■『青春♂ソバット 』
ISBN:4091884040 コミック 黒娜 さかき 小学館 2008/02 ¥590
純情王道童貞男子×ゲイ達者男子の可愛くもギリギリの青春譜。友情と欲情の間で揺れる男子高校生たちのチン道中をボーイズ・ラブ界の精鋭が描く、イッキ発BL道!!

 ▼第1話/ボディー・ブロー▼第2話/ネリチャギ▼第3話/サマーソルトキックI▼第4話/サマーソルトキックII▼第5話/サマーソルトキックIII▼第6話/エスキーヴァ

●主な登場人物/有田悠人(この春、桜学園に入学した高校1年生。男子。ハーレムを夢見ていたのだが…)、白洲雅寛(有田の同級生。真性のゲイだが、オッサン趣味らしい)
●あらすじ/今年から男女共学になったばかりの元お嬢さん高校・桜学園。そんな“女の園”に男子学生の一期生として入学した有田悠人は、憧れのハーレム生活を思い描くも、特にモテることもない残念な日常を過ごしていた。そんなある日、自分が恋のキューピッドのつもりになっていた男女の前で、よりによって♂のほうの同級生・白洲に突然チューされたことから…?(第1話)
●本巻の特徴/誰もが恋の予感にときめく高校1年生。でもそこに、1人のゲイが加わると…!? 純情童貞男子・有田とクールなゲイ達者・白州が織りなす、つむじ曲がりな青春模様、第1集!!

♪ぴんぽんぱんぽ〜ん♪
突然ですが、お知らせです。
このまますんごい傑作が突然現れなければ、「秋林の2008年上半期BLコミックNo.1作品」になりそう、そして今年もっともホットなBLとして(たぶん)話題になりそうな『青春♂ソバット』が、4月1日重版だそうです。ちゃんと小学館IKKI公式サイトで確認しました。黒娜さんのブログによると「発行は4/6」だそう。

↓黒娜さかきさんのブログ『namakurameme』
http://namakurameme.jugem.jp/
(微力ながら、私も販促お手伝いします!押忍!)

アンケート申し込まなきゃーきゃーきゃー♪…だって応募者全員に、「ソバット版『サルでも描ける801教室』という有田、白洲のショートコントマンガw」配布なんだもーん。ちなみにそのアンケートで笑ったのは、設問「青春ソバット1の購入動機は」と「今後気になるのはやっぱり」。「まさかBL本だとは思わず間違えて買った」という方、いそうです。

それにしても、IKKIはあなどれません。

「友情と欲情の間で揺れる男子高校生たちのチン道中をボーイズ・ラブ界の精鋭が描く、イッキ発BL道!!」(IKKI公式サイトより)

いちおうIKKIは創刊時代からチェックしてましたが(茶屋町さんのサイン本『あざ』持ってるもん!「あきりんさんへ」ってちゃんと書いてあるもん!)、黒娜さんの作品が載るとは思っていなかったので、第1回を見たときはビックリしましたよ(捨井さんや語さんじゃないところがIKKIらしいけど)。IKKIは(オノさんや小野塚カホリがお描きになっているとはいえ)基本的に青年誌ですから。あ、でも「コダワリ青年誌」になるか…ま、いいや。女性作家の起用が多いし、BL作家まで引っ張ってくるので、IKKI編集部(あと東京漫画社も)はマジであなどれませ−ん。

男性にBLをオススメする気はナイけれど、ちょっと見てみたいという方には、この『青春♂ソバット』を。IKKIだと手に取りやすいですしね、ソッチ系が載ってるとは思われないだろうし。

で、私め、考えたんですけど…

「青年誌でBLを読めるのはIKKIだけ!」

…っつーのを、『青春♂ソバット』のハシラ惹句にどうですか?>小学館IKKI編集部担当さん

というわけで、「品切れで買えない!」と嘆いていた方、重版ですよ、「ヤフオクなんかで買ったりしないで」待ちましょう、というお知らせでした。
■コメントスパムに悩まされています。なんで来ちゃうんだろう…。仕方なく「DiaryNoteユーザーからのコメントのみ受付」を選択中です。トラックバックもスパムがコワイため、「不可」になっています。検索でカウンターが回るだけ、基本的にレギュラーアクセスは少ないネット場末のmyブログなので、外部の方からコメントいただくことはあまりないのですが、ご連絡やご意見などございましたら、秋林堂(別宅ブログ)までお願いします。

■『死ぬまで純愛』『帝都万華鏡 梔子香る夜を束ねて』の感想は週末になります。真剣に書きたいので時間が必要なんです…。

■今日は奈良画伯のお仕事ぶりに泣きました。今月初め、いつものように「3月の新刊予定表」で画伯チェックをしていたら、「表紙めくって、カラー口絵と裏表紙を見て、下を向いて終わる」ラヴァーズ文庫より、一瞥だけで顔がさらに下を向くこと必至なタイトルの、奈良画伯が挿絵を手がける本が25日に出ることを知り、1日遅れの今日、その本を本屋さんで買おうとしたんですけど(できれば避けたいレーベルなのにー!)――キケンです!キケン!本屋さんで買うのは超ヤバですっ!…画伯…ごめんなさい…もし店員さんにこのカラー口絵を見られたら、秋林、全身から火が出ます……なので、(やっぱり)買えませんでした。お読みになった方がおられましたら、感想をお願いします…って、まず←でリンクされてる方はお読みにならないような…。

■やっぱりヤバイので、その本の画像を出すのはやめました。

■今週末はマロンケーキを作る予定。バターが高くなり、しかも品切れが続いて、どうなってるんだか…。

■なんと!ジョージ・マイケルが北米ツアーを行うそうです。
ソースはこちら→http://eiga.com/buzz/show/11112
(ヨグって実はまだ44歳、イナバさんのいっこ上なだけなんですよね)

ところで、試写会での舞台挨拶が正味5分で終わったあのドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル/素顔の告白』、DVDの発売はどーなったんですか?…今年で3年経ちますが?って、待たされるのはいつものこと、10年後くらいになるだろうと思って待つことにします(絶賛あきらめモード中)。

↓舞台挨拶付!『ジョージ・マイケル 〜素顔の告白〜』ジャパン・プレミアの話
http://diarynote.jp/d/25683/20051218.html
(誘って下さった夜霧さんを、6Fまで駆け上らせたことが申し訳なく…)

■「『表紙めくって、カラー口絵と裏表紙を見て、下を向いて終わる』ラヴァーズ文庫より、一瞥だけで顔がさらに下を向くこと必至なタイトルの、奈良画伯が挿絵を手がける本」を、オッシーの妹さんから頂きました。……どうしよう…?

■お試しでどれくらいスパムが来るか、コメント解除してみます。もしかしたら来ないかもしれないですよね?
■『帝都万華鏡 梔子香る夜を束ねて』 鳩かなこ
ISBN:4062865173 挿絵:今 市子 講談社 2008/03/03 ¥630
すべては勘違いからはじまった――。
ときは大正。女たちがひしめき合う吉原遊廓で生まれ育った横山春洋は、帝都の一高をやめ、いまは京都で絵画を学ぶ身。久しぶりの実家で座敷にあがった春洋は、馴染み客の息子・岡野紘彦と出逢う。紘彦からのまっすぐで無垢な求愛に、心惑わされる春洋。惹かれ合うもすれ違うふたりは――。濃艶な文体で綴られる、切ない恋物語。待望のシリーズ第2弾!

ある程度読み進めれば、おのずと展開の予想はついてしまう、美しい予定調和をみせていくストーリーを追っかけるよりは、その絡みついてくる独特な文章による場面描写を読んでいるほうが断然面白い、鳩かなこさんのデビュー作『帝都万華鏡 桜の頃を過ぎても』に、脇キャラとして登場した春洋が主人公のスピンオフ作品。

前作を読んだとき、琢馬視点での京介描写がひどく冷たく(琢馬が鈍感だから余計?)、「なんだ京介ってヤツは、自分の興味のない人間は視界に入ってこない男なのか」と思ってしまい、いくらあとになって「誤解されがちだが、実は情の深い男」とわかっても、京介が琢馬の才能に気付かなければ、その存在すら背景にしていたのか、才能がすべてというのも残酷な話だよなと、のっけから京介→琢馬に萎えてしまった。その代わりというか、ふたりの共通の友人として登場した画家の春洋がひどく魅力的で、「ああ、この人の話が読みたいなあ」と思ってたら、やっぱり出た。

前作では京介と琢馬の視点チェンジがあったが、本作では春洋視点のみ。ストーリーは、勘違いから出会った紘彦に、いつしか恋をしていく春洋の心の移り変わり、そして、鳩さんの頭の中にある美しい大正浪漫(というより「大正ファンタジィ」といったほうが近いような)の世界に生きる人々を描いた大河風ドラマで、相変わらず霞のかかった美しさが出来上がっている時代ものである。

前作同様、ワンジャンルオンリーな大正浪漫、しかもすべてが「鳩かなこ様式」に則った、どこまでも美しい世界。個性的といえば個性的だし、文章も上手いといえば上手いんだけれども、そのぶんを差し引くかのようにストーリーは凡庸で、「春洋と紘彦はこの先どうなるの?」という、ページを急いで捲りたくなるような恋が描かれているわけではない。簡単に云ってしまうと、「ああ、よくできてるなあ、でもいつかどこかで読んだような話、安心して眺めていられる」。独特な文章と大正浪漫は好みの問題になるので、評価の分かれ目はそこにあるような気がする。

いまどきのBLと比較して珍しいと思うのは、独特の文章より、主人公の視点と視線にゆるぎがないこと。京介と琢馬の間でフラフラしていた1作目より、ずっといい。フツーのBLに慣れていると「紘彦の心情がよくわからない、もっと描いて欲しい」と思うところだろうが、鳩さんは「自分の中の大正浪漫に棲む、恋する春洋」を大フィーチャーしたかったのではないかと思うので、紘彦の気持ちがよく見えないのは仕方がないというか、実はそれがもっともリアルな片思い(=一方だけが相手を恋い慕うこと)描写なんじゃないだろうか。本当は両思いなのに、ちょっとひねくれて素直になれない春洋を読んでいて、私は楽しかった。

歴史的には激動だったとしても、大正時代の人々の暮らしや考え方は、情報に溢れ、西洋文化が入り組んだいまの時代より、純日本的かつゆっくりとしていたものだと思うので、「見えないじれったさ」「ふたりの間の距離」が、全体によく表れていた作品といえる。私は大正ロマニストではないが、そんな時代と人々を美しいと感じ、憧れ、描きたいと思う鳩さんの気持ちがわかる気がする(だから「箱庭的」「霞がかった美しさ」で作品が出来上がっている。いい意味での「ウェルメイド」)。たとえ史実と違う大正だったとしても…それはそれでいいじゃないの。大正浪漫萌えしたもん勝ちだ。

