で、なぜかどこにでも現れる3課連中とニューイヤーパーティで新年を迎えることに。気持ちでは久遠寺を受け入れ始めている本田だが、そんな自分を理性はいまだ認められずにいる。帰国後、元彼女・美和と偶然の再会をした本田は、久遠寺に関わる妙な頼まれごとをされてしまうが…。本田の日芳物産内定にまつわる過去編の書き下ろしも収録した、ワーカホリック・リーマン・ラブシリーズ第四弾。

!以下、ネタバレ注意報!

「拉致られてスイス編」(「しあわせ7」)と「過去の女・美和登場編」(しあわせ「8」)に、文庫用書き下ろし番外・本田過去編「学生だけどバーテンなの♪」(←そんなタイトルではありません!「しあわせの情景」)収録。

年末の仕事先から拉致られ、そのままスイスまで行ってみれば、なんと建材3課メンバーで部下の各務や落合さんもいて…というドタバタコメディから始める4巻。久遠寺家がとんでもなくお金持ちであることより、3課のみなさんの愛すべき鈍感ぶりに笑ったなあ。

スイス行っても本田は本田で、寝てばかり(←睡眠という意)。そして相変わらずなモテモテっぷり、3課はもちろん、久遠寺兄弟だけでなく、別荘で遭遇した久遠寺祖父にまで気に入られ(これまた伏線アリ)、どうやら久遠寺兄弟の本田ダイスキーDNAは祖父からの遺伝な模様。組み込まれてちゃーそりゃー仕方がないわ、一目ぼれなのも納得だ>殿

4巻はそのほか、まゆり以外の女として美和が初登場。久遠寺の長兄となにやら関係があるようで、ここでまた1本、伏線が張られた。「待て、次巻!」というところか。

評価:★★★(サクサク読める)
2巻の感想で「潤滑剤も毎回用意いいときたもんだ。突然出てくる。いったいどっから出してくるの?」と書いたんだが、もしかして本田のいない隙に、殿のお世話係でハウスキーピング担当者が、こっそり本田の部屋に潤滑剤を持ち込んで補充してるんじゃないのか?…殿なら照れもなく指示しそうだ。「え〜っと、皇坊ちゃんからアレの補充依頼が来てるな」とかなんとか云いながら、担当者は枕の下に置いてるんだよ。疲れて帰って風呂入って寝る生活の本田は気付いてないね、絶対。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。

■表紙キャラは「徳永映」(久遠寺皇の兄)

< 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

 

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

日記内を検索