鳩さんの描く人物はみな大人である。後半、春洋となにやら関係のあった恩師(BL風にいうと当て馬)が突然出てくるが、さら〜っとしか描かれない。ここも人によっては「もっとちゃんと当て馬との過去を書いてよ」と思うところだろうが、私はいいじゃないのそれで、と思う。「昔、いろいろありました」――大人なんだから、そんなことのひとつやふたつ、あるでしょ?…他人にベラベラと語りたくないことが、ね。

今後の問題と不安は、鳩さんの発表する作品がずっとこの路線なのかということ。もしそうならば、熱狂的なファンを生むと同時に、読者層を限定してしまい、「入り込めない」と一度読んで終わってしまう読み手も出てくるはず。ちょっともったいない。文章が独特なわりにストーリーが凡庸なのも、悪い意味でウェルメイドな印象を与えるので気になる。そして最大の不安は、好きなものを夢中で書いているのはわかる、でもどこまで読み手を意識しているのかなあ、ということ。こういう作家は――そうだな、他の作家なら松田美優あたりにも感じる――書きたいものがなくなったら、どうするのだろう?…寡作でもいいので、できれば長く活動して欲しい――余計なお世話かもしれないが。

絵師の今市子さんについて少し。今センセは、ホクリークを代表する漫画家(富山ご出身)であり、私も鼻高々、BL・非BL問わず作品は面白く、その画力と麗しさは素晴らしい!と常々思っているのだが、BL挿絵師となると……どの作品もピンとこない。表紙カバー絵は美しいのだが、挿画はフツー、可もなく不可もなくというレベル。う〜ん。まあ今回は、鳩さんが新人ながらもひっじょーに筆力のある作家なので、文章にマッチする挿絵を描ける絵師はもともといない、今センセの麗しさを以ってしてもむずかしいんだよ、という話なのかもしれない。

評価:★★★★(1作目より面白い。今後に不安はあるけれど)
新刊時に巻かれているオビ。色を指定するのは担当さん?それとも作家?…鳩さんの作品は、タイトル通り「万華鏡」的に、古式ゆかしき大和色の鮮やかさがあり(私の、そしてたぶん鳩さんの頭の中で)、春洋については「男が身につけない色を頓着なく身につけるから、珍しい感性だと、同級生に腐されたこともある」と出てくる。その色が薄桃色(襦袢)で、とても印象的だった。そして読了後、本にぴたりと巻かれているオビが、まさにその薄桃色であることに気が付いた。深読みしすぎかもしれないけれど、もし狙ってその色にしたのならば、指摘されると嬉しいんじゃないかと思うので、いい感じ、グッジョブだったと書いておく。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

■『帝都万華鏡 桜の頃を過ぎても』の感想
こちら→http://diarynote.jp/d/25683/20080202.html
■『死ぬまで純愛』 鹿住 槙
ISBN:4537141174 挿絵:津寺里可子 日本文芸社 2008/03 ¥630
湖で事故にあった高校生の認は、目覚めると女の子になっていた。密かに憧れていた親友、高志の彼女・楡崎にだ。しかも元に戻る方法はないという――。そんな事情を知っても、高志は親友として接してくれていた…はずだったのに。ある日突然、「お前は俺の彼女なんだぜ」と、強引に唇を奪われ処女喪失させられてしまう!?混乱した認は高志を避けるようになるが、ある時、自分の体がまだ生きていて、その事実を高志が隠していたことを知ってしまい!?恋と友情のはざまで揺れる学園センチメンタルラブついに登場!

10代の頃の自分はいったいどんなことを考え、なにに感動し、笑い、怒り、そして泣いたのか。学校の友だちと交わした、たぶん他愛もなかっただろう話題は、なんだったのか――存外遠くなってしまった昔日の日々に、ふと思いを馳せるときがある。

私の好きな1冊『ぼくは勉強ができない』のあとがきで、作者の山田詠美が、「私は、同時代性というものを信じない。時代のまっただなかにいる者に、その時代を読み取ることは難しい。叙情は常に遅れてやって来た客観性の中に存在するし、自分の内なる倫理は過去の積木の隙間に潜むものではないだろうか。私にとっての高校時代は、もう既に、はるか昔のことである」と書いていて、それを読んだとき、まったく以ってその通り、なんて至極もっともなことだと思った。

続けて山田詠美は、「進歩しなくてもいい領域を知るのが大人になること」であり、それを『ぼくは勉強ができない』で書きたかったと書いていて、ああ、なるほど、たしかに『ぼくは〜』はそんな話、じゃあ、たった10数年しか生きていない高校生の、大人の視点でみれば青くてつたないのだけれども、本人たちはいたって本気、狭くて浅いそれがすべての領域だったという、テンポラリーに「切った」話はないだろうか、と思っていたら、日本文芸社からズバリそれをついた、鹿住槙の『死ぬまで純愛』が出た。一般小説とBLを比較するな、と云われるかもしれないが、私はいたって真面目にそう思っている。

!以下、盛大にネタバレ注意報!

「僕があいつであいつが僕で」、いわゆる人格・身体入れ替わりモノ。ポイントは、主人公の認が入れ替わるのは男の子ではなく女の子、しかも親友で憧れを抱いていた同級生・高志の彼女という設定。なぜ入れ替わったのか。湖で溺れたふたりのどちらかを助けてやろうと云われ(つまりどちらかは死ぬことになる)、高志がとっさに望んだのは「心は認、体は楡崎(彼女)」、そのため、目覚めてみれば認は女の子になっていたという、入れ替わりの理由付けに、寓話「金の斧・銀の斧」を引用した話である。

認の一人称でストーリーが進行するため、高志が認をどう思っているのかは、わからないことになっているが(しかも高志は彼女持ちである)、「どちらかを選べない」と云いながら「心は認、体は楡崎(彼女)」と願いを乞うた時点で、高志は認を好きなのだと読み手は気がつくだろう。湖の精(?)を信じて願ったあたりは子供っぽく純粋なのだが、のちに高志も告白するように、「認が女になってしまえば、男同士というハードルは乗り越えられる」と咄嗟に打算が働いたわけで、彼女なのに心を否定された楡崎と、男なのに女を強いられることになる認には、たいへん残酷な仕打ちである。

あらすじを読むと、高志が残酷で鬼畜な少年であり、認をひどい目に遭わせるだけの、黒さと痛さに満ちた青春残酷ストーリーのように思えるが、そうではない。たしかに、混乱する認に高志はあるひどい行為をするし、その言動も身勝手なものではある。がしかし、認は認でやられっぱなしなわけではなく、真剣に楡崎の死について考え、高志に問い、10代で逝ってしまった彼女の存在意義を語り、高志は高志で「自分が好きなのは、残酷な目に遭わせて手に入れた認なのか、それでいいのか」を悩み、認が元に戻る方法を知りながら、戻ったときに彼を失うかもしれない怯えとの葛藤に苦しむ。

楡崎の死には、入れ替り以外のある真実が隠されている。それを知りながら、知らないふりをしていたふたりの罪。死に慣れていない高校生にとって、クラスメイトの死はなおさらに衝撃だったはず。がむしゃらに何かを求めること自体はいい。ただそれをすることによって、誰かを深く大きく傷つける可能性があるということを、高志は思い知る。そして認が最後に選択したのは「高志のそばにいること」、つまり「楡崎が一番嫌がること」。

認が高志に云う、「一生、純愛しよう」という言葉。

綺麗ごとだ、まだ10数年しか生きていないくせに、バトルフィールドという社会に出て、さまざまな風を受けてみろよ、そんな甘ったるいこというな、一生だなんてできるわけないだろう?…違う、そうじゃない。「純愛ができるかできないか」という大人の視点や意見はどうでもいい、あの日あの時あの場所で、彼らがそう思ったこと――それが重要なのである。当時の彼らにとって、それがすべての領域、そして世界だったのだから。

授業中にこっそりノートの端に書いた、好きな歌の詞や誰にも云えなかった本音、クラスの誰と誰が付き合って別れたのかという噂話、他愛もないことに感動したり、なにかに絶望して落ち込み、明日で終わりかとまで思い込んだこと、簡単に「死ぬまで」「一生」と口に出して云えた幼い自分――いまとなっては、すべて遠い日々のこと。

『死ぬまで純愛』は、1991年「JUNE」に掲載された作品なので、タイトルを聞いて、「懐かしい!」と思う方もおられるだろう。他雑誌掲載の1編と、書き下ろしを加えた短編集という形で、今回初文庫化となった。日本文芸社から…というより、編集はその下請けである秋水社になるのだが、あとがきによると、JUNE時代から担当者は同じだそうである。

私は、なぜその担当者が、当時からこの作品にこだわったのか、わかるような気がする(私が担当者でも絶対にこだわったと思う)。誤解を承知で書くと、『死ぬまで〜』のような、萌えを基準としない、青春を瑞々しいまま鋭角に切り取ったBL小説は、最近あまり見られない。JUNE時代がどうであったかよく覚えていない。それでも私はこの作品が鹿住槙のベストだと思うし、同世代以上の方には、そんな私の気持ちを理解して頂けるだろうと信じている。

悪くはないが会話が少し古臭く、改行の嵐で、三点リーダ(「…」)とダッシュ(「―」)花盛りな文章はニガテ、記号で感情表現は正直カンベンして欲しいと、私には読みづらくて仕方がなかった文章も、これはこれでいいかなと、今になって思えるようになった。そして、今回の文庫化にいたって『死ぬまで〜』の続編を書かず、そっとしておくことにした鹿住センセは、英断を下されたと思う。

他の収録作も面白い。とくに三本目の書き下ろし『君の知らない二人の秘密』は、ラストがちょっと映画「天国から来たチャンピオン」風で、せつなくなる。よりBLらしさがあるので、表題作にピンとこなかった方にはこちらのほうがオススメ、安心して読める作品に仕上がっていると思う。

評価:★★★★★(くすんだ青さがなんと瑞々しく、目にしみることよ!ブリリアント!)
津寺里可子さんが挿絵を付けられていて、ビックリした。この方も、昨年のシバタフミアキさん同様「同じフィールドに立ってはいるが、ポジション違いのために遠い人」。同じ秋田書店(プリンセス)系でも、碧ゆかこさんより私は好き。津寺さんのお描きになる女の子は、少女マンガの王道といえる愛らしさがあり、男の子は大人っぽく凛々しく麗しい。セピア調のくすんだ水色を背景にした表紙カバー絵は、作品イメージにピッタリ。画像だと、カラー絵での髪の美しさと質感(陰影が素晴らしい!)がわかりにくいので、気になる方は、ぜひお近くの書店でお手に取ってご確認下さい。ちなみに秋林、「花瓶に一輪挿しの椿の花が、萼(がく)からポトリと落ちた瞬間」を描いた口絵カラーに、「これ…BLのカラー口絵か!?」と、たまげてしまった。

それと。収録作「スクラッチノイズ」の挿絵を雑誌掲載時に担当された桜海さんが、2005年にご病気で亡くなられたことを、遅ればせながら、あとがきで知った。たしか桜海さんは、鹿住さんとご一緒に活動されていたはず。志半ばで逝く友を葬らねばならなかった鹿住さんのご心痛を思うと、どう言葉で表せばいいのか…やるせない気持ちで一杯である。せつない。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
■『暁月のテロリスト』 波奈海月
ISBN:4592875524 挿絵:高階 祐 白泉社 2008/03/19 ¥560
志嶋伊月は、アジアサミットを狙ったと思われる無差別爆弾テロで記憶を失ってしまう。公安警部の矢敷隆直は、伊月をテロリストから保護するため自宅へ引き取る。実は伊月と矢敷は、かつて恋人同士だった。矢敷に守られ、記憶がないとはいえ甘い日々を過ごす伊月だが「アイ」と名乗る謎の男が接近してきて…!?記憶は取り戻せるのか?テロリストの正体は!?衝撃のハードサスペンスロマン!

小説を書き始めてから十数年(途中ブランクあり)、白泉社「花丸新人賞」に投稿し続け、三年前に賞を受賞されたという波奈海月さんの単行本デビュー作。

「花丸」は、公式サイトこそ見所がない…とゆーか、やる気なさそうなコンテンツばかりで、アクセスするたびに萎えてしまうのだが、「BL小説の書き方」なるHOW TO本を出し、「新人賞」を設け、「1.上位作品は必ず雑誌掲載あるいは刊行、2.全作品の批評コメントを雑誌に掲載、3.新鮮度優先の『特別賞』つき」としているので、投稿しても書評は送らないと明言しているところよりは、新人発掘・育成に(実を結んでいるかどうかは別として)力を入れている姿勢を対外的にうかがわせるので、レーベルに対する印象は悪くない。この賞で育った作家は、たたき上げで力をつけてきた人が多そう、でもやっぱり「花郎藤子の『黒羽と鵙目』」、残念ながらクロモズ以外は良く知らないレーベルである。ごめんちゃい。

!以下、ネタバレ注意報!

タイトルには「テロリスト」の文字、さらに絵師は、朝日ソノラマ系とゆーか、流麗だけどちょっとレトロ感のあるベタ画風なためか、ビックリ設定の作品によく振られる高階佑さん(『デッドなんちゃらシリーズ』『青鯉』『上海恋戯』『水底の月』)、よって想像はついていた(実際そういう期待もしていた)のだが、やはり力の入ったビックリ設定な作品だった。

事故に巻き込まれて記憶喪失となった伊月は、退院後、高校の同級生で現在は刑事の矢敷と一緒に暮らし始める。だが、平穏はひとときだけ、次第に伊月のまわりでゴタゴタが起こり出す。いったい自分は何者であり、どうして事故に巻き込まれたのか、そもそもなぜあの場所にいたのか――という記憶喪失モノにして、警察やらヤクザやら、そして秘密結社なテロ組織まで絡んだ、「そうだったのかー!…ってか、突然そんなこと云い出すなんてアナター!…ってか、そういうアナタがそーだったんですかー!?」、壮大さはシベリア超特急並み、二重三重どんでん返しフィーバーなストーリー。

山田たまきさんの『ゴールデン・アワーズ・ショウ』で、「文章が常にクレッシェンドで行間やゆとりを与えられず、ブレスなしでてつらい」と書いたが、波奈さんの場合、エピソードがクレッシェンドであれもこれもと詰め込み過ぎ、その結果、BLで重要であるラブシーンの部分が、付け足しのようになってしまっている。もともと最初から「できちゃっているふたり」なので、ラブの告白を最大の盛り上がりに持っていけないから、余計につらい。ラブシーンを削り、どんでん返しを減らし、エピソードを厳選してスッキリさせれば、ごく一般のライトノベルとして通用しそうな感じがする。

ペンやティッシュやガイジンなど、わかりやす〜い伏線を張っていて、それをちゃんと回収してるのはいい。ただ、サスペンス系だから盛り上げようと、さらに「実はこうでした」という事実をキャラに突然語らせるので、読んでいて面食らってしまう。まさに「ちょっと待ってよ、いつそんなことになってたの?」である。矢敷がそんな取引をしていただなんて、DOLLが組織としてもうひとつの顔を持っていた、今度は警察に協力だなんて、そんなバカな!ハッピーエンドに持って行きたいのはよくわかる、でもあまりにご都合主義でしょう?ただ、伊月が爆弾をダウンさせるシーンは緊迫感があり、とても良かった。褒めたい。それだけに、どんでん返しが続いてく後半がもったいなかったかな…。また、メイド喫茶など時代性のあるものが出てくるので、何年後かに読み直すと、かなり古く感じてしまうだろう。

謎だの過去だのテロだの警察だのラブだの…要素があまりに多すぎて、まとめること自体がむずかしい内容を、よく1冊にしたもんだと褒めたいのだが、やっぱりストーリーが破綻してしまっていて残念、3冊くらい分けて出せればよかったね、という印象である。それがダメなら、こういうラストシーンはどうだろう?…事件が決着し、記憶を取り戻した伊月は、住む世界が違う人間になってまった矢敷と別れるしかなく、彼のもとを去ってしまう。諦めきれない矢敷は、DOLL関連の捜査チームに入り、伊月を探す日々を送る。そしてある日、矢敷は伊月に似た男を街で見かける(再会)――で、ピリオド。好評ならば続きが書けるのだし、これならピリオドをカンマにすることができるんじゃ?…違う?

評価:★★★(パワーがある。一生懸命書いてるなあという印象。頑張って欲しい)
しっかし…記憶喪失になった男が、「実は昔、俺とお前は付き合っていたんだ。いまでも愛している」と男に告白されたら、「えー!?俺ってホモだったのかー!?」と、大ショックを受けないかフツー?…いや、もともとがフツーの設定な話じゃないのだから、いいのか別に。そっかそっか。

絵師の高階さんは、「どうして変わった設定の話ばかり依頼がくるの?」と思っておられるかもしれないが、フツーの絵師だったら確実に失笑を買うだろう199ページの挿絵などは、まさに高階さんの真骨頂、「これはスゴイ!さすが高階さんだ!」と、笑うどころかまじまじと見てしまった。その高階さん、本作でタッチがちょっと変わった。黒ベタが艶やかに、そして描線は強くなったような気がする。もともと女性キャラを麗しく描く方なんだけども、今回はナシで残念。いや、ホント女性キャラが綺麗なの。なので、BLよりファンタジー系のライトノベルの挿絵のほうが、実は合ってるかもしれない。

タイトルが「暁月のテロリスト」、さらに主人公の名前が「伊月」ときて、作者の名前も波奈「海月」。月ばかり…というより、キャラに自分と似たような名前が付けられるなんて、スゴイなあ。その波奈さん、この話を書く前はリーマンものや学園ものばかりだったそうで、個人的にはそっちのほうが気になる(想像がつかないから)。どんな話だったんだろう?

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

お知らせ&ひとこと

2008年3月20日
■『誘惑』の感想を書き上げました。
こちら→http://diarynote.jp/d/25683/20080310.html
(真剣に書いたので、何度も追記・修正してしまいました)

■『それを食べてはいけません。』の感想で、「静一郎の手袋に萌える」と書きましたが、なんで私ってば手袋が気になるんだろう?と自分を振り返ってみたところ、小学生の頃、CXで放送されていたアニメ「パタリロ」のバンコランのせいだと気付きました。あんな内容のアニメをよく放送できたもんだ、昔は平和(?)だったなあと、いまになってつくづく思います。じゃあ、靴にはなんで萌えるんだろう…?あれ?

■弥生の新人さんの作品は、週末に取り上げる予定です。本を買ったのが今日。まだ読んでませーん。

■アンドリュー・マッカーシーが離婚したそうです。

■ジュード・ロウがマジでヤバくなってきました。
↓「『スルース』…死に至るまで殴り合う男と男の見苦しさを楽しんで」(シネマトゥディ)
http://cinematoday.jp/page/A0001695
(額の辺りがちょっと苦しいというかキューピーちゃんというか…一瞬、誰かと…)

お知らせ

2008年3月16日
コメントスパムに泣かされていましたが、様子見でコメント書き込み可能にしてみます。

そしたらまたスパムが来たので停止です。
…トホホ。

なんとかして欲しいです…。

■『それは食べてはいけません。』 の感想を書き上げました。
こちら→http://diarynote.jp/d/25683/20080309.html
(直幸見てたら、『厄介』のハリーを思い出しちゃったんです)

オススメの作品には@RECOMMEND@マークを付けました。
新人さんの作品の場合は緑色でーす。

■yukipediaさんより「クレーム入れてもいいでのは?」とアドバイスを頂いたので、「プライムお試し会員になって注文した本に傷がついていました。1冊の注文だからといったって、あんまりです!」と密林にメールしたところ、「交換します」と返事が来ました。とりあえず受付してくれるようです。

yukipediaさーん!
アドバイス、ありがとうございましたー!

■柏枝先生の新刊が、マジで幻冬舎の新レーベル(ライトノベル系)から出るそうです(先生の日記より)。そっか幻冬舎か…幻冬舎ね…幻冬舎…うわ、久しぶりに言霊飛んじゃったよ…。ちなみに、WHでのハリーのお話はその次だそうです。
■『誘惑』(SHY NOVELS (202)) 藤代 葎
ISBN:4813011705 挿絵:奈良千春 大洋図書 2008/02/28 ¥903
怜悧な美貌と冷静な頭脳の持ち主である咲坂諒一は、警護員として依頼人・柳瀬芳成を担当することに。男の色気と自信を漂わせ、なにかと自分を挑発してくる柳瀬に苛立つ咲坂だが、ある夜、柳瀬の第一秘書が何者かに襲われて…。

SHY NOVELS(以下「SHY」)という人気レーベルを持つ大洋図書は、賞を設置していない。よって新人の作品は、1.編集部が作家をどこからかスカウト、2.随時原稿募集でその中から採用…という経過を経て、本が出るのだと思われる(たぶん)。

BLはライトノベルの中でも、読み手の好みの細分化に合わせ、「××は△△系に強い」など、レーベルによってその傾向が顕著に表れるジャンルなのだが、秋林お気に入りのSHYの場合、学園ムネきゅん♪系からヤンキーにーちゃんオラオラ鬼畜系まで、比較的厚めのリキッド(…)マットなカバー力を持ち、どちらかというと、ドラマチックでエンタ色が強めなレーベルである(たぶん)。

ラインナップ作家が、人気と実力が伴う榎田尤利や英田サキなため、「1冊で読ませる」構成力のある作品が多く、奈良千春や北畠あけ乃、山田ユギや石原理と、挿絵も人気スター絵師で固め、そして装丁は当然のようにどれもが麗しい。人気作家をさらなるスターダムに押し上げてきただけでなく、個性ある新人を発掘してくれるレーベルでもあり、たとえばここ数年なら、橘紅緒・松田美優・九葉暦と、BL既成作家にまーったく似てない/影響を受けていない作家を見つけているので(好き嫌いはまた別次元の話)、SHYに対する私の信頼係数たるや、ひっじょーに高いものとなっている。

…とここまで書くと、ハズレのない素晴らしいレーベルのように思われるが、そうと限らないのが厳しい現実である。SHYがここまでキメてくるせいで、ハズすと他レーベル以上にガツンと痛い返り討ちに遭う。ひとことで云うなら「SHYでこれかよ!?」もしくは「絵師や装丁はいいのに」。作家に対し、なんとも非情かつ失礼な話であるが、私はSHYを必ず「903円」キッカリ出して買うので、云う権利がある!…どうかお許しを。

…という「SHYの傾向とレーベル印象」を踏まえた上で、以下、感想。

!以下、ネタバレ注意報!

いわゆる「ボディガードもの」。依頼人であるイケメン社長のSPとなった主人公が、いつの間にやらその社長に気に入られ、いつの間にやら自身もマルタイ(警備対象者)が気になり始め、いつの間にやらふたりは恋に落ちていた――というのが大まかなストーリーライン。依頼人が定番ハンキーな攻キャラなゆえ、そいつがゲイで、ノンケのボディガード(受)にお手つきするというストーリーなんだろうなと思っていたら、社長・柳瀬(攻)ではなく、ボディガードの主人公・咲坂(受)のほうがゲイだった。ナルホド、そうきたか。

がしかし。タイトルは「誘惑」で「身を挺して守り抜く」ボディガードもの、さらに絵師は奈良画伯なので、純愛というより、まずはドラマチックな恋の駆け引きだろうと期待してみれば、ふたりの恋…いや、柳瀬がなぜ咲坂を手に入れたいと思い始めたのかが存外に弱く、またあっけなかった。男女問わず虜にしてしまうルックス上々な咲坂をちょっと連れまわしてるうちに、柳瀬は本気で恋してしまった?…後腐れのない遊びばかりしていた男が?

この手の話に、もっとも説得力を与えてくれる「つり橋効果」なエピソードがないこと、それがまず致命的だろう。秘書を病院送りにしてどうする。車が突っ込んできた程度でどうする。ナイフをちょっと避けただけでどうする。柳瀬あるいは咲坂に、デッドオアアライブ、マジでギリギリの危険に遭遇させないと。犯人がショボいのは仕方がないとしよう。それでも主人公は、刑事でも探偵でもなくボディガードなんだから、スリリングにドラマチックにキメて欲しかった。

そして当て馬の不在というか不発というか…惜しいんだよなあ、篠尾の存在が。過去に咲坂となにやらあったらしいのに、匂わしてオワリだなんてそんなもったいない、咲坂を暖かい目でじゃなく、熱い眼差しで見つめないと!…咲坂を追い詰め、柳瀬をイラつかせるほどの存在であって欲しかった。老若男女・性嗜好問わない、咲坂がいかにスペシャルな存在であるか。そういうのが読みたいんじゃないの?…私たちは。

「咲坂はギャップに弱い」とト書きで簡単に説明するのも、もったいない。一文で説明するんじゃなく、それはエピソード中で語って欲しい。ラストのラブシーンもなあ…あんな風に終わるなんて、ちょっと垢抜けない。「誘惑」というタイトルも、必要以上に凡庸な印象を与えていると思う。理解のある上司、同僚――など、登場人物は数々出てくるんだけども、意外と相関がアッサリしていて、キャラが浮いてこないあたりも気になる。

藤代さんは本作でデビューの新人さん。いかにもSHY好みなスッキリと読みやすい文章で個人的に好感度は高いし、美しいペンネームだと感心するのだが、なんと云うかその…「私が藤代葎」という名刺代わりの1本になるはずが、内容・文章/文体ともに個性が感じられず、ハッキリ云ってしまえば、「英田サキを意識した高岡ミズミ」という印象である。

読者をグイグイっと引っ張っていく、「これはイケる」と予感させる冒頭はとてもいい。BL作品にありがちの、「最初の数行でキャラのフルネーム判明」がないところもいい(これは思いっきり主観)。そっくりとは云わないが、全体的に英田兄貴っぽい文章で、話を進行させたいときに、「〜なのだ」の断定形がト書きで頻繁に出てくるあたりも似てる。ただし、冒頭でグイグイと読み手を引っ張っていく文章が長く続かず、とくに前半は咲坂のルックスの良さばかりがフィーチャーされ、もたつく。そして、キャラとストーリーに惹き付けられるものがほとんどないこと、それがとても残念である。

決してヘタではない。出来不出来や面白さは別として、デビュー作なのに読ませる文章力はついているのだから、あとは個性とストーリーテリングの問題。ここのところSHYは、個性的な新人が続いていたので、どうしても藤代さんが没個性的に思えてしまう。密林などのレビューでは、みんなキビシイことを書いているけど、落ち込まないで。辛口な感想になってはいても、私は斬り捨てないよ。期待をしているから。個人的に好感度の高い新人さんなので、「私が藤代葎」という名刺代わりの作品、本当に待ってます!

評価:★★★(SHY好みのエンタ系作品だが、盛り上がりに欠ける)
『誘惑』というタイトルが凡庸と書いたが、これがもし『悩殺ドキュン☆ぼでぃがーど』とかなんとかだったら、印象的でもSHYというより南原兼(「エクスカリバーの人」)になってしまう…か。

BL小説の場合、最初からすんごい上手い作家なんて、一握りどころか一摘みだと思ってるので、作家に対する評価や好みは、2作目以降で確定かな。それにしても…いいなあ、デビュー作の挿絵を奈良画伯に手がけてもらえる、だなんて。もし私がBL作家になって(ありえない)、デビュー作の挿絵は奈良画伯だと告げられたら、その時点で自宅ベランダに躍り出て、ひとりラインダンスだな!…と、オッシーに云ったらば「見物しに行きますので、必ず踊って下さい」だって。……。だから、ありえんっつーの!

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

■そのほかのBL作品の感想&ヨタ話はこちら
http://diarynote.jp/d/25683/_3.html
■『それは食べてはいけません。』 小石川あお
ISBN:434481228X 幻冬舎コミックス 2008/02 ¥620
フツーの大学生・恒の同居人である直幸は、優しくて弱虫な吸血鬼。 棺桶は狭くて怖いと怯える、臆病な吸血鬼は恒を怖がらせないように「お食事」も我慢するけれど――!?直幸の兄・幸人と、狼男・静一郎の番外編描き下ろし!!表題シリーズの他、デビュー作を含む読み切り4本も収録

2006年、雑誌「ルチル」にてデビューした(たぶん)小石川あおさんの初コミックス。表題作である吸血鬼モノのほか、描き下ろし含め計8作品収録。

読み手の好みが細分化しすぎているBLゆえ、「ルチル」をまったくチェックしていなかった秋林、本屋さんでこの本を見たときは、表紙の白っぽいカラー絵に「もしかして麗人『ジョカトーレの人』?」と、心底ビビってしまい(だって!だって!だってー!<根性ナシ)、しばし手に取ることができなかった。30cmほど距離をおいて眺めながら、ペンネームが違う、「ジョカトーレの人」より繊細な絵柄だと気付き、別人と見極め、購入。

もともと私は吸血鬼モノが好きで、毎年大晦日に必ず映画「ロストボーイ」のDVDを観ては、ジョエル・シューマカー監督の「映画にはよくヴァンパイアが出てくるが、それはモンスターの中で、ヴァンパイアがもっともセクシーだからだ!」というコメンタリーに深く頷きながら新年を迎えるのだが、どうやらここ最近のBL界における吸血鬼は、木原音瀬『吸血鬼と愉快な仲間たち』など、セクシーというよりちょっとヘタレがブームらしい。

!以下、ネタバレ注意報!

空腹で倒れたところを助けてくれた命の恩人がなんと吸血鬼、うわ!ヤバイ!と最初は身構えた恒だったが、故あって一緒に暮らしてみると、吸血鬼であるはずの直幸は、棺桶は暗くてイヤだと云うわ、ゴキブリがニガテで逃げるわ、自分の牙で自分の唇を切ってしまうわ、オバケが怖いと震えるわ、ヘタレというよりスーパーヘナチョコ、でもたいへん心根が優しい青年だった。そして仲良く暮らすうち、いつしかお互いかけがえのない存在となっていく――という、ちょっと可愛くてホロリとさせるヴァンパイア・コメディ。エロは少なめ…どころかほとんどない。だから「ジョカトーレの人」じゃないと思う。

キャラはガイジンっぽいルックスだし、洋館に住んでいる吸血鬼という設定なので、漠然と洋モノかなと思っていたら、出てくるキャラは(吸血鬼や狼男を含め)みな純和風の名前を持ち、舞台も思いっきりニッポンだった。でもどこかしら洋風な雰囲気を漂わせている不思議さと、昨今の流行りのガサつきはありながらも、スタイリッシュ過ぎないその描線が、個人的に好感度大である。こんな私好みの新人さんを見つけてくれるなんて、やってくれたよ、本当にありがとう!>ルチル(幻冬舎)

キャラの背景と相関をハッキリさせないまま、やや強引なモノローグを絡めてストーリーを進行させていくというのは、たぶん高河ゆんあたりが「それもアリ」とBL…いやマンガ界に浸透させたと思うのだが、読み手をギモンでイライラさせずに、「どういう背景と関係を持っているのかしら?いや〜ん♪気になっちゃう〜♪」と思わせ、その雰囲気で酔わせてしまう作家は特別だと思う。「どこをナイショにしてどこまで描くか」という、さじ加減ひとつで決まってしまうセンスは、マンガ家だろう小説家だろうと、すべての作家が持ち合わせているわけではないから。

持っていないから「センスがない、面白くない」というのではなく、「1.持っていなくても(あるいは持っていても関係なく)、たいへん面白い作品を何作も描ける人、2.持ってるけど、あからさまだったり独りよがりだったりすることが多い(=さじ加減がイマイチ)人、3.絶妙な感覚で持っている人」がいるということで、私は3の人が好み、BL系ならば小石川さんは3に当たる。たとえば寿たらこもそうかな。

広い洋館に、直幸はなぜたったひとりで住んでいるのか。どうして早寝早起きなのか。その理由を知ったとき、せつなくなってしまった。実は淋しい吸血鬼、だけどいまはひとりじゃない――せつない背景だからこそ、直幸→恒がよくわかるというか。そして独特の間で繰り出される、ほのぼのとした「笑い」。その絶妙さときたら!なんて素晴らしい!

「日向ぼっこでほのぼの」な縁側カップル・直幸×恒はツボじゃないのね、吸血鬼モノなんだから、もっとスリリングで色気がないと!という方には、「勝気なご主人(受)に従順な執事(攻)」な、幸人の話がツボだろう(もしかしたら、ソッチのほうが人気あるかもしれない)。秋林、実は静一郎(狼男な執事)×幸人(吸血鬼・直幸の兄)も好み。思いっきり大萌えしてしまった。ヤラレター。あからさまなエロがなくても色っぽ〜い♪きゃっほう♪…とくに、幸人が履くローファーのサイドからつま先までのカーブ、そして静一郎の手袋がたまらん!…ヘンな萌え方をしないよーに!>秋林さん

個人的には直幸一族が気になって仕方がない。おじーちゃん、パパ、にーちゃんたち、みなキャラ立ちしており、いい味も出していてたいへん面白い。続きを熱望しているのだが、これでオワリなのだろうか?…だとしたら、なんてもったいない!もっと描いてくれ!…いや、描かせてくれ!>ルチル

他の収録作は、正直云うとさほど心惹かれるものはなかったが、タッチがどんどん良くなっていく様が感じられた。絵の上手い人にはありがちの「きっとまた変わるんだろうな」という予感アリ、しかもその可能性大、である。

ここ数年、BLマンガで追っかける新人が出てこないと思っていた私の前に、すうっと現れてくれた期待の新星。長く輝いて欲しい――その星に願いを。

@RECOMMEND@評価:★★★★☆(期待を込めてプラス半星)
どちらかといえば、BLは小説のほうが面白い動向を見せていて、マンガのほうは「新装版は出るが、好みの新人が出てこない」状態だった。なので、やっと好みの新人さんが出てきたという感じ。ここ2年ほど、大洋図書ばかり注目していたからなあ、まさか幻冬舎から暁星が現れるなんて、思ってもみなかったとゆーか、今年はいきなり幻冬舎が来たとゆーか、気がつけば幻冬舎の本をよく手に取っていたとゆーか。そーいえば、南風さんと「年明けから超モンダイ作!」と小騒ぎした、沙野さんのワンコなアレ(…)も幻冬舎。なにげに本棚にはリンクスロマンス増えてるし。……。結果的に目が離せないレーベルが増えてしまった…むむむむむ。

出るのは今年になるのか、そして誰が絵付けをなさるのか、わからないのだけども――柏枝先生がお話された、講談社ホワイトハートから出るという、『厄介な連中』スピンオフ(ハリーが主人公)の絵師は、ぜひとも小石川あおさんで、というリクエストはダメ?…とても合ってると思うんだけど…。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
■『ゴールデン・アワーズ・ショウ』 山田たまき
ISBN:4576072382 挿絵:榎本 二見書房 2008/01/15 ¥500
進学を機に東京で一人暮らしを始めた安斎は、格安物件「経世館」の一員に。家主の鳴瀬は同じ大学の学生で、大物議員の息子でありながら週末はドラァグクィーンのバイトで稼いでいるという変わり種。ショータイムを目の当たりにし度肝を抜かれた上、女装の鳴瀬から濃厚なキスを受けた安斎はそれ以来、気のいいあんちゃんで御曹司で同性しか愛せないという多面体な男に翻弄されることに…。

「シャレード新人賞期待賞」受賞作。書き手の山田さんは、この作品でシャレード・パール文庫からデビュー。デビュー作掲載号(「シャレード11月号」)が、そのまま廃刊号になってしまったという、いささか気の毒な門出だったけれども、ちゃんとパール文庫から単行本が出て良かったね、うんうん。

ただなあ…ドタバタ系ラブコメディのはずなのに、ラブもドタバタも、いったいどこが盛り上がりなのかわからないまま、ストーリーが終了してしまったような印象がある。

理由は簡単。山田さんの文章は、一文に連体詞と副詞が多いので、ちょっとしたシーンでも仰々しくなりがち、読んでいて疲れてしまう。そして話が単調になれば、文章で身構えた分、肩透かしの度合いも大きくなる。さらに、書き手による解説/実況中継かと思うような誇張/漸層法で綴られていくので、そんなブレスのない、常にクレッシェンドな文章が続けば、読み手はどこが盛り上がりなのか、どこで盛り上がっていいのか、わからなくなってしまう。押してばかりで引くことを知らない、強弱はどこに?…とでもいうか。行間やゆとりを与えられない読み手はツライよ?…こういう文章は、どうしても情感や色気が出にくいので、BLには不向きだと思う。実際、ラブシーンもいつの間にか始まっていて、それを冷めて読んでいる私がいた。でもだから悪いというのではなく、それも個性のひとつだし、たとえばシニカルなギャグを絶妙に挟み込んでくれば、逆に効果的で、コメディ向きといえる文章なんだけど……これがなあ、クスリとも笑えなかった。田舎の高校生の生態など、面白いことを書いているはずなのにね。残念。強弱の付け方が巧みで、なおかつ、読み手と書き手のリズムを考え、面白いコメディを書いてる人がシャレードにはいるじゃない。谷崎泉っていう作家が。う〜む。

いっそのこと、ボーイズラブストーリーではなく、ボーイズストーリーのほうが良かったか。家主がトンデモなら、店子もキョーレツ個性派揃い、そんな奴らに囲まれてあっぷあっぷの毎日な主人公、事件が次から次へと起こってさあ大変!というような。鳴瀬がドラァグクィーンである理由付けが弱く、私に云わせれば至極真っ当な男で、結局、親には逆らえない学生さんだった。ほかの学生もフツー。設定がちょっとハデなだけ、話は「鳴瀬がいなくなって帰ってきたら安斎がホレていた」という、お決まりの内容だったような。面白くなる要素は、いっぱい転がっていたと思うんだけど…。でもパール文庫はページ数が少ないので、いろいろ描き込むには難しいのかもしれない。

山田さんの文章/文体について、難癖つけたようなことを書いたけれど、否定はしない。個性がなくなるほうがイヤだし、いくらでも面白くすることはできるはず、色気や情感だって書き方次第だと思う。修飾を削ってシンプルに――クライマックスはどこで、なにをどう読んでもらいたいのか。そして読み手のブレスを考えてみて。新人さんだから、私は「好みじゃない」と1作で斬り捨てないよ。経験積んで、頑張って書いて下さい。待ってます!

評価:★★☆(とりあえず様子見)
私にとって初パール作品。シャレードHPに「パール文庫はオビもついてます☆」と(嬉しそうに)書かれてあって、「おお!とうとうシャレード系にもオビがついたのね!」と現物を見てみたら、たしかにオビ紙がついていて、パール色に輝いていた。う〜む。ゴールド文庫・シルバー文庫と続く…わけないか。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
…とゆーわけで、2008年に単行本デビューされたBL作家(コミックおよびノベル)の本を1〜2冊ほど取り上げ、該当月中に感想を書いていこうかと思っています(1月と2月はもう過ぎちゃったので、書くのはこの3月になります)。

私はね、ものすごーく期待しているんですよ、新人のみなさんに。新刊オビ惹句に「期待の新人!」だの「デビュー作!」だの書かれてあろうものならば、必ずその本を手に取り、凝視してしまうほど。ホントに惹句だわ。「今月は新人がいないの!?」と本屋で新刊を探す私は、オッシーいわく「トランス状態に陥っているアブナイ人」らしいです。…ほっとけ!

では、ボチボチと。

お知らせ

2008年3月6日
コメントスパムがヒドイので、しばらくDiaryユーザーのみのコメント受付になります。

このブログサイトは、その程度しか対策が取れないのです…。ご連絡ある方は秋林堂までお願いします。
3月になっちゃったよー!←Dさんのマネ。

いろいろ考えたんですけどね、オスカー終わったし、年度末にもなるので、このブログの映画ネタとしては、今月後半くらいに「2007年映画ちょっとだけ感想&デキゴトロジー」と、「2007年マイベスト映画」に着手しようかなと。でもって、日常ネタとBL読書感想…あとはお買い物話かな?

BL系はですね、「スペシャル!」は当面ナシの方向で(時間かかっちゃって疲れるし、そこまで書きたい作家も現在いないから)、突発的に本をチョイスして書くか、または「今月の新人さん」の本を取り上げてみようかと思ってマス。私の感想はあまりアテにならないものばかりですが、もし「この本の感想を書こうと思ってますけど、秋林さんもご一緒にどうですか?」とネタ振りして下さる方がおられましたら、クロスレビューということで、ご連絡下さい(よっぽどの駄作でない限り、斬捨て御免!な感想を書くことはナイと思います)。

では、まず「1月と2月の新人さんの本」の感想を書いてみようかなと思います。

■画像は、藤代葎さんの『誘惑』。最近、この方のお名前の検索で当ブログに来られる方が多いのですよ。感想はまた後日になりまーす。
アマゾンで現在サービスされている「Amazonプライム」。

いわゆる「お急ぎ便」で、アマゾンによれば、「関東地方*は、当日または翌日にお届け(*一部地域を除く)」「関東地方以外の全国*は、1~3日後までにお届け (*一部地域を除く)」「沖縄および離島は通常配送が無料」。

つまり、簡単に云えば「1500円以上でなくたって送料無料、しかもすぐ発送しちゃうよーん。ただし『プライム対象商品』のみ、年間3900円払ってもらうことになるからねー」というサービスで、関東地方にお住まいの人でヘビーユーザーならば、当日/翌日着いちゃうところがいいだろうし、地方在住者なら「1500円以上じゃなくても送料無料」なところ、とくに沖縄・北海道・離島にお住まいの方でよく利用する人ならば、年間3900円払ってもオトクのように思えます。

で、その「アマゾンプライム」が、1ヶ月間無料で使えるとホームページにあったので、先日、そのお試し版にイソイソと申し込み、本を1冊予約してみたんですけどね。

発売日の翌日到着なのは、田舎在住者ゆえ、仕方がないとしても。

メール便用ダンボール箱の中に、ビニールコーティング一切ナシの本が入っていて、さらに本の表紙には傷が――もう大ショック!…サイアクです。

こんなのに3900円出せません。お試し期間のみで終了です。
また会う日まで、さよなら〜>密林くん

そして「楽天ブックス」。密林とは違って、コンビニ受取にすれば100円の本1冊でも送料が無料、そのサービスがサークルKでも始まったというので、いままでファミリーマートだったのを、今回サークルKにしてみれば。

なんと15時以降にならないと受け取れない、ということが判明。

実は「コンビニ受取」にすると、「コンビニ到着しました」メールより早くコンビニに着いてしまうため、メールより先に本を受け取ることが多々あったのですが、それがサークルKではできない。受取番号を客が入力しないとダメ(ファミマは口頭でOK。しかも常連だったら顔パス、よって番号を告げなくても受け取れる)、つまり、受取番号を伝えるメールが届き、なおかつ、楽天やサークルKや配送会社側の処理が終了する15時以降でないと受け取れない。だったらファミリーマートのほうがいいじゃんよう…。なので、もうサークルK受取はヤメにして、素直にファミマにしておきます…。

さて。
次はどこがどんなオトクサービスを提供してくれるかな…。
■『パリ発!朝食から夜食まで パウンドケーキ大好き』
ISBN:4579209540 大型本 島本 薫 文化出版局 2005/09 ¥1,470

パウンドケーキの基本と云われる「カトルカール(quatre-quarts)」は、材料である「バター・砂糖・小麦粉・卵」が1/4ずつ同分量なもの。ところが、日本で好まれているパウンドケーキの場合、その配合は同じではなく、レシピもバターに砂糖を練り加えることから始まる。

じゃあ「カトルカール」って、どんなケーキでどんな味でどんなレシピ、よくあるパウンドケーキとはどう違うの?

…というギモンに回答してくれるのが、本場パリで修業されたという島本薫さんがお書きになった、この『パリ発!朝食から夜食まで パウンドケーキ大好き』。

日本で好まれるパウンドケーキというのは、以前レビューした小嶋ルミさんの本『おいしい!生地』に書かれてあるように、「キメ細やかでフワっとした食感」なもので、パターをフワフワに泡立てて気泡を作り、粉を入れたあとはつややかな生地に仕上がるように混ぜていき、ベーキングパウダーの力も借りてふっくら焼き上げる――というレシピが基本。ところが本書によると、本場のカトルカールはバターに空気はあまり入れない…というより、まず卵を温めながら泡立てることから始まり、バターは溶かしバター、粉を入れたあとでも半分また入れるという、日本ではイレギュラーな手順を踏んでいるし、ベーキングパウダーも使わない。つまり卵の泡立てが命なレシピと云える。

さらに、日本のパウンドケーキレシピで「やらなきゃいけない」ことが「やっちゃいけない」し、「新鮮な卵であるべき」が「新しからず、古からず」だったりする。その理由にも納得できる。カトルカールってのはそういうことなのねと、ちょっとお勉強になった。ナルホドなあ、「郷に入りては郷ひろみ」というのは、こういうことか(違います>秋林さん)。

基本のカトルカールを作ってみて思ったのは、バターに気泡を入れないだけあって、パウンドケーキ以上に、卵の泡立て方がシビアだということ。卵を温める重要性、そして「どこまで卵を泡立てればどう膨らむか」という感覚は、共立て(全卵)スポンジケーキが作れる人じゃないとピンこないと思う。カトルカール攻略の前に、小嶋レシピでスポンジケーキを焼けるようになっていて、ホント良かった。じゃないと、絶対に失敗していたと思う。

またパウンドケーキでは、型にクッキングペーパーを敷くようにレシピでは書かれてあるけれど、カトルカールの島本レシピでは「溶かしバターを塗り、強力粉をまぶした型を冷蔵庫に入れておく」。それによって、たしかに「外側がカリっとしたケーキ」に仕上がった。ナルホド。

出来上がりと見た目は、「真ん中が盛り上がってモコっとした、田舎風で垢抜けない、いかにもパウンドケーキ」という感じではなく、本の表紙にあるように「スレンダーで都会的、こざっぱりとしてお洒落なケーキ」という印象。日本でよく売られている型(18cm×8cm×7cm)じゃない、仏産型(21.2cm×9.1cm×7cm)なこともあってか、スッキリして小洒落てるんだよなあ。ちなみに秋林家で使ってる型は、フランス産の型とほぼ同じなので、仕上がりも写真通りになって大満足。ただし、密林批評で「こんな日本で買えないサイズの型を使われてもね」といった評をチラホラと見るので、レシピや雰囲気を楽しむより実用性だ!という人には向かないかも。

味については、ふわっとした美味しさはないけど、なんていうのかな――外側がカリっとした「これぞ舶来モノ」という食感と素朴さがある。パサついているとは思わなかった。たぶん…バターの風味も出ているからだと思う。また、ケーキにナイフを入れて切るときの感覚も、パウンドケーキよりサクっとしていて「うわ〜!違うなあ!」。そしてカトルカールの最大の特長は、作ったその日から食べられること。パウンドケーキは1日以上経ってからのほうが美味しいのです。

本に書かれているレシピ通りに作っても、たぶん本場パリで味わうものより、湿度が高いケーキになってるんだろうな。ただそれでも、「なんちゃってパリ」な気分が味わえたし、日曜日の昼下がりにはピッタリなレシピかと。

味評価:★★★(素朴)
レシピ:★★★★(けっこうわかりやすい)
本の作り:★★★★(お洒落です)
問題はレシピより材料。ミモレットとかトラブリとかカソナードだなんて、田舎ではまず手に入らないよー。かといって、代用品を使うと雰囲気でないし、「日本で仕入れているところから通販せよ」と云われても、そこまでしようとは思えない。う〜ん…パリのエスプリまで道のりはキビシイ。

今度は「ピスタチオとサンタナレーズンのケーキ」を作ろうっと♪ でも「サンタナレーズン」ってナニ?日本で手に入るの?フツーのレーズンとはじゃダメ?…やっぱ和の精神ではムリ?
というわけで、録画しておいた授賞式をようやく観ることができました。今年はなんですか、個人の賞はすべて欧州系俳優がかっさらっていったとゆーか、「ユーロ・アカデミー賞」かと思っちゃったじゃないですか。予想で「昨年痛感した『オスカーは米国の映画賞』」とかなんとか書いちゃった私の立場は?…それでも作品賞が「ノーカントリー」なあたり、やっぱねえ…とは感じましたけども。ま、いっか。

司会のジョン・スチュワートは、可もなく不可もなく。ジョークを考える脚本家の問題かな。受賞者のスピーチも物議を醸すものはなく、もし脚色賞でサラ・ポーリーが選ばれていたら、選挙の年だし、なんか云ってくれただろうけど(サラは思いっきり左寄りの人だから)、それもなかった。ただその中でもちょっと感動的だったのは、「ONCE」で歌曲賞を受賞したチェコ出身のマケルタ・イングロヴァちゃん(19歳)。はるばるこの日のためにチェコからやってきたのに、一緒に受賞したグレン・ハンサードのスピーチが終わって、自分も語ろうとしたら、音楽流れちゃって、スピーチできなかった。「うわ可哀想、せっかくいいパフォーマンスしたのに〜」と思ってたら、ジョン・スチュワートに呼ばれ、オスカー史上初(かな?)スピーチやり直しに。よかったね〜、いやホントよかったよ。ジョージ・クルーニーとも写真撮れたし♪

↓マケルタちゃんとジョージ・クルーニー、そして彼女とほかのみなさん
http://feature.movies.jp.msn.com/special/academyawards2008/ceremony/party/01.htm
(ジョージ・クルーニーの右で、オスカー像を持っている子がマケルタちゃんです)

受賞メンバーを見ると、主演女優賞と助演女優賞がちょっとばかりサプライズ、とくに助演女優賞のティルダ・スウィントンは、自分が受賞するとは思ってなかったようで、「え、私なの!?」という顔しながら、ステージに向かう際も「どうしよう!?嬉しいけど困ったわ、なに云ったらいいの?」ってなことを、ブツブツ云ってそうな口元でした(わはは♪)。

ガチだと思ってた助演男優賞のハビエル・バルデムは、「ノーカントリー」での彼があまりにも怖く、さらにあの髪型がキョーレツ過ぎだったので、授賞することで「うわ、なんだカッコいいじゃん!あの髪型はコーエン兄弟のヤラセ、いつもは違うのね」と世に知らしめることができたので、そういう意味でも良かったのではないかと。個人的に注目したのはケイシー・アフレック。だってね、彼の奥さまはサマー・フェニックスなんですよ、あのリバーの妹の。フェニックス家は、リバーひとりだけ顔立ちが違う(たぶん母親似なんだと思う)超美形で、ほかの弟や妹はみな父親似のヒスパニック系な顔立ちをしているのですが、サマーは妹の中でも綺麗ですね。やっぱ似てないけど。

↓ケイシー・アフレックとサマー・フェニックス(IMDb)
http://us.imdb.com/media/rm3047265792/nm0000729
(サマーは2児のママです)

俳優主要賞を欧州系にかっさわれた分、話題は脚本家のディアブロ・コーディに集まったようで、ストリッパー出身の脚本家ってはたしかにスゴイ話、次回作が気になるところっスね。監督賞を受賞したコーエン兄弟は、仲がとってもいい、見た目にもカワイイ兄弟でしたねー。

しかし…インディペンデント系の映画ばかりで地味だとかいうより、私が気になる最近のオスカーの傾向は、実在の人物ソックリに化けてソックリに演じることが、果たして俳優として素晴らしい演技なのかどうか、ということ。何時間もメイクしてのソックリショーじゃなく、フィクションで役に命を吹き込み、ストーリーをみせて欲しいなと。う〜ん…。そして外国語映画賞。だんだんノミニー作品がつまらなくなっていく。なんとかなんないの?

女優陣のドレスに関しては、やっぱりヘレン・ミレンが昨年同様に今年も綺麗でした。あの年齢で、ネックレスなしのデコルテ勝負、さすがに肩から二の腕ラインは隠してるけど、綺麗で上品な隠し方とゆーか…素敵だったなあ。で、そのヘレン・ミレンがプレゼンターの主演男優賞で、受賞したダニエル・デイ・ルイス(やっぱ靴は自分で作ったものなんだろーか?)がステージに上がり、彼女の前でひざまずいたのには爆笑。さらに、オスカー像を剣に見立て肩に振り下ろすようなアクションをしたヘレンに、「わははは〜わかってるじゃ〜ん♪」とまた爆笑。なんともイングリッシュ〜という雰囲気でした。わははは♪

そしてメモリアルの最後は、ヒースでした。うん…もしヒースが生きてたら、オスカーに何度も呼ばれる俳優さんになってただろうな…。でもなんでブラッド・レンフロは出なかったんだろう?会員じゃなかったから?

てなわけで、秋林は22点の「第80回アカデミー賞」でした。

ところで。オスカーはノミネート発表の時点で「誰が選ばれたのか」より、「誰が選ばれなかったのか」が話題になるものなのですが、こういう特集があったので、気になる方はどうぞ。

↓「ノミネート落選した作品・俳優とその理由」(msn.ムービー)
http://feature.movies.jp.msn.com/special/academyawards2008/reject/default.htm
(トラボルタがノミネートされてたら面白かっただろうなあ)
昨年から(ある理由と事情によって)BLブログと化してしまったため、ひとり淋しく毎年恒例企画!「第80回(2007年度)アカデミー賞」予想をしてみたいと思います。あのですね…昨年から私のブログにアクセスして下さるようになった方は、ご存じないと思うんですけど…私め――実はBLより映画のほうがいろいろと語れるんです。ウソじゃありませーん!BL読書より映画観賞に時間を割くことが多いんですってば!…昨秋からBL感想ばっか書いてる身なので、説得力ゼロなところがマジでツライんですが、とりあえず予想いってみましょー!おー!

本命が予想、秋林選択は「獲ったらいいな〜♪」です。

■作品賞
「つぐない」
「JUNO/ジュノ」
「フィクサー」
「ノーカントリー」
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」

本命:「ノーカントリー」
対抗:「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
穴:「JUNO/ジュノ」
秋林選択:「JUNO/ジュノ」

まず、キーラ・ナイトレイが劇中に着用したグリーンドレスが一番の話題かもしれない「つぐない」と、評価大とはいえない(けど、ジョージ・クルーニー主演作では評価が高いほう)「フィクサー」が消える。興行成績がもっとも良く、オーディエンスにも大人気の「JUNO」だけど、オスカーはコメディに辛口なので、昨年の「リトル・ミス・サンシャイン」のように、ダークホース的存在かなと。よって「ノーカントリー」か「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」。悩んで…「ノーカントリー」を。いやね、これを観る機会があったんですが、トミー・リー・ジョーンズ(我がニッポンのコマーシャル「BOSSコーヒー」に出演してる俳優さん。スゴイ人なんですよー!それなのにあんなコマーシャルに出てくださってるんですよー!みなさーん!)が、もうなに話してるかわかんねー!って感じで南部南部している上、さらに「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」以上に、米国人じゃないとわからない感覚に満ちてたので、昨年痛感した「オスカーは米国の映画賞」である限り、やっぱこれかなと。でもたぶん、日本ではキビシイだろうなあ。

■監督賞
ジュリアン・シュナーベル(「潜水服は蝶の夢を見る」)
トニー・ギルロイ(「フィクサー」)
ジェイソン・ライトマン(「JUNO/ジュノ」)
ジョエル&イーサン・コーエン(「ノーカントリー」)
ポール・トーマス・アンダーソン(「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」)

本命:ジョエル&イーサン・コーエン(「ノーカントリー」)
対抗:ポール・トーマス・アンダーソン(「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」)
穴:ジェイソン・ライトマン(「JUNO/ジュノ」)
秋林選択:ジェイソン・ライトマン(「JUNO/ジュノ」)

まず、作品賞にノミネートされていない(外国語映画賞にもノミネートされなかったんだー)時点で、ジュリアン・シュナーベルが消える。コーエン兄弟かPTAか。となると、コーエン兄弟にオスカーを、という声が大きいように思える。個人的にはライトマンだな!もう大好き〜♪

■主演男優賞
ジョージ・クルーニー(「フィクサー」)
ダニエル・デイ=ルイス(「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」)
ジョニー・デップ(「スウィーニー・トッド/フリート街の悪魔の理髪師」)
トミー・リー・ジョーンズ(「告発のとき」)
ヴィゴ・モーテンセン(「イースタン・プロミス」)

本命:ダニエル・デイ=ルイス(「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」)
対抗:なし
穴:なし
秋林選択:ダニエル・デイ=ルイス(「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」)

以前「メリル・ストリープはバケモノ女優」と語ったことがあるけど、「バケモノ男優」ならばダニエル・デイ=ルイス。メソッドとかなんとかいう前に、この人たちって、セリフを云ってるように聞こえない。ほかの俳優たちは役を演じているのに、ひとりだけ、実在の人物として出演してますという感じ。あるいは、ひとりだけ脚本を渡されていない、アドリブのみ許されている俳優というか。オーバーアクトじゃない、かと云って自然(映画でよく求められることだと思う)というわけでもない。だからバケモノなんだって!

サントリーとしては、トミー・リー・ジョーンズに獲って欲しいだろうなあ。ちなみに、友人Eは「イースタン・プロミス」を観て、ヴィゴ・モーテンセンのあのシーンにマジ恐怖を感じたそうです。ジョニーは、ジャック・スパロウで獲って欲しかった(すでに過去形)。

■主演女優賞
ケイト・ブランシェット(「エリザベス/ゴールデン・エイジ」)
ジュリー・クリスティ(「アウェイ・フロム・ハー君を想う」)
マリオン・コティヤール(「エディット・ピアフ/愛の讃歌」)
ローラ・リニー(「The Savages」)
エレン・ページ(「JUNO/ジュノ」)

本命:ジュリー・クリスティ(「アウェイ・フロム・ハー君を想う」)
対抗:エレン・ページ(「JUNO/ジュノ」)
穴:マリオン・コティヤール(「エディット・ピアフ/愛の讃歌」)
秋林選択:エレン・ページ(「JUNO/ジュノ」)

実は大激戦といえるのがココ。そして、向こうでの一番の話題は「エレン・ページが獲れるかどうか」。う〜ん予想が難しい。まず、ダブルでノミネートされている助演女優賞での受賞がありそうなケイト・ブランシェット、アンジェリーナ・ジョリーかと思ってたら、サプライズ的にノミニーに入ってきたローラ・リニーが消える。個人的にマリオン・コティヤールは好きなんだけど(彼女の出演作をよく観てる私)、フランス語の映画だというのが引っかかる。ジュリー・クリスティかエレン・ページか。保守的に考えて、ジュリー・クリスティを。エレン・ページは、スカジョより生意気で辛口、見た目に騙されたらいかんぞー!(わははは♪)

■助演男優賞
ケイシー・アフレック(「ジェシー・ジェームズの暗殺」)
ハビエル・バルデム(「ノーカントリー」)
フィリップ・シーモア・ホフマン(「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」)
ハル・ホルブルック(「イントゥ・ザ・ワイルド」)
トム・ウィルキンソン(「フィクサー」)

本命:ハビエル・バルデム(「ノーカントリー」)
対抗:なし
穴:ケイシー・アフレック(「ジェシー・ジェームズの暗殺」)
秋林選択:ハビエル・バルデム(「ノーカントリー」

ハビエル・バルデムの受賞でガチ。ただ、昨年ブレイクした俳優のひとりと云われてるのが、ケイシー・アフレック(ベンの弟です)で、ま、ちょっと気になるかな。

■助演女優賞
ケイト・ブランシェット(「アイム・ノット・ゼア」)
ルビー・ディー(「アメリカン・ギャングスター」)
シアーシャ・ローナン(「つぐない」)
エイミー・ライアン(「Gone Baby Gone」)
ティルダ・スウィントン(「フィクサー」)

本命:エイミー・ライアン(「Gone Baby Gone」)
対抗:ケイト・ブランシェット(「アイム・ノット・ゼア」)
穴:ルビー・ディー(「アメリカン・ギャングスター」)
秋林選択:ルビー・ディー(「アメリカン・ギャングスター」)

アプセットがありそうなのがココ。誰が獲ってもおかしくないような。ケイトは主演でもノミネートされてるのと、過去にキャサリン・ヘップバーン役で助演女優賞を獲ってるところが、アカデミー協会員にどう作用するか。しっかし…彼女が演じたのってボブ・ディランってのがスゴイよなあ。ルビー・ディーが受賞したら、出演シーンの短さを考えると、「恋に落ちたシェイクスピア」のジュディ・デンチ以来のビックリかと。

■脚本賞
ディアブロ・コーディ(「JUNO/ジュノ」)
ナンシー・オリバー(「Lars and the Real Girl」)
トニー・ギルロイ(「フィクサー」)
ブラッド・バード(「レミーのおいしいレストラン」)
マラ・ジェンキンス(「The Savages」)

本命:ディアブロ・コーディ(「JUNO/ジュノ」)
対抗:なし
穴:なし
秋林選択:ディアブロ・コーディ(「JUNO/ジュノ」)

ディアブロ・コーディ(「JUNO/ジュノ」)でガチ。ココはコメディやインディペンデント作品にやさしい。

■脚色賞
クリストファー・ハンプトン(「つぐない」)
サラ・ポーリー(「アウェイ・フロム・ハー君を想う」)
ロナルド・ハーウッド(「潜水服は蝶の夢を見る」)
ジョエル&イーサン・コーエン(「ノーカントリー」)
ポール・トーマス・アンダーソン(「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」)

本命:ジョエル&イーサン・コーエン(「ノーカントリー」)
対抗:ポール・トーマス・アンダーソン(「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」)
穴:クリストファー・ハンプトン(「つぐない」)
秋林選択:クリストファー・ハンプトン(「つぐない」)

「つぐない」――作品賞ではあんなこと書いたけど、原作がとにかく好きで、日本公開を一番楽しみにしている作品だったり。

■外国語映画賞
「ボーフォート/レバノンからの撤退」(イスラエル/ヨセフ・シダー)
「ヒトラーの贋札」(オーストリア/ステファン・ルツォビッキー)
「カティン」(ポーランド/アンジェイ・ワイダ)
「モンゴル」(カザフスタン/セルゲイ・ボドロフ)
「12」(ロシア/ニキータ・ミハルコフ)

本命:「ボーフォート/レバノンからの撤退」(イスラエル/ヨセフ・シダー)
対抗:「ヒトラーの贋札」(オーストリア/ステファン・ルツォビッキー)
穴:「カティン」(ポーランド/アンジェイ・ワイダ)
秋林選択:興味なし

さっぱりわからない…。年々、面白くなさそうな映画ばっかりノミネートされる傾向になりつつあるような。今年は戦争絡みの映画が多いですね。

■長編アニメーション賞
「ペルセポリス」(マルジャン・サトラピ&バンサン・バロノー)
「レミーのおいしいレストラン」(ブラッド・バード)
「サーフズ・アップ」(アッシュ・ブラノン&クリス・バック)

本命:「レミーのおいしいレストラン」(ブラッド・バード)
対抗:「ペルセポリス」(マルジャン・サトラピ&バンサン・バロノー)
穴:なし
秋林選択:「レミーのおいしいレストラン」(ブラッド・バード)

「サーフズ・アップ」は、ありえない。「レミー」か「ペルセポリス」。となると、やっぱ「レミーのおいしいレストラン」。脚本賞にもノミネートされているし、やっぱピクサーは特別かと。

こんな感じです。
会社でのデキゴトロジー。

ここ数日(とゆーか数ヶ月)激務が続いたので、お昼休みは、読書する気にも、同僚との井戸端(トイレ)会議に参加する気にもなれず、ひとり机に突っ伏してウダウダと惰眠していることの多い私のもとに、某社営業オッシー(担当復活)がやってきました。

私:「あれ?押尾さん(仮名)、どーしたの?」
オッシー:「これ、秋林さんの本じゃないですか?」
私:「ああーっ?私の『ノスタルギガンテス』!なんでオッシーが!?」
オッシー:「上のサロンでコーヒーを飲んでいたら、テーブルにいかにも『忘れ物でーす』という感じで、放置されていたんですよ。とてもサロン常備本とは思えない、こんな残酷退廃的な児童文学、この会社で読むのは秋林さんくらいだろうな〜と思って、中をパラパラ見ていたら、コレが出て。それで『ああ、絶対秋林さんの持ち物だ」と確信できたんですけど、念のためサロンの女の子に訊いてみたら、たしかに秋林さん10分前までここにいたって。裏も取れたし、じゃあこれはもう間違いないと、ここまで持って来てあげたんですよ」
私:「………。」

↓オッシーが「私の持ち物」と確信するに至った「コレ」ってこれ
http://akirine.jugem.jp/?eid=71
(リオとデュードの写真はコレが一番)

オッシー:「こんな本にこんな写真をしおり代わりにして持ち歩くだなんて、宇宙広しと云えど、秋林さんくらいです」
私:「……(「宇宙広し」ってなんなのよ…)。」
オッシー:「よかったですねー、忘れたのがこの本で。もし、奈良さんがイラスト付けてるようなヤクザが出てくるファンタジー本だったら、大変だったじゃないですか(ニタリ笑)」
私:「………。」
オッシー:「そういうわけで、今日はまた一緒にブックオフへ行きましょう。行ってくれますよね?」
私:「……(さすが営業、駆け引きが上手い…)。」

そして数時間のち、オッシーは『王子隷属』をゲットしたのでした。

私:「ところでオッシー、『ノスタルギガンテス』を知ってたの?」
オッシー:「僕も好きで持ってます。僕のはボロボロですけど、秋林さんのは比較的新しくないですか?」
私:「私も初版持ってるよ。でも、ボロボロになったから新しいの欲しいな〜と思ってたところに、ヴィレッジ・ヴァンガードへ行ったら、どど〜んと置いてあるのを見つけて、購入したの」
オッシー:「秋林さんってヴィレヴァン系腐女子ですよね」
私:「…欲しい本は、たいがい置いてあるしねー」

↓ヴィレッジ・ヴァンガードオンライン
http://vgvd.jp/
(アフィリエイトはしてませんが、面白いものが転がってますのでご紹介)

それにしても…参ったなあ、まさかオッシーも『ノスタルギガンテス』を読んでいただなんて。むむむむ…。

ISBN:4894191067 単行本 寮 美千子 パロル舎 1993/07 ¥1,631
生成する廃墟、世界の裂け目、あらゆる名づけ得ぬ廃墟。ノスタルギガンテスと呼ばれはじめた公園の木、そのまわりに着々と集まりはじめる様々なものがまきおこす、不可思議な現象を少年の視点から描く。

『ノスタルギガンテス』の作者、寮美千子さんのお書きになる文章が永遠の憧れ。あんな文章が書けたらなあ。
というわけで、「2007年度マイベストBL」を、コミックと小説の2部門に分けて、3位まで選んでみました。星評価は基本的に「面白いか面白くないか」を主観で判断しており、2007年に読んだ作品のほとんどが★★☆と★★★でした。秋林のオススメは★★★☆以上、中でも「腐女子のすべてをカバーできる」と思われる作品には@RECOMMEND@印を付けました。「秋林の好みのBL」については、サイドバーにある「Rotten Sisters!」をクリックしていただければ、なんとなくおわかりいただけるかと。いろんなジャンルを読んでいるつもりではありますが、偏ってる可能性大です。なお、BL小説は「本編+挿絵」で評価する傾向にあるため、「内容と絵が好みで面白かった作品」となっております。

…というわけで、以下「2007年度マイベストBL」です。

■コミック部門
1.『絶頂』 イ・ヨンヒ/安東あき ニチブンKARENコミック 日本文芸社 
2.『ありえない二人』 山田ユギ バンブー・コミックス麗人セレクション 竹書房
3.『ばら色の頬のころ』 中村明日美子 F COMICS 太田出版

2007年の1本:
『くいもの処 明楽-AKIRA-』 ヤマシタトモコ MARBLE COMICS 東京漫画社

1位は、思いがけず面白く読めたことに驚いた『絶頂』。BLに慣れた日本人から見れば、絵や話に新しさはあまりないのだけども、書き手の丁寧な仕事ぶりに好感が持てたし、「韓国BL界」の実力をうかがい知れたことが大きい。2は、日本が誇るスーパースペシャル作家・山田ユギの『ありえない二人』。2006年の飛行機野郎マンガより胸キュン度は落ちるが、やはり読ませる。「ああ爆弾」が、単行本化になって嬉しかった。3位は、中村明日美子の『ばら色の頬のころ』。このもどかしさったら!…「美少年のギムナジウム」にはまったく興味がなかったのなあ。冷たい雰囲気のある絵に溶け込んでいく心。ヤラレたー。

2007年を象徴し、話題となったBLマンガという意味で、ヤマシタトモコの『くいもの処 明楽-AKIRA-』を。可愛らしい絵じゃないし、萌え萌えなストーリーでもないし、主人公だって30代の居酒屋店長・オッサン(そう書くにはちょっと抵抗ある)、ことごとくBL定義からハズれているはずなのに、これが新鮮で面白かった。また、これがヒットしたということは、脇キャラが魅力的に描けないとアカン時代へ、本格的に突入したのかもしれない。「番外編」じゃなく「群像劇」でも勝負できるような、ね。

■小説部門
1.『最後のテロリスト 1 胎動』 谷崎泉/シバタフミアキ 二見シャレード文庫 二見書房
2.『交渉人は黙らない』 榎田尤利/奈良千春 SHY NOVELS 大洋図書
3.『牛泥棒』 木原音瀬/依田沙江美 Holly NOVELS 蒼竜社

2007年の1本:
『海に眠る』 葛城ちか/えすとえむ KAREN文庫Mシリーズ 日本文芸社

1と2は、語りすぎたのでパス。3位の木原音瀬『牛泥棒』は、最後まで『吸血鬼と愉快な仲間たち』のどちらにしようかと悩んだが、続きモノではなく「1本で勝負」してきた(?)『牛』を最終的に選んだ。寓話に弱い私に大ヒット。なお「木原作品でオススメは?」と訊かれたら、やっと「コレ!」と答えられる作品となった『美しいこと』は、下巻が今年1月に出たので、2007年作品対象外とした。

昨年のBL小説は、なんとなくJUNE回帰を感じさせる作品がチラホラと見受けられたので、その代表として、葛城ちか『海に眠る』を「2007年の1本」に。2006年ニューカマーえすとえむを絵師に据えた、その温故知新(?)なコラボが実に心憎かった。

以上、「2007年度マイベストBL」でした♪
「2007年BLちょっとだけ感想&デキゴトロジー」です。これは私が昨年読んだBL作品の中で、ちょっとだけ感想を書いておきたい、感想は別に書いたけどそれに補足をしておきたい、本屋さんや舞踏会や友人とお出かけ先などにて、トンデモ事件に遭遇したので報告しておきたい…など、基本的に簡単な感想と、ヨタ話を記したものです。ただし、読んだ作品すべての感想を書くことは絶対ムリ!不可能!なので、一部だけとなっております。

…というわけで「7」でーす。
「6」が長くなっちゃったので、「7」にしました。これでオワリです。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

!以下、ネタバレ注意報!

■『絶頂』1〜4巻 イ・ヨンヒ
ISBN:4537107375 文庫 訳:安東あき 日本文芸社 2007/10 ¥580

評価:★★★★(新しさはないが、丁寧な「萌え」描写に感心。やるじゃん!)
オビ惹句とフレコミが「韓国で大ベストセラーBLコミック 日本初登場!!」だったので、もう気になって気になって仕方がなかったのに、表紙絵を目にしたときのファーストインプレッションが、「竹田やよい風の絵柄、カラーのタッチがかなり古め」だったこと、そして「語シスコ先生がブログで大絶賛!」だったので、どーしても手が出せなかった。竹田やよいで語シスコ――本屋で何度二の足を踏んだことか。根性ナシ!>私

そんな状態の日々を過ごしたところ、←でリンクしている奈央さんが感想をお書きになっていたので、おお!天の助け!とばかりに慌てて拝読、その結果「これは私でもいけるかも?」とあたりがついたため、ポチることに。

どれほどスゴくて濃ゆいものが出てくるかと怯えつつ、ページを捲ってみると(韓国のマンガは、日本とは違って左開きですのでご注意)、本編の前に4〜5ページほどカラー絵が続いていた。服がルナ・マティーノ系ではなくストリート系という違いはあったけど、やっぱり絵柄は「竹田やよい風」、同時購入した2巻のカラーページを見れば、黒っぽい軍服にアクセサリーがジャラジャラ――うわ〜!竹田やよいで尾崎南ときたよ!こりゃマジで20年落ちか?とだんだん不安になり、本編を読む前にまたもや戸惑いが。

それでもポチった以上は読了せねばならぬ!と、白黒ページの本編を読み出したら――あれ?あれれれれれれれ?

カラーとスミ絵では雰囲気が全然違う。竹田やよいをチマチマポップにして濃いものを取ったとゆーか…そこにものすごーい違和感はない。筋肉の線に沿ってスクリーントーン飛ばすのはあんまり好きじゃないし、たしかに最近はあまり見かけないけど、こんな絵柄の人は日本にもいそう。キャラはイキイキと動いてるし、「キメ顔はコレ」という1コマの情熱を感じるし、とにかく丁寧にマンガを描いてるなあ〜という印象。人によって絵柄の好き嫌いはあるだろうけど、こんなに丁寧に描いてるならば、及第点以上のものがある。ちゃんと本編を読まないと!

兄の婚約者にフラれ傷心の攻(セズ…イケメン)が、電車の中で財布をすられたことから受(モト…美少年)と知り合う。敷かれたレールに嫌気が差し、名門高校を中退するセズ。そんな彼が一人暮らしをするマンションに、プー太郎で自由奔放に生きるモトが転がり込んできて――と、最初はドタバタとストーリーが展開するのだけども、基本は「性格や価値観がまったく違うふたりが、一緒に生活することで絆を深めていき、やがて攻は受に恋する自分に気付く。がしかし、受にはなにやら過去があるようで――」という、焦らしBL(←ナニそれ?)の王道かなと思わせる内容。いや〜ホント、若いっていいねえ〜♪

受の子は元気いっぱい、攻の子とじゃれ合ってる姿はワンコのようにカワイイし、攻の子はかっこよく、モノローグがビシバシと次々にキマっていく。おおお!やるじゃないのっ!>韓国BL

それでも1〜2巻は「ふむふむ…」と流すように読むだけだったのに、3巻あたりから受の子の過去が見え始め、そして…出てきたーーっ!受の「過去の男」!!そうそうそう!そうこなくっちゃ!そういうキャラが出てこなきゃあ!…と、俄然面白くなってきた。うふ♪

オビ惹句もまたベタでいいんだ、これが。

3巻→「愛する男の危機に二人の男が立ち上がる!!」
4巻→「抑えきれない想い…『俺だけを見てくれ!』」

なかなか見所アリで話はオビ通りに進み、そして4巻目にして受のモトが実は21歳と判明――攻のセズは19歳だから、そのつまり、この『絶頂』は年下攻ってことで…うおおおおお!またもや秋林の萌えツボ直押し!なんだなんだ、韓国でも年下攻はイケてるってことじゃんよー!うっひょー♪

さらにヒートアップ(但し秋林限定)、「ラストどうなるかな〜」と4巻をウキウキしながら読み進めていったのに、なんと「5巻に続く」。ここで終わるか!?

韓国では、どこまでそーゆー描写がおっけーなのか知らないけれど、過激な描写が先行しがちな日本を思えば、こちらのほうがまだソフト、それでもけっこうキワドイ絵があってドキドキする。モトはどっちを選ぶの?…セズ?それとも過去の男(イタン)?…(わかっていても)焦らされるんじゃあ!

とゆーように、続きが気になって仕方がないので調べてみたら、なんと韓国では6巻まで出ていた。……。本気でお取り寄せしようかと思った…が、ハングルにまったく明るくないため、潔く諦めることにした。

はやく和訳して(まず)5巻出してくれーーーー!<日本文芸社

食べ物がもうちょっと美味しそうにみえるといいな〜とか、翻訳された擬音の字体がイマイチ弱いとか、学歴社会の韓国で「高校中退」でダイジョブなのか?とか、気になる点はいくつかある。ただ危惧するほどの大きな違和感はなく、逆に若さを持て余すキャラたちの心理はよく理解できた。そしてなにより韓国でも萌えは理解されている。これが一番大きい。

しっかし…昔、早見優だったか「ハワイにいるとき、日本のマンガを読んで『日本の男の子はみんなかっこいい』と思い込んでいた」と云ってたけど、私も『絶頂』読んだら、「韓国の男の子はみんなかっこいい」と思い込みそうだ…。むむむむ。

以上、「2007年BLちょっとだけ感想&デキゴトロジー」でした♪

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